異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

文字の大きさ
上 下
39 / 43
僕と幼馴染ともふもふと

冒険者活動始めましょう

しおりを挟む
「悠真、今日からギルドで依頼を受けるんでしょう」

ここ、レウス王国のビルバオの冒険者ギルドで新規登録した新米Fランク冒険者の僕たちは、一ヶ月間、真面目に冒険者として依頼を達成し見事ランクアップを狙います。
ある程度ギルドランクを上げておかないと。またギルドカードの期限が切れて再登録になっちゃうからね。
で、問題は僕です。
スライムすらも討伐できない最弱な僕なのです。
でも冒険者ランクを上げるには、町のお手伝いや薬草採取だけでなく、討伐依頼を達成しなきゃならない。
むぅ、どうしよう。

「大丈夫だ。凛が倒さなくても、コイツが代わりに戦えばいい」

コイツと悠真が指名したのは、昨日拾った魔獣とは思えない黒い子犬のヒョウガだった。
ええー、無理じゃないかな? ヒョウガはこんなに小さくて魔獣と言ってもまだ赤ちゃんなんだから。
そりゃ、ブラックウルフの幼体だけど……狼だけど、黒い子犬にしか見えないもん。
じーっと二人でヒョウガに注目すると、はぐはぐと朝ご飯を食べていたヒョウガが僕たちの視線に気づいて、餌皿に突っ込んでいた頭を上げる。

「ナンダ?」

ヒョウガの声は僕と悠真にしか聞こえないらしい。
従魔が使える「念話」スキルらしいけど……「念話」ならテイマーでヒョウガの主人である僕にしか聞こえないはずなのに、悠真にも聞こえるのが不思議だよね。
ヒョウガ、こんなにかわいいのにスライム退治をさせるのは……やっぱり無体では?

「毛玉。スライムは倒せるよな?」

ヒョウガが悠真からの問いかけに、眉間に皺を寄せて唸って答えた。

「ガルル、スライム、ヨワイ。オレ、ツヨイ!」

「えーっ、本当に大丈夫かな?」

ヒョウガの言葉に、思わず僕は心配になって疑ってしまった。

「リン、マモル! オレ、スライム、タオス! ツヨクナル! シンカスル!」

「お前、もしかして進化するのか? その条件は魔獣を倒すことか?」

悠真がひょいと片眉をあげる。ヒョウガは悠真の言葉にコテンと首を傾げた。

「ワカラナイ。ツヨクナル! シンカスル、ハズ」

僕はかわいいヒョウガの強がりに、かいぐりかいぐりと撫でまわした。
はふぅ、朝からもふもふ。至福のご褒美です。
……悠真がすごくこちらを睨んでいるけど、ヒョウガのこともふりたいの?








毛玉の存在が、魔獣が進化する可能性のある亜種だということを、俺はすっかり忘れていた。
別に毛玉が魔獣だろうが、ただの犬だろうが、何も問題なかったしな。というか、毛玉の存在自体が邪魔だしな。
凛にテイマーのスキルが生えず、正式な従魔契約を結んでなければ、道中凛にわからないように捨てようと思っていたぐらいだ。

しかし……進化する=強くなる、それならば、凛の身を守るのに変な男を雇うよりは毛玉のほうがマシか。
こいつも、オスだけどな……。
じゃあ、とっとと進化させるか。強くする過程でもしも相手に倒されたら……凛が悲しむ前に毛玉は逃げたことにして闇に葬ろう、ま、いつかは俺の手で葬るが。

「毛玉、今日は町の外に出て魔獣討伐する。まず凛を守り、スライムを倒せ」

「ええーっ、今日から魔獣の討伐依頼を受けるの?」

凛が涙目で訴えてくる。いやいや、薬草採取でいいよ、凛は。危ないことはみんな凛の代わりに毛玉がやればいい。毛玉もやる気になっているみたいだしな。

「でもでも、レオナルド隊長たちが、町の近くに強い魔獣が出てくるようになったって。あ、危ないんじゃ……」

「大丈夫。いざとなったら凛俺が守るから。毛玉は知らん」

「オレ、ツヨイ。ミンナ、タオス!」

ふんすふんすと毛玉は鼻息が荒いけど、口のまわりの食べかすがすごいぞ、所詮獣風情が。
凛がくすくすかわいく笑って毛玉の口をナプキンで拭こうとするので、俺が毛玉の首の後ろを摘まんで奪い取り、力任せに雑巾でグイグイと拭いてやった。

「スライムは門の近くにいるから、森に近づかなければ魔獣も出てこないよ。騎士たちが見回りしているだろうし」

ただ、スライムみたいな最弱魔物は騎士たちもいちいち倒さないから、門の近くだとしても探せばいる。

「そうか、な? レオナルド隊長は町のみんなからも頼りにされてるし。フ、フェルなんとかさんも強いって噂されてたもんね。じゃあ、大丈夫……かな?」

…………そうかもね。あー、凛の口から他の男の話を聞くとムカつくなぁ。
バキッ。
あ、スプーンが折れた。

「……ガゥッ。ユーマ、ヤキモチ、コワイ」

うるさいぞ、毛玉。
俺は、凛にわからないように毛玉の尻を軽く蹴っておいた。









やってきました町の外、いま、僕たちがいるのは町の門の外ですぅ。
うわー、なんか魔獣が出そうな草むらが多いなぁ。

朝ご飯を食べたあとギルドに寄って依頼を確認して、途中屋台でお昼ご飯と飲み物を調達して……門の外に出てしまった僕たちは、これからスライムを探します。
スライムとかホーンラビットとかのFランク対象の魔獣は冒険者ギルドでは常設依頼なので、討伐した魔獣の魔石若しくは討伐指定部位をギルドの買取窓口に出すだけでOKなんだって。
薬草採取依頼もそうだったけど、弱い魔獣の扱いが雑な件……そんな雑魚魔獣でもヒョウガに頼らないとダメな冒険者の僕。ちーん、末期だよねぇ。

「ララギ草の採取もしよう。凛、頼めるかな?」

悠真が労わるように僕の頭を撫でる。自分の弱さに凹んでいたのがバレたかな。でも、悠真に頼られて嬉しい。

「うん。ララギ草ならまかせて!」

僕は薬草採取用のナイフと皮袋をお供に、草むらにしゃがみ込んではララギ草をサクッサクッと採取中。
悠真が、どうしても魔獣を怖がる僕に「防壁」という魔法をかけてくれた。
わかりやすく説明すると「ガード」とか「バリア」みたいな魔法です。
魔獣が僕に攻撃してきても跳ね返してくれるんだ。

「Aランクの魔獣が出ても平気だよ」

悠真がニッコリ笑って、防御の強さを確約してくれた。
……そんなに凄いの、これ? 透明でふよんとした感触の薄い膜なんだけど。

たぶん僕が不審そうな顔をしたからだろう。悠真はおもむろにヒョウガを鷲掴むとぶうんっと全力でこちらに投げてきた。
ヒョウガは悲鳴も上げずに、僕に張られた「防壁」に激しくぶつかって、ボヨンボヨンと跳ねて遠くに飛ばされていく。
「キュゥーン」て悲しそうに泣いてるんですけどー!

そんなこんなで、僕は薬草採取。悠真とヒョウガは魔獣討伐となりました。
適材適所ってヤツですね!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
勢力争いに負けた異国の貴族の子供であるレイナードは、人質としてアドラー家に送り込まれる。彼の目的は、内情を探ること。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイどころか悪役令息続けられないよ!そんなファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 真面目で熱血漢。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。 受→レイナード 斜陽の家から和平の関係でアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...