異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

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異世界に召喚されました

そのころの聖女と賢者、忘れられた少女ふたり

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「お、お待ちください! 聖女様、どうか、お待ちください!」

「いやよ。もう、疲れたって言ってるでしょ!」

カッカッとヒールの音を高く鳴らして、エリカは治療院の廊下を早足で歩く。顔を隠していた薄いベールを乱暴に剥ぎ取ると、その場に投げ捨てた。
エリカ付きの侍女が慌ててベールを拾う。

「まだ、怪我人が大勢おります。どうか、聖女様のお力を……」

「他にも、治癒士がいるでしょ! あたしは、疲れたのよ」

少々、小太りなおじさんがチョコチョコと短い足を動かして、聖女エリカの後を追いかけている。
そんな二人の間に美々しい鎧を纏った男たちが割って入った。

「どうかされましたか? エリカ様」

名前を呼ばれたエリカが笑みを浮かべ振り向くと、三人の聖騎士が自分を守るように立っていた。

「まぁ、ルイ様、カルロス様、テオ様」

「エリカ様、お迎えに参りました。さあ、疲れたでしょう。神殿に戻りましょう」

三人はエリカに跪き騎士の礼を捧げ、ルイと呼ばれた男は恭しく右手をエリカへと差し出した。
エリカはルイの手に手を重ね「早く戻りたいわ」とせがむ。

「そんな……聖女様、聖騎士様。まだ十人ほどしか看て……」

「うるさいっ、黙れ」

ルイ以外の聖騎士が剣を抜き、小太りな男に向ける。
男は剣の恐怖に治療院の職員らしい白い長衣に足を取られて、惨めに尻もちをついた。

「エリカ様を侮辱する気か?」

「……いいえ、いいえ。どうか、お許しを……」

「あはは。あーはははっ」

治療院の男のみっともない姿に、つい笑い声が漏れた。
そのまま、踵を返し神殿に戻る聖女エリカ。聖騎士に守られて多くの侍女を引き連れて。
小太りな男はただ恐怖に震えながら、傲慢な聖女を睨むことしかできなかった。








「お、お待ちください! 賢者様、どうか、お待ちください!」

「なに? 私は忙しいのだけれど?」

芙蓉は見知らぬ男に呼び止められ、不快さを隠さないままに振り向いた。

「賢者様に領地の治水のことでご相談が……」

「はあ? なぜ、私に? そんなの大臣でも宰相にでも相談しなさい」

話は終わったと、また歩き出す。男も諦めずに横に並んで歩きながら、自領の河川状況や人口、地質を説明するが、芙蓉の足が止まることはない。
とうとう西の塔の入口に着いてしまった。
芙蓉はようやく男の顔に視線を向ける。

「どこまで着いてくるの? 貴方、不敬じゃなくて? 私は賢者なの。そんな些末なことに応える義務はないわ」

冷たく言い放つと侍女に扉を開けさせ、するりと滑るように塔の中へ入ってしまう。
パタンと無情に閉められた扉の向こうで、男が呆然と立ち尽くしていることなど気にも留めずに。

「おやおや、賢者様。今日も読書ですか?」

「失礼ね。知識を蓄えにきたのよ。言葉を慎みなさい。いくら前宰相といえ、今はただの蔵書管理番でしょ」

芙蓉に声をかけた老人は、失礼を詫びるように彼女に深く頭を下げた。
フンッと軽く鼻を鳴らしてその前を通り過ぎる。
西の塔の管理を任されている老人は、芙蓉がどの蔵書コーナーに行くかを見届けて、切ないため息を吐いた。









「で、聖女様と賢者様の様子はどうだ?」

やや疲れた声色で宰相が、目の前の二人の男に問いかける。

「はい。聖女様は未だ力を発揮できていません。軽傷者の治癒を十人分で疲れたといい職務を放棄し、神殿に戻ります。ただ……重傷者の治癒を嫌がっているならまだいいのですが……。もしかしたら、軽度の治癒魔法しか使えないかもしれません。それと神殿の聖騎士何名かと関係を持っています。聖女付の侍女が証言してます」

宰相は額に手を当て、頭を振る。

「賢者様は西の塔に通い蔵書を読み漁ってます。しかし知識があっても活かせず使えず……。知識を応用することができないようです。試しに、税金徴収、治水関連、孤児院の運営などの問題について助言を求めましたが、すべて一蹴されました。答えられないのでしょう、読んだ本には書いてありませんから。読んでいる蔵書もとりあえず端からという感じで、肝心の魔法書はまだ手に取ってもいません。……賢者自身が魔法を使ったことがないかもしれません」

宰相は天を仰ぎ「なんてことだ」と吐き出す。
異世界から召喚した勇者パーティー。しかし聖女はその名に反して娼婦のような女で怠惰。賢者は頭でっかちの愚か者。

「このままでは、まずいな……」

「そうですね。治癒魔法なら一緒に召喚された治癒士の女は、中級治癒まで使えるようになったらしいです」

「それなら、付与魔術士の女は防御と攻撃を組み合わせた付与を剣に施したと言うぞ」

「いざとなれば、そちらの二人を利用するべきか……」












「なずな、とうとう明日出発だね」

「うん。同じ冒険者ギルドに就職できてよかったね」

二人の少女が丸いテーブルを挟んで微笑み合う。
黒い髪に黒い瞳のよく似た姿をした少女たちは、悠真たちが召喚されたときにいた別のクラスの女子生徒で、能力不足から冒険者パーティーに入れなかった二人だ。

なずなは付与魔術士、せりは治癒士として、王都から離れた冒険者ギルドに雇われることになった。人手不足ということで、生活する家や必要な物を支給してくれる高待遇だった。

「海のあるところだし」

「いざとなったら、船で出国できるし」

二人は顔を見合わせて頷く。
城の遣いからは、王都で働くか若しくは地方の神殿で働くよう勧められたが、遠慮している風を装って断り続けた。
冒険者ギルドは独立した組織だ。この国の王族でも無理強いはできない。だから二人は、自分の身を守るためにも冒険者ギルド所属を願った。
もう一つは危なくなったら逃げやすい場所。海があって外国と行き来する船があれば、すぐにこの国を離れることができる。

「おーい、二人とも。明日は朝、早いぞ。ちゃんと旅の用意はできたか?」

「あ、ギルマス。はい、準備は大丈夫です」

王都の冒険者ギルドのギルドマスターが、いつまでもギルドの職員用休憩室にいる二人を心配して様子を見にきた。

「そうだ、明日は城から送迎の馬車が用意されるそうだ」

「「えっ……」」

サアーッと、二人揃って面白いぐらいに顔を青褪めさせる。

「……明日は冒険者ギルドの職員出入口じゃなくて、冒険者宿舎から出ろ。そして正門の馬車乗場じゃなく、冒険者ギルドが緊急用に使う通用門に行け。そこに……お前らが所属する冒険者ギルドからの馬車と護衛の冒険者パーティーが待っている。時間は朝六つ鐘が鳴る頃だ。いいな」

ギルマスは怖いぐらい真剣な顔で二人に言い聞かせる。

「でも……城の馬車……」

せりがガクガク震えながら言うと、ギルマスはニカッと子供のように笑った。

「そんなの、無視だ。俺たちがいいように誤魔化す。心配するな、ギルドはどこの国の干渉も受けない」

「「はい!」」

翌朝、二人の少女は目立たないローブを目深に被り、冒険者ギルドの馬車で王都を離れることに成功した。
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