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火曜日の風

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2章 伝説の聖女様現る

14話 忙しい日々が始まった

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「今日も、朝から肉料理メインですか」

 一夜明け朝食のテーブルに着いた瑠偉、最初の言葉だった。不機嫌そうに、皿に盛られたスープ状の肉料理を、スプーンでかき混ぜている。スプーンを引き上げ、隣にある拳大の丸いパンらしきものを突き始めた。そのパンはスプーン当たるたびに、乾いた音を鳴らしている。スプーンを置きパンを手に取り、その端をスープに浸した。そして無造作にかぶりつく「スープに漬けても固い」と一口食べるとパンを置き、スープを口に含む「薄い、不味い」次にスープに入っている肉片を口に運んだ「獣臭が・・・固いし」一通り出された物に口を付け早々に呑み込んだ。「もうだめ、食欲が出ない・・・何とかなりませんか?」と、正面に座っているララを見た。ララの前には食事のプレートは載っておらず、水の入ったコップが一つ置かれているだけだった。

「お嬢様。砂糖、イースト菌、生肉の保存設備など色々足りません。現状の調理方法が限界でしょう」
「他に良さそうな店は、無いのでしょうか?」
「昨日行った酒場。そこなら新鮮な肉が手に入ります。そこの肉料理なら、柔らかいです」
「酒場かー・・・昨日の事があるし、行きたくないなー」

 瑠偉は食事を再開する。一口含むたびに、不満の一言を洩らしながら食べていった。
 そんな時、入り口に2人の人影が現れた。ロート夫妻である。セーラ服のスカートを、陽気に揺らしながら入ってくるファルキアと、大きなお腹を揺らし、額の汗を拭いながらのオーグ。彼女達は、そのまま瑠偉達の居るテーブルに向かって歩き始めた。

「おはようございます、ルイさん」

 ファルキアの挨拶に、瑠偉は食事を一旦やめて顔を上げる。その視界の先の、大きなお腹が入って来た。顔を上げ、その姿を確認する彼女は「おはようござ・・・」と挨拶の途中で、驚きの表情と共に「オーク!」と大声を張り上げて、驚いた。

 オーグはそんな彼女に、特に驚きもせず「オーグ・・・です。おはようございます」と淡々と、名前を訂正し挨拶をした。

「おはようございます。ファルキアさん、昨日の件ですが」とララは、振り返りファルキアに話しかける。
「はい。準備しておきましたよ、バッチリです」とファルキアは、ララに向かって笑顔で答えた。一方瑠偉は、<昨日の件>と聞いて不思議な表情で、首を傾げながら黙ってララを見ていた。

「ところでララさん。食事は食べないんですか? ・・・そう言えば昨日、出された食事をそのまま残した。と言う人が居たって、噂を耳にしたけど・・・」
「ファルキアさん。実は私、お嬢様が床に落として、踏みつけたパンを、這いつくばって食べなければなりません。しかも、頭に足を置かれてグリグリと、踏みつけられてしまいます」

「ちょと、まったっぁー!」と瑠偉はテーブルに両手をつき、勢いよく立ち上がった。その勢いて彼女の腰かけていた椅子が、音を立てて床に倒れる「違います! そんな事してません! 何言ってるんですかララさん」

「ル、ルイさん・・・」と口に手を当て、悩ましい表情で瑠偉を見つめるファルキア。
「使用人に、その様な事を・・・」とオーグも、眉間にしわを寄せルイを見つめた。
「だ…か…ら…違うんでっすって! そんな事してません!」と瑠偉は手を忙しく動かせ、オーバーアクション気味に、ロート夫妻の言葉を強く否定する。

「そう言う事です、ファルキアさん。違うと言う事にしておいてください」
「だっから、含みを持たせないで、否定してください」

「ま、まぁ…冗談と言う事にしておきます。それではララさん、ルイさん、私達はこれで失礼します」とオーグは、ファルキアの肩に優しく手を置き、立ち去るように促した。ファルキアは、笑顔で手を瑠偉に向かって振り「例の件、頑張ってくださいね!」と言い、オーグと共に店の奥に向かって、歩き始めた。

「まってー! 今のは冗談ですよー、信じてくださいねー」と瑠偉は、背を向けているロート夫妻に向かって叫ぶ。その声を聴いたファルキアは振り返り、瑠偉に向かって笑顔を見せると何も言わず、そのまま店の奥に消えていった。

