銀色の雲

火曜日の風

文字の大きさ
上 下
20 / 91
2章 伝説の聖女様現る

7話 酒場にて

しおりを挟む
 草原を駆け抜ける2体のアルパは、カキレイの街に向けて疾走と駆け抜けていた。アルパにまたがっている瑠偉は、アルパの走行で起きる上下運動と背中に当たる固い突起。そして、地球の馬より大きい、その背中で広がり切った股。その姿勢で、内股、お尻、背中をリズムよく打ち付けていた。

「ララさん・・・内股とか、お尻とか、背中が痛いです。特に肩甲骨辺りが…」
「お嬢様、喋ると舌噛みますよ」
「気分も悪くなってきた」
「あと10分で着きます。我慢してください」

 クレハのアルパに先導され、走り続ける事10分カキレイの街が見えてきた。クレハの後ろには、ララの乗るアルパアが追走していた。ララの前に乗っている瑠偉は、右手で口を押え顔が青ざめ始めていた。

「ララさん、もう限界です」
「あと少しです」

 2頭アルパは、街に入ると速度を落とし酒場に向かって行った。先行していたクレハは、酒場に付くと素早く降りララ達に迎え入れた。

「ルイ、大丈夫か?」
「クレハさん、少し休憩させてください。初めて乗ったので、気分が悪いです」
「わかった、休憩していこうか」

 クレハはそう言って、尻尾を陽気にフワフワさえながら、酒場の入り口まで進んでいった。彼女は、扉の間で振り返った「心配するな、奢るぞ」と言うと、そのまま店の中に入っていった。

 ララは瑠偉の両脇を両手で抱えると、彼女を地面に下した。瑠偉は地面に降りると、両手を膝に付け中腰状態で息を整えている。ララは彼女の近くに寄ると、彼女の背中を優しく摩り始める。それと同時に、瑠偉の体の状態を調べていった。

「お嬢様。肩甲骨辺りの筋肉が、炎症してます」
「はぁ、はぁ…それは寝る前の全身マッサージで、ついでに治します」
「なるほど…いつもの治癒能力を込めた、夜の全身美肌マッサージですね」
「あ、あの…なんで、知ってるのですか? 誰にも言ったことないんだけど」

 ララは、瑠偉のその言葉を聞くと同時に、酒場の扉に向かって歩き出した。「さあ、クレハさんが待ってます。入りましょう」と瑠偉の方を少し振り返り、中に入っていった。
 瑠偉はその姿を目で追いながら、何かの違和感を感じ取った。そして「なんか、怪しいわね」と言いながら、酒場に入っていった。

 彼女が店に入ると、酒場の雰囲気が一斉に静まり返り。他の客たちは、瑠偉達をチラチラ見ながら、何やら瑠偉達の事を話しているような雰囲気だった。彼女は幾分の嫌悪感を感じ、周囲を確認しながらと酒場の中に進んでいった。

「おーい、こっちだ!」

 店の中央付近で、手を振りながらクレハがララと瑠偉を呼んでいた。二人はクレハの元に向かうと、すでにテーブルには3つのコップが置かれていた。クレハは二人が近づくと、手前のコップを持ち上げ二人に見せた。

「酒は、大丈夫だんだろ?」
「私は、未成年なんですが…」

 そう瑠偉が答えると、クレハは瑠偉の全身を舐めるように見渡す。そして、右手をアゴに当て考え始めた。

「うーん、未成年に見えないけど。ルイは何歳なんだ?」
「一応、17歳ですが・・・」
「なら立派な成人じゃないか! はっはっ、とにかく飲んで元気出せ!」

 クレハは更に「ホラホラ、飲んだ飲んだ」と右手で座って、飲むよう促した。瑠偉は座ると、コップを取り一口含む。喉が焼けるような感覚と、炭酸飲料の様な刺激が口を駆け巡った。もともと炭酸飲料は苦手であった彼女は、そのまま飲むふりをしコップをテーブルに戻した。そして長い息を吐くと、クレハに語り始めた。

「クレハさん、領主様の用件は何でしょう? 知ってるんじゃないですか?」
「連れて来てくれとしか、聞いてないんだ。すまんな・・・」

 クレハはコップとテーブルに置くと、腕を組み改めて瑠偉達に向かい合と黙り込んだ。そんな彼女を瑠偉は、注意深く観察していた。お互いの顔を合わせていたが、先にクレハが瑠偉から目線を外し酒を飲み始めた。

