異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

文字の大きさ
上 下
17 / 43
異世界に召喚されました

ご褒美目当てで頑張ります

しおりを挟む
みなさん、凛です。
すっかり日も暮れました、こんばんは……って、挨拶は声に出してはいけません。

僕たちはセシリオくんの住む村へ行くために、ワイバーンの巣ができてしまったラボール山を越えるために来ていましたが、急遽ワイバーン討伐へ目的を変更しました。
今は、ラボール山の中でも中腹のちょうど木々が生い茂る場所から岩場へ変わる境目です。
ううっ、歩きにくいよぅ。怖いよぅ。
僕は悠真とガッチリ手を繋いで腰を引かせながら、あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ警戒しながら足を前に進めてます。

悠真が「死にそうな人がいる」と爆弾発言をしたので、とにかく救助に向かっていて、セシリオくんのお父さんの冒険者パーティーのメンバーである犬獣人のエウリコさんがここら辺はワイバーンの縄張りに入っているとか脅かすからーっ、怖いんだよぅ。

「いた。とりあえず一人目」

「見つけたのか!」

エウリコさんが仲間の発見に興奮して腕を振り回すと、その手に握っているロープに縛られているセシリオくんが「ぐえっ」て苦しそうですよ。

「あっちにいる。死んではないが、動かないな」

「ぎゃーっ! 早く言って助けないと」

悠真の能力で怪我人を見つけることができて、治療することもできるんだけど……悠真が冷静というか、焦りを見せないので僕のほうが慌てちゃうよ。
エウリコさんが悠真が指差した方向へ走り出すと、セシリオくんがチョコチョコと走って追いかけていく。

「悠真。僕たちも早く行こう」

「ああ」

うーん、悠真の余裕ある態度にモヤモヤしちゃうぞ。
はっ! もしかして悠真ってばご褒美がないとやる気が出ないタイプ? 昔はどうだったけ? うーんと、確かピアノの発表会で優勝させてほしいって有名ピアニストに頼まれたときは……。

「ゆ、悠真! 冒険者さんたちをみんな助けられたら、あげるから!」

昔、二人でハマってたよねぇ、花冠作り。こっちの世界も春の季節だから、どこか花が咲いているところへ行ってキレイな花冠を作ってあげよう。ムフーッ。

僕の提案に悠真はやや眉を上げ、僕の手を強く握り直すとスタスタと早歩きで移動を始めた。
ちょっ、悠真、歩くの早いよ。僕の足がもつれちゃう。
エウリコさんも興奮して走るからロープで繋がったセシリオくんが「おわっ」て悲鳴を上げ引きずられていた。

しばらく移動して僕らが見つけたのは、木の根元に小さく丸まって蹲る茶色のブチ猫ちゃん。気を失っているのか、僕たちが周りを囲んでもピクリとも動かないよ。
エウリコさんが恐る恐る、その体に触れた。

「……生きている。よかった。……おい、おい! 大丈夫か?」

ああぁぁ、そんな、怪我しているかもしれない人を激しく揺さぶっちゃダメです。
はわわっと慌てる僕の隣を通り過ぎ、悠真がその怪我している人の頭をガッとアイアンクローして、口に無理やりポーションを突っ込んだ。

ええーっ、悠真、ヒドイ。無色透明な、たぶん中級ランクのポーションを飲ませたあと、例のエメラルドグリーン色の不気味なキラキラ液体を突っ込む。

「死にたくなかった飲め。よし、飲んだな。じゃあ、こっちみ飲め。吐くな」

「兄ちゃん……もっと優しくしてくれよぅ。怪我人だぜ」

「知るか。俺は先を急ぐんだ」

ブチ猫さんがポーションを飲み終わったあと、気を失っていたその人は軽く咳き込んで、薄っすらと目を開けた。
自分の目の前にエウリコさんがいることに驚いて尻尾も耳もピーンと立ちあがる。
わぁ、もふもふしたい。あ、不謹慎、不謹慎。

「エウリコか? ……よかった。ギルドの応援は? 助けにきてくれたんだろう?」

エウリコさんは悔しそうに唇を噛んで、頭を左右に振る。

「すまない。途中、俺もワイバーンに襲われてセシリオを助けてくれたこの人たちに助けられたんだ」

僕はペコリと頭を下げて挨拶をした。悠真はこの人に興味がないのか、キョロキョロとあちこちを探ってるみたいだった。

「そんな……。ディオニシオたちはどうなるんだ。俺たちは見捨てるしかないのか」
ブチ猫さんが顔を苦し気に顰めて、エウリコさんの胸倉を掴み上げる。

「父ちゃん……俺、いやだよ」

ブチ猫さんの嘆きにセシリオくんの悲しみが呼応して、エウリコさんが無力感に苛まれていると、そんなしんみりとした空気を壊す悠真の呟く声が聞こえた。

「また、見つけたぞ」

「エウリコさん! とにかく助けに行きましょう!」

難しいことはあとで考えるとして、今は人命優先です!













獣人たち冒険者が、とっても厄介なことにあちこちと散らばって倒れているようだ。
一人は木の根元に隠れるようにして蹲っていた小柄な猫獣人だった。

凛がはわわわと顔をかわいいピンク色に染めて喜んでいたが、こいつはどこにでもいるブチ柄だと思う。
でも、凛がかわいいと思うなら、このブチ猫は世界一かわいいのだろう。文句は受け付けない。

じゃあ、凛が悲しまないようにとっと治そう。うん? こいつ意識がないな……いいや、面倒くさい。誤飲しなければいいだろう。
頭部を鷲掴み、ほんの少し開いた口へポーションの小瓶を突っ込む。あとは頭部を仰け反らせていけば……うん、飲み込んだな。

こいつも体力と血液がかなり消耗しているから、凛用マスカット味の栄養剤を飲ませておこう。
在庫が減ったから、どこかの町で作り置きしておかないと、いざとなったときに困る。
いざとなったとき……、ふっ、まさか凛から「をあげる」と誘われるとは思わなかった。
いや待てよ? 初心な凛のことだ、あれとは初キスのことかもしれない……でもご褒美として提示したのだからべろちゅーレベルのキスをしてもいいだろうか?

しかし、俺も凛も高校を卒業して大人の仲間入りをしたのだから、やっぱりご褒美といえばそっちじゃないのか?
そっちだったら、今までの思いの丈をぶち込んでしまうから、栄養剤は必要だよな? ふむ、必要な薬草も確保して作っておこう。
えっと……もう三本使って、凛に一本渡してある。他に獣人の冒険者たちが三人いるから……、在庫が十本ないだと?
一日一本凛に消費するとして、ラブラブピンクライフが連日十日で打ち止めなんて……俺には耐えられない。

「兄ちゃん……もっと優しくしてくれよぅ。怪我人だぜ」

ガキ猫が泣きそうな情けない声を出すから、ハッとして現実に戻ってくると……あ、やばい。ブチ猫がピクピクしていた。

「知るか。俺は先を急ぐんだ」

これが終われば、お前たちと別れて凛と二人きりの、十五年待ちわびていた新婚生活が待っているんだ!
さて、次、次。

今は凛との初体験が優先だ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...