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1章 猫耳を探しに行こう!
2話 巻き込まれる者
しおりを挟む日本の名古屋地区某所、とあるマンションの一室にて…
全身を映す鏡の前で、城島 瑠偉が立っている。腰を少しまげ顔を鏡に寄せ、自身の顔を左右にゆっくりと振り、丹念に自身の顔を見ていた。
彼女は、両人差し指で頬の押さえて感触を確かめている。
何かを思いつた様に、鏡に近づけていた顔を離すと、彼女は自身の両手を見つめた。
目を閉じ深呼吸をすると、両手が蒼い光に包まれ、治癒の能力が発動する。
彼女はその手を顔に当てると、丹念に顔のマッサージを始めた。嬉しさが込み上げているのか…「ふんふーん、ふふふふ」と言う声が漏れていた。
そこに音もなくドアが開き、一人の男の子が現れた。身長は150㎝程度で、肩まである黒い髪が真っすぐに伸びている、俗にいうおかっぱヘアーと言うらしい。しかし、女物のメイド服を着ている。
少年メイドは部屋を見渡すと、鏡の前で顔マッサージをしている彼女を見つけた。そのまま歩いて近寄るはずだが、少年メイドは宙に浮き床から10cm程度浮いて静止した。そして音もなく移動を開始し、彼女から見えない様に、鏡の映る範囲を避け背後で停止した。
顔マッサージをしている彼女は、その少年メイドに気づく様子もなく、マッサージを続けている。
治癒能力を込めた手で入念なマッサージをしている彼女、それを背後から観察する少年メイド、時間にして5分ほどその状態が続いた。
顔マッサージを終え、大きく深呼吸する彼女。再び顔を鏡に近づけ両手で、顔の感触を確かめ始めた。
「スベスベだぉー…柔らかいぉー…えへへへへへ・・・」
どうやら彼女は、自身の治癒能力で、紫外線等で傷んだ細胞を修復してたようである。能力を授けた兼次も、こんな使われ方をしているとは、想像もしていないだろう。
なかなか終わらない彼女の顔チェック、見かねて少年メイドが話かけた。
「城島様、登校のお時間です」
「ひやぁぁぁぁぁぁっー」
彼女は突然声を掛けられ、背筋を反らしながら奇声を発し、すぐさま声のする方に振り返った。よほど驚いたのか、手で心臓の辺りを抑え深く呼吸をしている。
「あぁぁ…ララさん、ノックしてください。と言ったはずですが?」
「なにやら真剣に取り組んでいらっしゃったので、邪魔しては悪いかと…それより、時間は大丈夫ですか?」
彼女は時間と聞いて、あわてて時計を見る。いつも家を出ている時間より20分も遅れていた。とは言っても、彼女のマンションから学校までは歩いて5分程度である。何時もは始業の30分前には着いているので、20分遅れても充分間に合う範囲である。
制服に着替えている時、彼女の目が少年メイドの足元で目が止まる。少年メイドは、まだ浮いたままであった。なぜ浮いて移動して、足音を消すのか? と聞きたかったが、時間も迫っていた。仕方なく彼女は、少年メイドの前を通り過ぎ、学校へ向かった。
「いってきます」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
お嬢様と聞いて、彼女の口元が緩み笑みがこぼれた。このお嬢様と言う言葉は、彼女が少年メイドに、毎日言わせている言葉である。それを毎日聞きながら、気持ちよく登校しているわけであった。
……
…
「おはよー瑠偉、今日は遅かったね」
開始3分前に到着した城島瑠偉は、席に着くなり前の席の女子に声を掛けられた。艶やかな金髪と日本人風の顔つきのハーフの女子であった。周りも東南アジア風の人や、アフリカ系の人もいれば、顔を隠したイスラム系の人も座っている。
「ねえ瑠偉、今日も綺麗な肌ですね。今日こそ聞き出すよー、その美顔の秘訣はなに?」
そう言って前の席の女子は、右手を握りしめ彼女の口元に突き出し、インタビューする姿勢をとった。それと同時に始業のベルが鳴り、男性教師が入ってきた。
「秘密です。さぁ、先生が来ましたよ、前を向いて」
彼女はその女子の両肩に手を置くと、強引に前を向かせ話を切り上げた。
「おはよう諸君、では先日の中間テストの結果を配る。名前を呼んだら取りに来るように。あと、順位は昼休みに、廊下の掲示板に掲示されるから、昼食後にでも見ておきなさい」
