銀色の雲

火曜日の風

文字の大きさ
上 下
17 / 91
2章 伝説の聖女様現る

4話 錬気の使い手

しおりを挟む

 ━━━錬気(れんき)
 この惑星では、恒星から放たれる有害な放射線、紫外線にさらされている。しかしこの惑星の住人は、その有害なエネルギーを蓄える器官を有している。その蓄えられたエネルギーを利用し、身体能力は地球人の3~6倍程度の身体能力がある。また、その力をうまく制御することで、更なる能力上昇効果を得る事が出来る。この惑星の住人は、これを錬気と呼んでいる。
 また、その力をうまく活用する事により、軽度な・・・傷を癒す事も出来ると言う。
……


 食堂兼酒場の一角にて、筋肉自慢の大男と(自称)天の川銀河最強のAIララが作成したロボットが、丸テーブル越しに対面している。大男は椅子に座り、テーブルに右手を出し肘を付けている。さらに指先を動かしララを招いている。

「言っておくが、俺は見た目だけじゃないぞ! 錬気の操作… 俺のかなう者は、この街には居ない!」

 大男のその言葉と言うと、周りにいた客たちが、この騒動に気づき始めた。そして一人、また一人とその場所に集まってきた。しばらくすると、ほぼ全員がこの丸テーブル付近に集まって、辺りは騒然としている。そこにカウンターにいた酒場のマスターが、その輪に入ってきた。

「ガフ… そろそろ新人に絡むのは、辞めてもらえないかな?」
「マスター、俺は… 俺は、この街のハンターには死んでほしくないんだよ。だからこそ、俺が力を見極める!」

「聞こえはいいが、楽しんでいるように見えるが? まぁいい」と、マスターは溜息と共にララの方を向いた「で… お嬢さんはどうする? 一応、このガフは口だけじゃなく、本当に強いよ」と言ってマスターは、ララの顔色を伺う。が、ララの顔は一切変化がなかった。

「先ほども言ったように、雑魚では私には勝てません」
「お嬢さんも、強情だな・・・まぁ、負けても仕事の依頼は、受けられるからな」
「お気遣い感謝です。しかし、私は負けません」

 ララはテーブルにある椅子を引くと、その椅子に腰かけガフと対峙した。そして右手を伸ばしテーブルに肘をつく。すると『ガツン』と言う、重く固い物が当たった様な感じの音が、テーブルから聞こえた。しかし、騒がしい店内のせいか、その音に気づく者は居なかった。

 ガフは「逃げないとは、度胸だけは買ってやる」と言うと、上半身を前に出しララの手を取り、腕相撲の状態に入った。しかし、ララの手の異常な冷たさを感じ取り、驚きの表情と共にララを見つめた。

「おめーの手… 冷たいな… 何かの病気か?」
「気遣い無用です。始めましょうか」

「では、開始の合図をしようか」とマスターは言うと、2人に近づき両手を組みあった二人の手に乗せた「準備はいいか?」

「いいぜマスターよ」
「どうぞ」

「始めー!!」とマスターは声を張り上げると共に、素早く手を放しテーブルから遠ざかった。その掛け声と同時に「うおぉぉぉぉ!」とガフが、腕に力を入れ唸りを上げる。そんなガフの状態とは裏腹に、ララの表情は何一つ変わっていない。そんな両者の組み合った手は、始まりの状態から変わっていない。

「ば、馬鹿な… 動かねーだとーおおおーー」
「やはり、雑魚でしたか・・・」
「うぐぅ・・・いいだろう、本気でやってやる!」

「はあぁー!」とガフは勢いよく息を吐く。すると全身の血管が少し浮き出てきた、さらに微弱な淡い光がガフの全身を覆った。「ふふふ、全力だぁー! はあぁぁぁぁ!」とガフは、腕に渾身の力と錬気を込め、ララの腕を倒しにいった。
 しかし、ララの腕は動かなかった。そしてララの表情も、始めのころと変わっていない。ロボットであるから当然であるが・・・

「なかなか強い力ですね‥‥生身の人間にしては上出来です。少しだけ見直しましたよ」
「あ…り…え…ねー、マジかよ」

「では、今度は私の番ですね」とララは言うと、ゆっくりと肘を伸ばした・・・・・・
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!」

 ガフの叫び声と共に、何かが折れる音がした。ガフは椅子を倒し床に転がると、その大きな体を左右に転がしている。左手で右手を押さえ、苦悶の表情をしている。そんなガフの右腕は、肘と手首の中間の位置で、曲がっていた。周囲に居た客たちは、ある者は口に手を当て驚き、ある者は「大丈夫かー」とガフに駆け寄っている。