「聞いてはいないけど、用件は予想できている。と言った感じですね? 聞かせてくれませんか?」

 事前に用件を知っておけば、ある程度の対策は立てやすい。そう考えた瑠偉は、クレハから何とか聞き出そうと考えていた。隣に座っている、無表情で行動の予測がつかないロボットよりは。感情表現や目線で、予測ができるので話しやすい。

「領主様の息子の件だ」

 クレハは持っていた酒を、一口含み静かにテーブルに置き語り始めた。

「彼の名は『レッグ』と言って。彼とは3年ほど前から、ガフと一緒に3人で狩りをしていた。そんな時だったかな、ちょうど1年前のこの時期だ。遠出をして狩りをしよう、と言う話になってな。森の奥まで進んでいった、狩りは問題無かった。けど、知らない土地に言ったせいか迷ってな。そんな時だったな、レッグが崖から落ちた・・・。私とガフで、直ぐに助けに行った。レッグも数年の狩りの経験もある、上手く着地したようだったが・・・」

 そこでクレハが黙り込んだ、テーブルにあるコップを勢い良くとる。彼女はそれを一気の飲み干し、長い息を吐いた。瑠偉はクレハの表情と話の内容から、ある程度の予想を立てる。そしてクレハの話が続く前に、彼女に話しかけた。

「クレハさん、そのレッグと言う人。その時に何かしら、大きな怪我を負った。で、その後遺症が残っている。と言う感じですね? さらに、その狩りに誘ったのが、クレハさんと言う事ですか? それで、レッグさんに負い目を感じていると・・・」
「まあな・・・たしかに、誘ったのは私だ。あの時血が出ている個所は、私とガフで何とか塞いだ。しかし、両足が動かなかったんだ」

「そうですか・・・それで私を? 領主様が呼んでいるというのは嘘ですか?」
「ああ・・・ガフの腕を直したのを見て、もしかしたらと思ってな。知ってると思うが、錬気で怪我を直す時は、手は白色に光る。青く光る事は無いんだ」

「なるほど、普通は白く光るのですか・・・普通は白くねぇ」と言って瑠偉は、ララの方を見る。しかし、相変わらずの無表情であった。瑠偉はララに顔を近づけ、小声で話しかけた。

「ハメました?」
「お嬢様、単なる情報不足です」
「ホントかなぁ~?? あやしいな~」

「クレハさん、レッグさんが怪我をした場所をお聞かせください」

 ララは、瑠偉の疑問をスルーすると、クレハに怪我の状況を確認した。それによると、背中から落ち、岩などに打ち付けたような傷跡だったそうだ。

「なるほど。足が動かないのと、背中の強打から推測するに。脊髄の損傷でしょう」
「せ…き…ず…い?」とクレハは、聞いたことな単語に、片言でララに聞き返した。

「手足を動かす神経が通る場所です」
「しんけい?」
「ああぁ、何でもないです。気にしないでください」

 知らない単語を聞き返してくるクレハに、瑠偉は話が長くなりそうな気がして。早々に切り上げようと割り込んできた。そして、再びクレハと向かい合った。

「クレハさん。ガフさんの腕の件は、こちらの落ち度です。が、レッグさんの件は違います。無償で…と言う訳にはいきません」
「そうだな、報酬は私が払う。足りないなら、働いて返す。必ずだ」
「そ、そんなに高額な請求はしませんけど・・・幾らぐらい貰えますか?」
「金10でどうだ?」

 瑠偉はここで、お金の価値が分からない事に気づき、隣のララを見た。

「金10だと、ここでどれだけ暮らせるの?」
「帰る時までは、十分持ちます。お嬢様が、豪遊しなければですが」

 帰る時まで、働かなくていい。と考えた瑠偉は、自然に口元に笑みを浮かべた。

「わかりました、その金額で構いません」
「そうか! なら、直ぐに行こう!」

 クレハは立ち上がると、瑠偉に近づき彼女の手を取ると。そのまま瑠偉を立たせ、店の出入り口まで引っ張って行こうとした。

「ちょっと、クレハさん。慌てないでください! 引っ張らないで、痛いです!」
「おお、すまん。つい嬉しくなってな。行こうぜ!」

 クレハは立ち止まると、瑠偉の肩に手を回し歩き始めた。その時、後方から「治るといいですね」とララの声が聞こえた。瑠偉は、振り返ってララを見た。

「え? 無理なの?」
「さあ、どうでしょう? お嬢様、行きましょうか」

 瑠偉の心配をよそに、3人は酒場を後にレッグの元に向かって行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

処理中です...