異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

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異世界に召喚されました

商談しましょう、そうしましょう

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雰囲気を壊す場違いな女の声に、凛から視線を外して顔を上げると、派手な女が横に立ち俺や凛を興味深げに見ていた。
なんだ? 不愉快さに眉を顰める。

「……坊や、妾たちとの共同事業とは何かえ?」

共同事業……なんのことだ?












……実は、だいぶ前から僕の意識は戻っていました。でもでもでも、恥ずかしいよ。あ、あんなことして、悠真と顔を合わせるのが死ぬほど恥ずかしい。
……なので、アデラさんや女王様たちと一緒に悠真たちがどこかの部屋へ案内されて、椅子に座ってセシリオくんが深い息を吐き出しても、僕は寝たフリをしてひたすら誤魔化していたのにぃ。

「リン! 起きているんだろう? 瞼がピクピクしてるぞ。ちゃんとお姉さんたちと俺たちに「きょーどーなんちゃら」のこと説明しろよっ」

セ、セシリオくん……そんなガクガクと激しく体を前後に揺さぶらないでぇぇぇぇ。
よし、ここは潔く起きて悠真に謝ろう。
とりあえず、土下座でいいかな? なんか、凄い怒ってたみたいだし……。

ああ、でもでもでも、あのことは……どうしたらいいの? はっ! も、もしかしては海外式の挨拶の延長とか?
そうか……深い意味とか、別の意味を含んだ行為じゃなかった……とか?

なんとか自分の思考を都合よく捻じ曲げて納得させました。
僕は胸一杯に息を吸うと悠真の腕の中から跳ね起きて、でも……やっぱり顔を真っすぐに見るのが恥ずかしいから、セシリオくんの背中に素早く隠れて「心配かけて、ごめんなさい」と小声で謝った。

「リンくん、さっきの話をママにもしてよ」

アデラさんが目を覚ました僕に気が付いて呼びかける。
そして悠真の前に座っているアデラさんに似たゴージャス美女に驚いた。
ふわわわ、すっごく綺麗な人。この人も鳥型ハーピー魔族なのかな?
小さな顔に大きな瞳、碧色に長く引かれたアイラインと赤い口紅がキリッとした美貌によく似合っていた。
あれ? アデラさんのママって確か女王様だったけ?

その後、悠真との会話を避けるようにアデラさんと女王様たちへ獣人たちが暮らす隠れ村と町に行くときに使うラボール山の険しい峠道の説明をした。
セシリオくんにも助言をもらいながらだけど、たぶんあの山を越える危険ととてつもない労力、恐怖心は理解してもらえたと思う。

ちなみに、ここにいる皆さんの前で、僕と悠真があんなことをしちゃったんだけど、セシリオくんは僕たち二人の空気を察した門番の男性魔族の一人に両目を、もう一人に両耳を塞がれて、何が起きていたのかまではちゃんと見てなかったらしい。
ありがとう、親切な門番さん!
なので詳しい事情知らないセシリオくんは、僕が一方的に悠真を避けているのを見て口を尖らせた。

「喧嘩したなら、ちゃんと仲直りしろよ」

僕と悠真のことを心配してくれるセシリオくんの助言はありがたいけど、喧嘩じゃないもん、恥ずかしいだけだもん。
でも、そうだよね。いつまでももじもじしてないで、ちゃんと迎えに来てくれた悠真にお礼を言わないと!

あと……できたら、そもそもなんで僕と疎遠な関係になったのか。なんで、悠真は僕と距離を置いたのか……キ、キスをしたのかは、別に訊かなくてもいいかな?
うん、うん、ちゃんと悠真と話し合おう。
わだかまりがあるのに、これから二人きりで異世界を旅するなんて……無理だよね。

とにかく、今はアデラさんたち魔族とセシリオくんたちが住む村の共同事業について、キチンと結果を出さなきゃ。













凛が考えたのは、ガキ猫が住む村とシエーロの町までの行き来をハーピーに運んでもらうことだった。
まっったく興味はなかったが、ガキ猫の目がキラキラしているのは、この提案がガキ猫たち獣人にとって利益を生むものなのだろう。
確かに、あの山は険しく体力と身体能力に優れた獣人なら渡れるが、ガキ猫のような子どもや年配者にには辛い道ではある。

あの村は、たいていの食べ物などは自給自足で賄っているが、不足するものも当然あり町への行き来は必須だ。
しかも冬は雪深く、山を越えていくのは厳しい。ある程度の現金は確保しておきたいため、ガキ猫の父親がいる冒険者パーティーが出稼ぎに出ている。

優しい凛は、きっとガキ猫たちの苦しい生活を向上させてやりたかったのだろう。
俺たちにはどうでもいいことなのに、わざわざ魔族に交渉して、獣人たちの足を得ようとしてやるなんて……素晴らしい人格者だ。

ちなみに凛を攫った極悪人の女ハーピーは、この中でも一番小柄らしく、成人しているハーピーなら獣人を二~三人を運んで山越えはできるそうだ。
ここで、凛がゴンドラのようなもので運べるかどうか提案した。ゴンドラが想像できなかった愚かな魔族どもに凛の提案がどれだけ素晴らしいものなのか認識させるため、俺が絵に描いて教えてやる。

「あら、これなら運びやすいわね。こっちも二~三人で運べば、一度に複数に運べるわ」

「それどころか、荷物の運搬もできるよ! リン、頭いいな!」

ガキ猫に褒められて顔を赤くして笑う凛が尊い……。魔族共も凛に跪いて頭を垂れろ。
凛の話は魔族共からも受け入れられ、あとは獣人の村で詳しい話を詰めることになった。特に魔族に渡す報酬のことでだ。
一旦、俺たちは村へと戻ることにした。

「兄ちゃん、帰ろうぜ。リンはどうする?」

「どうって?」

こてんと首を傾げる凛に、ガキ猫はニヤニヤと笑いながら究極の選択を迫る。

「村に帰るのに俺たちと一緒にワイバーンに乗っていくか、お姉さんの足に捕まって空を飛んで行くか」

えっ……と言葉に詰まり、凛の顔が見る見るうち真っ青になっていく。

「えー、どっちも嫌だよ。お馬さんに乗ってここまで来たんじゃないの? 空飛ぶ選択肢しかないの?」

「スリープ」

耳元に睡眠魔法を唱えると凛の体から力が抜けてがくりと俺の腕の中に落ちて来た。
ワイバーンに乗って一緒に帰ろう。でも、鞍のないワイバーンの背中での空中散歩は凛に刺激が強いから、眠っていればいいと思う。

ずっと、俺の腕の中で……。
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