銀色の雲

火曜日の風

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3章 まず行動、目的は後からやってくる

14話 着替えは… やっぱり、あれだった

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 麻衣は椅子から立ち上がり、ルディの側に来て彼の肩に手を置いた。

「さあールディちゃん立ってー、服をヌギヌギしましょうねー」
「うん…」

 ルディは若干嫌そうな表情で立ち上がり、上の服を脱ぎ始めた。側では麻衣が、彼の姿を凝視していた。その視線気づいた彼は、恥かしそうに麻衣から背を向けると。麻衣の正面に、彼の背中が現れた。その背中には細く柔らかい、茶色の毛が肩甲骨周辺を覆っていた。

「へー、背中に毛が生えてるのね」

 麻衣はルディの近くで、膝を床に付け中腰姿勢になると。目の前にあるフカフカした、密集している毛の前に顔を寄せた。そして右手を出して、その背中の毛の感触を確かめ始めた。
 ルディは麻衣に触れられると、その場所から電気が走ったように背中を伸ばし「ひゃぅ」と言う、可笑しな声を発した。

「おおぉー… 柔らかい」
「おねーちゃん… くすぐったい」

 ルディの声が、聞こえているのか聞こえていないのか。麻衣は暫らくの間、ルディの背中の毛を触っていた。
 そんな時に、部屋のドアが開くと。兼次が、お湯の入ったコップを持ち現れた。彼は入った瞬間に、ルディの背中の毛を怪しい笑顔で触っている、麻衣の姿が視界に飛び込んできた。

「おいっ、変態ショタコン! いつまで触っている? 遊んでいる暇はないぞ!」
「ひやぁぁぁー!」

 麻衣は自分の世界に入っていた様で、兼次が帰ってきたことに気付いていなかった。奇声と共に目を丸くして、兼次の方を素早く振り向いた。そんな彼女を見て兼次は、眉間にしわを寄せ何かを言いたげな表情だが、何も言わず椅子に腰かけ。テーブルに置いてある布袋から、茶葉を一つまみするとコップに入れた。

「ほら… ささっと、続けろ」
「わかったわよ・・・ じゃぁ、ルディちゃん。次はズボンを脱いでねー」

 ルディは麻衣の言葉に、疑問に満ちた表情で振り返り、麻衣を見た。

「ズボンも… 脱ぐの?」
「大丈夫よ、任せて!」
「う… うん」

 ルディの疑問に、満面の笑顔で押し切ろうとする麻衣。ルディは、しばらく麻衣を見ていたが。何か解らない圧力を感じ取り、しかたなくズボンを脱ぐ事にした。再び麻衣を背にして、ズボンに手をかけ脱ぎ始める。

「おおー、パンツに尻尾用の穴が開いてるんだねー」

 ルディがズボンを全部脱ぐと、昨日にズボンの中にしまい込んだ尻尾が出てきた。それは左右に気持ちよく、麻衣の目の前で踊っていた。
 麻衣は、その尻尾を見ると、すかさず手に取り触り始める。そして尻尾を「はぁぁー」と言う声音共に、その尻尾で頬ずりを始めた。

「だから、いちいち感傷に浸るな、時間が無くなるぞ!」
「わかってるわよー、急かさないでよね!」

 兼次に急かされ、麻衣はルディからズボンを脱がせると。それをテーブルに置き、代わりに薄い水色の服を取る。服の前後を確認し、ルディの背中向けて広げて見せた。

「はい! 両手を上げてねー」

 ルディは両手を上げて着る服を、今まで着た事は無かった。彼は不思議に思い、振り返り麻衣が持っている服を確認すると。それは、彼にも見覚えのある形だった。

「おねーちゃん・・・ それって・・・」
「見つからない様に・・・ だよ! ね? 手を上げよーねー」

 ルディは、テーブルに座っている兼次を見て。彼に助けを求めるような、表情を見せた。そんなルディを見て兼次は、麻衣に向かって声をかけた。

「待て麻衣。それは、女物の服だろ? 趣味入ってるだろ?」
「違うんだってば! ちゃんと理由があるの!」

「なら、理由を言ってみろ」
「この犬耳を隠すために、盛りヘアーにしようと思うの。そうしたら長い髪に、男子の服だと、不自然でしょ? だからよ!」

「なるほど、一理あるな。 ・・・ルディ、姉を助けるためだ。我慢しろ」
「う、うん… 」

 味方の居なくなったルディは、力なく答え仕方なく両手を上げて、着替えを待った。
 麻衣は、ルディの状態を確認すると、持っている服を手から通す。そして服の端を持つと、優しく足の方へ向かって下げていった。その服はひざ下10cm程度のスカートで、ちょうど尻尾が隠れる、ワンピース状の服であった。
 麻衣は最後に、ルディの腰に赤色のひもで腰を縛った。

