銀色の雲

火曜日の風

文字の大きさ
上 下
50 / 91
4章 計画を考えているうちに、起こってしまうのが人生

4話 対峙②

しおりを挟む

 アレーシャは両手を上げ、手の平を兼次達に見せ、話し始めた。

「先程は失礼いたしました。私に戦う意思はありません、危害を加えるつもりもありません」

 リディ姉弟は、あいかわらず状況が呑み込めていないのか、放心状態でその光景を見ていた。麻衣は、小声で「うぁー、美女がでた」と言ったが、小声過ぎて兼次には聞こえていなかったようだ。

「戦う意思がないと言いながら、攻撃らしき電磁波を受けたのだが?」

 と兼次が言うと。アレーシャは上げていた手を下し、手を後ろに組み頭を軽く下げた。

「申し訳ありません。こちらの安全を確保したかったのです」
「まぁいい、許そう。それで何か用か?」

 アレーシャは頭を上げると、3歩ほど前に出て兼次に近寄った。そして麻衣達を見ると、もう一度兼次に視線を向け、彼の全身を何かを確認するように見て言った。

「この銀河の中で、高度な文明がある生命体。それらは幾つかあります。我々は、それらの生命体と共同で、共通のルールを作っています。ご存知ですよね?」
「俺の国は、最近できたばかりだしな・・・ 知らないな」

「高レベル文明を所持している知的生命体は、他の低レベル文明の惑星に、直接干渉してはいけない。と言うルールです」
「何か勘違いをしていないか? 俺は東の山脈を越えて来た、この惑星の住人だ」
「ご冗談を? 惑星と言う言葉を知っている時点で、この惑星の住人じゃないですよ。それに、東の山脈の先は海ですが?」

 アレーシャの、東の山脈の先は海と言おう言葉を聞いて、リディはララの側を離れ兼次に近寄った。そして小声で彼に話しかけた。

「なあ、海なのか? 国があるのは嘘なのか?」
「リディ、悪いが後で話す。ただし俺が、国王であることは事実だ」

 不満気な表情で、兼次を見上げるリディ。兼次は軽く彼女の顔を見ると、アレーシャとの対話を始めた。

「それで俺が、そのルールを破り、この娘を助けたのが気に入らないと?」

 兼次は、この娘と言ったところで、隣にいたリディの腰に手を回し引き寄せた。引き寄せられたリディは、すぐさま彼の手を振り払い彼から距離をとると。恥かしそうな態度を彼に見せた。

「ルールを知らなかった事や、我々の連合に加盟していない。と言う事なら、今回は見逃します。今後は我々の連合に入り、ルールを守っていただく必要があります」
「断ればどうなる?」
「我々の連合と、全面戦争になりますが?」

 兼次は腕を組み、アレーシャに考えている素振りを見せる。しかし、内心は決まっていた。

「ことわーる! そもそも俺の惑星位置とか、知っているのか?」
「連合の科学力を甘く見ていると、後悔しますよ?」
「そちらこそ、俺に勝てると思っているのか?」

 アレーシャは兼次が言った言葉に、彼を見ながら黙り込んだ。そして何かを決意した表情で、話し始めた。

「なるほど。つまり自身が何であるか、理解していると言う事ですか?」
「そう言う事になるな。俺に… いや俺の住む惑星に手を出すなら、それなりの覚悟をしてもらおう」

 アレーシャは、黙って兼次達を見渡し、ララに目線を移した。

「そのロボットは、あなたの配下ですか?」
「そうだが」

「この惑星に来た目的を、お聞かせください」
「答える義務はないな」

「では、私も同行させてください」
「ことわる。命があるうちに、大人しく去れ」

 兼次は、最後の言葉を強い口調で言った。そして、人差し指をアレーシャに見せると、指先から彼の本体がゆっくりと姿を現した。指先に集まっている、黒い霧状の未知のエネルギー、それは炎の様に揺らめいていた。

