13 / 14
百合の匂いに誘われて
出発前夜
しおりを挟む
神の庭にて異世界の常識を学ぶこと、約半月。
ここでも一ヶ月は三十日単位で、一週間は七日間だったので、時間や日にちの感覚に惑うこともなく、健やかに過ごせましたよ。
あれからサハラーン国の人とは、ユリウス殿下以外とは会ってません。
大神官の爺ちゃんたちから俺との接見禁止を喰らって、殿下の護衛と数人の重臣を残して自国に戻ったらしい。
いいよ、別に。俺も会いたくないし。
大神官の爺ちゃんやツバキさんとのやりとりで、正しい神子と聖痕者の関係を把握した俺は、サハラーン国の人々が間違った知識を持っていることに驚いた。
例のニコライ君が教えてくれた「神に愛された聖痕者」というのは間違いで、「神に愛された神子」が正しい。
神子召喚は「神子召喚」で「伴侶召喚」なんて認識はない。
聖痕者は神子を召喚する民の代表者であって、その人となりは素晴らしい者が選ばれているが、特に神様に愛されたであろう能力は持っていない。
「つまり、聖痕者の存在が神子召喚の可能性を知らしめるものであり、召喚したあとは別に使命もご褒美もないってこと?」
「そうですな。まあ、相性はいいですから、神子様と縁が結べるのが最大のご褒美になりますな。フォフォフォ」
爺ちゃん。それはユリウス殿下の場合、可愛い女の子の神子さんが召喚されたらでしょ? 骨張った男じゃ罰ゲームでしょ。
「うーん。サハラーン国がいい国なら俺が滞在して、神様の恩恵を与えることができるんだけどな……」
「無理ですな!」
爺ちゃん、言い切るなよ。
サハラーン国に神子が召喚されて過ごしたのは、もう遥か昔のこと。
長い間、神子不在だったから、サハラーン国の人たちには間違った認識が蔓延っている……らしい。
「神子が国を豊にする贄のように考えられているとか嫌だしなーっ。あいつら俺の事奴隷のように扱いそうだし」
聖痕者と結婚しても子供が産めないと思われているから、俺に対する態度がさらに悪化しているしな。
「サハラーン国では神の罰が日常的に起こり、ある意味信仰心は最大級に増してる状態ですが、神子様より聖痕者を貴ぶ気質はすぐには正せませんし。本当に行かれるのですか?」
「うん。ずるずるとここに居ても状況は変わらないしね。俺がサハラーン国に行かないとユリウス殿下も帰国できないでしょ? 行ってすぐに帰ってくるよ」
「そうですな。本来聖痕者の国に赴かれるときは、その国の兵たちが同行するのですが、ルイ様の場合は彼の国の兵では障りがありますので、ナリヒサたち神兵とツバキたち侍女もこちらで用意いたします」
「お願いします」
いや、マジで。
ツバキさんたちとナリヒサさんたちが居てくれると、俺の精神が安定する。
ユリウス殿下は俺に酷いことはしないだろうけど、サハラーン国の奴等は信用できない。
あと、ツバキさんに例の「虹の百合茶」を作って飲ましてもらわないと、Ωの俺が困る。
そう、とうとう神子召喚されて異世界に来た俺は、神の庭を出てサハラーン国に旅立つのだ!
あー、めんどい。
今日も月は綺麗だな。
ユリウス殿下と会った満月ではなく、今日の月はあれから欠けに欠け、細っい三日月に姿を変えている。
「やっほ!」
「……またですか」
眉を顰めて俺を見るけど、あんただって夜に一人で庭に出ているじゃないか。
「いよいよ、出発だな」
「ルイ様には感謝します。我が国の者たちは不快な態度が多かったのにサハラーン国に訪れてくださる。……命に代えてもお守りします」
「固いなーっ。守ってくれるのは嬉しいけど、神兵隊長のナリヒサさんも同行するし、行って挨拶したらすぐにここに帰る予定だから」
「はい。わかっております」
そんな大型犬が叱られたみたいに、しょんもりしないでよ。
この男、恐ろしいほどの美形で神がかりな造形なのに、ちょっと仕草が可愛いのが困る。
「サハラーン国がいいところなら、また行くけど。俺も自分のことが大事なんでな。特に異世界から来たから、この世界に愛着も責任もない。サハラーン国が俺にとって永住するのに値しなければ、住まない。例えそれで苦しむ民がいても、俺はそのことに関与しない」
冷たい声で宣言する。
俺はそんなにお人好しじゃないから。
神罰を受けている民を救いたいなら、その原因を取り除けばいい。
その膿を残したまま、神子を迎えても意味はないと俺は思う。
でも、ユリウス殿下にとっては親のことだし、弟のことだもんな。
「ルイ様はルイ様のよろしいように。私も……覚悟は決めていますから」
悲しい微笑み。そんな風に笑うなよ。
そっとユリウス殿下の頬に手を当てて。
「いいか。俺はあんたの敵じゃない。使いようによっては俺は最大の味方になるはずだ。俺の使いどころを間違えるなよ!」
ついでに頬をぎゅっと抓ってやる。
「それは……」
「じゃあな。ユリウス殿下も早く寝なよ」
俺はパッとユリウス殿下から体を離し、小走りに自分の部屋へと戻る。
サハラーン国へは明日、出発だ!
