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2章 伝説の聖女様現る
1話 気が進まないけど、野宿は嫌なので仕事をしよう
しおりを挟む城島瑠偉の睡眠が、解かれてから数十分後、ファルキア亭の一室。ロボットのララは瑠偉の側で、彼女が起きるのをひたすら待っていた。彼女は睡眠が解かれてからは、寝苦しいのか悪夢を見ているのか、頻繁に寝返りを繰り返している。
一向に起きる様子がない彼女を見かねて、ララは起こすことにしたようだ。腰を折り曲げ、右手で瑠偉の肩に手を置いた。そして、彼女の体を優しく動かす。
「お嬢様、朝です。起きてください、朝食の時間が無くなってしまいます」
肩を揺すられた瑠偉は、肩に置かれているララの手をつかむ。そして、振り払うと同時に目覚めたようだ。彼女は眠い目を擦りながら、徐々に目を開けていった。
「なんか…すごく長く寝ていたのだけど・・・妙にリアルな夢を見ていたわ」と瑠偉は言うと、目を開けた。最初に目に入ってきたのは、いつも見ている少年メイドロボではなかった。そして部屋を見まわし、溜息をついた「ハァー…夢じゃなかったのね・・・で、ここはどこ? あなたは誰?」
「私はお嬢様の存じ上げているララです。マスターである、兼次様専用従属ロボットです」
「兼次のロボットは、銀髪のはずですが?」
「変更しております。ガイルア騒動後にお嬢様と別れてから、特殊機能を追加しております。髪色変更も、そのうちの一つです。さあ1階にて朝食をとりましょう。詳しい話は、その時に」
「そうですね。私はどれくらい寝ていたのですか?」そう言いながら瑠偉は、上半身を起こし体を回転させると、足をベッドから下した。そして、自身の太もも辺りを見て、学生服を着ていない事に気が付いた。「あれ、私の服が・・・これは?」
「この世界では目立ちますので、服は変更させていただきました。その経緯も含めて、朝食を食べながら話しましょう。店主から、朝食は早急にと伺っております」
「わかりました、行きましょう」
瑠偉は立ち上がると、眠い目を擦りながら部屋の出入り口に向かった。その後ろをララがくっついて歩いていく。部屋を出て廊下を歩いている、瑠偉とララ。木の床が所々で2人が歩くと同時に、ギシギシと音が廊下に響き渡っていた。
階段を降り、左に曲がるとカウンターにいる猫耳店員と目が合った。店員は瑠偉を見ると、兼次には見せなかった笑顔で瑠偉に話しかけてきた。どうやら瑠偉が、店主の好みのタイプの様だ、明らかに兼次達と対応が違っている。
「መልካም ምሽት. ጥሩ እንቅልፍ ተኝተዋል?」
瑠偉は声の方を見ると、店員と目が合い「ひぃ!」と瑠偉は叫ぶ。瑠偉にとっては、見たこともない生き物と、聞いたこともない言葉であった。彼女は無意識に後退すると、後ろに居たララとぶつかった。
「普通の挨拶です。笑顔で通り過ぎてください」とララは日本語で語りかけ、瑠偉の両肩に手を置いた。そして、強引に彼女を押しながら歩き始めた。瑠偉は作り笑顔して、それを店主に見せながら彼を横切る。
「あれは何?」
「猫の人族です。ちなみに雄です。そして、どうやらお嬢様が好みのタイプの様です。マスターの時とは、まるで対応が違います」
2人は丸テーブルが並べられている部屋に付くと、入り口近くのテーブルに腰かけた。瑠偉は、いまだに状況が把握できてないのか、頭を動かし辺りを念入りに周囲を探っている。
瑠偉は目を閉じ深呼吸をすると、正面に座ったララを見た。
「ララさん・・・再度確認しますが、地球に帰れますよね?」
「マスターがおっしゃった通りです。10か月後に帰れます。留年の事は・・・残念ですね。としか言えませんが」
瑠偉は留年と言う言葉を聞いて溜息をすると、両腕を組みそれをテーブルに落とした。彼女は状況を把握し、今後の事を考えているのだろう。その状態のまま、しばらく動かなかった。
しばらくすると、店主が近くに来て朝食を並べ始めた。食器がテーブルに当たる音に気が付き、彼女は顔を上げた。
「ቀስ ብሎ, እባክዎን」
店主は瑠偉の顔見ると、笑顔で言った。彼の尻尾と耳は、嬉しいのか微妙にぴくぴく動いていた。そんな瑠偉は、微妙な顔をしながら「ど…どうも、ありがとう」と日本語で答えた。店主は聞いたことのない、言葉に首を傾げた。彼はそのまま振り返り、カウンターに向かって歩いていった。
「ララさん。言葉が通じませんが、こんな状態で10カ月も過ごすのですか?」
「言語については、後でお嬢様の脳に直接書き込みます。しかし、こんな状態で10カ月も過ごすわけではありません。では、現状と今後の生活につてお話しましょう」
そう言ったララは、まずこの惑星の種族構成、惑星事情や体の改造について語り。それから盗賊討伐の事や、オーグ達との取引について語り始めた。そして今後は働きながら。宿泊費を稼ぎ、生活しなければならない事を、瑠偉に伝えた。瑠偉は朝食を食べながら、ララの話を神妙に聞いていた。
「そうですか、働きながら暮らせと・・・ふふっ…嫌な予感しか湧かない」
「では、野宿生活でもしますか? 私は構いませんが・・・」
「それはそれで、もっと嫌です。気が進みませんが、酒場に行って仕事の斡旋を受けましょう。当然ララさんは、サポートしてくれるんですよね?」
「私は、お嬢様の護衛のみを言い渡されております。ですので命の心配はせずに、仕事を頑張ってください」
瑠偉はララの顔を見つめると「ぁー」と少し口を開けた。そんな表情の瑠偉を見て、ララは「学生の社会勉強と言う事です。頑張ってくださいね」と念を押して瑠偉に言い、立ち上がった。
「部屋に戻りましょう。言語データを書き込みます」
そう言ったララは瑠偉に背中を向け、2階の部屋に戻り始めた。瑠偉は急いで立ち上がると、ララの後を追うのであった。
部屋に戻った2人、瑠偉はベットに腰かけている。その向かいにララが立っている。
「それでは始めます」とララは言うと、瑠偉に向かって顔を近づける。そして両者の額が密着した。ララの冷たく固い額に、瑠偉は顔を曇らせた。しばらく、その状態が続き「終わりました」とララは言うと、瑠偉から離れ瑠偉の脇に立ち静止した。
「本当にこれで、話せるのですか?」
「はい、話せます。麻衣様も違和感なく会話しておりました。麻衣様は、おそらく気づいていないと思います。それくらい自然に会話できます。それでは、出かけますか?」
ベッドに腰かけている瑠偉は、そのままベッドに横になる「うーん、なんか何もやりたくない感じ・・・明日でもいいかな? いや、明後日でも?」と瑠偉は、ララの無表情の顔色をうかがう。ララの顔に変化がないことに、再び溜息をした。
「ニートになる、初期症状ですね。野宿しますか?」
「嫌です・・・酒場に、行きましょうか」
瑠偉は力なくゆっくりと立ち上がると、部屋を出て行った。その後ろをララが着いて行った。
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