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5章 寄せ集めの村

13話 しかし何も起きなかった

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 ルサ族の街クトスオジラウ、人気のない路地裏に兼次達が姿を現した。
 麻衣は何時もの事で慣れていたが、リディは2回目にもかかわらず、一瞬で景色が変わった事に驚ろいていた。

「また、景色が…」

 2人のアゴを掴んでいた兼次は、彼女達から手を離すと振り返り、すぐさま歩き始めた。それを見た麻衣は、小走りで彼の右側へ近寄った。

「リディ、ボケっとしてないで早く行くぞ」

 兼次は頭だけで振り返り言った。リディは離れていく彼らを見て、あわてて走ると兼次の横に並んだ。

「くくっ、美女が両脇に2人。これ、絶対絡まれるよね? と言うフラグ立てておくね!」

 麻衣はニヤケ顔で、兼次の顔を覗き込みながら言った。兼次は、自分で美女言うなよ…と思いつつ左のリディを見た。リディは帽子が気になるのか、頻繁に手を耳があった部分を頻りに触っていた。

「我慢しろリディ、少しの間だ」
「分かっている」
「ねえ兼次ちゃん。収容所に直接行った方が、早いよね?」
「リディの村に長期滞在だしな、少し買い物をする」

 3人は細い路地を抜けると、大通りに繰り出した。通りには朝と言う事もあり、人は数えるほどしか居なかった。麻衣の予想を裏切る様に何事もなく、店が並ぶ場所までやってきた。

「兼次ちゃん、何買うの?」
「まずは、塩かな」
「買うの? 作れるよね?」
「作れるが、力の消費を少しでも押さえたい。さらに言うと、その土地の食は、その土地の調味料を使う。これがグルメの王道だな」
「え~、うま味調味料持ってきている人が、グルメを語るとか・・・」

 麻衣と兼次の会話を聞きながらリディは、2人の話の内容が頭に入ってきいなかった。周囲を歩いている、自分と違う種族。その事ばかり気に掛けていた。腰に巻いた尻尾、折れ曲がった頭の耳。それを、触りながら周囲の人の視線を確認するように、周囲の人を見ていた。

「リディ、あんまりキョロキョロするなよ。田舎者かよ…」
「見つかるんじゃないかと… 気になって…」
「大丈夫だよ、あいつらはリディ達より臭いに鈍感だ。見つからねーよ」

 兼次はリディの肩に手を回すと、横を向いているリディの頬に手を当てると、リディを前に向かせた。

「ほぃい、はにをすりゅ」

 兼次に頬を押さえられ、リディは言葉にならない声で兼次に言った。

「前を向いて堂々と歩け、余計に怪しまれるぞ」
「わ、分かった」

 3人は通りの両脇に店を見て回る。

「朝なのに、店が開いてるね」
「当然調査済みだ」

 そして兼次が、1件お店の前で止まった。

「いらっしゃい」

 若干小太りの口髭を生やした男性店主が、威勢よく言った。

「塩を貰おうか、そこの大きいの3つ、小さいのを1つだ。あと、入れる鞄を2個貰おう」
「まいどあり~」

 料金を払い店主から鞄を2つ貰った兼次は、塩が3袋入った鞄をリディに差し出した。

「ほら塩だ、これだけあれば当分の間もつだろう」

 リディは、黙って兼次を見上げた。

「いいのか?」
「ああ、遠慮するな。俺の国の民になるしな、豊かな食生活は必要だ」

 リディは手を伸ばし鞄を受け取ると、その重みを確かめる様に鞄を抱きしめた。それを見ていた麻衣は、兼次の体越しにリディをニヤケ顔で見た。

「あーあ、受けとちゃった。あとで、変な要求が来るわよ!」
「そんな要求はしねーよ。すでに1日1回って約束があるしな、充分だよ」

 兼次はそう言うと、麻衣とリディの腰に手を当て、歩くように促した。リディは、すぐさま横の兼次の方を向くと、大声で抗議した。

「だから、そんな約束はしていない!」

 兼次はふくれっ面のリディを見ると、軽く笑いリディに歩くよう腰を押し始めた。

「その件は夜に、もう一度話し合おう。ささ、すすもーぜ。ほら、歩いた歩いた」
「むうー…」とリディは不満そうに、前を向き歩き始めた。

 それから彼らは、小麦粉等の食材を買い収容所に向かって歩いていった。そして、賑わいのあった店が並ぶ地帯を抜けた頃…

「おうおう、両脇に女とは華やかだねー。にーちゃん」

 兼次達の前方に2人組の男たちが、進行を拒む様に歩いてやってきた。ヨレた服に、ボサボサの髪に千鳥足。2人は肩を組み、歩いていた。

「ついにキタァーーーーーー!!!」

 麻衣は、その2人組を指さし、嬉しそうに声を張り上げた。

「見るからに、朝帰りの酔っぱらいね! ふふふ… やちゃう?」
「だから事件を、起こそうとするなって。まぁ、見てな」

 酔っ払い2人組は、さらに兼次達に近寄ってきた。その時…
「はうぅー!」
 片方の男が突然止まり、奇声を発した。そして背筋を伸ばし、尻を押さえ始めた。
「おい、どうした?」
 横に居た男は、尻を押さえている男の肩に手を置き、彼の肩を揺すって無事を確かめた。
「揺らすなー! 出る!」
 尻を押さえていた男は、つま先立ちになり家屋の間に向かって、少しづつ歩いて行った。
「おーい、大丈夫かぁー? おうぅーーー!!!」
 もう一方の男も突然、尻を押さえ始めた。
「くぉうーーー! いきなり便意がぁー!! 俺も、マズい!」
 もう一方の男も、前の男と同じ場所に向かって、ゆっくりと歩き始めた。

「うぁー、あそこでするんだ・・・」
 引きつった顔で麻衣は、彼らを消えた先の家屋の隙間を見た。
「まったく、きたねーなー」
 兼次も笑いながら、彼らを見ていた。

「今、何かしたのか?」
 リディは何が起こったのか理解できず、兼次に尋ねた。
「さあな、変な物でも食ったんだろ。さっ行こうぜ」

 兼次はリディの腰を押しながら、前に歩き出した。隣の麻衣が、歩きながら兼次の顔を覗き込んだ。

「ああー、せっかくのイベントが・・・」
「いらねーから、そんなイベント。おっ、あれか。見えて来たぞ」

 彼らの目線の先に、高い塀に囲まれた建物が見えてきた。

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