異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

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異世界に召喚されました

愛を深める前に些事を片付けよう

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しまった!
異世界で再会した悠真が昔の、僕と仲が良かったころの悠真みたいだったから、つい昔の癖を出してしまった!

僕と違って名門出の悠真は、元々優秀なのにさらに優秀になるようにお稽古事が幼いときから多かった。
でも、僕と遊びたい悠真はときどきサボっていたんだよねぇ、お稽古。
大きな大会や発表会もサボろうとするから、悠真の両親や著名な悠真の先生たちから頭を下げられた僕は、悠真に何かやってほしいときの必殺技を編み出していた。
……ただ、悠真のカッコイイところが見たいなぁっておねだりするだけなんだけど、これが効果抜群だったんたよね。
まさか、ワイバーン討伐にも使えるとは思わなかったけどね。

そして、この暗い穴の中から出て……僕は思いっきり後悔することになった。
まさか……まだ断崖絶壁の途中だったなんて……ふうっ。

「リン?」

「凛、危ない!」

こうして僕は人生二度目の失神を経験してしまうのだった。
目が覚めたら、すべては終わっていた……わけにはいかないよね。
そんなご都合展開は用意されていなかったらしい。

「リン。起きた? 一番の難所は兄ちゃんが背負って通ったから、もう大丈夫だよ」

ニカッと快活に笑うセシリオくんのドアップで起きました。

「そ、そうなんだ。ごめんね、迷惑かけて」

セシリオくんより大人なのに、二回も気絶して悠真に運んでもらうなんて……恥ずかしいよ。

「いや、兄ちゃんは喜んでいたから別にいいと思う。それより、お礼を言うよ! リンのおかげで兄ちゃんがワイバーンを倒して父ちゃんたちを助けてくれるから」

両腕を頭の後ろで組んでニシシと悪ガキのように笑うセシリオくんに、僕もホッと息を吐いて笑ってみせた。

……あれ? 悠真ってば剣道、空手、柔道……あとなんだっけ? 諸々の武道を嗜んでいたのは知っているけど、こんな魔獣が蔓延る異世界での実力はどうなんだろう?
簡単に「ワイバーン倒してね」って頼んじゃったけど、悠真ってば強いのかな?

「ワイバーンの巣へ行く前にここで休憩していこう」

エウリコさんが背負っていた鞄を下ろして、水筒からガブガブと水を飲みだした。
セシリオくんがまるで飼い主に走り寄るペットのごとくエウリコさんへと走っていく。

「エウリコおじさん、俺にもー」

パチパチ。僕は信じられない状況に何度も瞬きする。
えっ? エウリコさんって、さっきまで瀕死の状態でもしかしたら三途の川を渡りかけていた人だよね?
獣人ってそんなにすぐ体力とか戻っちゃう体質なの?
僕が目を真ん丸にして驚いていると、ぬっと甘い匂いのするコップが差し出された。

「凛も、水分補給しておこう。お腹が減っているなら何か食べようか?」

「う、ううん、大丈夫。ありがとう」

コップを手に一口、二口と飲みながら悠真の顔をこっそりと盗み見ると、「ん?」と優しい笑顔で返されて目が昇天しそう!

「あのね、悠真。ワイバーンって強いの?」

すごい強いならセシリオくんたちには悪いけど、悠真だけじゃなく他の強い冒険者たちを連れてきたほうがいいと思う。

「そうだな……そもそもワイバーンの巣に何匹いるのか」

一匹……せめて三匹以内だったら悠真とエウリコさんと僕で倒せるかな?
あれ? 僕も戦力に入ってる?














