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百合の匂いに誘われて
とうとう出会う
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俺の目の前には、皿に置かれた虹色の百合が一輪。
これを食べるのか? どうやって?
小一時間ぐらい腕を組んで考えていると、ツバキさんが遠慮がちに声をかけてきた。
挙動不審な神子ですまない。
一人で考えても答えが出そうにないので、ツバキさんも巻き込もう。
「これ……、薬代わりにしたいんだけど……」
「ルイ様……ご病気だったのですか?」
さあーっと面白いぐらい青褪めるツバキさんに、俺は慌てて両手を振って否定する。
「ちがう、ちがう。えーと、俺の世界では皆が飲んでいる……え、栄養剤? みたいな? その代用品を願ったら、コレが……」
俺の苦しい言い訳に、胸に手を当ててふうーっと息を吐き笑顔を見せるツバキさん。
「栄養剤ですか。そうですね、ルイ様にとってはこの世界で手に入れることのできない物は多々ありますものね。この花を薬にするとしたら、乾燥させて……」
「できるだけ、早く作りたいんだけど……」
「では、まずお茶にしてみますか?ハーブティーのように」
ハーブティー。
その発想はなかったな。
でも、花茶ってわりと人気のあるお茶だったし……、いいかも。
「試しに作ってもらって、良さそうだったらいっぱい作ってもらおうか」
「そうですね。でもそうなると……百合の間だけに咲いているのは……」
あ、そうか。
あの部屋は俺しか自由に入れないもんね。
じゃあ、あの花が咲いている土ごと植え替えるか……。
その点も大神官の爺ちゃんに確認してもらうとして、ツバキさんに虹色の百合を渡してお茶を作ってもらう。
これが上手くいけば、とりあえずの憂いは晴れるんだけどなー、と淹れてもらった紅茶を一口飲んで、焼き菓子に手を伸ばす。
「ルイ様」
「んあ?」
口に焼き菓子を頬張ったまま、ナリヒサさんに顔を向けた。
なんか、苦ばしった顔をしているけど、俺……なんかした?
「先ほど、サハラーン国から面会の申し出がありました」
「へ? あの国の人は俺への接見禁止になったんじゃないの?」
神子への不敬罪とやらで、あのバカ王子はサハラーン国へ強制送還されたと聞いた。
他にもサハラーン国の重役さんが来ているらしいが、俺との接見は禁止。
神子の庭の立場としては「はよ、帰れ!」らしい。
「それが……。サハラーン国の王太子。つまり。聖痕者様からの申し出ですので……」
「あ、忘れてた」
俺の無責任な言葉に、ナリヒサさんたち神兵は苦笑した。
そうだよ。
聖痕者様とまだちゃんと会ってないじゃん。
いやいや、あのバカ王子の兄だと思うと積極的に会いたいとは思わないけど、強制的に最悪結婚するという縛りがないとわかったのだから、軽い気持ちで挨拶ぐらいはしとかないとね。
サハラーン国へ行くまでには、せめて聖痕者とはそれなりに知己を結んでおきたい。
「いいよ。会う。いつかな?」
「こちらの都合でよろしいのですよ。あちらが合わせるべきことですから」
おおう、そうでした。俺、神子様で偉いんでした。
でも、別に俺に都合なんてあるわけない。
「じゃあ、ツバキさんたちの用意ができるなら、明日でもいいよ」
「かしこまりました。では、あとでツバキと話し合い時間を決めましょう」
「ん。よろしく」
俺はもうひとつ焼き菓子を口に運んだ。
聖痕者……金髪イケメン君としか印象にないんだけどなー。
あのバカ王子より嫌な奴だったらどうしよう。
もぐもぐ。
「ツバキさん……まだぁ?」
「まだ、でございます」
俺は今日、めちゃくちゃに磨かれている。
朝は起きてご飯を食べたら、入浴、マッサージ、着替え、化粧……。
いったい、なぜ?
