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3章 まず行動、目的は後からやってくる
3話 無意識に事件の臭いを嗅ぎつけた
しおりを挟む兼次と麻衣が宿屋に到着し、両者が自由行動で街中に繰り出してした頃…
街中では軽装な革製の鎧を着込んだ衛兵たちが、速足で歩き回っていた。彼らは決して忙しく走り回るわけでもなく、かと言って町民を監視しながらゆっくりと歩いているわけでもなかった。衛兵たちは至る所で、家と家の間にある隙間の暗闇や、袋小路の物陰など至る所を、丹念に見て回っていた。
街の中央広場では、街中を走り回っている衛兵達より、幾分豪華な鎧に身を包んだ男が。広場の片隅にある井戸の上に腰かけていた。そんな所に、一人の衛兵が広場全体を見まわしながら現れた。彼は、井戸の上で座っている男を見つけると、早歩きでその男の元へ歩み寄っていった。
「隊長、見つかりません… 街の外に、逃げたのではないでしょうか?」
隊長と呼ばれた男は、話かけられた男性を見る事もなく。中央広場を行きかう町民達を、鋭い目つきで、何かを探すように見つめ続けていた。彼はその状態のまま、寄ってきた衛兵に話しかけた。
「町周辺は固めてある、それは無いはずだ。それに、あの姿で人前には、出てこれないだろう。隠れている可能性が高い、裏路地や人気のない場所を、もう一度念入りに調べろ。騒ぎが大きくなるから、決して町民には悟られるなよ!」
「わかりました」
「行け!」
「はっ」
井戸に座っている男は、離れていった衛兵には目もくれず、中央広場の監視を続けていた。彼は暫らく行き交う町民達を見ていると、明らかに他の町民達と雰囲気が違う人物を見つけた。その人物は、この街では見たことない髪型で。長い髪を耳辺りで、左右に分けて束ねている女性であった。彼は、その女性の一番特徴のある部分に、視線が釘付けになってしまった。
彼は放心状態で、その部分を目を見開き見つめ続けていた…
「大きいな…… っは!」
男は、その大きな胸を見ていたら、思わず声を出してしまった。そして自身で気づき、あわてて手で口を押えた。その声と同時にその女性は、歩みを止め男の方を見た。
そう… その女性は、出雲麻衣であった。
麻衣は口元だけの笑顔で歩む方向を変え、井戸に座っている男に向かって歩き始めた。男は向かってくる彼女を見ながら、聞こえたのか? … と考え始め、気まずい状態になっていた。
男は迫ってくる麻衣を見ながら、先ほどの発言の言い訳を考え始めた。しかし、考える間もなく、気づいたら麻衣は男の前に立っていた。
男は口に当てていた手を戻すと、立ち上がり軽く頭を下げた。
「気を悪くしたのなら謝罪しよう。すまんな…」
「え? 何の話なの?」
男は不思議な表情の麻衣を見て、勘違いか…と思い安堵した。そして、咳ばらいをしながら、彼女に話し始めた。
「見たことない髪型だが、中央都市から来たのか? 旅行か?」
「中央都市… あぁ~、そうそう、それ。さっき着いたところだよ。それより、聞きたいことがあるんだけど?」
麻衣は中央都市と聞いて思わず、違うよー…と言いそうになった。しかし兼次の発言を思い出し、思いとどまり目の前の男に、話に合わせるのであった。
「今は忙しいのだが・・・まぁ、いいだろう。何だ?」
「スイーツを売ってるお店は、どこにあるの? さっきから探しているんだけど…ないの…」
男はスイーツと聞いて、その聞いたことのない言葉について考え始めた。しかし、中央都市に行った事のない彼では、答えは一向に出てこなかった。
「スイーツとは何だ? 中央都市にはあるのか?」
「スイーツとは、甘い食べ物よ。おいしいんだからー…中央都市に、あった…よう…な?」
麻衣も当然、中央都市には行ったことは無い。そんな都市の事情なんて、分かるはずもなかった。仕方なく彼女は、目を泳がせながら語尾を濁し誤魔化すのであった。
「甘い食べ物か… 残念だが、この街には無いな」
「そうなんだ・・・」
残念な表情の麻衣を見ながら、その男は頭を掻きながら麻衣から目線を外した「行け、俺は今勤務中だ」と言うと、井戸に座り込んだ。
「最後にひとつ聞きたいんだけど、女の子一人で行っちゃいけない場所ってある?」
男は、少し考えると右手で若干狭い道を指した「こっちは、男が遊ぶ店が並んでいる。行く必要がないだろう。そして…」と男は右手を、反対方向に向けた「こちらは、スラム街だ。行かない方がいいだろう」
「へー…スラム街とかあるんだ・・・ふふふ、ビビッときたっ」と麻衣は、男がさす方向を見るとニヤリと笑った。そして、スラム街に向かって歩き始めた「兵士さん、ありがとねー」と言いながら。
「まてまて、さっき忠告しただろ!」
麻衣は、その男の声を聴いて後ろ向きのまま、手を振る「大丈夫、大丈夫。気にしないでー」と顔だけで少し振り返り、その男に笑顔で答えた。
「俺は忠告したぞ! あとは、お前の責任だ!」
麻衣は「了解でーす」と軽く言うと、スラム街に向かって歩き始めた。
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