異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

文字の大きさ
上 下
8 / 43
異世界に召喚されました

追いかけても捕まえられるとは限らない

しおりを挟む
自分の口とネコミミくんの口の両方を手で塞いで、木々と岩の間の狭い所に二人分の体をなんとか収めてじっとする。じっと……じっと……する。
落とした僕らを探してワイバーンがバサバサと羽ばたく音がいつまでも聞こえていて、正直怖い。
えーん、早く諦めてどっかに行ってくれ! このまだ若い、もしかしたら子どものワイバーンなら落とした玩具か非常食を探すのに飽きて、どっかに飛び去ってくれる……かも。
じっとして……じっとして……。あー、恐怖で胃がキリキリするぅ。
そして僕の手を外そうとネコミミくんがモゾモゾし始める。やーめーてー、大人しくしていて!
それからどれぐらい時間が経ったのか、口を抑える手が痺れてプルプルしてきた頃、ワイバーンの羽の音が聞こえなくなっていることに気が付いた。
やっと……どっかに行ってくれた……? ぼくたち助かった? あ……ああ、良かったぁ。

「……んっ、んんんーっ、ぷはぁっ」

ぺしっとネコミミくんの口を抑えていた手を軽く叩かれ、振り払われた。イテテッ。

「なに? なにがどうなってんの?」

「それは、僕が訊きたいよーっ。なんで君、ワイバーンに捕まってんの?」

お互い顔を見合わせると、四つん這いになって岩の後ろから這い出た。
岩陰に隠れている間にだいぶ、日が暮れてしまった。
これは早く移動しないとワイバーンと捕まって飛んでいたときに見た人が住む集落の門が閉まってしまうかも。急がなきゃ!

「とにかく、あっちに行こうよ! 安全な所に逃げなきゃ、またワイバーンが来ちゃう」

早く早くとネコミミくんを急かして、ひたすら走って空から見つけた集落へ向かう。
あー、門が閉まるまでに辿り着けますように!











門番している集落の人に怪訝そうに見られたけど、僕の新品ピカピカの冒険者ギルドカードを見せて、ネコミミくんのことは適当に身の上話をしたら……いつかの門兵さんみたいに、目頭を押さえて顔を上に向けながら、集落の中へと入れてくれました。
ラッキー!

ネコミミくんの腕をがっしり掴んで、門番の人が教えてくれた役場へと進む。この集落は大きな街と隣接していて、役場以外は冒険者ギルドも商業ギルドもないし自衛団以外の衛兵はいない小さな村みたいだ。
なので、簡易宿泊所といえば役場になるらしく、門番さんに詳しく話を聞いたらなんと! 素泊まりだけど無料で泊めてもらえるんだって! わーい、嬉しい。ぼくは素泊まりでOKです!
教えてもらった役場はどこからどう見ても普通の家なんだけど……、まあ、いいや。

「すみませーん。旅の冒険者でーす。泊めてくださー……いいぃぃぃ?」

普通の民家に見えるが村の役場の玄関で大きな声で呼びかけると、ガクンと急にネコミミくんの体から力が抜けてその場で蹲ってしまう。
ええぇぇぇーっ! ど、どうしたの?

「あらあら、まあまあ」

家の奥から小柄なおばあちゃんが出てきた。
白い割烹着をきてニコニコ笑って、ネコミミくんの額にシワシワの手を当てる。

「おや、熱があるね? 疲れが出たのかしら? 部屋に案内するから、休ませてあげなさい」

「あ、ありがとうございます」

ぼくはペコリとおばあさんに頭を下げて、よいしょと脱力したネコミミくんの体を持ち上げ……持ち上げ……られないから、腕を僕の肩にまわしてズルズル引きずってなんとか家の中へと運ぶ。
おばあさんは泊らせてくれる部屋に案内して、ぼくが藁ベッドにネコミミくんを寝かせると、パタパタと軽い足音を響かせて部屋を出ていき、水を入れた桶とタオルを持って戻ってきた。
タオルを濡らしてギュッと絞ってネコミミくんの額に乗せる。そこまで熱は高くないけど、赤い頬と苦しそうな眉間の皺が痛々しい。

