異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

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異世界に召喚されました

悠真、死んだってよ

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「ねえ、それより私たちいつまでここにいるの? いい加減、個人部屋が欲しいんだけど。尾花くんは王城で一人で部屋使っているんでしょ?」

「勇者様、尾花様は陛下の命で、王族の側に部屋を賜っておられます」

「あー、あたしも一人部屋がいい。気遣うのよねぇ、他人と一緒だと」

「わかるぅ。食事とか好きな時に食べたいしぃ。寝るとき、うるさいんだよね、特に竜胆くん」

「なにを! 俺こそお前のクッサイ匂いに頭がクラクラするわっ。ちっ、男のくせに」

しばらく、四人が好き勝手に愚痴を言い合うのが続く。
今、男が一緒に異世界へと召喚された友人の死を告げたのにも構わずに。

「わかりました。違う世界からこちらへ無理矢理に招いてしまったので、しばらくは同じ所で生活されるたほうが心安く過ごせるかと思いましたが、そのような状況であれば、別に部屋を用意しましょう」

男はある程度、彼ら国の救世主たる勇者の仲間の要望を聞くと、無表情のまま静かに扉から離れて聖女エリカの前に立った。
聖女として敬う態度ではあるが、聖女はだらしなくソファに俯せに寝そべり両足をパタパタと忙しなく動かしていた。
胸元を谷間が覗くギリギリまで開き、スカート丈は淑女が卒倒する短さで肌を惜しみなく曝け出している。
小さな顔に大きな円らな瞳、ささやかな鼻に花びらのような唇と愛らしい顔立ちではあるが、真っ赤に塗られた唇と怪しい誘惑の視線に「聖女」の資質は感じられない。

「聖女様には大神殿に移ってもらいましょう。治癒魔法や神聖魔法を取得していただくのにも大神殿は都合がよろしいので」

「……大神殿?」

召喚されたときに「聖女」称号を得ていたエリカの眉間に皺が寄る。神殿なんて規律が厳しくてジジイとババアしかいないじゃない。そんなつくらないところに押し込められるなんて……、苛立たしさから親指の爪を齧った。

「しかし、まだ聖女様には身を守る術がありません。そのため聖騎士で周りを固めてさせていただきます」

「聖騎士って。あの、ルイ様のような?」

エリカの頭の中には、召喚のときに会った銀色の鎧を身に纏う金髪の美丈夫たちが思い出される。
男は、「左様でございます」と慇懃に頭を垂れてみせ、エリカの喜びに染まるピンク色の頬に口元を歪ませた。

そして、身を翻し剣聖竜胆の前に立つ。
一緒に召喚された異世界人の中でも一際体格がよく、鍛えられた体をしていた竜胆には「剣聖」の称号が与えられていた。
武器を持って生き物、人間と戦ったことはないらしいが、忌避することもないらしい。
むしろ、早く生きている物を人間を痛めつけてやりたいとばかりに、武器を集めさせている。
最早、「剣聖」ではなく「狂戦士」、「殺人狂」と恐れられる未来しか思いつかないが、今はまだ悪評をばら撒かれる訳にはいかない。

「剣聖様には王国騎士団の宿舎に移ってもらいます。そこでは騎士団長室よりも広い貴族用の客間を用意させます。さすれば剣聖様のお好きなときに鍛錬ができますし……魔獣の試し切りも可能です。他にも捕らわれた者や奴隷もおります」

「ほぅ……。試し切りにはそそられるなぁ。あと、俺の下に何人か騎士を付けてくれ。俺の命令に絶対服従の奴な」

「……かしこまりました」

また慇懃に礼をすると、今度は賢者芙蓉に向かって淡々と告げる。

「賢者様には王城西の塔に移ってもらいます。そこには学者達の集うサロンと蔵書の間がございます。本来は王族の一部しか閲覧できない禁書も賢者様が望むなら閲覧できるそうです」

「蔵書ねぇ。確かに、最初に持ってきてもらった本は全て頭に入ってしまったわ。そこには禁術の魔法書もあるのかしら。私たちを召喚したような?」

「さぁ、私は閲覧の許可がありませんのでわかりかねますが、この世の全ての叡智が集った場所であると聞いております」

「賢者」となった彼女はまだ若い女性で、どこか冷たい印象を人に与える。艶のある黒い髪を背中を覆うほどに伸ばし、色白の肌にこちらの世界でない素材で作られた銀縁の眼鏡を愛用している。
時折り、他の者たちを馬鹿にしたような蔑む視線を投げ、意地悪く口元を上げ微笑む姿に、この世の叡智を授けられた「賢者」の姿を見出すことは難しい。
芙蓉は男にも、自分が住むことになる西の塔や蔵書の間にも興味がなくなったように、読んでいた本の頁に目を落とす。

男は、勇者パーティーメンバー最後の一人、魔導士水季の前に立った。

「魔導士様は……。実は魔導士の塔があり、そこでは魔法論などや魔法陣を研究する場所ですが、あまり魔導士様には役に立たないと考えられます。そこで、王城に部屋を用意させていただきます。魔法の鍛錬としては我が国でも最上級の魔導士である第一王女を、と」

「王女様って、召喚のときにいた女の人? 俺、あの子、あんまりタイプじゃないな……」

男は頭を左右に振って否定する。

「いいえ。あの方は第二王女様です。第二王女は次期女王で今は陛下の補佐をしているため、あの場に同席していました。第一王女様は魔法の才能溢れる方でして、魔法の研究や教育に力をいれております。王女と魔法の鍛錬をされるときは高位貴族令嬢たちも一緒かと思いますが、いかがでしょう」

「ふーん、いいよ。しょうがないから王女様とおべんきょーしてあげるよ」

水季は男としては可愛い顔立ちに醜悪な笑い顔を浮かべた。

「では、準備をしてまいります。午後にはお迎えにまいります」

男は静かに扉を開け、頭を深く下げたまま扉を静かに閉めた。下に向けた顔を忌々しそうに歪めながら。

勇者パーティーに入れなかった実力不足の女二人は、あれから真面目に修行をしている。治癒士は軽度の怪我を治すことができるし、付与魔術士は防汚の付与ができるようになった。二人とも殊勝な態度で、勇者たちよりも粗末な待遇で文句も言わずに過ごしている。
彼女たちからは、もう少し魔法が使えるようになったら王都を離れて、冒険者ギルドで働きたいとの希望も聞いている。

よりにもよって性格に難有りの人物たちが勇者パーティーだなんて……まあ、扱い易いところが救いか。

「それよりも、問題は勇者様だ……」

あの方は本当に勇者なのか? あの四人でさえ初日に倒せたスライムを未だに倒せない。実力の前に気持ちが弱い。
男は長い王城の廊下を早足で歩く。まだ、やらなければならないことは山程あるのだ。

そのまま仕事に忙殺され、勇者の実力に疑問を持ったことも勇者パーティーたちの不快な態度も、死んでしまった不運な異世界人のこともすっかりと忘れてしまうのだった。
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