銀色の雲

火曜日の風

文字の大きさ
上 下
26 / 91
2章 伝説の聖女様現る

13話 第三勢力現る

しおりを挟む
兼次達を載せた馬車は、川に架かる吊り橋を渡っていた。川幅は10mほどだが川岸が広く、川としての幅は50m以上はあるだろう。そんな川に吊り橋は架かっていた。吊り橋の幅は人が横並びで四人程度、兼次達が乗っている馬車がやっと通れる幅である。

その馬車が吊り橋を渡りきった時、橋を吊っている太いロープが突然細かな振動をはじめた。そして吊り橋を両岸から引っ張っている個所が、何の前触れもなく突然切れ。その吊り橋は、その形を保ったまま川に落下を始めた。
落下した吊り橋は、川に落ちると同時に大きな水の音を立て、中央から2つに折れる。組まれていた板やロープは、川に浮き川の流れに沿って下流へと流れていった。

大きな音を聞いた馬車の運転手は、すぐに馬車を止め降りると、音のした方に向かって走っていく。運転手は前方を見ると、先程渡った吊り橋が跡形もなく消えていた。

「橋がぁー! 橋がぁー!」と運転手はそう叫ぶと、両膝を地面に落とし半口を開けながら、無くなった橋を呆然と眺め始めた。

「なにぃー、橋が落ちただとー! なんてことだぁー!」
「兼次ちゃん、顔が全く驚いてないよ。てか白々しいから…むしろ棒読み」

馬車から出て行くなり、わざとらしく大声を張り上げた兼次。そして小声で彼に話しかける麻衣は、運転手の方に近づいていく。兼次は運転手の右肩に手置くと「運がよかったな、渡った後に崩れるとは…」
運転手はその言葉に気づくと、ゆっくりと兼次の方見上げた。その目は若干潤っている…

「先月に架け直したばかりなんですよ? こんなに早く壊れるなんて・・・早く架け直したとしても、一カ月は掛かります。街に残した、妻と子が居るのに・・・ううう」
「もし、渡っている時に崩れていたら。無事では済まなかったぞ?」
「確かにそうですが・・・どうして突然崩れたんでしょう? 何時ものように、川の氾濫で崩れるなら分かるのですが・・・」
「さあな・・・俺が知るわけないだろう。よし、これをやろう。元気を出せ」

妻と子供を残してきた、と聞いた兼次は少し罪悪感を抱いたのかもしれない。革袋から豆金を1個取り出すと、運転手の手を握りそれを渡した。運転手は、渡された物を確認するために、手を顔の近くに持ってくると。そこには、豆金1個が載っていた。
「え? いいんですか? こんなに…」と兼次の顔と、豆金を交互に見比べ始めた。

「かまわん、妻にいい物でも買ってやれ。それと言っては何だが・・・まあ、立て」

運転手は立ち上がると、兼次は彼と肩を組む。そして近くにいた麻衣から、遠ざかるようにゆっくりと歩き始める。

「次の街に、女と遊べる店は無いのか?」
「へっへ旦那、とびっきりの店がありますよ。ちょと非合法ですが・・・しかし、お連れの方はいいんですか?」
「問題ない」

そんな二人の背中を、冷ややかな目線で見ていた麻衣は、無くなった橋を見ようと振り返ろうとした時。彼女の視界の片隅に、何かが飛んでいることに気が付いた。

「あぁぁ! UFOだぁー!」

麻衣は声を張り上げると同時に右手を突き上げ、人差し指を空に浮かんでいる物体に指した。その物体は、地上から見ると全長5cmほどの葉巻型をした、銀色の物体だった。窓は無く、金属光沢の表面はボルトなどで止めている様子もなく、継ぎ接ぎのない完全な長方形の筒状を形成していた。
麻衣はそれを見るなり、左手をスカートのポケットに忍ばせスマホを取り出そうとした。

麻衣の大声で振り向いた兼次は、彼女が左手で何かを出そうとしたのを見逃さなかった。兼次は運転手を振り払い、勢いよく麻衣の元に移動する。そして麻衣の後ろに回り込むと、左手で彼女の左手を押さえつける。ついでに右手は麻衣の腕を押さえ、上げていた腕を下げる。と同時に、その手は二つの膨らみに到達していた。その手は勿論・・・

「だから撮ろうとするなって! そして人前でスマホを出すな」
「ごめん、つい。それより…さりげなく胸揉まないでくれる? それこそ人前だし…」

「まさか…気づいたのか?」と兼次は、麻衣を抱いたまま上空に浮かんでいる、銀色の物体をを見上げた。その物体は相変わらず、兼次達の上空で音もなく浮かんでいた「まったく動いてないな、監視しているのか?」

「どうするの? 撃墜するなら、私が…」
「アフォか! こんな辺境の惑星で、宇宙戦争でも始める気か! 静観だよ」
「まぁ…いいわ、見逃してあげましょう。そして、そこの人は何してるの?」

兼次は見上げていた視線を元に戻す。そこには膝を折りて曲げて、空に浮かんでいる銀の物体を拝んでいる、運転手の姿があった。運転手は、目を閉じて。指を交互に組んだ手を、顔の前に出し。なにやら小さな声で、何かを念仏のように繰り返し言っているようだった。

「これは、あれだ…『空から舞い降りた神は、実は宇宙人だった』と言う説だな。つまり、拝んでいるんだよ」
「なるほどね・・・『ラー』に書いてあった事は、本当だったと言う事だね」
「『ラー』って?」
「知らないの? 日本唯一のオカルト情報専門誌よ! 中学時代に、毎月読んでたんだよ。そう言えば…今あるのかなぁ??・・・あれから50年近く過ぎてるし」
「お前・・・妄想世界に身を置き過ぎだぞ」

「妄想って、宇宙人居るのは事実でしょ? この惑星にも住んでるし…」と麻衣は、さりげなく胸を触り続けている、兼次の手を振りほどく。そして振り返ると、右手を出し兼次の鼻の先を、人差し指で触れる「ここにも居るでしょ? 宇宙の頂点に君臨している、色情星人が!」

「ま…まぁ、地球以外にも生命体が居るのは事実だな。だが、魔法は存在しないぞ! よし、先に進むぞ!」と兼次は麻衣から離れ、運転手に向かって歩き始めた「おい運転手、祈ってないで先に進むぞ!」と言うと、麻衣の方を振り返る「そして麻衣よ、俺はオッパイ星人だ」

キメ顔で麻衣の方を、指さす兼次。そんな彼を見ながら麻衣は、ため息が出てきそうな顔つきで歩き始めた「もー…真面目な顔して、言うセリフかなー」

……


日が沈んだカキレイの街。人々が寝静まった頃。ファルキア亭の食堂の一角で、3人の男女がテーブルを囲んでいた。ロート夫妻とララである。テーブルに置かれた、油皿から伸びる紐に灯る炎が、3人の顔周辺のみを照らして。密談をしているような雰囲気を演出していた。そんな中、最初にオーグが布で額の汗を拭いながら話し始めた。

「ララさん。ご相談とは何でしょうか?」
「はい、実は・・・」

二階で熟睡している瑠偉をよそに、ララの描いたシナリオが始まっていくのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

龍神と私

龍神369
SF
この物語は 蚕の幼虫が繭を作り龍神へ変わっていく工程に置き換え続いていきます。 蚕の一生と少女と龍神の出会い。 その後 少女に様々な超能力やテレポーテーションが現れてきます。 最後まで読んでいただきありがとうございます。

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...