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僕と幼馴染ともふもふと
異世界のもふもふと出会いました
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ビルバオ辺境伯領都ビルバオの町にある冒険者ギルドで改めて冒険者登録をして、できる男、悠真がギルドの受付のお姉さんからお勧めの宿屋をリサーチしてきてくれた。
悠真が嬉しそうに「室内に風呂があるらしい。二人で入れる大きな風呂が」と勧めてくるから、僕もそのお宿に賛成します。
お風呂でゆっくり旅の疲れを取りたいよねぇ。ボッチだったころの僕だったら高い部屋に泊るなんて考えられないけど、悠真がしっかりと迷惑料を王様たちから取ってきたから懐事情も安心です。
宿屋までの道を、僕たちは二人並んで歩きました。
話題は冒険者ギルドでも噂になっていた「魔王」のこと。なんでも最近、魔獣の出没が多くて巷では「魔王の復活では?」と面白半分に噂になっている。
でも、冒険者たちは毎日魔獣討伐で森や山に潜っているから、異変を敏感に感じていた。そう、冒険者たちの勘は侮れない。命がかかっているからね。
その冒険者たちが怪しむ「魔王復活」……いやぁ、悠真が勇者召喚されたなら、この世界には「魔王」がいるんだろう。
ラボール山のアデラさんたち魔族も本来は魔法に仕える臣下の種族だって言ってたし。
でも、異世界から来た僕の感覚では、本の世界、アニメの世界、つまりファンタジー作品の定番で現実感がまったくないんだよねぇ。
召喚の魔法陣から押し出されたせいで、僕だけ能力なしっぽいし……。いいなぁ、違うクラスの子でさえ「治癒」「付与魔法」のスキルがあったのに……。
ううっ、今日も悠真に生活魔法の特訓してもらわなきゃ!
両手を握ってフンッと気合とともに鼻息を吐く。
……キャウン
あー、そういえば大きな町に着いたら買い物をしようって話してたなぁ。僕も悠真みたいに冒険者です! みたいな恰好をしてみたい。
防具は何がいいかな? 胸当て、いや胴衣? 剣はちょっと無理かもしれないから背中に弓でも背負って……。
……キャウ……キューン
ん? なに、この声。なにか……聴こえる?
ピタッと歩いていた足を止めた僕に気付いて、悠真が振り返る。
「凛?」
「……だれか……呼んでいる?」
僕はキョロキョロと辺りを見回した。また、僕の耳にキューンて声が聴こえた!
悠真に説明することなく、僕はか細い鳴き声がした方向へと走り出す。
聴こえた、聴こえた! すごく切なくてどこか悲しい声……。その声を聞くと何故か胸が痛くて、何かに急かされるように心がざわつく。
何も言わずに急に走り出した僕に「凛!」て悠真が呼ぶ止める。
ごめん、悠真。僕、この声の主を見つけたいんだ、絶対に。
がむしゃらに知らない道を右に左にと走ったら、周りの建物が段々ボロッちくなって、あちこちに小さな子が道端にしゃがみ、おじさんたちが笑いながらお酒を飲んでいて……ものすごく治安が悪そうな雰囲気になった。正直怖いので、あまり見ないようにただひたすらに走る。
「……あれ、かな?」
ビルバオの町沿いに築かれた高い町壁に、木箱が無造作に積み上げられていて、その隅に小さくて、震えてて、黒くて、ちょっと汚い……毛玉を見つけた。
「……僕を呼んでいたのは、君、なの?」
そっと小さな体に触れると、大きな紫色の瞳が僕を真っすぐに射貫いた。
「キューン」
ぷにぷに……肉球。ぷにぷに……肉球。
はわわわわ、異世界で子犬を拾っちゃったよーっ!
僕が小さくて黒い毛玉のような子犬を拾いました。
その体をそっと抱き上げて、とにかくご飯を食べさせる? それともお風呂に入れる? あ、獣医に連れて行かなきゃ! とプチパニックになっているところに、スパダリな悠真が追いかけてきてくれて、あわあわする僕の肩を優しく抱きしめてくれる。
「凛、急に走ったら危ない……、なに、それ?」
僕は子犬の前足を両手で持ち上げて、ぷらーんと悠真の目の前に差し出す。子犬も「キャン」と可愛く鳴いてご挨拶してるみたいだ。
「拾ったの。怪我しているのかな? お腹減っているのかな? ずっとキャンキャンないてて、なんだか弱ってるみたいだし、どうしよう」
へにゃりと情けなく眉を下げた僕と同調して子犬も「キューン」と一層切なくないてみせる。
「いや、こいつ。ふてぶてしい面構えなんだが……」
悠真が困惑した表情で、かわいい子犬を指差す。
「えー、とってもかわいいよ? ねぇ」
僕が胸に子犬を抱きなおしてその顔を覗くと、大きな紫色の瞳をクリクリさせてハフハフしてる。
うわーっ、可愛い! ちょっと汚いけど……。
ピンと立った耳、綺麗な紫色の瞳だけど目付きが鋭いのは野良犬だったから? 真ん丸お花に太くてやや短い手足。尻尾はふさふさ……汚れててベタベタしているけど、キレイに洗ったらふさふさだよ、きっと。
「とにかく、ここを離れよう。ここはあまり治安がよくない」
悠真は僕の手をキュッと握って、早足で歩き出した。
僕は子犬を片手でしっかり抱いて……前につんのめりながらも、悠真と繋がれた自分の手を見て……ふふふ。
それにしても、悠真って帰り道がわかるの? 僕ってば、めちゃくちゃに走ったからここがどこか全然わからないよ?
「大丈夫。とにかく大通りに出よう。宿に着けば、そいつもキレイ洗ってやれるし」
「うん。ありがとう」
僕は嬉しくて温かい気持ちになり、ギュッと悠真と繋いだ手を握って、タタタと走って悠真の隣に並びニコッと笑いかける。
子犬も舌を出してワフワフと笑ってるみたい。一緒に宿に行ってご飯が食べられるってわかるのかな?
悠真が嬉しそうに「室内に風呂があるらしい。二人で入れる大きな風呂が」と勧めてくるから、僕もそのお宿に賛成します。
お風呂でゆっくり旅の疲れを取りたいよねぇ。ボッチだったころの僕だったら高い部屋に泊るなんて考えられないけど、悠真がしっかりと迷惑料を王様たちから取ってきたから懐事情も安心です。
宿屋までの道を、僕たちは二人並んで歩きました。
話題は冒険者ギルドでも噂になっていた「魔王」のこと。なんでも最近、魔獣の出没が多くて巷では「魔王の復活では?」と面白半分に噂になっている。
でも、冒険者たちは毎日魔獣討伐で森や山に潜っているから、異変を敏感に感じていた。そう、冒険者たちの勘は侮れない。命がかかっているからね。
その冒険者たちが怪しむ「魔王復活」……いやぁ、悠真が勇者召喚されたなら、この世界には「魔王」がいるんだろう。
ラボール山のアデラさんたち魔族も本来は魔法に仕える臣下の種族だって言ってたし。
でも、異世界から来た僕の感覚では、本の世界、アニメの世界、つまりファンタジー作品の定番で現実感がまったくないんだよねぇ。
召喚の魔法陣から押し出されたせいで、僕だけ能力なしっぽいし……。いいなぁ、違うクラスの子でさえ「治癒」「付与魔法」のスキルがあったのに……。
ううっ、今日も悠真に生活魔法の特訓してもらわなきゃ!
両手を握ってフンッと気合とともに鼻息を吐く。
……キャウン
あー、そういえば大きな町に着いたら買い物をしようって話してたなぁ。僕も悠真みたいに冒険者です! みたいな恰好をしてみたい。
防具は何がいいかな? 胸当て、いや胴衣? 剣はちょっと無理かもしれないから背中に弓でも背負って……。
……キャウ……キューン
ん? なに、この声。なにか……聴こえる?
ピタッと歩いていた足を止めた僕に気付いて、悠真が振り返る。
「凛?」
「……だれか……呼んでいる?」
僕はキョロキョロと辺りを見回した。また、僕の耳にキューンて声が聴こえた!
悠真に説明することなく、僕はか細い鳴き声がした方向へと走り出す。
聴こえた、聴こえた! すごく切なくてどこか悲しい声……。その声を聞くと何故か胸が痛くて、何かに急かされるように心がざわつく。
何も言わずに急に走り出した僕に「凛!」て悠真が呼ぶ止める。
ごめん、悠真。僕、この声の主を見つけたいんだ、絶対に。
がむしゃらに知らない道を右に左にと走ったら、周りの建物が段々ボロッちくなって、あちこちに小さな子が道端にしゃがみ、おじさんたちが笑いながらお酒を飲んでいて……ものすごく治安が悪そうな雰囲気になった。正直怖いので、あまり見ないようにただひたすらに走る。
「……あれ、かな?」
ビルバオの町沿いに築かれた高い町壁に、木箱が無造作に積み上げられていて、その隅に小さくて、震えてて、黒くて、ちょっと汚い……毛玉を見つけた。
「……僕を呼んでいたのは、君、なの?」
そっと小さな体に触れると、大きな紫色の瞳が僕を真っすぐに射貫いた。
「キューン」
ぷにぷに……肉球。ぷにぷに……肉球。
はわわわわ、異世界で子犬を拾っちゃったよーっ!
僕が小さくて黒い毛玉のような子犬を拾いました。
その体をそっと抱き上げて、とにかくご飯を食べさせる? それともお風呂に入れる? あ、獣医に連れて行かなきゃ! とプチパニックになっているところに、スパダリな悠真が追いかけてきてくれて、あわあわする僕の肩を優しく抱きしめてくれる。
「凛、急に走ったら危ない……、なに、それ?」
僕は子犬の前足を両手で持ち上げて、ぷらーんと悠真の目の前に差し出す。子犬も「キャン」と可愛く鳴いてご挨拶してるみたいだ。
「拾ったの。怪我しているのかな? お腹減っているのかな? ずっとキャンキャンないてて、なんだか弱ってるみたいだし、どうしよう」
へにゃりと情けなく眉を下げた僕と同調して子犬も「キューン」と一層切なくないてみせる。
「いや、こいつ。ふてぶてしい面構えなんだが……」
悠真が困惑した表情で、かわいい子犬を指差す。
「えー、とってもかわいいよ? ねぇ」
僕が胸に子犬を抱きなおしてその顔を覗くと、大きな紫色の瞳をクリクリさせてハフハフしてる。
うわーっ、可愛い! ちょっと汚いけど……。
ピンと立った耳、綺麗な紫色の瞳だけど目付きが鋭いのは野良犬だったから? 真ん丸お花に太くてやや短い手足。尻尾はふさふさ……汚れててベタベタしているけど、キレイに洗ったらふさふさだよ、きっと。
「とにかく、ここを離れよう。ここはあまり治安がよくない」
悠真は僕の手をキュッと握って、早足で歩き出した。
僕は子犬を片手でしっかり抱いて……前につんのめりながらも、悠真と繋がれた自分の手を見て……ふふふ。
それにしても、悠真って帰り道がわかるの? 僕ってば、めちゃくちゃに走ったからここがどこか全然わからないよ?
「大丈夫。とにかく大通りに出よう。宿に着けば、そいつもキレイ洗ってやれるし」
「うん。ありがとう」
僕は嬉しくて温かい気持ちになり、ギュッと悠真と繋いだ手を握って、タタタと走って悠真の隣に並びニコッと笑いかける。
子犬も舌を出してワフワフと笑ってるみたい。一緒に宿に行ってご飯が食べられるってわかるのかな?
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