銀色の雲

火曜日の風

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4章 計画を考えているうちに、起こってしまうのが人生

2話 誤算

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『お知らせします、機体は対象の20m上空まで降下しました。現在は停止しております』

 機内に響き渡るトロンの声を、2人はスクリーンの前で聞いていた。ヴィタリーは、相変わらず乗り気がしない態度をしていた。

「トロン、映像を出して」

 アレーシャの言葉で、目の前のスクリーンの右下に四角窓が表示され、地上の様子が映し出された。それを見て、直ぐにヴィタリーが声を張り上げた。

「おいおい、5人いるぞ! アレーシャ、5人いるぞ! 4人じゃないのか?」
「いちいち声を張り上げないで! 見えてるから」

 見るからに焦っているヴィタリー、それに対しアレーシャは冷静だった。
 アレーシャは地形が表示されている画面と、映像を交互に見比べる。生命反応は4つ、そして映像は5人映っていた。彼女は生命反応の位置関係と、映像の人物配置を見て一つの結論に達した。

「中央に居る背の高い女… どうやらロボットの様ね。しかも完全な人型、精巧なロボット… これで他の惑星から来ている事が、確定したわね」
「ますます、嫌な予感が・・・」

 冷静の状況を見つめるアレーシャに対して、ヴィタリーの悪い予感は勢いを増して、彼の体を支配していった。
 2人は映像を見ていると、街の広場で見た男… 兼次が右手を上げているのが見えた。彼は指先を機体に向けると、その指先が光始めた。

「おいおい、ESPKシステムが稼働してるんじゃないのか? 使えているぞ?」
「ヴィタリー、落ち着いて。トロン、ESPKシステムは正常に稼働しているの?」

『正常に稼働しております』

「レアケースね、この状況で超能力が使えるとは・・・」
「アレーシャ! レアケースってレベルじゃないだろ! 今まで一度もなかっただろ?」

 アレーシャもヴィタリーも、ESPKシステムを照射された状態で、超能力を使った者など見たことはなかった。アレーシャ自身も、レアケースと言ったが内心は非常に驚いていた。アレーシャは、落ち着け、落ち着け… と心の中で自身にいいきかせる。そして一呼吸置くと、落ち着いた表情でヴィタリーに話しかけた。

「ヴィタリー… 異常な事態の時ほど冷静に。そう教わったはずよ、落ち着いて」
「たしかにそうだけどよー・・・・ なんか帰りたくなってきた」

 2人は映像を改めて見ると、兼次の指先の光が大きくなっていることに気付いた。

「撃ってくるのか?」

 映像を見てヴィタリーは、発言すると同時に光る弾は機体に向かって発射された。それは閃光となって、光の筋を描きながら向かってくるのが見えた。

「おい! 撃って来たぞ!」
「ヴィタリー大丈夫よ、外れたわ。単なる威嚇射撃・・・ そうよ威嚇射撃よ」

 アレーシャは、兼次が撃って来たことに驚いた。彼女は威嚇射撃とヴィタリーに言いながら、心の中で何度もそれを言って、心を落ち着かせた。

「トロン、ESPKシステムを最大出力にして」
『了解しました。暫らくお待ちください』

 アレーシャは太ももの銃をとると、安全装置を外し直ぐに撃てる準備をした。

「ヴィタリー… あなたも、直ぐに撃てる準備をしておいて」
「話し合うんじゃなかったのか?」
「そうよ。ただし、最悪の事態を想定しておかないとね」
「わかった」

 ヴィタリーは深呼吸して覚悟を決めた。銃をとると、それを真剣に見ながら、安全装置を外した。その時だった… 機内で赤い照明の点滅が始まった。

 ビー ビー ビー

 機内に鳴り響く警告音、2人は突然な警告状態に驚くと。銃を抜き臨戦態勢に入った。

『警告! 対象の人物から、ガイルアの反応を検知しました。緊急自動退避システムを起動します。全エネルギーを駆動系にあてます。10秒後に全速力で大気圏外に退避します。衝撃に備えてください。10… 9…』

 トロンのカウントダウンが始まると、アレーシャは大声で叫んだ。

「まって、管理者権限発動! 緊急自動退避システム停止!」
『管理者権限… 確認されました。緊急自動退避システムを停止しました』

 アレーシャの言葉を聞いてヴィタリーは、急いで彼女の元に駆け寄った。そして彼女の両肩を掴むと、前後に揺すりながら話しかけた。

「正気かアレーシャ! 勝てる相手じゃないぞ! 話し合えるかもわからん!」

 アレーシャは揺れる体で中央のスクリーンに、映し出されている映像を見ていた。そして覚悟を決めたよう表情で、両肩に乗っかっているヴィタリーの手をつかんだ。

「ヴィタリー… こんな機会は滅多にないのよ? ガイルアが人の姿をしているのよ? この状態だけでも、ありえないケースなのよ? そして周りに人を従えている。と言う事は、会話ができると言う事よ… 今だかつて誰も、ガイルアと対話したことがない。それが話せる状態で、そこに居るのよ? だったら行くしかないじゃない」

「考え直せアレーシャ… ワンミスで即死だぞ? 応援を呼ぼう?」

 アレーシャはヴィタリーに向かって、悲しい目を向けた。そして太ももの銃に手を掛けた。

「ヴィタリー、今までありがとう。楽しかったわ。ごめんね・・・」 

 アレーシャは銃を抜くと、ヴィタリーに気付かれない様に、彼の胸元に当てた。
 そして、その引き金は引かれた・・・



「我らの神が、目の前に居るの・・・」

 アレーシャは倒れているヴィタリーの側で立っていた。ヴィタリーは口からは、青い血が流れ、虚ろな目で彼女を見上げていた。

「ア… アレー… シャ… お前… 教団の…」

 それがヴィタリーの最後の言葉だった。
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