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百合の匂いに誘われて

サハラーン国の事情

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ユリウス殿下のお付きの人たちの暴言で、神官のナリヒサさんたちと侍女のツバキさんたちが怒りまくって、部屋の温度が絶対零度になりました。
おー、ぶるぶる。

ユリウス殿下を土下座から立たせて改めてソファーに座らせたけど、そんな状態で話が弾むわけでもなくお互い紅茶を一杯飲んだだけでお開きとなった。
サハラーン国のこととか、何も聞くことができなかったよ。

ユリウス殿下にボコボコにされた付き人を、部屋から引き摺りだして捨ててきたナリヒサさんが、とっても怖い顔で進言してきた。

「大神官様に申し出て、サハラーン国の連中を追い出しましょう! あんな奴らの国なんかに行ったら、ルイ様が害されますよ!」
「ええ、まったく。素行が悪く頭も残念なのは弟王子だけかと思えば、あの国全体が残念なんですわ! きっと!」

ナリヒサさんとツバキさんが、プリプリ怒っています。

うーん、俺もなぁ、神子と称えられていても中身はフツーの男なので、マウント取ってくるおっさんばっかりの国に行くのは、気が進まない。
しかし、まだサハラーン国を「悪」と判断するには、情報が足りない。
なので、お勉強をしましょう。

「ねえねえ、ナリヒサさん、ツバキさん。サハラーン国ってどんなところ? 王族関係の人ってどんな人?」

百パー好奇心で質問してますよ? という笑顔で、問いかける。
途端、ぐっと言葉に詰まる二人。
なんだ? なんだ?

「どうしたの? サハラーン国って何か問題でも?」

二人が顔を見合わせて、お互い何かを押し付け合うような無言の攻防を繰り広げている。
えっ、なに? マジで何かあんの? あの国?

「こほん。わたくしたちも人の噂でしか知りませんが……」

二人で押し付け合いしたあと、ツバキさんがめちゃくちゃ話したくなさそうに、教えてくれた。
でも、侍女ネットワークの噂って、もうどこの国の諜報機関より詳しいゴシップじゃないの?
俺は、居住まいを正して、神妙にツバキさんの話を聞いた。
で、なんじゃ、そりゃって思った。

渋っーい顔してツバキさんを見るとこくんと頷かれ、後ろに控えているナリヒサさんを見ると、すうーっと顔を背けられた。
はぁーっ。

まず、ユリウス殿下はサハラーン国の第一王子で王太子である。
古参貴族や兵士たち、国民の皆さんに、抜群に人気の高い王子であるそうだ。
幼い頃に右肩に羽を広げた鷹の痣、聖痕が肌に浮かび上がり、聖痕者として認知された。
そして、あの猪突猛進バカ王子は異母弟になるらしい。

ここで、問題そのいち。
この世界ってば、たとえ王様であっても、一夫一妻制度が宗教上決められている。
側妃、愛妾、愛人、浮気はタブー!
法律的にもそうだし、宗教上もタブー!
実際、宗教裁判で有罪となれば、その後の生活に支障が出るレベルの厳罰が下る。
何度も言うが、たとえ王様でも、だ。
でも、死別した場合の再婚だけでなく、普通に性格の不一致とかの理由でも離婚ができ、再婚も許されているので、順番を守りましょうね、ぐらいの縛りらしい。

な・の・に、サハラーン国の現王は、ユリウス殿下の母上である王妃が存命中で絶賛婚姻中に、浮気した。
しかも、貴族の娘とか城の侍女とかじゃなく、王都の娼館のナンバー1・娼婦と。
周りの側近たちは「遊び?」と思っていたらしいが、子供ができて城に召し上げて側妃に、第二妃にすると、王様が勅命を発して大騒ぎ。

宗教裁判や神官たちの忠言もまるっと無視して、お腹の大きくなっ第二妃を城の奥宮に迎えて、それ以降政務はほどほどに、キャッキャ、ウフウフと過ごしているんだって。

滞った政務は王妃様が寝食削って行い、ユリウス殿下が成長されたらその母を手伝い、そして人手が増えたからって、増々王様は愛人と引き籠り生活をしてって……悪循環。
だから、サハラーン国の国民は、現王と第二妃と弟王子が大嫌い。人気はゼロ……つーか、マイナス?

なのに、そいつらと追従する悪者貴族たちは、あの弟王子を次王へと画策している。
へ? バカなの? サハラーン国の人って。
正統な血筋な第一王子で、誰もが認める王太子で、神に選ばれた聖痕者のユリウス殿下を差し置いて、王位を狙うなんて?

「なので、あの国の日照りや不作。天候不順や頻繁に起こる砂嵐など、神の意思に背いた現王と第二妃と許されざる第二王子への神罰と、言われています」
「だから、あの国は、何かなんでも神子様を自国に迎えて、神の機嫌を取りたいのですよ。その思想こそが不敬極まりないというのに」

おー、二人が辛辣です。

でも、そっかー、いろいろと問題のある癖の強い人が居そうな国ですな……。
ただ、そんな生い立ちなのに、なんであのバカ弟王子の奴、兄のユリウス殿下に対して、ブラコン丸出しなんだろう?

俺は、首を捻ってしばらく考えたが、答えは出そうもなかった。




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