「これが最後だ、俺の前から去れ」

 と兼次は、アレーシャを睨みながら強い口調で言った。アレーシャは彼の圧力と、指先の現象を見て、目を細めひるんだ表情で一歩後退した。

「分かりました、今回は引きます」

 とアレーシャは言うと、右手を口に当てた。すると宇宙船から、彼女が下りて来た時と同様な光が、彼女を包み込んだ。

「連合には、報告いたしません。それでは、また会いましょう」

 その言葉を最後に、アレーシャは光と共に姿を消した。それを見届けた5人は、上空の宇宙船に目線を移した。宇宙船は淡い光に包まれると、少しずつ高度を上げていった。数秒後に速度は増し、一瞬で雲の中に消えていった。
 しばし森に静寂が訪れると、麻衣が心配そうな表情をして、兼次に駆け寄った。

「兼次ちゃーん、体とか大丈夫なのー?」
「問題ないが? むしろパワーアップしたぞ」
「いや… そうじゃなくって。あんな美人の申し出を断るし、ナンパもしなかったし、頭とかやられてないよね?」

 兼次は麻衣の言葉を聞いて、腕を組み考え始めた。目線を麻衣の胸に移し、じっくりと彼女の膨らみを、丁寧に観察し始めた。そして安心した表情で、麻衣の顔に目線を戻した。

「それは、俺も気になった。なぜかジョンが反応しなかったからな」
「ジョンだと!」

 兼次の言葉に側にいたリディが、即座に反応した。彼女は、辺りを見渡す。さらに鼻から勢いよく息を吸い込む動作を続け、姿が見えないジョンを探していた。

「ジョンとは誰だ? まだ仲間が居るか?」

 頭を激しく動かし、辺りを見ているリディの肩に、麻衣の手が置かれた。

「リディちゃん大丈夫よ、そんな人居ないから。この人、ちょっと頭がおかしいからね」

 頭がおかしいと聞いて兼次は、組んでいた手から指を弾く。麻衣が宇宙船を、発見した時に見せた、空気弾である。それは麻衣の額に、また命中した。

「っいたぁーい、もー! なに飛ばしてるのよ!」
「誰が、頭がおかしいって?」
「だって、あそこに名前を付けてる時点で、変人じゃん」

 隣にいたリディは麻衣の言葉を聞いて「あそこ?」と小声で言った。それを聞いた麻衣は、彼女に近寄った。顔を彼女に近づけると、兼次に聞こえない小声で、あそこの正解を言った。それを聞いたレディは、顔を少し紅くして兼次の方を向いた。

「お前、大丈夫か?」
「レディよ、言っておく。わが国では3人に1人が、名前を付けている。ごく、至極当たり前にだ」
「だから国民がぁ、さー・・・ っいたぁーい! また飛ばした!」

 麻衣が正解を言おうとすると、兼次はすぐさま空気弾を、麻衣の額めがけて指から弾いた。当たった麻衣は、額を擦りながら…

「痛いから! アザになちゃうから!」
「余計な事を、言うんじゃねーよ!」

「マスター」とララが、ルディと手をつないで、兼次の前まで寄って来た「先程の方ですが、全身を覆うオーバースーツを着ておりました。放射線の影響を、防ぐ為でしょう。そして中身は、爬虫類型の生命体です」

「なるほど、ジョンが正しかったわけだ。さすがに爬虫類は、抱けないからな」
「私もー、爬虫類苦手だわー… っう、想像しただけで背筋が・・・」

 兼次は、側にいるリディの腰に手を回すと、歩くように促した。

「リディ、座って休憩できる場所で話そうか」
「まて! お前ら、何を隠している?」
「全部話すよ、まず開けた場所を探そうか」

 そう言って兼次は、リディの体を更に引き寄せ、彼女と密着状態になった。

「だから、なぜ私を引き寄せる!」

 リディは引き寄せられた兼次の体から、離れようとした。しかし意外と彼の力が強く、彼から離れる事が出来なかった。しかたなく彼女は、戸惑いながらも彼と一緒に歩き始めた。麻衣はルディと手を繋ぎ、その後ろをララが付いて歩いていった。5人は森の奥に、進んで行くのであった。
しおりを挟む

処理中です...