銀色の雲

火曜日の風

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2章 伝説の聖女様現る

3話 仕組まれた出来事、その黒幕は…

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 瑠偉とララが、酒場にて男に絡まれてる少し前。兼次と麻衣は、隣町行きの馬車の前で出発を待っていた。馬車は4人座りの対面式で、8人乗れる馬車であった。その馬車の屋根には長旅用の、荷物らしきものがたくさん載っている。馬車の大きさは、オーグの馬車より一回り大きさだ。

 兼次達は馬車の近くで出発を待っていたが、他の客は一向に現れずにいた。馬車の手入れをしていた運転手は、頭を掻きながら兼次達に近づいてきた。

「お客さーん、お代ですの事ですが。乗り合いの割り勘式になります。8人分頂きますが?」

 運転手は頭を掻いていた右手を、左手を合わせると両手を擦り始める。そして、兼次達に話しかけた。

「当然値引きを、してくれるんだよな?」
「勘弁してください、あまり儲からないんですよー」
「しかたないな・・・8人分払う。出発してくれ」
「ありがとうごさいまーす。へっへへ」

 運転手は愛想笑いをすると、馬車の先頭に向かって歩いていく。馬の手綱を握り馬車に乗り込んだ。運転手は馬車の角から、顔を覗かせる「出発しますよー、乗ってください」

「乗るぞ麻衣」
「ちょっと想定外の出費ね!」
「残念だ・・・麻衣のお小遣いが、減ってしまった」

 馬車に乗り込もうと、馬車の入り口部分に足をかけていた麻衣。お小遣いと聞いて動きを止め、後ろにいた兼次の方を振り向いた「お小遣い・・・払う気あったんだ?」

「ほらほら、早く乗れ」と言いながら兼次は、麻衣のお尻を優しく握りしめる。そのまま馬車に麻衣を押し込んだ。そのまま兼次も、馬車の中に入っていった。麻衣は馬車に入ると、奥の壁際で余部に寄りかかる形で座った。次に入った兼次は、麻衣の隣に座り、彼女を追い詰める様に体を寄せた。

「あのー、この広いスペースで密着する意味は? スカート踏んでるし!」

 兼次は「わかっちゃいないな」と言い溜息をすると、麻衣の前方斜めの席に移動する。そしてそのまま横になると、麻衣の座っている正面に顔が来た。麻衣はそれを見ると、手を太ももに手を乗せ、見せない様にガードした。

「露骨に見に来たし・・・ 何時も見てるのに、そこまでして見たいの?」
「視覚情報は鮮度が命だ、生に限る! はいっ、名言出ました」
「もー、2人きりになるとすぐ弾けるんだから!」

 兼次は足を座席にのせ、完全に仰向けになった。腕組をしながら、顔だけで麻衣のひざ元を見ている。その時馬車は、ようやく発車し始めた。舗装されていない道を、進む馬車は細かな振動を中の二人に伝えていた。

「麻衣は兼次に見える様に、そっと股を開いた」
「開かないから! てか、ナレーションは私の十八番よー、真似しないでよっ!」

「麻衣は『しかたないなー』と言いながら、股を開いた」
「開かないし、言わないし!」

「と、言いつつー?」
「開かないって!」

「からのー?」
「やめてってばぁ!」

 麻衣はスカートを絡めながら、右太もも抱え足を組み完全にガードした。さらにスマホを取り出すと太ももの上に乗せ、スマホを見始めた。
 そんな麻衣を見て、兼次は諦めたのか横にしていた頭を戻した。そこで、スマホがバイブ振動していることに気が付く。「メールか」と言うと、体を起こしスマホを見始めた。

「ふふふ、早速起きたか」
「なになに、ララちゃんからの報告?」

 怪しく含み笑いをする兼次が気になり、麻衣は立ち上がる。馬車の振動で、若干ふらつきながら兼次の横に座った。そのまま兼次の方に寄りかかり、スマホを覗き込んだ。

「昨日ララに『トラブルを起こして、瑠偉を振り回せ!』と、指令を出しておいたからな」
「えー、瑠偉ちゃん・・・ちょっと可愛そう」
「そして瑠偉が、失意に満ちた時。華麗に俺が助けると『兼次様、かっこいい! 抱いて』と、なるわけだ」
「ないわー、ないない。と言うより、瑠偉ちゃんの攻略、まだ諦めてなかったんだ・・・」

 兼次はララからの、報告メールを読み続けた。隣で麻衣が一緒になって、そのメールを読んでいた。それによると、酒場の仕事斡旋カウンターにて、大男に絡まれたようだ。ララは啖呵を切り、その大男をさらに煽ったようだ。

「これが噂の、ギルドで絡まるイベントね!」と麻衣は、さらに兼次の二の腕を、肘で突きながら「見たいよー、見たいよー」と、おねだりを始めた。

「そうだな、移動中はたっぷり時間もある。見るかぁ!」
「やったぁ♪」

 兼次はメール画面を閉じると、画面の中央にある【ララちゃん】のアプリを起動する。そしてスマホを耳の当てララと会話を始めた。

「でかしたぞララ、最高だ」
『もったいない、お言葉です』
「ライブ映像をだせ、観戦する。そして、そのままイケイケGOだ!」
『了解しました。お楽しみください』

 兼次はスマホを戻すと、画面は動画に切り替わった。そには十分に日焼けした、大男が映し出されていた。

「うわぁー…なにこの筋肉は・・・腕太すぎ、鼻息荒すぎ。てか瑠偉ちゃんは何処に?」

 麻衣はスマホの画面が良く見える様に、兼次にさらに寄りかかった。兼次も麻衣の背後から手を回し、彼女の体を引き寄せる。2人は仲良く、酒場での騒ぎの観戦を始めるのであった。

 ……
 …

 酒場にて浅黒い大男とララは、至近距離で対峙していた。大男の鼻息は荒く、今にも襲い掛かってきそうな勢いである。そんなララの背中には、服を強く握りしめた瑠偉が密着していた。

「ねーちゃん、随分余裕だな? 俺を誰だか知っているのか?」
「さあ? 知りませんね。所詮は雑魚ですから、名前を覚える価値もなかったのでしょう」
「まだ言うかぁー! 上等だぁー、やるのかぁ?」
「構いませんが・・・恥をかくのは、貴方ですよ?」

 大男の睨んでいる近すぎる顔に、ララは眉ひとつ動かさず、その顔を見返していた。ララの後ろには、コバンザメのごとく密着ている瑠偉は「喧嘩やめてよー、逃げようよー、明日にしようよー」と小さな声で、念仏のように唱えていた。

 大男は曲げていた背中を起こすと、振り返って後ろにある丸テーブルまで進んでいった。そして椅子に座ると、右手をテーブルに出し肘を乗せた。その手はララを手招きしている。

「ここでの喧嘩は禁止されているのでな、これで勝負だ!」
「腕相撲ですか・・・いいでしょう、受けて立ちます」

「ララさん、大丈夫なの? 勝てるの?」と瑠偉は、ララの背中から横に回り涙目で質問した。「安心してください、余裕です」とララ言うと、瑠偉の顔に手を当て、その髪をなでおろし肩に手置いた。

「ここで待っていてください」

 ララは瑠偉の方に置いていた手を引き上げる。そして、ゆっくりと大男の待つテーブルに向かって歩き始めた。
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