異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

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異世界に召喚されました

迷子の子猫の事情と狙う瞳

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ワイバーンの犠牲者仲間であるネコミミくん、本当の名前はセシリオくんはキジトラ柄の猫獣人でまだ十歳の男のです。
異世界にきたら会いたい種族でもある獣人のセシリオくんに、僕のテンションも上がってしまう。
セシリオくんを三六〇度ジロジロと眺め、しなやかなその尻尾を触ろうとしてパチンと猫パンチをもらいました。
あうちっ! でもちょっと嬉しい、なぁんて。

「どうして、ワイバーンに捕まっていたの?」

僕がセシリオくんを見たときには、既にワイバーンに捕まって空を飛んでいたものね?
もしかしてこっちの世界の人は飛行機の代わりにワイバーンに乗って移動するとか?

「そんなわけあるかっ! あいつらは騎獣になる気性じゃねぇよ! 魔獣同士、野生も家畜も生きてるものは何でも喰うし。一匹でも強いのに群れるしな」

けっと吐き捨てるようにそう言うけど、セシリオくんはまだ子どもなのに口が悪いなぁ。
じゃあ、なんでワイバーンに捕まっていたのさ。

「……むぐぐぐ。あいつらは俺の父ちゃんがギルドから依頼されて討伐しようとしていた群れの一匹なんだ……」

急にしょんぼりと落ち込むセシリオくんに、僕は慌てた。
やっばりね、まだ十歳の子どもなんだから、大人の僕がしっかりしてあげないとさ、ダメでしょ?
俯いたセシリオくんの頭を優しく撫でて……あーもふもふの耳、気持ちいー……じゃなかった、慰めてあげなきゃ!

「お腹空いてない? お弁当があるんだ、ご飯食べようよ!」

お腹が空いているときは気持ちが落ち込みやすいからね。昨日泊めてくれた役場のおばあさんが渡してくれたお弁当でも食べて、ゆっくり話してくれればいいと思う。
あれ? もしかして僕の身の上話もしなきゃダメかな? えーっ、異世界から来ましたって信じてもらえるかな?

「……あんた、呑気だな。でも……食べる」

ちょっと照れくさそうに手を差し出すセシリオくんに、お弁当を渡してあげた。
道のど真ん中でご飯食べていたら、通行する人に怒られるかもしれないから、あっちの岩場で座って食べようね。

「むぐっ。俺の父ちゃんは村の人たちと冒険者パーティーを組んでいて、出稼ぎでシエーロの町の冒険者ギルドで活動してたんだ」

セシリオくんたちが住む村はとっても小さくでほぼ自給自足の生活。日用品や不足しているものは近くの大きな町、シエーロの町まで買いにくるそう。

「俺たちの村は山の中腹にあるから、シエーロの町まで来るのも大変なんだ。それに村じゃ物々交換で済むから金を稼ごうと思ったら外に行かないといけないんだ」

食料は賄えているが、冬を越す薪や油、薬とかは他の町で買うことになる。そのときに必要になる金銭は出稼ぎや内職していた物品を売って手に入れている。
セシリオくんのお父さんのパーティーはCランクで、そこそこの魔獣が討伐できる実力があるらしい。

「凄いなぁ……僕、スライムもダメだったのに」

「え……それはお前、ダメすぎるだろう」

あ、十歳の子どもに憐みの目で見られちゃった。

それでセシリオくんがワイバーンに捕まっていた事情とは、Cランクパーティーであるお父さん達がワイバーンの討伐依頼を受けたのが始まりで、前からずっとお父さん達の仕事に同行したかったセシリオくんが内緒でお父さん達に付いて行き、こっそりワイバーンとの戦いを覗いてたら迂闊にも足場から落ち、たまたま落ちたところがワイバーンの背中で、そのまま驚いたワイバーンがお空へフラーイ。
セシリオくんが気が付いたら自分の住んでいた村も、高い山も越えていた。ワイバーンも背中の異物セシリオくんを落としたくて滅茶苦茶な飛行をしていたらしい。
で、とうとうセシリオくんが力尽きて落ちたところに僕がいたと。

「じゃあ内緒で村から出てきたの? 早く帰らないと家族が心配しているよ? おうちはどこなの?」

ちょっとそこまでの範疇を越えているから、家出扱いで探されていると思うよ。僕と会ってから少なくとも一泊は外泊しちゃっているしね。

「村はあそこだ」

くるっと後ろを向いてセシリオくんが指差した場所は……。

「え……ええーっ! あんな高い山のどこに村があるのーっ」

それはワイバーンに捕まって空を飛んでいたときからずっと見えていた、一際高い山だった。
迷子は……ちゃんと親御さんのところまで届けないとダメ……だよねぇ。












商人の馬車から降りてシエーロの町に入る。
ここに凛がいないのはわかっているが、凛に必要なものは売っている。

心配しなくても俺の探査魔法でキャッチしている凛の気配は、中途半端な場所でピタリと止まっていた。
誰だ? いま、凛がチーンとなったと思ったやつ、お前をチーンにしてやろうか?

どうやら凛は朝早くからの移動に疲れて休んでいるらしい。かわいそうに……凛はとってもかわいくて愛らしくて優しくて食べたいぐらい、舐め回したいぐらいかわいいのだが、運動は苦手だった。
今ごろ足を痛めて泣いているかもしれないし、疲労で動けなくなっているかもしれない。
さっきの商人から数種類のポーションはせしめたが、ほかにも足に貼る湿布のような薬草や甘いお菓子、着替えとして柔らかい素材の服や靴を買っていこう。
……俺が凛を頭の天辺から足の先までコーディネートできる……ぐっ、ふふふ、ぐふふふ。
いかんいかん、早く買い物を済ませて凛のところへ急がないと。
凛の近くにちっちゃな小動物がウロチョロしているのが、少し気になるし。

「凛は動物が好きだったからな……」

悠真はなんだか嫌な予感に急に襲われた。
おかしい。このまま凛と感動の再会をして頼るものもいない異世界で、二人っきりのスウィートでワンダフルな新婚生活が始まるはずなのに。
ほんのりピンク色に染まった人生を仲良く過ごす予定なのに、なぜか厄介事の匂いがするような?

悠真はクワッと眉間にシワを刻むと足早に町を出ていくのだった。
その手にしっかりと最上級シルクで作られた薄ーい生地の寝着を握って。












「悠真が死んだ?」

手鏡に映った自分の顔を見つめていた派手な女が、座っていた一人掛けのソファから立ち上がって叫ぶ。

「はぁ~あ? なんで悠真が死んでんだよ」

部屋の隅で長剣の素振りをしていた大柄な男が剣を肩に担いで、部屋の出入り口に佇む男に近づいて威嚇するように怒鳴った。

「……はい。悠真様は皆さまと一緒にパーティーを組むことを希望されたのですが、実力が違い過ぎまして。諦めてもらうために初心者用ダンジョンに別の冒険者パーティーと潜ってもらったのですが、余程怖かったのでしょう。ダンジョン内を逃げまくり単独行動の末、魔獣に……」

男の説明にシーンと静まり返る部屋。しかしそれは一瞬のことだった。

「あはははは。嘘でしょ。そんな間抜けなことってある? あの橘悠真が!」

「ダサッ。ありえないでしょ? 何? そんなに俺たちと一緒にいたかったの? たかがポーター如きがっ。あーははははっ」

部屋は友達の死を笑う傲慢の徒の声で満たされていった。
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