銀色の雲

火曜日の風

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5章 寄せ集めの村

9話 お約束のあれ 2

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 建物から出てきた兼次と麻衣、直ぐに立ち止まり2人は辺りを見渡した。日も登り始めた頃であり、陽の光が木の隙間から鋭い角度で地面に届いているのが見えた。辺りには人気は無く、まだ皆寝ている様だった。

「静かだな。一斉に早起きして、遠吠えで朝を迎えると思ってたぞ。な?」

 兼次は、隣の麻衣に小声で話しかけた。

「って… 犬じゃないんだから!」
「犬だろ…」
「まぁ… 犬だけどね」

 2人は、目的もなく村を自由に歩き始めた。黙って歩くのが苦痛なのか、すぐさま麻衣が話し始めた。

「ねぇ、今日のバトルイベント大丈夫なの? 勝てるの?」
「本気でやれば、余裕で勝てるな。ただし、アディは確実に死ぬけどな。だからと言って、手抜き超能力で勝っても、アディは不満だろうな。むしろ何をしたか、理解できんだろうし」

「そうなると・・・ 拳で語り合う事になるけど?」
「そうだな。だが俺様は、過酷な戦国の世を渡り歩いた実績がある。肉体格闘でも、強いぜ!」

「え、渡り歩いた? 桶狭間の戦いから逃げたって聞いたけど? 」

 兼次は麻衣の顔を見ると、難しい表情を見せた。腕を組み手をアゴに当てた。

 (ったく、夜巳か、お喋り夜巳め! 帰ったら天井磔の、お仕置きだな)

「まぁ、あれは戦略的撤退だな。当時の能力は弱かったしな…」
「へぇ~、戦略的ねー・・・」

 麻衣は半笑いで、兼次の顔を覗き込んだ。兼次は嫌そうな顔を麻衣に見せると、目線を外し咳払いをした。

「地球に居た例の仲間から、記録を交換したからな。今の俺は、空手やボクシングはもちろん、酔拳、八極拳も使える様になった。つまり無敵だ! さらに、世界中の男どものベッドテクニックも使えて、夜も無敵だ」

 麻衣は、兼次に向けていた顔を横に向け呆れた表情をすると。
「・・・・・最後のいらないし」と小声で言った。

 2人は暫らく村の様子を、観察しながら歩いていた。村の中央部分、開けた場所に差し掛かった時、木の陰からアディが姿を現した。2人はアディの姿を確認すると、立ち止まった。
 アディの服は、動物の毛皮が取り付けられた服を着ていて、動物の毛皮で細工された帽子もかぶっていた。肩には矢の入った筒を背負い、右手に木で作られた、簡素な弓を携えていた。服装からするに、木陰などに身を隠し、狩りをする格好の様だった。

「どうしたアディ? 気づいたのか?」と、兼次はアディに話かけた。

 隣に居た麻衣は、兼次の気付いた? と聞いて
 ( ああ、なるほ… リディちゃんの臭いが、兼次ちゃんの体からする。のかな? )
 と思いながら、兼次の体に顔を寄せ臭いを嗅いだ。

「うっ! 汗臭い・・・ 臭い・・・ ちょっと酸っぱい?」
「お前もな!」

「えぇー」と言いながら麻衣は、胸元の服を掴み臭いを確かめた。
「っま、風呂に入ってないからね! しょうがないね!」

 アディは、そんな2人の会話に入る事もせず、黙って歩き始める。そして、2人の目の前で止まった。

「すまないが、食事の提供は出来ない。我々もギリギリなのでな。滞在中は、そちらの方で何とかしてくれ」

 話すと同時にアディは、振り返り立ち去ろうとした。
 それを見た麻衣は、右手を出し声を張り上げた。

「まって!」

 麻衣の声を聴いて、アディは振り返り麻衣を見た。

「なんだ?」
「イベントは?」
「イベント? なんだそれは?」
「えっ? 戦って優劣を決めないと、ダメじゃないの? 俺より強くないと、認めない! ってね?」

 麻衣の問いに、暫らくアディは考え込んだ。

「ルサ族は、そんな事をしているのか? 我々は、より多くの獲物を捕って来た者が優秀だ。戦って優劣を決めることは無いな」

 予想外の返答に麻衣は、口を開け呆然としていた。

「もういいか? いくぞ」

 アディは振り向くと、村の奥へと歩いていった。

「モヤモヤー」

 麻衣は兼次の顔色をうかがった。
 兼次は、そんな麻衣を見ながら彼女の肩に手を置いた。

「原始的な生活なら、そうなるだろうと思ってたよ。異世界漫画の読み過ぎだったな?」
「納得いかない… 明日かな? まさか、フラグが立ってないとか?」
「さあな? 俺達も行くか、何か狩りに…」
「狩るなら、ドラゴンね? 美味しいらしいわよ」
「いねーよ… むしろ爬虫類の肉は、パサパサでマズいし臭い。そして肉食動物の肉もマズい… 狩るなら草食動物だな、牛とかいねーかな??」
「え? 爬虫類とか食べた事あるの?」
「昔な… あとクマの肉もくさい・・・ 鹿や猪とかは意外と美味いぞ」
「てか、人の街に行った方がよくない? どうせマズ飯だろうけど」
「リディから、行くなって言われている」
「そうなの?」
「人の臭いを付けてくるなってよ! 行くぞ!」

 2人は村の中央から離れ、外に出ようとした。歩いている最中も辺りを見渡したが、村人は寝ている様子で、誰も会うことは無かった。点在していた家が無くなり始めると、木々が生い茂る領域に入っていった。

「待て!」

 2人の後方から声が聞こえた、2人は振り返るとリディが立っていた。

「お前… 気配絶つの上手いな。先祖は狩猟犬か?」
「リディちゃん、おはー」

「入ってはいけない場所がある、私も同行する」
「縄張りか?」
「そうだ」

「リディちゃん、ルディちゃんは来ないの?」
「ルディは子供だ、まだ早い」
「ええぇー、つまんないなー」

「よし行くぞ!」

 3人は、森の奥へと入っていった。
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