教師は前方の机でA4の紙を整え、机に置くと一人ずつ名前を呼んで、紙を配り始めた。
……
…
午前の授業が終わった昼食後、城島瑠偉は中間テストの順位表が掲示されている前で、呆然と立ち尽くしていた。視線の先にあるのは2学年の順位表、その順位表には名前と点数、そして学年の順位が記載されている。
その順位表を見ながら彼女は、顔を強張らせていた。
合計500点満点の順位表、学年人数423人中312人が500点満点である。最下位の人でも472点であった。
世界政府の幹部候補を養成する機関であり、かつ理事長が世界政府のトップが運営する事もあり、全世界から超エリートが集まってきている。
よって、この成績表も頷ける、しかし彼女は納得いっていない表情であった。
「あ、ありえない・・・」
そんな中、掲示板に群がる人込みを避けながら、2人の女子が彼女に近づいてきた。一人は佐久間 美憂、彼女の親友であり、1学年の生徒であった。隣の女子は刻夜 志摩、クラスの男子共が、常に噂している美少女である。
「やぁ瑠偉・・・いや、城島先輩。成績どうだった?」
「下から数えた方が早いですね・・・学力高すぎです、この学校は・・・
そう言う美憂は大丈夫でしたか? たしか赤点は90点以下だと聞いています」
「え~と・・・なんていうか、全部赤点だった。人生初の80点台を取って、喜んでいた自分が情けない・・・」
「大丈夫ですよ美憂、私が勉強を見てあげます。追試頑張りましょう!」
「ありがとう、志摩ちゃん」
佐久間美憂と刻夜志摩は、互いに手を取り見つめ合っている。城島瑠偉はそんな彼女達を見ながら、大きな溜息をついた。
「ちょっと、一人で考えてきます。では美憂、志摩さんもまたね」
「気負いするなよ瑠偉、勉強なんて1位じゃなくてもいいんだぜ! 気楽にいこうぜ」
「分かってますよ美憂、むしろ気分を入れ直さなきゃいけないのは、貴方の方ですよ」
「そ、そうだな・・・」
城島瑠偉は2人を背を向けると、人ごみを避けながら去っていった。
……
…
人気のない非常階段の下、城島瑠偉が階段の一段目に腰掛けている。ここは隣の校舎の陰になり、周りからは見えない。そこは、彼女のお気に入りの場所である。
「はぁー、ここに通い始めて2カ月・・・しかし、何かが足りないわね。
・・・あの時、旅行に行かなかったら、今頃は・・・どうなっていたのでしょう?」
そう独り言を言いながら、彼女は過去の事件を思い出している。そして、首にかかっている、細い鎖の先にある指輪を見つめていた。兼次から貰った、浮遊都市リュボフへの、テレポートの力が使える指輪である。彼女はスマホを取り出し、現在時刻を確認する。午後の授業開始までは、まだ30分ほど余裕があった。
「久しぶりに麻衣の顔でも見に行きましょうか・・・たしか、指輪に力を込めればいいんでしたね」
スマホを制服のポケットに入れ、両手の平で指輪を包み込む。治癒の力を使う要領で、手に力を集める。徐々に彼女の体に脱力感が生まれた、その感覚に顔の表情が強張る。
次に、指輪から何やら温かい感覚の物が、手から伝わって全身に広がってい行く感じがした。それと同時に、彼女は姿を消した。
浮遊都市リュボフ……
兼次の自室に、彼女が姿を現した。
「なんか、久しぶりね。この部屋」
彼女の視界は、一瞬にして見ている景色が変わった。その変わった景色を見て、見慣れた部屋の感じに安堵した。
しかし何か足元が、浮いているような感覚の違和感を感じた。彼女は、すぐさま下を見る。そこには、人が一人通れる分の大きさの、漆黒の円が不気味に存在していた。
彼女は、その黒い円に見覚えのがあった。そう、あの時見たワームホールであった。
「なっ、これっ…まさかっ!……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
下を向くと同時に彼女の体は、その黒い円の中に悲鳴と共に呑み込まれ、落ちていった。
彼女の体が、呑み込まれると、その円は徐々に小さくなっていく。
そして、漆黒の円は消え、部屋の床は元の白い床に戻り、誰もいない静かな部屋になった。
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