ここでも一ヶ月は三十日単位で、一週間は七日間だったので、時間や日にちの感覚に惑うこともなく、健やかに過ごせましたよ。
あれからサハラーン国の人とは、ユリウス殿下以外とは会ってません。
大神官の爺ちゃんたちから俺との接見禁止を喰らって、殿下の護衛と数人の重臣を残して自国に戻ったらしい。
いいよ、別に。俺も会いたくないし。
大神官の爺ちゃんやツバキさんとのやりとりで、正しい神子と聖痕者の関係を把握した俺は、サハラーン国の人々が間違った知識を持っていることに驚いた。
例のニコライ君が教えてくれた「神に愛された聖痕者」というのは間違いで、「神に愛された神子」が正しい。
神子召喚は「神子召喚」で「伴侶召喚」なんて認識はない。
聖痕者は神子を召喚する民の代表者であって、その人となりは素晴らしい者が選ばれているが、特に神様に愛されたであろう能力は持っていない。
「つまり、聖痕者の存在が神子召喚の可能性を知らしめるものであり、召喚したあとは別に使命もご褒美もないってこと?」
「そうですな。まあ、相性はいいですから、神子様と縁が結べるのが最大のご褒美になりますな。フォフォフォ」
爺ちゃん。それはユリウス殿下の場合、可愛い女の子の神子さんが召喚されたらでしょ? 骨張った男じゃ罰ゲームでしょ。
「うーん。サハラーン国がいい国なら俺が滞在して、神様の恩恵を与えることができるんだけどな……」
「無理ですな!」
爺ちゃん、言い切るなよ。
サハラーン国に神子が召喚されて過ごしたのは、もう遥か昔のこと。
長い間、神子不在だったから、サハラーン国の人たちには間違った認識が蔓延っている……らしい。
「神子が国を豊にする贄のように考えられているとか嫌だしなーっ。あいつら俺の事奴隷のように扱いそうだし」
聖痕者と結婚しても子供が産めないと思われているから、俺に対する態度がさらに悪化しているしな。
「サハラーン国では神の罰が日常的に起こり、ある意味信仰心は最大級に増してる状態ですが、神子様より聖痕者を貴ぶ気質はすぐには正せませんし。本当に行かれるのですか?」
「うん。ずるずるとここに居ても状況は変わらないしね。俺がサハラーン国に行かないとユリウス殿下も帰国できないでしょ? 行ってすぐに帰ってくるよ」
「そうですな。本来聖痕者の国に赴かれるときは、その国の兵たちが同行するのですが、ルイ様の場合は彼の国の兵では障りがありますので、ナリヒサたち神兵とツバキたち侍女もこちらで用意いたします」
「お願いします」
いや、マジで。
ツバキさんたちとナリヒサさんたちが居てくれると、俺の精神が安定する。
ユリウス殿下は俺に酷いことはしないだろうけど、サハラーン国の奴等は信用できない。
あと、ツバキさんに例の「虹の百合茶」を作って飲ましてもらわないと、Ωの俺が困る。
そう、とうとう神子召喚されて異世界に来た俺は、神の庭を出てサハラーン国に旅立つのだ!
あー、めんどい。
今日も月は綺麗だな。
ユリウス殿下と会った満月ではなく、今日の月はあれから欠けに欠け、細っい三日月に姿を変えている。
「やっほ!」
「……またですか」
眉を顰めて俺を見るけど、あんただって夜に一人で庭に出ているじゃないか。
「いよいよ、出発だな」
「ルイ様には感謝します。我が国の者たちは不快な態度が多かったのにサハラーン国に訪れてくださる。……命に代えてもお守りします」
「固いなーっ。守ってくれるのは嬉しいけど、神兵隊長のナリヒサさんも同行するし、行って挨拶したらすぐにここに帰る予定だから」
「はい。わかっております」
そんな大型犬が叱られたみたいに、しょんもりしないでよ。
この男、恐ろしいほどの美形で神がかりな造形なのに、ちょっと仕草が可愛いのが困る。
「サハラーン国がいいところなら、また行くけど。俺も自分のことが大事なんでな。特に異世界から来たから、この世界に愛着も責任もない。サハラーン国が俺にとって永住するのに値しなければ、住まない。例えそれで苦しむ民がいても、俺はそのことに関与しない」
冷たい声で宣言する。
俺はそんなにお人好しじゃないから。
神罰を受けている民を救いたいなら、その原因を取り除けばいい。
その膿を残したまま、神子を迎えても意味はないと俺は思う。
でも、ユリウス殿下にとっては親のことだし、弟のことだもんな。
「ルイ様はルイ様のよろしいように。私も……覚悟は決めていますから」
悲しい微笑み。そんな風に笑うなよ。
そっとユリウス殿下の頬に手を当てて。
「いいか。俺はあんたの敵じゃない。使いようによっては俺は最大の味方になるはずだ。俺の使いどころを間違えるなよ!」
ついでに頬をぎゅっと抓ってやる。
「それは……」
「じゃあな。ユリウス殿下も早く寝なよ」
俺はパッとユリウス殿下から体を離し、小走りに自分の部屋へと戻る。
サハラーン国へは明日、出発だ!
50
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる