銀色の雲

火曜日の風

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2章 伝説の聖女様現る

5話 現代人は運動不足の様です

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 カキレイの街を出た瑠偉とララの2人。瑠偉は先頭を歩くララに付き添われるようにして歩いていた。街中ではゆっくりとした歩調だったが、街を出た辺りからララの歩くスピードが上がる。瑠偉はララと離れると、小走りしてララに追いつく。そんな動作を何度も繰り返していた。

 時間にして街を出てから10数分後だろう、そこで瑠偉の息が上がってきた。こんな状態で歩き続けるのは、無理と判断した彼女は歩みを止めた。そして、小刻みな呼吸して息を整えララに大きな声で呼び止めた。

「ララさん待って! 歩くの速いです」

 息の上がった声交じりの瑠偉の言葉を聞いて、ララは歩みを止め振り返ると瑠偉の元に戻ってくる「この速さでないと、現地での滞在時間が少なくなります」と膝に手を置き、肩で息をしている瑠偉を見下ろし発言をする。
 瑠偉は、その言葉を聞いて立ち上がると、ララを見上げた。

「仕事内容とか聞いてないのですが、何処に行くのでしょう?」
「街から12km離れた森林です。そこで兎の様な生き物を狩る仕事です」

 ララから距離を聞いた瑠偉は「じゅ…12キロ・・・」と表情をこわばらせた「最初から、ハードル高すぎます。往復24kmも歩けません」

「では、飛びますか?」
「あれは…無理かな。足が地面に付いてないし、浮遊感が耐えられない。それに誰かに見られたら・・・」
「なら、歩くしかありませんが?」
「なら、馬車とかは?」
「私達は今、一文無し・・・・ですが?」

「そ…そうでしたね。お金が…」と瑠偉は言うと、腕を組み目を閉じ考え込む「そうだ! 近場で薬草採取とかあるのではないでしょうか?」と彼女は、右腕の出し点に人差し指を向けて、得意げな表情で言った。

「お嬢様は、異世界小説の読み過ぎでは? もう少し現実を見ましょう。傷を癒す薬草、疲れを癒す薬草。知性のある人間なら、それらを畑で栽培しようと考えるはずです。それに、この惑星の住人は錬気と呼ばれるもので、軽度な傷なら治せます」
「えー…つまり?」
「そんな仕事はありません! 酒場にある仕事をこなす人たちは、ハンターと呼ばれています。主に狩猟を仕事として、街に食肉を提供しています。つまり、食料になるための動物を狩る仕事がメインです。ちなみに薬草・香草類の栽培はすでに行われております」
 
 瑠偉を見つめていたララは、その言葉と同時に振り返り歩き出した「歩きながら話しましょう、無駄な立ち話です。1時間ほど到着時刻が遅れますが、少し歩くペースを落とします」
 瑠偉は小走りで離れたララに追いつくと、彼女の横を歩き出した。

「動物を狩るのですか? 私…経験無いのですが?」
「普通は無いでしょうね。最初は私が手本を見せますので、明日からお嬢様が単独で行ってください。私は警護のみ行います」
「武器とかは? ララさんは剣を持ってますが、私は?」
「ほとんど動物は近づくと逃げますので、狩りに剣は不向きです。一般的に遠距離武器が主流ですね」
「弓ですか・・・持った事もないけど。持ってきてるんですか?」
「先ほども言いましたが、私達は一文無しです」
「まさか素手? 遠距離武器は?」

 ララは腰を曲げ、足元に落ちている小石を拾った「例えば、この小石を指で弾きます」と拾った小石を瑠偉に見せる。そして、人差し指で小石を巻き込み、下から親指をあてた。腕を下すと、10mほど先にある小枝に狙いを定め親指で小石を打ち出した。
 音もなく飛び出した小石は、一瞬で狙いを定めた小枝に命中する。木が折れる『バキッ』と言う音共に、その小枝は地面に落ちた。

 その一部始終を歩きながら見ていた瑠偉。首を回しながら折れて地面に落ちた枝を、半口を開けながら目で追っていた。そして、そっとララの方を向いた。

「あの…私は生身の人間と言う事は、知ってますよね?」
「言いませんでしたか? 体の改造を施したと・・・」
「放射線と紫外線を、無効にできる。でしたよね?」
「実は言ってない事が・・・」

 ララは放射線と紫外線をエネルギーとして変換し、体に蓄える器官がある事を瑠偉に説明した。これにより地球人以上の身体能力があり、その器官のおかげで男女の体格差による身体能力にほぼ差は無いと言う事である。

「なるほど、だから酒場で男vs女になっても、誰も女性を擁護しようとしなかったのですね。いや・・・その前に、地球に戻ったら体は元に戻せるんですよね?」
「その辺は、マスターの裁量次第ですが・・・ちなみに私の場合は、まだ研究段階ですので無理ですね」
「なんか、また悩みの種がひとつ・・・絶対何かを要求されそうで気がします」
「大丈夫ですよ、お嬢様。そのままでも地球で生きていけます。ただ地球人との間に、子供を作れないだけです。これで、安心してビッチになれますね!」

 ララは右手を瑠偉に突き出し、親指を立てるが顔は何時もの無表情のままであった。瑠偉はララから顔を逸らし「励ましになってなんだけど・・・はは」と小声で言った。そのまま瑠偉は、しばらく黙って歩き続けた。

「はぁー、だいぶ歩いた気がしますが。現地までは後どれくらいですか?」
「お嬢様。まだ街を出て30分しか経ってませんよ」とララは瑠偉の顔を見る「残りは4時間です」

「そろそろ休憩を?」と瑠偉はララの見た。ララはゆっくりと頭を動かし、瑠偉の全身をくまなく観察した。特に足を念入りに観察していた。瑠偉もララの頭の動きに合わせて、頭を動かしていた「あの? なに?」と瑠偉は、無言で頭を動かしているララに言った。

「お嬢様の身体スキャン結果です。今の筋肉疲労から推測して、あと2時間は大丈夫です。進みましょう!」
「ええええぇー、無理だよー。疲れたよー」
「ならば、治癒の力を足に集めてみては?」
「能力を使うと、全身に疲労が来るので、余計に疲れます」
「知ってますよ、そんな事は・・・」
「知ってるなら、提案しないでください」

 そんな不満を言いながらも瑠偉は、なんとか2時間歩き切るのであった。
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