異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

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異世界に召喚されました

ご褒美目当てで頑張ります

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みなさん、凛です。
すっかり日も暮れました、こんばんは……って、挨拶は声に出してはいけません。

僕たちはセシリオくんの住む村へ行くために、ワイバーンの巣ができてしまったラボール山を越えるために来ていましたが、急遽ワイバーン討伐へ目的を変更しました。
今は、ラボール山の中でも中腹のちょうど木々が生い茂る場所から岩場へ変わる境目です。
ううっ、歩きにくいよぅ。怖いよぅ。
僕は悠真とガッチリ手を繋いで腰を引かせながら、あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ警戒しながら足を前に進めてます。

悠真が「死にそうな人がいる」と爆弾発言をしたので、とにかく救助に向かっていて、セシリオくんのお父さんの冒険者パーティーのメンバーである犬獣人のエウリコさんがここら辺はワイバーンの縄張りに入っているとか脅かすからーっ、怖いんだよぅ。

「いた。とりあえず一人目」

「見つけたのか!」

エウリコさんが仲間の発見に興奮して腕を振り回すと、その手に握っているロープに縛られているセシリオくんが「ぐえっ」て苦しそうですよ。

「あっちにいる。死んではないが、動かないな」

「ぎゃーっ! 早く言って助けないと」

悠真の能力で怪我人を見つけることができて、治療することもできるんだけど……悠真が冷静というか、焦りを見せないので僕のほうが慌てちゃうよ。
エウリコさんが悠真が指差した方向へ走り出すと、セシリオくんがチョコチョコと走って追いかけていく。

「悠真。僕たちも早く行こう」

「ああ」

うーん、悠真の余裕ある態度にモヤモヤしちゃうぞ。
はっ! もしかして悠真ってばご褒美がないとやる気が出ないタイプ? 昔はどうだったけ? うーんと、確かピアノの発表会で優勝させてほしいって有名ピアニストに頼まれたときは……。

「ゆ、悠真! 冒険者さんたちをみんな助けられたら、あげるから!」

昔、二人でハマってたよねぇ、花冠作り。こっちの世界も春の季節だから、どこか花が咲いているところへ行ってキレイな花冠を作ってあげよう。ムフーッ。

僕の提案に悠真はやや眉を上げ、僕の手を強く握り直すとスタスタと早歩きで移動を始めた。
ちょっ、悠真、歩くの早いよ。僕の足がもつれちゃう。
エウリコさんも興奮して走るからロープで繋がったセシリオくんが「おわっ」て悲鳴を上げ引きずられていた。

しばらく移動して僕らが見つけたのは、木の根元に小さく丸まって蹲る茶色のブチ猫ちゃん。気を失っているのか、僕たちが周りを囲んでもピクリとも動かないよ。
エウリコさんが恐る恐る、その体に触れた。

「……生きている。よかった。……おい、おい! 大丈夫か?」

ああぁぁ、そんな、怪我しているかもしれない人を激しく揺さぶっちゃダメです。
はわわっと慌てる僕の隣を通り過ぎ、悠真がその怪我している人の頭をガッとアイアンクローして、口に無理やりポーションを突っ込んだ。

ええーっ、悠真、ヒドイ。無色透明な、たぶん中級ランクのポーションを飲ませたあと、例のエメラルドグリーン色の不気味なキラキラ液体を突っ込む。

「死にたくなかった飲め。よし、飲んだな。じゃあ、こっちみ飲め。吐くな」

「兄ちゃん……もっと優しくしてくれよぅ。怪我人だぜ」

「知るか。俺は先を急ぐんだ」

ブチ猫さんがポーションを飲み終わったあと、気を失っていたその人は軽く咳き込んで、薄っすらと目を開けた。
自分の目の前にエウリコさんがいることに驚いて尻尾も耳もピーンと立ちあがる。
わぁ、もふもふしたい。あ、不謹慎、不謹慎。

「エウリコか? ……よかった。ギルドの応援は? 助けにきてくれたんだろう?」

エウリコさんは悔しそうに唇を噛んで、頭を左右に振る。

「すまない。途中、俺もワイバーンに襲われてセシリオを助けてくれたこの人たちに助けられたんだ」

僕はペコリと頭を下げて挨拶をした。悠真はこの人に興味がないのか、キョロキョロとあちこちを探ってるみたいだった。

「そんな……。ディオニシオたちはどうなるんだ。俺たちは見捨てるしかないのか」
ブチ猫さんが顔を苦し気に顰めて、エウリコさんの胸倉を掴み上げる。

「父ちゃん……俺、いやだよ」

ブチ猫さんの嘆きにセシリオくんの悲しみが呼応して、エウリコさんが無力感に苛まれていると、そんなしんみりとした空気を壊す悠真の呟く声が聞こえた。

「また、見つけたぞ」

「エウリコさん! とにかく助けに行きましょう!」

難しいことはあとで考えるとして、今は人命優先です!













獣人たち冒険者が、とっても厄介なことにあちこちと散らばって倒れているようだ。
一人は木の根元に隠れるようにして蹲っていた小柄な猫獣人だった。

凛がはわわわと顔をかわいいピンク色に染めて喜んでいたが、こいつはどこにでもいるブチ柄だと思う。
でも、凛がかわいいと思うなら、このブチ猫は世界一かわいいのだろう。文句は受け付けない。

じゃあ、凛が悲しまないようにとっと治そう。うん? こいつ意識がないな……いいや、面倒くさい。誤飲しなければいいだろう。
頭部を鷲掴み、ほんの少し開いた口へポーションの小瓶を突っ込む。あとは頭部を仰け反らせていけば……うん、飲み込んだな。

こいつも体力と血液がかなり消耗しているから、凛用マスカット味の栄養剤を飲ませておこう。
在庫が減ったから、どこかの町で作り置きしておかないと、いざとなったときに困る。
いざとなったとき……、ふっ、まさか凛から「をあげる」と誘われるとは思わなかった。
いや待てよ? 初心な凛のことだ、あれとは初キスのことかもしれない……でもご褒美として提示したのだからべろちゅーレベルのキスをしてもいいだろうか?

しかし、俺も凛も高校を卒業して大人の仲間入りをしたのだから、やっぱりご褒美といえばそっちじゃないのか?
そっちだったら、今までの思いの丈をぶち込んでしまうから、栄養剤は必要だよな? ふむ、必要な薬草も確保して作っておこう。
えっと……もう三本使って、凛に一本渡してある。他に獣人の冒険者たちが三人いるから……、在庫が十本ないだと?
一日一本凛に消費するとして、ラブラブピンクライフが連日十日で打ち止めなんて……俺には耐えられない。

「兄ちゃん……もっと優しくしてくれよぅ。怪我人だぜ」

ガキ猫が泣きそうな情けない声を出すから、ハッとして現実に戻ってくると……あ、やばい。ブチ猫がピクピクしていた。

「知るか。俺は先を急ぐんだ」

これが終われば、お前たちと別れて凛と二人きりの、十五年待ちわびていた新婚生活が待っているんだ!
さて、次、次。

今は凛との初体験が優先だ!
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