異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

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異世界に召喚されました

猫派か? 犬派か? 凛派は少数派?

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迷子のセシリオくんを無事おうちに届けるため、山登り中です。
まだ木々が密集する麓近くを歩いているだけなのに、案の定、僕がバッタリと倒れました。

もう、無理。足が痛いよぅ。
僕の体内時計では五時間以上歩いていた気がするのに、セシリオくんが小声で「まだ、ちょっとしか進んでないぞ」と呟くのが聞こえてさらにダウンです。
もう、体力も気力もないです。

僕が木々に凭れてふうふうと荒い息を繰り返していると、やや頬を赤く染めた悠真が「無限収納」から背もたれのあるアウトドアチェアを出して座らせてくれました。
え? 今どこから何を出したの?
悠真は、跪いて僕の足を看てくれる。

「かわいそうに、足の裏が真っ赤だ。……ヒール」

悠真の手のひらから放たれた優しい光に両足がポワッと包まれる。ジンジンした痛みが、一瞬でスウーッと引いていくようだ。

「すごい! ありがとう、悠真」

ぼくの足元に屈んでいる悠真に顔を寄せてお礼を言ったら、悠真がじっと僕を見つめる。
なんだろう? 首を傾げたら、そっと僕の頬を片手で包んでその綺麗な顔をさらに寄せて……。お互いの吐息が交わせるぐらいの近さになって……。

「おーい、兄ちゃん喉乾いた!」

「ちっ!」

え? 今、悠真……舌打ちした? そんなことするタイプだったけ?

ギロッとセシリオくんを射殺すように睨んでる悠真には悪いんだけど、僕も喉が渇きました。
しばし、休憩をしたあと再び出発です。
悠真ってばすごいんだよ! あのアウトドアチェアを何もないところから出したのは「無限収納」っていう収納魔法で容量に制限なく収納できて、時間経過も思いのままなんだ!
さっきも冷たい果実水を「無限収納」から出してくれたもんね。あ、悠真お代わりください。セシリオくんにもあげてね。
それと、慣れない山道に腫れた足を一瞬で治してくれたのは「ヒール」で異世界にはお決まりの治癒魔法だよ。
……あれ? 悠真は魔法が使えるの? 僕……まだ魔法使えないんだけど。いいなぁ。

「リン。足は大丈夫か?」

「セシリオくん。心配してくれてありがとう。うーん、痛くはないけど……」

悠真が治しくれたから足の痛みはないけど、疲労感は残ってる。今日中にセシリオくんの住む村に着くかどうかの問題じゃなくて、この高い山、悠真の持っていた地図にはラボール山と書かれていた山に登れるかどうかも怪しい。

「凛。靴とこのローブに付与魔法掛けといたから」

「へ? 付与……魔法?」

「ああ、これでいくら長い時間歩いてもこれ以上疲れないし、痛くもならない。ローブには体重軽減を掛けたから、自分の体重がかなり軽く感じるはずだよ」

「……あ、ありがとう」

なに、それ、すごい。悠真は魔法を使いこなしていて、やっぱり異世界でも優秀なんだねぇ。
悠真に淡いピンク色のローブを着せてもらって、キュッと胸元をリボンで結んでもらった。……あれ? 十八歳の男が着るには、ちょっとかわいいデザインだね?

「……うん、似合ってる」

なぜか悠真が満足気だからお礼だけ言っておこう。でも、このローブ、裾がヒラヒラしていて山登りする恰好じゃないような?

そして、さらに歩くこと二時間以上。僕ってば、全然疲れていません! 行ける! これなら、行けるよ! ラボール山脈踏破なんて軽い軽い。
今日中にセシリオくんを村へと送り届けて、夜は二人でゆっくりしようね、悠真。

……て、思っていたときもありました……おバカな僕。
なに、これ。を通るの? ここ道なの? いやいや、崖だよね?
ラボール山をえっちらおっちらと山登りするまではよかった。真っ直ぐ頂上を目指さず途中の山間の道を行くっていうから、「やった、僕でも行ける」って安心したのに……。

こんな断崖絶壁に崩れそうな細道なんて、アクション映画でしか見たことないよーっ!!
















「やっぱり、無理だったか」

俺は木に凭れて荒く呼吸する凛に聞こえないように小声で呟いた。
それでも凛は頑張ったと思う。山に入ってからずっと歩き通しで、都会育ちで運動苦手な凛が体力の限界を迎えるのもしょうがない。
それこそワイバーンか飛竜でも飛んでいるなら捕まえて背中に乗って山越えしようかと考えたが、都合いい魔獣がいなかった。

「ガキ猫、お前は大丈夫か?」

「うん。まだ平気だ」

平気ならお前一人で山を越えて勝手に帰れと思うが、凛はなぜかこのガキ猫を送り届けるのを諦めない。
優しい、本当に優しい凛……その優しさは周りの者を幸せに導くけど、俺はおもしろくない。

とりあえず、凛用にといろいろと買い込んだ品物の中を探って、折り畳み式の椅子を「無限収納」から取り出し、凛を座らせる。
しゃがんで凛の足から靴を脱がし……凛の生足……生足、小指の爪が小さくてかわいい……ん? 足の裏が赤く腫れて熱を持っている。かわいそうに。
俺はすかさず「ヒール」を唱えて凛の足を治す。
そして、凛と見つめ合って、こ、これは誘われている? 凛のプルンとした唇が微かに開いて、俺を……。

「おーい、兄ちゃん喉乾いた!」

「ちっ!」

あのガキ猫! お前はもういいから、一人で山を登って帰れ!

そのあと、凛も望むから「無限収納」から冷えた果実水を出して二人に飲ました。俺は水でいい。凛と一緒なら水も甘露だ。
山で一夜を明かすのも吝かではないが、邪魔者がいるので早くこの山を登ってしまおう。

凛には俺が付与魔法で便利グッズと化した靴とローブを渡した。
薄いピンク色のローブには体重軽減の付与魔法をかけてあるが、その他に物理攻撃無効と魔法攻撃無効と魔獣に見つからないように隠蔽魔法も少し施してある。
他にもいろいろと付与魔法をかけたかったが、素材の限界で無理だった。ちっ、凛の着るもの身につけるもの全て最高級の魔獣素材でガッチガチの防御をかけておきたい。
山登りのついでに適当な魔獣がいたら狩って素材を剥ぎ取っていこうと俺は決めた。

途中、ガキ猫の案内で山頂を目指すのではなく、近道としている山間の道を通ることにしたが、この道なのか?
コクンと頷くガキ猫の目は真剣で、今まで凛に迷惑をかけた自覚が出てきたのかもしれないが……うん、俺は許さんがな。

断崖絶壁に崩れそうな岩の細道に、凛が悲鳴を上げたあとがっくりと気を失ってしまった。
俺は気を失った凛を嬉々として背中に背負い、俺の胸の前にある凛の両腕をガキ猫にリボンできつく結んでもらう。
凛のローブにかけておいた付与魔法で凛の重さはほとんど感じないけど、いや、ちょっと軽すぎないか? こんな過酷な状況で痩せちっゃたのかな?
ガキ猫を村に放り投げたら。凛にたくさんご飯を食べさせないと。

「行くぞ」

「おう!」

ガキ猫に気を遣わず、一切忖度なしに自分のペースで断崖絶壁の道を進む。
半分を過ぎたころ、「あ、ガキ猫のこと忘れてた」と後ろを振り向けば、両膝に手を当て背中を丸めて苦しそうに息をするガキ猫が見えた。
ちっ。
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