銀色の雲

火曜日の風

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5章 寄せ集めの村

5話 寄せ集めの村 5

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 集落に戻ってきた兼次とリディ。事が終えたリディは、兼次から離れ背を向けその場に座った。そして、側にある折り畳まれた服を手に取った。服を広げ着ようとした時、周囲が明るくなった事に気が付いた。光は後方から照らされており、リディの影が目の前に大きく立ち上った。

「それ… 何て言う物だったか?」

 と、振り返りながら兼次を見たリディ。兼次は全裸で胡坐をかき、スマホをリディに向け、生着替えを録画していた。記録するという概念が無いリディの世界。リディは、兼次が何をしているか分からなかった。リディは、スマホ画面の光に照らされた兼次の顔を見ながら、不満の表情で兼次が答えてくれるのを待っていた。

(暗闇でも、まるで昼間のように撮れる、銀河最強の科学力か… 何と言う無駄遣い! )

 時間にして数秒だが、その沈黙がリディとって、とても長く感じた。リディは、息を少し多めに吸い、兼次に話しかけた。

「聞いているのか?」
「あぁ… これか? スマホだな」
「そう、それだ。それを私に向けて、何をしている?」

 服を片手に胸や下半身を隠す様子もなく、リディは兼次を見ていた。

(こいつの種族は、羞恥心はないのか? それはそれで、新鮮でいいが… 物足りないな)

 リディは持っていた服を頭からかぶると、服を整えながら立ち上がった。そのまま兼次に歩み寄り、腰を曲げて彼の持っているスマホを覗きこんだ。画面には、部屋の中が昼間のように映っていた。

「これは… この場所の絵なのか?」

 兼次は、何の迷いもなく変然とスマホを電源を落とし、それを近くの地面に置いた。

「さぁリディ、寝ようぜ?」
「その前に、それで何をしていた?」

 そのまま兼次は、頭を腕で支える横向きで寝転がった。そして、もう片方の手で目の前の、地面を軽く叩き始めた。

「そんな事は、どうでもいいだろ? ほら、ほら、俺の横で寝ようぜ?」
「まて! 一回だけと言ったはずだ! その前に、服を着ろ!」
だな? 楽しみは明日だ」

 両足を肩幅に広げ、両手を腰に当て兼次を見下ろしていたリディ。その顔は引きつっていた。

「まてまて、まてぇー! 一日一回じゃない。だ! 明日も、明後日もない!」

 リディは勢いよく部屋の出入り口を向くと、そこに向かって歩き始めた。

「もう休んでくれ。私は… 自分の家に戻る」

 と、首だけ振り返り兼次を見ながら言った。そして前を向いた時、部屋の出入り口の前に立っているはずだった。リディは確かに歩いている。しかし、前に進んで居なかった。足に地面の感触が無い事に、気が付いたリディは、下を見ると足は地面についておらず、空を切り前後に動いているだけだった。

「浮いている?」

 リディは勢いく振り返り、兼次を見ると同時にリディの体は、さらに浮かび上がった。

「うあぁ!」

 と、無意識に声を出したリディ。その体は更に浮かび上がると、回転し横向きになった。そして、そのまま兼次の近くまで移動した。リディの体は徐々に下がり、兼次の目の前の場所に、横向き向かい合わせで着地した。
 リディは、目の前の兼次の顔を、呆然とした表情で見ていた。兼次は、口元だけの笑みで

「はい、おかえりー」

 と言うと、兼次は手をリディの腰の部分に置いた。

 リディは、その手を振り払おうと兼次の手首を握った。始めは軽く振り払おうとした。しかし、その手は動かなかった。今度は力を強く入れ、動かそうとした、それでも動かなかった。今度はもう一方の手を出し、両手で力を込め手を退けようとした。それでも兼次の手は、動かなかった。

 リディ顔は歯をくいしばると、頭の三角耳が前後にピコピコと激しく動いていた。しかし、目の前の兼次の顔は、特に手に力を入れている様子もなく、穏やかな表情をしていた。むしろ口元が笑っていた。そんな兼次の表情を見たリディの心に、若干の怒りが込み上げてきた。

 リディは、短く息を吐いた。そして、目を閉じ心を落ち着かせた。すると、リディの両腕が僅かに光り始めた。その光は弱いが、暗い部屋全体を照らした。

「ふぐぅぅぅぁっ!」

 リディは渾身の力を込め、兼次の手を持ち上げようとした。しかし、それでも兼次の手はリディの腰に載ったままだった。

「ほぅ、これが、この惑星の住人が使う不思議な力か… なかなか、強い力だな。地球人なら、手首の骨が粉々だぞ」
「な、なじっぇ、うごかぬわぁぃー!」

 しばらく、その状態が続いた。するとリディの両手を覆っている光は、徐々に弱くなっていき、消えてしまった。消えると同時に、リディは大きく息を吐くいた。

「なぜ、動かせない?」
「運動エネルギーを、吸収しているんだよ。まぁ、理解出来んと思うがな」
「うどんえねるぅぎぃ?」

 兼次はリディの腰に乗せている手を握ると、リディの服をつかんだ。そして、その手をリディの上半身に移動させた。リディのスカート部分は、まくれ上がり綺麗な太ももがあらわになった。

「まてまて、まてぇ!」

 リディは兼次の手首から手を離し、自身のスカート部分の先端を掴んだ。そして、せり上がった服を下げようと引っ張り始めた。

「一回だけと、言っているだろ! だめだ! まず、服を着ろ!」
「はぁ… さめたな… さっきは、あんなに積極的だったのにな?」

 リディは、恥かしそうな表情を見せ、兼次から目線を外した。

「ったく… ルサ族の者は、皆そうなのか?」
「さあな? 前も言ったが、俺はルサ族じゃないからな」

 兼次はリディの腰から手を離した。それを見たリディは、素早く捲れ上がった服を整え始めた。

 兼次は近くに置いてあったスマホを取ると、電源を入れ操作を始めた。お着替えアプリを立ち上げると、ワンタッチ装着モードを起動した。すると、兼次の近くに無造作に脱ぎ捨てられていた服が、浮かび上がった。服は一瞬で粉々に砕け散り、黒い霧上になると兼次の体に纏わりつくように、全身を覆い始めた。黒い霧は徐々に色を変え、兼次の体に密着し始めると、服の姿に変わり定着した。

 その一連の出来事をリディは、目蓋をパチパチさせ口を半分開けながら見ていた。その黒い霧が、服として完成されても、リディの体は固まま動かなかった。

 呆然とした表情で、不思議な服を見たまま固まっているリディ。兼次はリディとの隙間を縮めると、仰向けになり固まっているリディの肩に腕を回し、強引に仰向けにさせた。リディは、兼次の腕を枕代わりにした所で我に返り、首を曲げ兼次を見た。

「今のは、なんだ?」
「俺の国の服だな… 何時でも好きな時に、脱いだり着たりできる。さらに服の形状や、色も変えられるぞ。俺の国に来たら、全員に進呈する予定だ」
「そんな物を見せられると、お前の国がどうなっているのか… 全く想像できない」
「そんな事より、リディ達の事を詳しく聞きたい。二人きりじゃなきゃ、言えない事を色々な?」
「二人きりでか? だ、男女関係の事とかか?」
「そうそう、察しがいいな。話しやすくて助かるよ」

 リディは、腕枕の感触を確かめる様に上を向いた。リディは、兼次の手が胸を触ろうとするのをブロックしながら。兼次は、密着しているリディの体の感触を楽しみながら。2人は語り始めるのだった。

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