銀色の雲

火曜日の風

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2章 伝説の聖女様現る

9話 治療

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 領主の館の玄関の前に到着した一行。クレハは、扉にぶら下がっている呼び出し用器具を叩く。しばらくすると、中から一人の初老の男性が出てきた、クレハは彼に用件を言うと、中に通される。一行は彼と軽く挨拶を済ませると、男性は奥の部屋に去っていった。

「意外と簡単に、入れるんですね」
「私とレッグは、親友だから顔パスで入れるぞ。こっちだいくぞルイ」

 金や銀で飾られた調度品が並ぶ廊下を抜け、一行は一つの部屋の前に来た。
「ここだ」とクレハは言うと、部屋の扉をノックして扉を開けた。中にはベッドに横たわる青年と、その青年の足をマッサージしている女中の姿があった。
 一行が部屋に入ると、女中はマッサージをやめ微笑みながら話し始めた。

「お久しぶりです、クレハ様」
「ああ、すまないな。なかなか来れなくて」
「では私は、これにて失礼いたします」

 女中は一礼をすると、瑠偉の側を通り過ぎる。女中はララと瑠偉の顔を見て、一旦立ち止まる。そして瑠偉達の方を向くと、軽く会釈をすると部屋から出て行った。

「やあクレハ。久しぶりだね、忘れ去られたかと思ってたよ」
「ああ、すまない。忘れたわけではないんだが・・・」

 女中が部屋のドアを閉めるとほぼ同時に、ベッドに横たわっているレッグがクレハを見ながら話しかけてきた。マッサージを終えたレッグは、めくれ上がった薄い布団を直しながら、器用に両肘を使いながら上体を起こした。そして部屋に響き渡るような音で、息を吐くとクレハの方を向き話し始めた。

「で、そちらの方は? 新しい狩り仲間か? ガフはどうした?」
「ガフは・・・なんか、いきなり腹痛を起こしてな。置いてきた・・・それより、足の事だが。ああ、まずは紹介からだな。こっちの背の低い方がルイで、その隣がララだ。なんでも山を越えた町から来たそうだ」
「珍しいな、山を越えて来るとは・・・旅行なのか?」

 レッグは、ララと瑠偉を見比べ瑠偉の方に話しかけてきた。彼は特に瑠偉が気に入ったのか、念入りに全身を見ていた。

「旅行と言えば、旅行ですが・・・自分の意志で来たわけじゃないけど」

 瑠偉はレッグの視線を感じたのか、レッグから顔を横に向け目を逸らす。視線だけレッグを向けたが、彼はまだ彼女を見てた。その視線に耐えらねくなったのか、瑠偉は隣に居るクレハに話しを進める様に促した。

「今日は…私の事じゃなく・・・クレハさん?」

 クレハは、レッグと瑠偉のやり取りを、頬前しく見ていた。瑠偉の問いかけに、思い出したかのように話し始めた。

「レッグ、実は足の事だが。治せるかもしれない」

 クレハはそう言いながら、レッグの顔を見ながらに近づく。そして、彼の足元のベッドに腰かけ、その左手を彼の膝に優しく振れる。一方レッグはそのクレハを、冷ややかな目で見ていた。

「そう、この足だ」
「なあ、クレハ。その言葉、聞くのは5回目だぞ」
「だが、今回は違う!」
「その言葉も、この前に聞いたな・・・もう、治らないんだよ」
「そう言ってる割には、使用人に足のマッサージを。そして、何時治っていいように準備をしているんだろ?」
「まぁ、そうだが・・・」

 クレハは立ち上がると、瑠偉に向かって歩いていき彼女の背後に立った。そして、両手を瑠偉の方に置いた。

「さあ、頼んだぞルイ」

 瑠偉はクレハの方を振り返り、その表情を見るとレッグの方を向き変える「最初に言っておきますが、治らないかもしれませんよ?」それを聞いたレッグは「大丈夫だ、期待はしていない」と言い、瑠偉の方を真剣な表示で見返す。瑠偉はレッグの表情に気まずくなったのか、少し目線をずらした「そして重要なことですが。直る治らない意に限らず、ここで起きたことは秘匿にしてほしいのです」

 ここでララが話し始めた「私達は、この国の者ではありません。ここでの諜報活動に支障が出るかもしれませんので…と言う訳です」瑠偉は、諜報活動と言う言葉を聞いて「違いまーす! 違います、諜報活動などしていません。本当に旅行です」とすぐに否定した。

