異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

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僕と幼馴染ともふもふと

犯人捜しはまた後で

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「ヒョウガ、体が大きくなったけど、首輪は大丈夫? キツイかな?」

ヒョウガは大きくなったけどまだまだ短い足で僕たちの後ろをちょこちょこ歩いて付いてきては、時々たしっと止まってカシシシと後ろ足で首を掻いていた。

「そうかもしれない。魔法で自動サイズ調整ができるようになっているはずだけど」

悠真はヒョウガの頭をガシッと掴んで乱暴に上を向かせる。ヒョウガが苦しそうにもがいてるんだけどなぁ……。
そのまま首輪に手を添えて悠真がブツブツ呟くと、ポワンと光の玉が悠真の手から放出されるとヒョウガの首輪に吸い込まれては消える。

「?」

「もう大丈夫だよ。魔法で調節したから」

「……ありがと」

…………同じ世界から異世界召喚された親友がチートな件。いや、いいんだけど。でもでも、僕なんて最弱魔獣のスライムすらも倒せないのに、不公平感がすごいんだけど。

今、この世界に来て初めて、僕を魔法陣から押し出した同郷の人に文句を言いたいと思った。
……そういえば、誰が僕を魔法陣から押し出したんだろう? あのとき、悠真の顔ばっかり見てて、誰に押されたかわからない。

「どうしたの、凛」

「んー、あのね、あのとき……」

はっ! 僕が魔法陣から押し出されたのに悠真は気づいてるのかな? もしかして、言わないほうがいい? 悠真の様子を窺う、チラッ。
悠真は「ん?」と微かに僅かに僕だけがわかる程度の微笑みで、僕の顔を覗き込む。
あー、どうしよう、でも僕も気になるしなぁ。

「あ、あのね。僕たちがこの世界に召喚されたときのことなんだけど」

高校の教室に突然現れた召喚魔法陣。その魔法陣から誰かが召喚中に僕を外へと押し出した人がいたことを悠真に話す。
それが誰かわからないことも。悠真は僕の話を黙って聞いてくれた。

……ちょっと怖い不穏なオーラが背中から出ている気がするかな? 悠真のオーラにヒョウガの尻尾が股にヒュンと挟まっちゃった。

「……誰がやったか、俺からも見えなかった。ごめん……堕ちていく凛を助けられなかった」

「え、悠真が謝ることじゃないよ。僕は平気だよ。それに、ちゃんと悠真は僕を探しにきてくれたし。今だって一緒にいてくれるし。悠真のせいじゃないよ」

あわわわ、悠真が落ち込んじゃったよ。
確かに悠真や他のみんなみたいなチート能力や魔法属性やスキルは欲しかったけど、悠真たちと一緒に召喚されていたら、そのヤバい国に僕は捕まって逃げられなかっただろうし……悠真の友達とはちょっと大分、気が合わないから、離れ離れになってよかったかも。

「でも、悠真の側にいた他のクラスの子たちがやったんじゃないのはわかっている。悠真の後ろにいたから位置的に無理だもん」

僕はうっかり召喚魔法陣の端っこを踏んで巻き込まれたんだけど、僕の正面に悠真、その後ろに他のクラスの女子たち。悠真を囲むようにクラスのトップヒエラルキーの人たちがいた。

「そうだったか。じゃあ、凛に手を出した可能性があったのは俺の左右にいたあいつらと……知らない男か?」

「知らない男じゃなくて、委員長の尾花くんでしょ? 彼、あのときどこにいたのかなぁ」

あれ? 悠真のことを言えないけど、委員長の存在が薄くて僕も覚えてないや。
でも、尾花くんに意地悪されるようなこと何かしたっけ? それとも、彼にすごく嫌われていたとか?
う、うーん、覚えがないなぁ。

「……あいつらに会うことがあれば、俺が仕返しする」

「えー、いいよ、いいよ。こうして悠真と二人で異世界旅行するのも楽しいしね!」

ニコッと笑って悠真と手を繋ぐと、悠真も「そうだな」と頷いて僕と繋ぐ手にそっと力を入れる。

「キャン」

……あ、ごめん、ヒョウガのこと忘れてたよ。あはははは。














そうだ、凛と再会できて、無事にプロポーズを終えめでたく凛とお付き合い、いや、新婚さんとなった今、すっかり忘れていた。

……凛が召喚されたときのことを気にしてるとは、思わなかった。
でも、そうだよな。一人だけ魔法陣から押し出されて違うところに飛ばされたら、トラウマになってもおかしくない。
俺もそのときは腸煮えくりかえるほどだったが、凛と無事に会えてこうして二人でとばかりに楽しく過ごすことができて失念していたとは、一生の不覚。
凛に手出しをした奴には、きっちりと仕返しはしないとな。
優しい凛は必要ないというが、俺の気持ちが治まらない。……だが、せっかく脱出してきたクソベニドルム国へ戻るのは厄介だ。
直接何かするのは後回しにして、とりあえず呪っておくか。

俺はチラッと毛玉と戯れる天使のような凛の様子を盗み見る。
俺が凛の隣の定位置にいるため、さきほどまでかけていた「防壁」魔法は解いてある。
そして、こっそりとかける「探査」に、凛の存在は感じられない……。何かの力に拒否される感覚だけがチリリと頭の奥を焼く。

「ふうっ」

「どうしたの?」

汚い黒毛玉を背中に負ぶっている凛に、軽く頭を振って問題ないことを告げ、そして凛の華奢な背中に陣取る毛玉を振り払う。

「キャン!」

「ヒョウガ!」

「だめだよ、甘やかしちゃ。凛はテイマーでソイツの主人なんだから。甘やかしたら、ソイツのためにもならないんだよ」

俺は、本当は心苦しとばかりに眉を下げて殊勝な態度で諭すと、凛は俺と毛玉の間で忙しなく視線を動かし、最終的にはコクンと頷いた。

「キューン」

哀れな声で泣くな、畜生が。
俺はニッコリ笑って凛の手を握り直す。

探査GPS」による凛の状況確認ができない今、この手を放すことは絶対にできない。
今、凛が俺の前から消えてしまったら……俺には凛を探し出す手段が失われているのだから。

「……やっぱり、コイツのせいか?」

凛の存在が何かに覆われて見えにくくなった原因は、この進化した毛玉、凛の従魔のせいではないのか?

「いつか、捨ててやる」

俺は凛に気づかれないようにボソッと呟くと、毛玉の尻をチョンと蹴り上げる。

「キャウン」

「ど、どうしたの? あれ、ヒョウガ?」

尻に受けた衝撃が何がわからずに、毛玉は自分の尻尾を追い駆けてその場でグルグルと回りだした。

……コイツが凛を守る力になるかもと譲歩していたが……コイツ、排除しておこうかな……。
従魔の頭の出来に不安を覚える俺だった。
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