「これで食事を食べない。と言う話題は、逸らせました。何よりです」とララは、再び瑠偉に視線を戻すと、何時ものように静止した。
 瑠偉は倒れている椅子を、戻しながら「その代わり、私の印象が悪くなりましたけどね」と弱々しい声で言うと再び、椅子に腰かけて食事を再開した。

「っほんとに、なんでそんなに問題を起こすんですか・・・」と固いパンをスープに浸し始めた瑠偉。それを口に運び、よく噛んで柔らかくして食べていると。ある考えが、思いついた。

「まさか・・・兼次の指示? ありえるな・・・」
「お嬢様。数十種類のシナリオから、最善のパターンを導き出した結果です」
「最善のパターンって、さっきのが?」
「はい。以後、ロート夫妻は、私の食事について疑問を抱かなくなります」
「私が悪者になってるんだけど・・・納得いかないなー」

 不満気に頬を膨らませ、食事を再開しようとした瑠偉。しかし、何かの違和感を感じた「ん? ロート夫妻?」とララに話しかける。

「ファルキアさんとオーグさんは、結婚しております」
「えぇぇぇ! あのオークが結婚している? ここに来て一番の驚き・・・本当なの?」
「事実です。本人の口から聞いております。ちなみにオーグ・・・です」

「ありえない・・・不思議な世界だ…」と再び食事を始める瑠偉。しかし、食事の不味さに呆れ、半分ほど残しスプーンをテーブルに置いた。大きく息をし、両肘をテーブルに置くと、ララと向かい合った。

「それで、例の件って何でしょうか?」
「覚えてましたか」
「当然です!」
「この場所で、簡易的な治療院を開きます。お嬢様の治癒能力で、お金を稼いでいただきます。すでにファルキアさんの許可はとってありますので、ご心配なく」
「だからー、私の意思が無視されてるし・・・話が勝手に進んでいく」
「昨日の貸しがありますし、社会勉強と言うマスターの教育方針があります」
「すでに地球外で生活している時点で、立派だと思いますが? 貸しは、私のお小遣いから、清算してください」
「私は、秒速で3億稼ぎます。その私を動かしたのです、それなりの対価を頂きますが? まず、お嬢様の所持金では払えません。それに、暇すぎてやることが無かったのでは?」

 最後に言ったらララの言葉を、瑠偉は半口を開けながら聞いていた「確かに暇とは言ったけど・・・私だって、やることくらい」と彼女は、若干ララから目を逸らし気味に答えた。

「やる事とは?」
「えー…っと」と瑠偉は、目を閉じ手をアゴに当て考え始めた「何も・・・ない…です」
「なら、問題ないです。それとも一人旅でもしますか?」
「一人は絶対に嫌です! まさかの事態が、起きないとも限りませんので」
「まさかの事態とは?」
「私と言う存在を忘れて、地球に帰ってしまう。と言う最悪のパターンです」
「なるほど・・・面白い案です。マスターに進言しておきましょう」
「やめてください! 怒りますよ、ホントに!」
「冗談ですよ」
「その無表情・・・冗談に聞こえないから」

「聖女さまー! 治してくれるって、本当ですかー」と大声を張り上げ、入り口に一人の少年が現れた。彼は短髪で、年頃は10代半ば位であろう人族の少年であった。彼は目を輝かせ、辺りを見渡し瑠偉達を探した。見渡した食堂に、彼女達を発見した彼。勢いよくテーブルをかき分け、瑠偉達の元に駆け寄った。

「さあ、お嬢様。診療の開始ですよ」
「その前に、聖女様って言うの、やめてほしいんだけど・・・」

 ララは、少し残っている瑠偉の食事を持ち上げると、奥の厨房へ運んでいった。瑠偉の前に来た少年は「はじめましてー、よろしくお願いします」と深々と頭を下げ、ララの座っていた、瑠偉の対面に腰かけた。

「助手が戻ってくるまで、少し待っててください」
 瑠偉にそう言われた少年は「はい」と返事をすると、笑顔で彼女の顔を見つめ始めた。

 兄弟の居ない瑠偉は、同世代より下の人と、まともに接したことが無く。どうしていいか、分からずにいた。ましてや、相手は地球人ではない。最初に何を話していいのか、分からず固まっていた。彼女は仕方なく、その少年を黙って見返していた。
 暫らくして、ララが水の入ったコップを持ってきて現れた。ララは瑠偉の前に、それを置くと彼女の隣に座った。そして、目の前の少年に話しかけた。

「それでは、用件を伺いましょう」

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