 レッグはルイから視線を外し、少し考え込む「なるほど・・・クッド族と争っている時に、別方向から攻められるのはまずいな」

「だ…だから、そんなんじゃないんです! ララさん?」と瑠偉はララの方を向き、頬を少し膨らませてララを見る。ララはそんな彼女を見ながら「刺激のある生活の方が、楽しいかと思いまして」と言った。

「大丈夫だ、気にしてないぞ?」と事の重要さが解ってない、クレハが瑠偉に話し始めた「そんな事より、早く始めようぜルイ」とクレハは、瑠偉の方に置いていた手を離すと、ララと瑠偉の間に割り込む様に移動しレッグの様子を伺った。

「では、改めて言いますが…今から行う行為は、この国の技術ではありません。よって秘匿にしてほしいと言う訳です。クレハさんもです」と瑠偉は言うと、クレハを見る。クレハは瑠偉の方を見ると、何故? と言う表情をしていた。「クレハさん・・・後で話し合いましょう」と瑠偉は言いと「あ…ああ」とクレハは力のない返事をした。

「わかった、誰にも言わないよ。しかし仮に治った場合、いずれバレると思うぞ?」

 瑠偉はレッグの言った言葉に、少し考え込むと「確かに・・・バレますね。やめようかな?」と小声で言うと「っな」と驚きの声と表情と共に、クレハは瑠偉の方を見た「ルイ、治してくれるよな?」と、クレハは瑠偉の両肩に手を置き向かい合う。そして、その顔を瑠偉に近づけた。

「や…やりますから」と瑠偉は両肩に置かれた、クレハの手を振り払う。そしてクレハの横を通り前に出た。「ララさん、診断をお願いします」

「ではレッグさん。暫らく動かないでください」
「ああ、で…何をするんだ?」
「X線、CT、MIRなどです」
「エックス…セン? シーティ? エムアールアイ?」

 聞いたことのない言葉に、レッグはララに聞き返す。そこに瑠偉が割って入る「き、気にしないでください。秘匿ですよ! 秘匿です」
「あ…ああ、分かった」とレッグは言うと、体を動かさない様にしてララの方を見た。時間にして3分ほどその状態が続いた。

「予想通り、脊髄の損傷ですね。では、失礼します」

 そう言うとララは、レッグに近づき掛け布団をまくり上げる。そして彼を抱き上げると、そのまま器用に裏返してベッドに落とした。更に上着をまくりると、レッグの傷のついた背中が剥き出しになった。

「おい、いきなりなんだ!」
「レッグさん。しばらく動かない様にと言ったはずですが? では、お嬢様。出番です」
「う…うん」と瑠偉は、レッグの側まで移動する。そして右手を彼の背中に近づける。隣にいたララが、瑠偉の右手をつかみ目的の場所に誘導する。

「お嬢様。この辺りです」
「治るかな・・・・」

 瑠偉は目を閉じ右手に、意識を集中する。彼女に右手は、次第に青い光で輝き始めた。するとレッグの背中の、古傷が徐々に小さくなる。そして、彼の背中は傷のない綺麗な肌となった。

「なるほど、さすがはマスターの力の片鱗です。むしろ、治癒と言うより…」
「おおお、治っていくぞ」

 瑠偉の背後に移動したクレハは、彼女の頭の上からその様子を伺っている。一方瑠偉は、治っているのか、治っていないのか分からずにいた。目で確認できる背中の傷は、無くなったが、体の中は見えない。瑠偉は手のへの力の流れが途切れぬように、隣にいるララをちらちら見始めた。

「ララさん? 治ったかな?」
「もう少しそのままで、データを取ってます」
「えっ、データ? 治ってるの? まだなの?」

 瑠偉はララの方を見ているが、何時ものように無表情で反応がない。更に上を見ると、クレハの顔があった。彼女は瑠偉の手を、じっと見つめている。

「お嬢様、完治しました」

 ララの言葉と共に「ふー」と深呼吸した瑠偉。その右手をレッグの体から引き上げた。それと同時に隣にいたララは、その手をレッグの太ももに伸ばす。そしてレッグのモモ肉を摘まみ、捻り上げた。

「いでぇぇぇー!」とレッグは大声を上げ、反射的に寝返り上半身起こして、自身の太ももを擦り始めた「おっま、いきなり何するんだよ!」
「足の感覚、戻ったようですね。足も動かせたようですし、完治ですね」

 ララの言葉と同時に、クレハは瑠偉を押しのけレッグに近寄る。そして彼の肩に手を回し、自身に引き寄せた。さらに顔を近づけ「よかった、よかった」と笑顔でレッグと向かい合った。その時瑠偉は、喜びのあまり起き上がったクレハの尻尾をじっと見ていた。

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