「はい、服は出来たよー。次は髪を盛って、耳を隠さないとね! じゃー座ってね」

 麻衣は中腰から立ち上がると、ルディの両肩に手を置く。そして彼を椅子に、座る様促した。ルディは、足に当たるスカートの感触が気になるのか、下から入ってくる空気が変に感じるのか。下を向いて、スカートをじっと見ていた。

「ルディちゃん、座ろーねー?」

 麻衣は、渋っているルディの方を更に押し、彼を椅子に座らせた。

「ところでルディの短い髪で、どうやって盛るんだ?」
「これよ、これ!」

 兼次の言葉に麻衣は、買い物袋から糸束の茶色い糸を取りだす。そして、兼次に見える様に、彼の前に突き出した。

「え? 糸・・・で大丈夫か?」
「そうーよ! ウィッグが無かったから、仕方ないでしょ! それに、この糸は動物の毛だって言ってたわ、質感的に同じのはずよ」

 麻衣に言われ兼次は、手を伸ばして糸を触り感触を確かめた。

「確かに毛っぽいな。それで、出来るんだろうな?」
「大丈夫よ! 盛りの麻衣ちゃん、と呼ばれた時期もあったんだからね」

「速読の麻衣ちゃん、って前に言ってなかったか?」
「それも、私の一部よ! よーし、はじめるわよー」

 麻衣は、腰の剣を少し抜くと器用に糸を適度の長さに切る。それを束ね、ルディの髪に編み込んでいった。ルディの髪の色と糸の色は、ほぼ同じ色で編み込まれた糸は、違和感なくルディの髪と馴染んでいった。糸を全て編み込むと、ロングヘアー姿のルディが出来上がった。

「うっは、可愛すぎっ。写メ取らなきゃ」

 麻衣はルディの姿を見て、鼻息を荒くしながらスマホを取り出し。ルディの正面に回り込み、写真を撮りだした。ルディは麻衣が、何をしているのか分からず。自身に向けられたスマホを、不思議そうに見ていた。
 そんなルディを、兼次は鋭い視線を彼に向けた。

「ルディ… 分かってるな?」
「うん… 何も見ていない…」
「麻衣も、分かってるな?」

「え?」と突然言われた麻衣は、驚いて兼次の方を見ると黙り込んだ。しばらく考え込むと「分かってるって! SNSに上げるな… でしょ?」と答える。

「お前・・・ その間は、忘れてただろ?」
「やだなー、覚えてるって!」

 右手を上下に仰ぎ、覚えてますをアピールする麻衣。スマホをしまうと、盛り髪の作成に入った。ヘアブラシが無いのに、器用に髪を手でかき分けると。ルディの犬耳周辺で巻き上げ、空気を含ませるように、犬耳を囲い込んだ。

 麻衣が盛り髪の制作に入って、約十分後にルディの盛り髪が完成した。完成すると同時に、彼女はスマホを取り出し、撮影を開始した。ルディの顔に寄せての自撮りから、ルディ単体撮影、ありとあらゆる方向から何度も、何度も撮影している。

「はーい、ルディちゃん。もっと笑ってー」
「おい! 終わったなら、直ぐに出るぞ」
「まって、あと少し」

 兼次は、テーブルに載っている3つのコップを手に取ると、立ち上がった。

「ララ、麻衣のスマホを停止しろ」

 兼次の言葉と同時に、麻衣の持っているスマホは、突然電源が切れ黒い画面になった。と同時に、麻衣の悲鳴が部屋に響き渡った。

「ほら行くぞ! この宿に帰ってこない可能性がある。清算して出るから、荷物全部持ってけよ」
「・・・・ひどい、あと少しって言ったのに」
「十分撮ったろ、行くぞ」

 兼次、麻衣、ルディは部屋から出る。そして公開処刑が行われる、中央広場に向かった。
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