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2章 伝説の聖女様現る

8話 その昔、聖女と呼ばれる女性が居たらしい

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 クレハに引きつられて酒場を出た瑠偉とララ。店を出た所で、アルパが2体店先で繋がれていた。大人しく主人の帰りを待っていたようだ。

「ルイ、少し待っててくれ。アルパを厩舎に置いてくる」

 そう言ってクレハは、店先に繋がれている縄をほどく。片方のアルパにまたがると、そのまま隣の1頭の綱を引き店を離れていった。

 瑠偉は店の中で聞いた、ララの『治るといいですね?」と言う言葉が気になっていた。彼女はララを見るが、当然のように表情が読み取れない。彼女は近づきララの顔を至近距離で見上げた。

「ララさん。先ほどの『治るといいですね』ですが、治せなんですか?」
「お嬢様。神経細胞は基本は再生しません。よって治癒能力が効かないかもしれない、と言う意味です」

 確かに瑠偉は、地球に居た頃。自身の治癒能力をフルに活用したことは無かった。もっぱら自分の美肌維持のためにしか使ったことしかない。学校に通っている時も、理事長である中条から、学校内では能力は見せない様にと言われている。体育の授業とかで、怪我をした学友にも使ったことは無い。ましてや瑠偉の能力を知っている、麻衣や美憂にも使ったことがない。
 よって今日初めて、骨折をした腕を治した。これが始めってだった。そんな事を考えていると、瑠偉は不安になってきた。果たして治せるのかと…

「不安になってきました、逃げちゃおうかな・・・」
「顔割れしてますよ? 昨日調査しておりますが、宿屋がファルキア亭の1軒しかありません。おそらく、所在も割れているでしょう」
「そうですか・・・ちなみにララさんは、脊髄損傷とか治せますか?」
「残念ですが治療機能は、搭載しておりません。基本はマスターの側に居るので、搭載する必要が無いのです」
「そ…そうですか。浮遊島だったら治せたりしますか?」
「神経細胞を作って繋げる方法と、ナノロボットで機械的につなげる方法があります。あと地球人の人体構造はDNAレベルから解析済みです。浮遊島では、地球人のすべての病気、怪我が治療可能です」
「なるほど、感染症とか癌とかも治せるのですか?」
「当然です。浮遊島の科学力は、地球より3万年以上進んでいると思ってください。あと、話逸れましたよ」

 瑠偉は今朝の、骨折治療を思い浮かべる。そのことを考えると、骨は折れても自然に治る。と言う事は・・・彼女はアゴに手を当て、もう一度ララの顔を見上げた。

「ララさん、診断は出来ますか?」
「診断は可能です。CTにMRI、X線のリアルタイム検証が可能です。さらにDNA解析も出来ます」
「お願できますか?」
「解りました、診断しましょう。仮に治癒できなくても『ごめんなさい』すれば問題ないです。問題は、クレハさんと顔を合わせずらくなる、と言う事だけです」
「ま…まぁ、その辺は10カ月の我慢すれば大丈夫でしょう」

 瑠偉が酒場の道の遠くを眺めていると、遠くの方からこちらに走ってくる人影を見つけた。その人影は、舗装されていない土の道を、砂を巻き上げながらこちらに向かってきている。それは明らかに瑠偉の知っている、地球人の走る速度を超えていた。その勢いよく近づいてくる人影は、クレハであった。
 クレハは、瑠偉の前に来ると。その勢いにも負けずに、瑠偉の前でピタリと止まった。彼女は両手を膝に付け、中腰姿勢で肩を揺らしながら息を整え始めた。彼女の尻尾も、肩の揺れと一緒にリズムよく動いている。

「はぁ、はぁ…待たせてしまったなルイ。嬉しくなって、つい走ってきてしまった。少し息を整えさせてくれ」
「クレハさん、前もって言っておきたい事があります」

 クレハは瑠偉の顔を見ると、その真剣な表情につられて中腰姿勢をやめ立ち上がった。腕を組み瑠偉と向かい合った。

「どうした? 今更出来ない、なんて言わせないぞ!」
「そうじゃありません、治療行為は行います。しかし、私は足が動かない人を治したことは無いのです。つまり、治せない可能性もあると言う事です」

 クレハは少し笑うと、瑠偉に近づき横に並んだ。右手を瑠偉の首越しに、肩をつかむと自身に引き寄せた。クレハは、そのまま瑠偉を押す様に歩き始めた。
 歩き出した2人を見て、ララもその後をついて歩き始めた。

「大丈夫だよルイ。私が生まれる前のずっと昔の話だ、青い光の錬気を放つ女性が居たそうだ。彼女は我々でも治せない怪我や病気を治した、と記録されているそうだ。中央の都市では、彼女の事を『聖女』と呼んでいたそうだぞ」
「そ…そうですか」
「酒場の方でも、噂されているからな! 聖女の再来ってな。きっと治せるよ」
「はは…再来ですか・・・」

 瑠偉の方を見ながら歩いていたクレハは、前を向き歩き始めた。隣には肩を組まれ、歩きにくそうな瑠偉が居る。2人は中央の通りに出ると、その先になるひときわ大きな建物に向かって、歩いていった。

「ところで、ルイ達は何処から来たんだ? ファルキアさんが、見たことない服を着ていた旅人と合ったって言ってたぞ? お前らだろ?」
「えー・・・何処から、と言うと説明しずらいですね。と言うか、もうそんな噂が…」
「東の山脈を越えて来ました」

 ルイが言葉に詰まり、返答に困っていると、後ろからララが代わりに返答をした。その声に気づきクレハは振り返り、ララを見た。クレハは歩く速度を落とし、ララの右側に瑠偉とともに移動した。

「あの山…越えれるのか? 山の向こうにも町があるのか?」
「越えて来たというより、天から舞い降りてきました」
「違いまーす! 違います! 普通に山を越えて来たんですよ」

 ララの発言に覆いかぶさるように、瑠偉は否定した。その声を聴き、クレハは右側の瑠偉を見る。そしても一度ララの方を確認し、もう一度瑠偉の方を見る。

「まぁ、言いたくないんだろ・・・もう聞かないよ」
「そうしてください。あの…そろそろ、肩の手を…逃げないので…」

 クレハは「ああ、すまんな」と言うと瑠偉の肩に乗せていた手を戻すと、前方を指さした。そこには周辺の建物より、大きな2階建ての建物が立っていた。

「あそこの建物だ」

 そう言ってクレハは、その歩みを少しずつ速めていった。
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