25 / 91
2章 伝説の聖女様現る
12話 合流は出来ない
しおりを挟む瑠偉とララ一行は繁華街を抜け、ファルキア亭に戻ってきた。扉を抜けるとカウンターに、遠くを見つめて呆けているヨルグの姿が、瑠偉達の視界に入ってきた。
ヨルグは二人の姿が見えると同時に、垂れていた頭の耳が起き上がる。それと同時にカンターを飛び出して、入り口に現れた二人に近寄って行った。
「おかえりなさーい。今日も素敵です、ルイさん。ヨルグの気持ちです、これをどうぞ」
ヨルグは、右ひざを床に落とし、両手で赤い一輪の花を瑠偉に差し出した。彼は瑠偉を見上げ、目を潤しながら彼女を見上げている。そして彼の尻尾は、絶えずフリフリと陽気に揺れている。
「あ…ありがとー…ご…ざ…います」
瑠偉は顔を微妙に引きつらせながら、ヨルグの持っている花を受け取る。同時に彼女は、ゆっくりと後退を始めた。今までに男子から、このような行動をとられた事が無かったた彼女は、ゆっくり振り返り後ろにいるララに助けを求めた。
「なにか、ご不満でも?」
しかし、何時もの無表情で切り返される。「なんでもないです」と彼女は、再びヨルグの方を向くと「お仕事、頑張ってくださいね」と言い、逃げる様に速足でその場を後にした。
二階の床を鳴らしながら、速足で自室に戻って来た一行。部屋に入るなり瑠偉は、すぐさまにベッドにうつぶせで飛び込んだ。そしてララは、静かに彼女に近寄った。
「思わせぶりな態度を見せていると、勘違いされてしまいます。2回目です」
「分かってますよ・・・強引に来られると、対応に困ります」
「確かに、そうですね。お嬢様の学校では、草食系しかいないようですし。今時、下駄箱にラブレターとか…笑えない冗談です」
「だから、何で知ってるんですか?」
「お嬢様。麻衣様よりお預かりしていた荷物です。お受け取りください」
瑠偉は枕に押し付けていた頭を浮かし、口を少し開けながらララを見上げる「直ぐ話を逸らすし……計算してるの?」と口元をとがらせながら不満気に、ララに差し出された自分の荷物を受け取ると。小物入れのポーチを側に置き、スマホを手に取ると枕にアゴをのせ、スマホを見始めた。
「あれ? 不在着信が・・・」
スマホを操作し、不在着信を確認していく彼女。履歴を見て見ると、美憂からであった。昨日の夕方から始まって、今日の昼までの着信があった。おそらく、学校が終わったころと、夜と翌日の朝、そして昼休みだろう。そんな事を考えながら、彼女は美憂に電話をしようと思った。が…ある事に気が付いた。そして再びララの方を見上げた。
「ここ地球じゃないですよね? なんで繋がってるんですか?」
「リュボフ国の内情を知っている人物は、監視対象になっております」
「つまり?」
「関係者のスマホは、量子通信方式に改造してあります。通信は私の本体を経由し、監視しております。プライバシーは保護しておりますので、安心してください。ちなみに佐久間様は、現在授業中です」
瑠偉は長い溜息をつく「まぁ、そんな気がしてましたよー」と、再び枕にアゴ載せポーチを手に取り中身を見始めた。中身を見て、何やら考え始める彼女。そして思い出したようにスマホを手に取り操作を始め、麻衣に連絡を取り始めた。呼び出し音が聞こえると、スマホを耳に当てる。彼女は<麻衣と話す>と言う事実から、無意識に日本語で話し始めるのだった。
「麻衣。瑠偉です、少しいいですか?」
『瑠偉ちゃん、起きたの。体は大丈夫?』
「朝昼と肉食で、胃が重い感覚ですが、問題ないですよ。ところで麻衣、アレが心もとないのです。余分に持ってきてませんか?」
『アレって?』
「アレですよ! アレ!」
