異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>

緒沢 利乃

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異世界に召喚されました

再会は突然に……作為的に?!

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おはようございます。
多分、勇者召喚に巻き込まれたモブの役、桜川凛です。
この異世界ではファミリーネームを持っている人は貴族とかの一握りの人だけだそうで、僕は「リン」とだけ名乗っています。

異世界生活も三日目です。
昨日は、街の外に出るのが怖かったので街の中のお手伝い依頼をこなしました。
おばあちゃんと一緒に畑仕事をしたり、おじさんと一緒に店番したり、失敗もしちゃったけど楽しかったです!
でも、報酬は安くて朝晩のご飯と自分専用のナイフと革袋を買ったらあんまり手元に残らなくて……、替えの下着をまた買えませんでした。
あぅあぅ。
昨日も裸で寝なきゃいけない事態になり、よく眠れませんでした。
今日こそは、薬草採取の依頼で報酬をもらって新しい下着を買います!

ギルドのお姉さんたちに朝の挨拶をして、ついでに美味しい屋台のお店も教えてもらって、いざ出発。
門を出る途中で、朝ご飯のサンドイッチとスープ、果実水を買って、街の東側はスライムと会った場所だから、反対の西側に向かって進みます。
薬草は低級ポーションの材料、ララギ草。
この薬草は雑草なみに繁殖力が強くてどこにでも生えている。
そして、今日の採取目標、クルル草は毒消しポーションの材料で日陰に生えている薬草なんだって。
街の西側には高い物見塔があって暗くてジメジメしているから、クルル草の群生地になっている。
同じ場所にララギ草も生えてるから丁度いいよね。

トコトコ歩いて、途中大きめな岩に座って朝ご飯食べて、またトコトコ歩いて、やってきましたクルル草の群生地。
ギルドのお姉さんにもらった薬草の絵を見ながら採取していきます。
ララギ草は十本ずつ、クルル草は五本ずつにして束ねていく。
クルル草は根付きじゃないと価値がないらしいから、拾った木の枝でゴリゴリ土を掘りながら採取、採取。
あー、やっぱり中腰って疲れるよね。










まだ太陽が昇りきらないうちに、乗合馬車の始発は出発する。
意外と乗客は多いが、悠真は深くローブを被り顔を隠して奥の座席に座った。
馬車が動き出し街から離れるまでしばらくじっと身じろぎもせずに待つ。
……もう、そろそいいか。
悠真は目を瞑り、意識を集中させていく。
凛を探すための「探査魔法」だ。
感覚としては、自分の魔力を薄く極弱くレーダーのように広げていく。
ただし王都の方向は除外するので、円形ではなく扇形に広げていく。
王都を挟んで反対側に凛が居たら意味がないが、凛の反応がなかったら王都を迂回して「探査魔法」を使えばいい、けど……面倒だな……いっそ、遮蔽物を全て潰すか……。
魔法を行使しながら効率重視で王都周辺を更地に帰る企てを頭に一瞬浮かべる魔王・悠真。
そんなヤバい声が聞こえた神様が融通したのか、魔力を広げてすぐに凛の反応があった。
俯けていた顔をガバッと上げて、反応があった正面を見つめる。

……いた、わりと近い。
凛……。
悠真は腰に下げている小さな鞄から、一枚のわりと大きめな紙を広げる。
王都で手に入れた簡易な地図で、乗合馬車のルートが記されいる路線図みたいなものだ。
……次に停まるのは、小さな農村。
その次はやや人の多い街だな。
この街から乗合馬車は複数ルート発着しているのを考えると、大きな街らしい。
そして……その街に凛の反応があった。











今日は順調だなぁ。
ララギ草もクルル草も予想以上に採取できた。
下着以外にも必要なもの買えちゃうかも。

ウキウキした気分そのままに軽い足取りで街へ戻る僕。
しかも、今日は冒険者ギルドで初心者用の魔法講座があるのだ。
生活魔法ぐらいは使えないと不便なので、どうしても魔法を使いたい僕は参加することを前から決めていた。
無料タダだし。無料タダだーしー。
異世界人なのでそもそも魔力があるかどうかわからないけど、でも異世界転移した人たちって魔力強いし、僕にも少しぐらいあるよね? 魔力。

「よぉ、坊主。ご機嫌だな?」

荷馬車の馭者のおじさんから声をかけられた。
あれ? そんなに浮かれてたかな……と、ちょっと照れながらおじさんに応える。

「薬草のが思ったより取れたので、嬉しくて」

「ほぉ、それはよかった。どうだ、街まで乗っていくか?」

「えぇーっ、いいんですか? ぜひ、お願いします」

サバイバル生活に備えるためいっぱい歩いて体力つけなきゃ、という目標をサクッと無視して、凛は荷台の方へ足を向けた。
そこに……そこに……。

「ぁわわわわぁぁっ!」

叢にピョコンと飛び出した長い耳。
それが目に映った瞬間、足から力が抜けて尻餅をつき、叫び声が喉から出た。

ひぃーっ、ま、魔獣が……魔獣が出ーたーっ! とズリズリお尻で後ろに逃げようとしている凛の横をおじさんが通り過ぎて……叢から出ている獣の長い両耳を片手で掴む→上に持ち上げる→兎ちゃんこんにちは→持っていた鉈で首をザシュッ→哀れ兎絶命。血がダラダラスプラッター劇場。

「うん、今日は兎肉のシチューだな」

おじさんはとってもいい笑顔で振り向いた。
手には血だらけ兎。
凛くん涙目でプルプル震えてます。

荷台に乗りガタゴト揺られながら街へ戻る凛。
さっきまでの上機嫌はどこへやら。
体育座りで小さくなりながら、えぐえぐ泣いてます。
……怖いよーっ。
鉈で兎の首チョンパなんて……夢に出てきちゃうよー。
えぐえぐ。











悠真はそのまま乗合馬車に乗って凛のいる街に移動することはなく、停車場の村に着いて馬車を降りて歩いて凛のいる街を目指していた。
乗合馬車では危険な森を迂回して通るため、街に着くのが夕方になると言われ我慢ができなかったのだ。
歩いていけば夕方どころか夜になっても着かないのだが、悠真は村を出て人目が無くなった所で「身体強化」「認識阻害・強」を行使し、街に向かって爆走した。

頭の中は「凛凛凛凛凛凛……凛凛凛……」と凛のことでいっぱいだった。
森を迂回することなく直進すると、案の定魔獣が幾度も襲ってきたが、足を止めることなくズバズバと倒していく。
最初は倒した魔獣を放っておくつもりだったが、「無限収納」に収めて冒険者ギルドで換金することにした。
……凛に貢がなきゃいけないしな。金はいくらあっても邪魔にはならない……。
恐ろしいスピードで街に着くと、凛とは違いスムーズに門を通り、魔獣の換金のため冒険者ギルドに向かう。
凛がこの街にいることは間違いないが、ピンポイントで場所はわからない。とりあえずギルドで倒した魔獣を換金したあと、人探しの依頼でも出すか……。

無意識に冒険者ギルドの扉を開け、スタタタタと受付に向かって真っすぐに歩き「買い取りお願いします」と自分のギルドカード(偽名)をサッと出す。

「あ、はい。少々お待ちください」

あまりの勢いに笑顔を忘れた受付のお姉さんが、ギルドカードを確認しようと手を伸ばした。

その日、採取した薬草の換金にギルドを訪れる凛の姿を見ることはなかった。
その代わり不愛想な冒険者と、助けを求めて慌ててギルドに飛び込んできた荷馬車の馭者の姿があったという。
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