「はいよ。あんたもちゃんと休みなさい」

「ありがとうごさいます。お世話になります」

おばあさんは、僕のために体を拭くお湯とタオル。夕食と水差しを用意してくれた。ネコミミくん用のスープもある。
あれ? 素泊まりって聞いてたけど……。
うん、ありがとうごさいます! 遠慮なくいただきます。













身体強化を自分にかけながら、ひたすら凛を追いかけていた……そろそろ休まないと体が持たないとわかっていても、走る足を止めることができなかった。

「ん?」

走る足の筋肉がビシッビシッと嫌な音を立て始めたとき、魔力で探っていた凛たちの移動スピードに変化が出る。
多少、ワイバーンの飛ぶ軌道に不規則なことはあったが、ある程度の早さだった移動速度が人が歩くほどのスピードに変わっている。ワイバーンが歩く? いや、ないな。

「凛たちがワイバーンと別行動になったか……?」

凛がワイバーンと別れて移動しているなら、凛の身に起きるだろう最悪のパターンは考えなくていいだろう。
だとしたら、何かアクシデントがあってワイバーンから離れた凛たちが、ワイバーンに再び捕まらないように安全な所を目指して移動していると思われる。

「ふむ」

俺は走る足を止めて、今の凛たちとの距離を見る。そんなに離れてはいない。しばらくすると凛の位置が動かなくなった。安全な所を見つけたのか?
俺は真っ直ぐ進んでいた林を外れて、人や馬車が通る道へと戻った。この道の先に凛がいるのがわかる。
この道の先には、あの一際高い岩山が聳え立つ。その手前に街か村があるのだろうか、高い壁がグルリと囲う集落があるみたいだ。その辺りに凛が居ることを俺の探査魔法は示している。

早足で移動していたが、何人かの冒険者と商人の馬車が野営する場所で足を止めて、少し考える。
こいつら冒険者たちは、あの岩山の前の街に行くのだろう。なのにここで野営するということは……今からだと閉門の時間に間に合わない……か。

「……少し休んで行くか」

無理をすれば、今日中に凛たちと合流できる。
それは閉門している門をこっそり通る必要があるし、身体強化をかけ過ぎた体の負担、最悪筋組織の壊死も有りうる。代償を払っても凛と合流するための移動はしたいが、その後、凛を守る力が失われるのは、些か不安に感じる。
そのため、ここで小休止し朝の開門と同時に街に入り、凛を捕まえる。

「よし、そうしよう」

俺は無限収納からテントを出し素早く組み立て、火魔法で火を熾しお湯を沸かし、どこかの街で買った屋台の食事を並べる。
凛……もう少しで会えるから、待っててね。
悠真は凛と再会するシーンを妄想し、うっすらと頬をピンクに染めながら肉串にガブリと齧りついた。








「っくし」

あれ? 僕も体調崩しちゃったかな? ご飯も食べたし温かいお湯で湿らしたタオルで体も拭いた。
ネコミミくんにもなんとかスープを飲ませて薬湯もあげたし。
体調が悪くなる前に、もう寝ちゃおう。
ネコミミくんと話すのは明日でいいよね?

「うーん、とうしようかな……」

体を拭いて下着は毎日洗ってるんだけど……。人様の家で寝るのに今日も下着なしのすっぽんぽんはちょっと……恥ずかしい? 申し訳ない?

「今日は、しょうがないかー」

気持ち悪いけど、このまま寝ちゃおう。
あー、いつかお風呂にゆっくり入れたらいいなー。この世界に温泉があったらいいなー。
ゴソゴソとベッドに潜って、瞼を閉じる凛だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...