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異世界に召喚されました
近くて遠い幼馴染と異世界へ
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「ゆ、悠真。ちょっと、どこ触ってんの……」
「だって、凛。お尻痛いでしょ。あの馬車の椅子、固すぎだよ。凛の可愛いお尻が腫れちゃうよ」
さすさす。さすさす……からの、もみもみ。
「い、いいよ。大丈夫だから。痛くないから」
バッとお尻を両手で庇いながら、さりげなく悠真と距離をとる。
「そう?」
不思議そうな顔でコテンと首を傾げた後、僕に右手を差し出して、
「じゃあ、行こうか」
「うん」
ちょっと照れながら、僕も手を出して。ギュッと握られて、見知らぬ町の中へ二人で歩き出した。
悠真と手を繋いで歩いてるなんて、信じられない。僕らはいわゆる幼馴染だ。幼稚園で出会ってからずっと同じ学校。でも……仲が良かったのは小学校高学年までだった。
毎日会って、遊んで、手を繋いで、笑いあって……。なのに、段々悠真と僕は離れていった。会う日が段々少なくなっていって、言葉も交わさなくなって、視線も合わなくなった。
寂しかった。悲しかった。でも、なんとなくわかってた。僕と悠真じゃ、釣り合わないって。
僕はいつまでも背が伸びなくて童顔で臆病で。悠真は、スクスク成長して勉強もスポーツもなんでも完璧にできて、すごく格好よくて。
僕から悠真と離れようって決心して、中学は私立の中高一貫校に入った。驚いたのは、もっと有名な難関私立中学に進むと思った悠真がいたこと。今度こそはと、高校は別の私立大付属高校に進んだら、やっぱり悠真がいて……。
高校を卒業して、ようやく僕たちは離れられるはずだった。進学する大学は別々だったから。僕はそのまま付属大学へ。悠真は誰もが知っている国立大学へ。悠真の家族は皆、その大学出身だから他の大学には進めなかったのだろう。
悠真の家は、世界的にも有名な某大企業の創業一族で資産家だ。悠真はその跡取り候補。僕は、一応父親は上場企業の社長だけど、悠真と比べると大したことないし。
僕たちの最後の日。高校の卒業式。その日にあの事件は起きた。
卒業式が終わって、だいぶ時間が過ぎた頃。卒業生や在校生で賑わっていた昇降口や校門も、人が疎らになったのが教室の窓から確認ができる。
よし、そろそろ帰ろう。
鞄を持って、席を立つ。僕自身はそのまま付属の大学に進むし、友人のほとんども同じ大学だから、あんまり卒業って実感が湧かない。
教室の後ろの扉から静かに出ようと向かうと、けたたましい騒ぎ声が耳に刺さった。
その声の方向に目を向けると、この学校で有名な人たちがいた。その人たちの中心には、僕の幼馴染がいる。
橘 悠真。
背が高いから集団の中にいても目立つんだよね。少し長めの漆黒の髪と切れ長の瞳。筋の通った高い鼻に薄い唇。ハッと目を惹く美貌。クールな容貌がミステリアスで男女共に人気が高い。
しかも外見だけじゃなくて、成績は学年でもトップクラスでスポーツもだいたい好成績。声も耳に響く低音で、歌も上手い。芸術的才能もある。こんな完璧な人がいるのかと思うその人が、僕の幼馴染だ。
まぁ、もう何年も話したことないし、目が合ったこともないけど、ね。
その幼馴染の周りには、モデルをしていると噂の派手な女子生徒と、アイドルデビュー間近だという男子生徒、スポーツ特待生の男子生徒と、学年一位の秀才の女子生徒。この四人はいつも悠真と一緒にいる。その周りにこのクラスの委員長だった男子生徒と、他のクラスの子かな? 見覚えのない二人の女子生徒が侍っていた。
うーん、あの集団と同じタイミングで帰るのは気まずいなぁ。
もう少し、教室で時間を潰そうかと思った瞬間にそれは起きた。
「えっ?」
足元がぼんやり淡く光った。その光が幾筋にもなって、文字を作り、複雑な形を作り始める。
オタク趣味のある僕は、「魔法陣?」と呟く。
その魔法陣モドキは悠真を中心に、その集団を囲み、ギリギリ僕の足元まで広がって。
え、このままだと、僕……異世界召喚とかされちゃう?
あわてて、魔法陣から外れようと足を動かそうとした……けど……。
このまま、異世界に行ったら……悠真とまた仲良くなれるかも。だって、同じ世界から異世界に行く数少ない一人だもん。また、一緒に……。
その一瞬の迷いが、僕の運命を決めてしまった。
あっ、と気づいたら、世界は真っ暗に塗り潰されていて、足元の魔法陣だけがキラキラと輝いていた。
そして、悠真がこちらを、僕を見た?
ドキッとした。
パニックになって、悠真の視線から逃げるように顔を背けて目を瞑ったら――
ドンッ!
誰かに肩を押された。その衝撃で僕の体の重心が傾いて、魔法陣から足を踏み外してしまう。
そして……、そして、僕は一人、漆黒の闇に堕ちていく。
堕ちていく僕を悠真がずっと……見ていた。その手を僕に伸ばそうとして。
ええっーっ、異世界で僕、ひとりボッチ?