大神官の爺ちゃんと会うときよりも仰々しいんですが……。
「やっぱり、一国の王子と会うとなると、大変なんだなぁ」
「違います。サハラーン国の王太子など関係ありません」
「え?じゃあ、聖痕者だから?」
「ちがいます」
「……じゃあ、なんで?」
「ルイ様が神子さまだからです!」
ガアァァン! まさかの答えだったよ。
そ、そうか、正式に神子として公に出るときは、こんだけ飾らなきゃダメなのね……、めんどくさっ。
花湯に浸かった後、香油であちこち揉まれ、白い飾りのないワンピース型の服にあちこち飾り紐をつけ、服にヒダをつけまくり、耳と首と腕と足首と宝玉付きのアクセサリーで飾られ……。
百合の神子が完成する頃には、ぐったり疲れてしまった。
「ツバキさーん、ちょっとお腹空いたよー」
甘えてみたら、ツバキさんがしょうがないですねーと困ったように笑い、ハーブティーとピーナッツみたいな豆菓子を出してくれた。
お茶から微かに百合の香り。
「ルイ様ご所望の百合茶です。まだ試作ですが、どうぞ」
「ありがとう。助かるよ」
俺は香りを胸いっぱいに吸い込んで、ほんのちょっと口をつけた。
爽やかな味。
あの虹色の百合のイメージにはない、さっぱりとした味だ。
口に後味が残ることもなく、香りだけが鼻に抜けていく。
「うまい」
「それは、ようございました」
後は、このお茶が「抑制剤」として有効かどうかだな。
飲み続けてみないとわからないから、ツバキさんには大量に作ってもらって、午後のお茶と寝る前に用意してもらおう。
豆菓子を摘まんで待つこと暫し、とうとう接見の時間を迎える。
部屋の外の扉で護衛しているナリヒサさんから入室の合図が入る。
ツバキさんがそれに応える。
俺も一応、立って客を迎える準備だ。
ゆっくりと扉を開け、ナリヒサさんの先導で入ってきた男。
金髪のイケメン。
……イケメンすぎないか? これ、人間? 芸術家が彫った彫刻像とかじゃないの?
その人外レベルイケメンは、俺に向かって片膝をつき右手を胸に当てて深く頭を下げた。
「神子様。お会いできて恐悦至極でございます。サハラーン国第一王子、ユリウス・バラーク・サハラーンです」
……声までイケボだなんて……世の中は不公平だなっ。
これを食べるのか? どうやって?
小一時間ぐらい腕を組んで考えていると、ツバキさんが遠慮がちに声をかけてきた。
挙動不審な神子ですまない。
一人で考えても答えが出そうにないので、ツバキさんも巻き込もう。
「これ……、薬代わりにしたいんだけど……」
「ルイ様……ご病気だったのですか?」
さあーっと面白いぐらい青褪めるツバキさんに、俺は慌てて両手を振って否定する。
「ちがう、ちがう。えーと、俺の世界では皆が飲んでいる……え、栄養剤? みたいな? その代用品を願ったら、コレが……」
俺の苦しい言い訳に、胸に手を当ててふうーっと息を吐き笑顔を見せるツバキさん。
「栄養剤ですか。そうですね、ルイ様にとってはこの世界で手に入れることのできない物は多々ありますものね。この花を薬にするとしたら、乾燥させて……」
「できるだけ、早く作りたいんだけど……」
「では、まずお茶にしてみますか?ハーブティーのように」
ハーブティー。
その発想はなかったな。
でも、花茶ってわりと人気のあるお茶だったし……、いいかも。
「試しに作ってもらって、良さそうだったらいっぱい作ってもらおうか」
「そうですね。でもそうなると……百合の間だけに咲いているのは……」
あ、そうか。
あの部屋は俺しか自由に入れないもんね。
じゃあ、あの花が咲いている土ごと植え替えるか……。
その点も大神官の爺ちゃんに確認してもらうとして、ツバキさんに虹色の百合を渡してお茶を作ってもらう。
これが上手くいけば、とりあえずの憂いは晴れるんだけどなー、と淹れてもらった紅茶を一口飲んで、焼き菓子に手を伸ばす。
「ルイ様」
「んあ?」
口に焼き菓子を頬張ったまま、ナリヒサさんに顔を向けた。
なんか、苦ばしった顔をしているけど、俺……なんかした?
「先ほど、サハラーン国から面会の申し出がありました」
「へ? あの国の人は俺への接見禁止になったんじゃないの?」
神子への不敬罪とやらで、あのバカ王子はサハラーン国へ強制送還されたと聞いた。
他にもサハラーン国の重役さんが来ているらしいが、俺との接見は禁止。
神子の庭の立場としては「はよ、帰れ!」らしい。
「それが……。サハラーン国の王太子。つまり。聖痕者様からの申し出ですので……」
「あ、忘れてた」
俺の無責任な言葉に、ナリヒサさんたち神兵は苦笑した。
そうだよ。
聖痕者様とまだちゃんと会ってないじゃん。
いやいや、あのバカ王子の兄だと思うと積極的に会いたいとは思わないけど、強制的に最悪結婚するという縛りがないとわかったのだから、軽い気持ちで挨拶ぐらいはしとかないとね。
サハラーン国へ行くまでには、せめて聖痕者とはそれなりに知己を結んでおきたい。
「いいよ。会う。いつかな?」
「こちらの都合でよろしいのですよ。あちらが合わせるべきことですから」
おおう、そうでした。俺、神子様で偉いんでした。
でも、別に俺に都合なんてあるわけない。
「じゃあ、ツバキさんたちの用意ができるなら、明日でもいいよ」
「かしこまりました。では、あとでツバキと話し合い時間を決めましょう」
「ん。よろしく」
俺はもうひとつ焼き菓子を口に運んだ。
聖痕者……金髪イケメン君としか印象にないんだけどなー。
あのバカ王子より嫌な奴だったらどうしよう。
もぐもぐ。
「ツバキさん……まだぁ?」
「まだ、でございます」
俺は今日、めちゃくちゃに磨かれている。
朝は起きてご飯を食べたら、入浴、マッサージ、着替え、化粧……。
いったい、なぜ?
大神官の爺ちゃんと会うときよりも仰々しいんですが……。
「やっぱり、一国の王子と会うとなると、大変なんだなぁ」
「違います。サハラーン国の王太子など関係ありません」
「え?じゃあ、聖痕者だから?」
「ちがいます」
「……じゃあ、なんで?」
「ルイ様が神子さまだからです!」
ガアァァン! まさかの答えだったよ。
そ、そうか、正式に神子として公に出るときは、こんだけ飾らなきゃダメなのね……、めんどくさっ。
花湯に浸かった後、香油であちこち揉まれ、白い飾りのないワンピース型の服にあちこち飾り紐をつけ、服にヒダをつけまくり、耳と首と腕と足首と宝玉付きのアクセサリーで飾られ……。
百合の神子が完成する頃には、ぐったり疲れてしまった。
「ツバキさーん、ちょっとお腹空いたよー」
甘えてみたら、ツバキさんがしょうがないですねーと困ったように笑い、ハーブティーとピーナッツみたいな豆菓子を出してくれた。
お茶から微かに百合の香り。
「ルイ様ご所望の百合茶です。まだ試作ですが、どうぞ」
「ありがとう。助かるよ」
俺は香りを胸いっぱいに吸い込んで、ほんのちょっと口をつけた。
爽やかな味。
あの虹色の百合のイメージにはない、さっぱりとした味だ。
口に後味が残ることもなく、香りだけが鼻に抜けていく。
「うまい」
「それは、ようございました」
後は、このお茶が「抑制剤」として有効かどうかだな。
飲み続けてみないとわからないから、ツバキさんには大量に作ってもらって、午後のお茶と寝る前に用意してもらおう。
豆菓子を摘まんで待つこと暫し、とうとう接見の時間を迎える。
部屋の外の扉で護衛しているナリヒサさんから入室の合図が入る。
ツバキさんがそれに応える。
俺も一応、立って客を迎える準備だ。
ゆっくりと扉を開け、ナリヒサさんの先導で入ってきた男。
金髪のイケメン。
……イケメンすぎないか? これ、人間? 芸術家が彫った彫刻像とかじゃないの?
その人外レベルイケメンは、俺に向かって片膝をつき右手を胸に当てて深く頭を下げた。
「神子様。お会いできて恐悦至極でございます。サハラーン国第一王子、ユリウス・バラーク・サハラーンです」
……声までイケボだなんて……世の中は不公平だなっ。
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