『ああー、アレね…持ってきてないけど。と言うか、半年程無かったし…忘れちゃってた』
「そうでしたね・・・ 必要無かったですね!」
『なに怒ってるの? 始まったの?』
「違います!」
『ところで瑠偉ちゃん。レッグちゃんとヨルグちゃん、どっち取るの?』
「だから、何で知ってるのよ!」
『あっ、待って待って! 強制クエストがぁぁ! じゃあ先輩、頑張ってね! またー』
「こらー、先輩ゆうなー!」
瑠偉は声を張り上げるが、応答は無かった「っち、切ったか…」
彼女は枕に顔を押し付ける。今日の疲れもあったのか、気分がよくなり浅い眠りに入っていった。しかし、すぐさま部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「ルイさーん。少しいいですか? 入りますよー」
瑠偉は聞き覚えのある声が聞こえ、目を覚ましドアの方を見た。<どうぞ>と言おうと、上半身を起こしベッドに腰かけた。彼女は周囲を見ると、ララはテーブル付きの椅子に腰かけて微動だにせず彼女を見ていた。そしてドアに向かって声を掛けようとした時、ドアが開くとセーラ服姿のファルキアが現れた。ファルキアは瑠偉を見るなり、小走りで駆け寄って彼女の隣に勢いよく座る。そして、彼女の手を取り顔を近づけた。
「さきほどの言葉は何ですか? やっぱり神様と交信していたんですか?」
「やっぱり? あっ・・・いや、あ…あれはー・・・」
瑠偉は輝かしい目つきで、質問をしてきたファルキアを見ていると。先ほど麻衣と日本語で会話していた事に気が付いた。彼女は口に手を当て、ファルキアから目線をはずす。そして必死に、言い訳を考えるのであった。彼女は少しの沈黙を置き、咳払いをしてファルキアと向き合った。
「先ほどの話し声は、私の住んで居る国の言葉です」
「そうですか。ルイさんは、山を越えてきましたよね? 神様も山の向こうから、飛んで来ます。一緒に住んで居たんですか?」
「住んでないですし、交信もしていません。勘違いしないでください、お願いします」
ファルキアは、手を瑠偉から離すと正面を見て考え始めた。暫らくして「あっ、そう言えば昨日の夜…」と言い、再び瑠偉と向き合った。
「昨日の夜です。神様が、山の向こうから飛んでくるのを見ました・・・まさか」
「え? 神様が飛んでくる?」
「なるほど、分かりました。酒場の噂は、本当だったのですね」
ファルキアは立ち上がると「お邪魔しました」と言うと、走って部屋を出て行った。そしてドアの向こうから「ヨルグー、聞いてくださいー」と言うファルキアの声と大きな足音が、部屋の壁越しから聞こえて来た。瑠偉は閉まったドアをしばらく見つめた後、ララの方をゆっくりと向いた。
「ララさん。神様が飛んでくるって?」
「おそらく・・・」
ララはここで、フォティマ教団の事を瑠偉に語った。さらにララの推測として<飛んできた物体から降りて来た>と言う可能性を伝える。
「つまり朝と昼間の治癒、それと先ほどの日本語の会話。そしてファルキアさんの勘違いで、話が膨れ上がる可能性があると・・・フォティマ教団とか、先に情報が欲しかったです」
「これからのシナリオをシミュレーションしておきます。全て私に、お任せください」
「何事もなく、平和に過ごせるようなシナリオでお願いします」
「無理ですね。私の計算では、三日間で噂は街中に広がると思われます」
「はー…もう嫌っ」と、ベッドの端に座っていた瑠偉は、そのまま上半身を倒しベッドに預ける。ベッドの作りが悪いのか、木のキシム音が部屋に響いた。目を閉じ考え始める彼女、そしてすぐに何かを思い出したようで。勢いよく状態を起こし、自身の首からかかっているネックレスの先にある指輪をつかむ。彼女の正面には、まだララが動かずに座っていた。
「ふふふっ、この指輪を使って麻衣達と合流しましょう。とりあず逃げの一手です」
「お嬢様、残念ですが。その指輪のテレポート機能は1回きりです。一度使ったら、再度マスターが力を込めないと使用できません」
「本当ですか? あやしんだけど…」
「私も指輪の制作に、関わっていますので事実です」
「なら、馬車に乗って後を追いましょう」
「隣街行きの馬車は、今朝出発しました。それが戻って来てからからの出発ですので、8日後になります。その前にお嬢様をこの街に、留めておくようにと命令を受けております。許可は出来ません」
「ええぇー・・・なんで?」
「マスターに、直接聞いてみてはいかがですか?」
「どうせ・・『抱けない女は、俺の側には必要ない!』と言われる気がしますが…」
「正解ですね、私も同じ考えです」
「あーもう…」と瑠偉は、足を上げ器用に回転する。そして再びアゴを枕に乗せうつ伏せになってスマホを見始めた。「ひまー、やることないよー」と膝を曲げ愛を交互にばたつかせ始める。
「恋愛小説の続きでも読まれては?」
「ポイントが・・・」と瑠偉はララの方を向いた。
「増やしておきました。貸し一つです」
瑠偉は微妙な顔つきで「か…かし…」と言い。それと同時に、何かやらされるんじゃないかと言う予感がよぎる。しかし、特にやることもないため諦めながらも、何時もの恋愛小説を読み始めるのであった。
……
…
兼次と麻衣を乗せた馬車は、何もない一本道の道なき道を進んでいた。馬車の中では、麻衣は足を組んで座りスマホを操作している。その組まれた足の正面には、兼次の顔があった。彼は麻衣の対面で横になりながら、スマホを操作している。
「また負けたし! おかしいから、絶対チートしてる」
「何を言っている。これが俺の実力だよ・・・ところで、何時まで足を組んでいるんだ? 血行が悪くなるぞ、股を開いてほぐしたらどうだ?」
「開きません!」
しばらくすると馬車は、上下にゆっくりと揺れ始めた。その揺れは規則正しく、同じ振幅を保っていて長時間続いている。「なに? 地震?」と麻衣は、スマホをしまい右手を近くの壁に当て体勢を安定させる。兼次は体を起こし、立ち上がると上部にある小窓から、外を眺め始めた。「川を渡っているようだな、この揺れからすると吊り橋かな? しかも、かなり川幅が広いな」と、しばらく眺めていた兼次は、そのまま麻衣の正面に腰かけ腕を組む。そして正面の麻衣を、じっと見つめ始めた。
「今日一番の、見どころだな」
兼次の言葉に聞いた麻衣は、その意味を一瞬で理解する。そしてスマホを椅子に置き、腕を組む。その上下に揺れている胸を乗っけて固定し、胸が揺れるの防いだ。そして正面の兼次の顔をじっと見つめた。
「男子の楽しみを奪うなよ・・・」
「エロ発言無ければ、まともな人間なのにねー。いや…そうでもないかぁ」
「麻衣、川を渡り切ったら。橋を壊せ」
「えっ、なんで? いきなり何言ってるの? バカなの?」
「バカは余計だ・・・橋を壊すのは、瑠偉が俺達を追ってくる可能性がある。と言う事だ、追っ手を絶つには、橋を壊す。これ定跡な」
「そこまでする? 兼次ちゃんのお腹の中真っ黒だね、いやそもそも本体は真っ黒か…」
「まぁいい、俺がやる」
「大丈夫? 教団に見つかるんじゃ?」
「俺の気配消しは完璧だ、問題ない」
この日、カキレイの街と隣町の、間に流れる大きな川にかかる吊り橋が、崩れ去った。
それから2日後に、橋が崩れた情報が、カキレイの街に届くのであった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる