異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

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僕と幼馴染ともふもふと

嬉し恥ずかしお誘いで

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「……ふぅっ……」

浴槽からの湯気と石鹸の香りが狭い浴室に満ちる。背後から、まるでその細い体を抱きしめるようにピタリと体を添わせ、石鹸の泡を手で塗り広げていく。
密やかに囁くフリでわざと耳殻を舐ると……凛の肩が震えビクンと跳ねた。
滑らかな肌が、ピンク色に染まる頬が、細くて折れそうな四肢が……俺の思考を鈍く奪っていく。

「ゅう、まぁ、もう、いい。……自分で、洗え……るよ」

「ダメだよ。背中を流しっこしようって、凛が言ったんだよ?」

凛の泣き言を意地悪にも断って、泡の付いた手を薄い肩から脇腹へ滑らせていく。

「やぁぁぁっ」

ブルブルと頭を振って俺の手を拒絶しても、凛の弱い抵抗を阻むように背中から抱きしめていた。

「……凛」

はあっと熱い吐息で名前を呼べば、凛も俺の思いに応えて……、ん?

「ひゃーはははははっ! もうダメ、ダメ~っ! くすぐったいよー」

身を捩って笑い転げる泡だらけの凛の姿に、苦笑が漏れた。
まだ……凛には早かったかなぁ……。














ああーっ、結局、荷馬車の中でも悠真とは話せなかったぁ。
しかし……この僕と悠真の膠着状態はどうしたらいいのか……。ため息ひとつ、身じろぎすらもできない緊張感が続いていた。
な、なんか……気のせいか、悠真から「話しかけるなオーラ」が出ていて、正直怖かったし。

僕が一人で鬱々と考えていると、ガタンと騎士たちに乗せてもらった荷馬車が止まった。
しばらくすると、魔獣討伐で知り合った金髪の爽やかイケメン騎士さんが僕たちに声をかける。
どうやら、ビルバオ辺境伯領都に着いたらしい。悠真の手を借りて馬車を降り、辺境伯領軍の通用門へと案内された。
一般の人が通る領都門にはズラーッと人が並んでいるのが見える。ふふふ、ちょっとズルだけど、並ばずに町へと入れるのはラッキー!

「すまない。この者たちは冒険者だがここを通らせてくれ」

「ハッ! レオナルド様。冒険者二人ですね、わかりました。では、ギルドカードをご提示ください」

門番のお兄さんもレオナルド隊長と同じ騎士の鎧を身に着けている。僕は彼の手に、ほいっと冒険者登録したときに貰ったギルドカードを渡す。
あれ? 変な顔されたけど……なんだろう?

「これ、ギルドカードの期限が切れていますよ?」

「へ? 期限……?」

……門番のお兄さんに懇切丁寧に説明されました。
冒険者ランクの底辺Fランクは冒険者見習いの意味で、登録したら一ヶ月以内にEランクにランクアップしていないとダメなんだって。

ランクを上げるのには、薬草採取系の依頼と討伐依頼、町のお手伝い依頼をそれぞれ五件程度受けて半数以上依頼達成することが条件。
条件としては易しい……けど、僕は召喚されて最初に辿り着いた町で薬草採取とか簡単なお手伝いはしていたけど、討伐依頼は受けてない。

そして冒険者登録から依頼未達成のまま一ヶ月経ったからギルドカードが無効になっちゃった……らしい。
通常、登録したらその町で一ヶ月は移動しないで依頼をこなしていくのが普通……とのこと。
僕と悠真は、旅に出ちゃったもんね。

「まあ、再登録はできるから、冒険者ギルドに行って再登録代払ってFランクからやり直しなさい」

「……はい。あ、でも身分証……」

ギルドカードが期限切れだと身分証としてはどうなの?

「私が後見人として許可する。二人はギルドに再登録したあと、ここに提示しにきてくれ。入国料もブラックウルフの換金分から差し引いておこう」

ニコッと眩しい笑顔でレオナルド隊長が助けてくれた。
やだ、イケメン!
僕はうるうるした眼で、何度も彼にお礼を言いました。
僕の隣に立つ悠真は、ピクリとも動かないし、一切喋らないけどね。

「出没した魔獣はブラックウルフでしたか?」

「ああ、ボスのいる強い群れだった。街道側に出没するのは、一匹や二匹のはぐれウルフだったが……あまりいい傾向ではないな。森の奥に生息するはずの魔獣の目撃情報もある。なにか異常事態が起きているのかもしれない。近々、我々領軍で調査に行くべきだと思っている」

「……まさか、スタンピードの可能性は」

「楽観視はできない。ユウマも森の調査の際は冒険者ギルドに依頼がいくから、受けてくれると嬉しい」

レオナルド隊長は快活に笑って、表情筋が微塵も動かない悠真の肩を親し気にバシバシと叩く。

「……隊長。彼は、Fランク冒険者では?」

「ん? 強いぞ、ユウマは。ランクが低くて受けられなくても、隊長推薦で大丈夫だろう」

いやいやいやいや、悠真は依頼を受けますって頷いてないよね? えーっ、悠真が行きたいならいいけど……僕はやだなぁ。そんな強い魔獣と必ずバッテングすることが確定の調査なんて、恐ろしい。

「俺たちはそろそろ。冒険者ギルドに行きたいので失礼します」

肩に置かれたレオナルド隊長の腕をサッと振り払うと、悠真は門番の人に冒険者ギルドの場所を聞いて、スタタタタと歩き出す。
ちょ、ちょっと待って! 僕は皆さんにペコリと挨拶して、悠真の後を追いかける。
足のリーチが違い過ぎるんだから、ちょっと、悠真、待ってーっ。











なぜか、ここレウス王国の辺境伯領軍の隊長が気軽に俺に話しかけてくる。
俺は別に親しくしたいと思ってはいないのだが? むしろ、お前が無駄に笑って凛に接触しているのが超絶気に入らん。

は? 冒険者ギルドカードの期限切れ? ちっ、そんな凡ミスを俺が犯してしまうなんて……凛に再会できて浮かれ過ぎていたようだ。
凛との生活を完璧にスマートにこなせるように、俺もまだまだ努力が必要だな……うん、反省した。
これからは、凛に髪一本分の不安も感じさせない。俺の持てる能力全てで凛を愛する!

静かに決意を新たにしていると、バシバシと肩を叩かれていることに気づく。
なんだ、こいつ? 本当に俺に対して馴れ馴れしいんだが……気持ち悪い奴だな。

ん? 魔獣の調査で森に行くときに同行しろ? なぜ?
俺は凛と一緒にこの異世界を新婚旅行気分で旅をしたいだけで、魔獣討伐に興味は一ミリもない。

パシンと肩に置かれたヤローの手を振り払い、冒険者ギルドに行くと理由を付けてこの場を去ることにした。
できれば、このキンキラ頭の男とは二度と会いたくない。
あまりの拒否反応でスタスタと早足で歩いたため、愛しの凛を置いてけぼりにするところだった。
うむ、反省だな。

手を繋ぎたいけど……、無許可キスのやらかしで、少々凛との肉体的接触に慎重になる俺がいた。
小走りで追いついてきた凛が、戸惑った顔でチロリと俺の顔を見上げてくる。

「あ、あのね、悠真」

「……?」

「き、今日、一緒に……お風呂に入ろうねー」

あざとい小首傾げ攻撃に心臓を撃ち抜かれ、鼻腔に感じるヤバい熱さに暫しその場でフリーズする。
お、ふろ。お風呂。一緒にお風呂……は、裸の付き合いじゃないかーっ!
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