それは、ヤダーッ!!
神様、助けてーっ!
「だって、凛。お尻痛いでしょ。あの馬車の椅子、固すぎだよ。凛の可愛いお尻が腫れちゃうよ」
さすさす。さすさす……からの、もみもみ。
「い、いいよ。大丈夫だから。痛くないから」
バッとお尻を両手で庇いながら、さりげなく悠真と距離をとる。
「そう?」
不思議そうな顔でコテンと首を傾げた後、僕に右手を差し出して、
「じゃあ、行こうか」
「うん」
ちょっと照れながら、僕も手を出して。ギュッと握られて、見知らぬ町の中へ二人で歩き出した。
悠真と手を繋いで歩いてるなんて、信じられない。僕らはいわゆる幼馴染だ。幼稚園で出会ってからずっと同じ学校。でも……仲が良かったのは小学校高学年までだった。
毎日会って、遊んで、手を繋いで、笑いあって……。なのに、段々悠真と僕は離れていった。会う日が段々少なくなっていって、言葉も交わさなくなって、視線も合わなくなった。
寂しかった。悲しかった。でも、なんとなくわかってた。僕と悠真じゃ、釣り合わないって。
僕はいつまでも背が伸びなくて童顔で臆病で。悠真は、スクスク成長して勉強もスポーツもなんでも完璧にできて、すごく格好よくて。
僕から悠真と離れようって決心して、中学は私立の中高一貫校に入った。驚いたのは、もっと有名な難関私立中学に進むと思った悠真がいたこと。今度こそはと、高校は別の私立大付属高校に進んだら、やっぱり悠真がいて……。
高校を卒業して、ようやく僕たちは離れられるはずだった。進学する大学は別々だったから。僕はそのまま付属大学へ。悠真は誰もが知っている国立大学へ。悠真の家族は皆、その大学出身だから他の大学には進めなかったのだろう。
悠真の家は、世界的にも有名な某大企業の創業一族で資産家だ。悠真はその跡取り候補。僕は、一応父親は上場企業の社長だけど、悠真と比べると大したことないし。
僕たちの最後の日。高校の卒業式。その日にあの事件は起きた。
卒業式が終わって、だいぶ時間が過ぎた頃。卒業生や在校生で賑わっていた昇降口や校門も、人が疎らになったのが教室の窓から確認ができる。
よし、そろそろ帰ろう。
鞄を持って、席を立つ。僕自身はそのまま付属の大学に進むし、友人のほとんども同じ大学だから、あんまり卒業って実感が湧かない。
教室の後ろの扉から静かに出ようと向かうと、けたたましい騒ぎ声が耳に刺さった。
その声の方向に目を向けると、この学校で有名な人たちがいた。その人たちの中心には、僕の幼馴染がいる。
橘 悠真。
背が高いから集団の中にいても目立つんだよね。少し長めの漆黒の髪と切れ長の瞳。筋の通った高い鼻に薄い唇。ハッと目を惹く美貌。クールな容貌がミステリアスで男女共に人気が高い。
しかも外見だけじゃなくて、成績は学年でもトップクラスでスポーツもだいたい好成績。声も耳に響く低音で、歌も上手い。芸術的才能もある。こんな完璧な人がいるのかと思うその人が、僕の幼馴染だ。
まぁ、もう何年も話したことないし、目が合ったこともないけど、ね。
その幼馴染の周りには、モデルをしていると噂の派手な女子生徒と、アイドルデビュー間近だという男子生徒、スポーツ特待生の男子生徒と、学年一位の秀才の女子生徒。この四人はいつも悠真と一緒にいる。その周りにこのクラスの委員長だった男子生徒と、他のクラスの子かな? 見覚えのない二人の女子生徒が侍っていた。
うーん、あの集団と同じタイミングで帰るのは気まずいなぁ。
もう少し、教室で時間を潰そうかと思った瞬間にそれは起きた。
「えっ?」
足元がぼんやり淡く光った。その光が幾筋にもなって、文字を作り、複雑な形を作り始める。
オタク趣味のある僕は、「魔法陣?」と呟く。
その魔法陣モドキは悠真を中心に、その集団を囲み、ギリギリ僕の足元まで広がって。
え、このままだと、僕……異世界召喚とかされちゃう?
あわてて、魔法陣から外れようと足を動かそうとした……けど……。
このまま、異世界に行ったら……悠真とまた仲良くなれるかも。だって、同じ世界から異世界に行く数少ない一人だもん。また、一緒に……。
その一瞬の迷いが、僕の運命を決めてしまった。
あっ、と気づいたら、世界は真っ暗に塗り潰されていて、足元の魔法陣だけがキラキラと輝いていた。
そして、悠真がこちらを、僕を見た?
ドキッとした。
パニックになって、悠真の視線から逃げるように顔を背けて目を瞑ったら――
ドンッ!
誰かに肩を押された。その衝撃で僕の体の重心が傾いて、魔法陣から足を踏み外してしまう。
そして……、そして、僕は一人、漆黒の闇に堕ちていく。
堕ちていく僕を悠真がずっと……見ていた。その手を僕に伸ばそうとして。
ええっーっ、異世界で僕、ひとりボッチ?
それは、ヤダーッ!!
神様、助けてーっ!
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