ガキ猫の父親ディオニシオがリーダーを務める冒険者パーティーは五人編成。
そのうちの一人、エウリコがシエーロの町の冒険者ギルドへ救援を求めて離脱している状態だ。

あの岩壁の横穴は、ガキ猫たちの村人が行商のためシエーロの町へ行くときの休憩所だったらしい。
暗くてよく見えなかったが、煮炊きする場所と奥には寝具もあり、獣人たちが人工的に作った横穴だった。

エウリコはシエーロの町に向かっている途中でワイバーンに襲われ瀕死の重体となり、あの横穴に逃げ込んでいた。
残りの四人は、ほぼ一日中複数のワイバーン相手に戦っているとか……もう全滅しているのでは? と思ったが凛が泣くから口にはしない。

「本当はこんなところにワイバーンが巣なんて作れないはずなんだ」

ガキ猫がしょんぼりと耳と尻尾を垂らして泣き言を垂れる。

「セシリオ……」

「だって、古の魔族の城があるから魔獣は近づかないって言ってた! なのに、ワイバーンの奴らが巣なんて作るから、父ちゃんたちが討伐しなきゃいけなくなったんだろう!」

ついでに言えば、そんなに大事なときに子どもの好奇心丸出しで内緒で親に付いていって、まんまと迷子になったのはお前だけどな。
俺は凛が寒くないようにブランケットを出してやる。

「い……古の城ってなんですか?」

あれ? 凛が厄介なワードに食いついてしまった。
そういえば、小さいときから怖い話が好きだったね。でも夜はトイレに一人で行けなくなって、付き合ってあげたこともあったよね。
うん、わかってて俺の家に泊るときにホラー映画を見せてたけどね。

「昔、この山の山頂付近に魔王軍の一軍が城を築いて、そこから人里に攻め入ったのさ。当時の王族が捕まって二度と戻って来なかったらしい。本当か嘘かわからない話だが、実際、なぜか人が築けない険しい場所に城があるんだよ。誰も辿り着いたことはないから、その城に誰かがいるのかはわからないが」

魔王? 「勇者」である俺が倒すとなれば「魔王」だろうけど、この世界に魔王なんて存在するのか?
あのギンギラ成金王の作り話で、どうせ俺たちを召喚したのは、領土拡大の兵器としてだろうって思っていたんだがな……。

「ワイバーンを倒せば問題ないんだろう? 早く行こう。あ、その前に」

俺は「無限収納」から出した一本のロープでグルグル巻きにしてやった。
誰を? ガキ猫をだ。

「ゆ、悠真? 何してんの?」

凛は縛られたガキ猫のロープを解こうとおたおたしているし、犬獣人は俺とガキ猫を交互に忙しなく見ている。

「こいつがまた迷子になったら面倒……いや、困るだろう」

犬じゃなく小生意気な猫だが、リードをつけておかないと迷惑だ。

「ひでぇよっ!」

ガキ猫が元気に縛られたままピョンピョンとジャンプしてアピールするが、無視をする。
凛以外の奴の言動は取るに足らん。

「この先で俺たちはワイバーンに襲われて、俺は救援を呼ぶためこっちに逃げてきたが……、あとの奴らは一体どこにいるのか」

犬獣人が渋い顔をしているのは、その鋭敏な耳をもってしても聞こえない戦闘の気配だろう。俺の探査魔法にもワイバーンと戦闘しているらしき冒険者の気配は掴めない。
あるのは、数匹のワイバーン気配と……生命力の弱い生きもの気配だけだ。

「……兄ちゃん」

「この辺には、血痕も争った痕も見当たらないな」

「セシリオくんのお父さんたちはどこにいるんだろうね? まだ戦っているのかな?」

「兄ちゃん……」

「凛。大丈夫だよ。ワイバーンは俺が倒すから」

「兄ちゃんってば!」

俺は無言でズビシッと手刀をガキ猫の頭に打ち込んだ。凛との会話を邪魔するな。

「うるさい、黙れ。ワイバーンに見つかるだろうが」

「イタタ……。ひでぇよ、兄ちゃん。それより、このロープ解いてくれよ」

俺はロープの先を犬獣人に渡した。犬獣人は少し困った顔をしてはいたが、握ったロープを放すことはしなかった。

「とりあえず、あっちにいる死にそうな気配のところへ行こう」

俺のセリフに凛の悲鳴が重なった。え? 死にそうな奴がいたらもっと早く言えって?
凛以外に優先することは何もないのに?
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