 事の一部始終を見ていいた瑠偉は「あぁ… ラ…ララさん。倒す方向違いますぅー」と言いながら、ララに近づいていった。ララは椅子から立ち上がり、振り返って瑠偉を見た。

「地球の情報では、折れたら負け。と言う事が載ってましたが?」
「なんの情報なの?」
「漫画・・・と言うものですね」
「ははは・・・その情報違います。まさかと思いますが、さっきの煽りも?」
「もし絡まれたら、そう言えと。出発前の夜に、麻衣様から聞きました」
「なっ! まいぃぃぃぃ、覚えてなさいよぉ! と…とりあえず、この状況を・・・」
「わかりました」

 ララは振り返ると、ガフの近くまで歩いていった。そしてガフに群がる客たちに「失礼します」と押しのけガフの側で座った。

「てめぇ、何しやがる正気かよ!」と、ガフは苦悶の表情で声を絞り出した。その声に力はなく、とても小さな声だった。「治します、手を・・・」とララは言うと、ガフの右手を取る。そして曲がった部分を持ち、その腕をまっすぐに伸ばした。

「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!」

 ガフは再び渾身の叫び声をあげると、そのまま意識を失い力なく床に倒れた。

「お嬢様、出番です! 癒しの力を」
「えぇー・・・見せていいの?」
「大丈夫です。この世界では常識です」
「わかりました」

 瑠偉は、この気まずい状況から早く抜け出したい思いから、正常な判断ができないでいた。この世界の錬気では、軽度な傷は直せる。しかし、骨折は直せるの者はいないと言う事実があった。過去には居たらしいが・・・
 瑠偉は、そんな事も知らずガフの右腕を直すために、ガスの前に進んでいった。彼女は床に膝を下し、右手をガフの折れている部分に軽く当てた。そして、小さく息を吐くと、右手が青色の光に包まれた。その光の出現と共に、騒然としていた店内は一斉に静まり返った。

「ふー、これで治ったはずですが。でも骨折は直したことが無いので、分からないけど」
「X線で確認します」とララは言うと、その目はガフの右腕を丹念に見ている。「上出来です。直ってますよ、さすがお嬢様です」とララは、瑠偉の脇を抱え一緒に立ち上がった。そしてマスターの方を見た。

「マスター。仕事の斡旋の続きをお願いします。ガフさんの腕は治しましたので、後は目が覚めるのを待つだけです」
「あ、ああ・・・治したのか?」
「はい、治ってます」
「そうなのか・・・・な、ならそこの掲示板から、受けたい依頼を取ってカウンターに来てくれ」

 ララは歩いて掲示板に行いった。その後ろには、ララの服をつかんだ瑠偉が歩いている。瑠偉は静まり返った店内を見渡すと、なにやら自分を見ている視線が多い気がした。ララは、そんな瑠偉を見向きもせず、掲示板から1枚の紙を抜き取るとカウンターに向かって歩いていった。「これで」とララは、マスターに紙を渡した。

「なら、ここに名前と特技を書いてくれ」
「わかりました」

 ララはマスターから渡された名簿に、2人分記入した。マスターから依頼の紙を受け取ると、振り返り店の出口に向かって歩いていった。
 そんなやり取りの間も、店の中は静まり返っていた。そして店にいる人達は、出口に向かっている2人を目で追っている。

「ララさん・・・店の雰囲気がおかしいけど? 大丈夫なの?」と瑠偉は、前を歩いているララに聞こえる程度の声量で言った。

「大丈夫です。何も起きませんよ」
「また・・・その言葉。と言うか、さっき事件起きましたよね?」
「想定内です。問題ありません」
「ええええぇぇー」

 店内人達の強烈な視線を感じながら、瑠偉とララは酒場を後にした。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3024年宇宙のスズキ

神谷モロ
SF
 俺の名はイチロー・スズキ。  もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。  21世紀に生きていた普通の日本人。  ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。  今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

交換日記

奈落
SF
「交換日記」 手渡した時点で僕は「君」になり、君は「僕」になる…

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

雨と一人

冬音-ふゆね-
SF
*あらすじ&作品説明* 1人が ただひたすらに 寂しさに 悲しさに ついて悩む そして少年の悩みとは 悩んだその先に 何があるのか… *注意* 〇1人と2人が出てきます! 〇一応SFです! 〇話はおもいです! 〇苦手な方は、読むのを、やめていいですよ! 〇1話完結です!

処理中です...