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百合の匂いに誘われて
ひとり思うこと
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やっと、部屋で一人になれた。
まだ夜早い時間ではあるけれども、召喚当日で疲れているでしょうと、早めの就寝となり侍女たちはみんな下がり、神兵は部屋の外で護衛中だ。
その前に食べた夕飯も旨かった。
よかった、食生活が貧困にならなくて。日本という食の贅沢な国で生まれ育った俺にとって、食生活レベルが低いのは頂けない。
でも、いずれ日本の国民食であるお米は探そう。
パンや麺類はあるけど、米が東南アジアで食されているパラパラのお米しかなさそう。
水分のあるもっちりとしたお米が恋しくなるのは必定だ。
今のうちから、探しておこうと思う……神子の庭の人に頼んで。
……だって、この世界の初心者が、いきなり世界中からひとつの食材を探すって無理ゲーじゃん。
この神子の庭にはいろんな国から仕えに来てる人がいるし、商人の出入りもあるって聞いたし。
見つかるといいなぁ、お米。
そして、誰にも気取られずに見つけなきゃいけない物もある。
「……抑制剤」
そう。Ωである俺の発情期を抑える薬。
もともと俺の発情期は大人しい方だ。
五~六回、自家発電で抜いてしまえば、その欲は収まる。微熱が出て倦怠感があったりするのは続くけど。
それぐらいの症状でも、俺は欠かさず抑制剤は飲んでいた。
「アレに代わるモノがここにあるかな?」
抑制剤の成分なんて調べたこともない。
当たり前に飲んでいた薬だ。たぶんホルモン剤みたいな……、わからん。
αもβもΩもいない世界。
発情期なんてここの人間にあるわけもない。
「どうしようか……」
ソファに深く体を沈めて、上を仰ぎ見て息を吐く。
代替品なんて、手に入るんだろうか……。
神子と貴ばれても、定期的に欲情を持て余す俺を、周りはどう見るだろうか……。
「神子……なんだよな、俺」
実感は湧かないし、いつまで経っても自分のことを神子だとは思えないだろう。
でも神子としての役目があるなら、神様は俺の願いを聞いてくれてもいいんじゃないんだろうか?
困ったときの神頼みと言うし。
「ダメでもともと。こっちの神様とやらに頼んでみるか」
抑制剤の代替品を寄こせ、と。
そして、この願いが叶えられたら、自分が神子だと自覚してやらないでもない。
「あとは……聖痕者殿だな」
こちらに呼ばれたときに一度だけ会った聖痕者。
金髪の美形だったことしか覚えてない。美形と言いつつも、その造形は忘れた。
あの猪突猛進、失礼千万な乱入男の兄だと思うと、ちょっと……いや、かなり気が重いな、ちゃんと会うの。
結婚は無理やりすることもないし、サハラーン国には一度は行くが、嫌だったら神子の庭に戻ってくればいい。
その後、死ぬほどヒマになったら、諸国漫遊してもいいしな。
「ふー、Ωの次は神子か……」
俺、帯刀瑠偉。
今までの人生で、個人として見てもらったことがあっただろうか。
家族の中でもαの中のΩとして特別扱いだった。両親も兄たちも俺がΩとして傷つかないように心身ともに守ろうと気遣ってくれた。Ωとして、な。
友達もそうだ。Ω同士なら将来の相手、αの品定め。αの奴らは性欲の相手。運命の番を夢見る奴らもいたが……現実はΩの男には厳しい。
そして、連れてこられたこの世界では、ルイ・タテワキではなく、神子。神子としての俺。
どこまでいっても、肩書に縛られる人生。
諦めていたけど……やっぱ、ちょっとしんどい。
違う世界に来ても、俺はただの俺であることができない。
「ふぅーっ」
目を瞑る。
両親、兄たち、友達、向こうの世界の人々。
帰りたい、戻りたいと思わない俺を許してくれ。
ここで神子として生きる覚悟もないけど、今はΩの帯刀瑠偉からは目を背けていたいんだ。
しばらく、捨てた世界に思いを馳せてから、のろのろと寝台に上がり灯りを消して寝た。
まだ夜早い時間ではあるけれども、召喚当日で疲れているでしょうと、早めの就寝となり侍女たちはみんな下がり、神兵は部屋の外で護衛中だ。
その前に食べた夕飯も旨かった。
よかった、食生活が貧困にならなくて。日本という食の贅沢な国で生まれ育った俺にとって、食生活レベルが低いのは頂けない。
でも、いずれ日本の国民食であるお米は探そう。
パンや麺類はあるけど、米が東南アジアで食されているパラパラのお米しかなさそう。
水分のあるもっちりとしたお米が恋しくなるのは必定だ。
今のうちから、探しておこうと思う……神子の庭の人に頼んで。
……だって、この世界の初心者が、いきなり世界中からひとつの食材を探すって無理ゲーじゃん。
この神子の庭にはいろんな国から仕えに来てる人がいるし、商人の出入りもあるって聞いたし。
見つかるといいなぁ、お米。
そして、誰にも気取られずに見つけなきゃいけない物もある。
「……抑制剤」
そう。Ωである俺の発情期を抑える薬。
もともと俺の発情期は大人しい方だ。
五~六回、自家発電で抜いてしまえば、その欲は収まる。微熱が出て倦怠感があったりするのは続くけど。
それぐらいの症状でも、俺は欠かさず抑制剤は飲んでいた。
「アレに代わるモノがここにあるかな?」
抑制剤の成分なんて調べたこともない。
当たり前に飲んでいた薬だ。たぶんホルモン剤みたいな……、わからん。
αもβもΩもいない世界。
発情期なんてここの人間にあるわけもない。
「どうしようか……」
ソファに深く体を沈めて、上を仰ぎ見て息を吐く。
代替品なんて、手に入るんだろうか……。
神子と貴ばれても、定期的に欲情を持て余す俺を、周りはどう見るだろうか……。
「神子……なんだよな、俺」
実感は湧かないし、いつまで経っても自分のことを神子だとは思えないだろう。
でも神子としての役目があるなら、神様は俺の願いを聞いてくれてもいいんじゃないんだろうか?
困ったときの神頼みと言うし。
「ダメでもともと。こっちの神様とやらに頼んでみるか」
抑制剤の代替品を寄こせ、と。
そして、この願いが叶えられたら、自分が神子だと自覚してやらないでもない。
「あとは……聖痕者殿だな」
こちらに呼ばれたときに一度だけ会った聖痕者。
金髪の美形だったことしか覚えてない。美形と言いつつも、その造形は忘れた。
あの猪突猛進、失礼千万な乱入男の兄だと思うと、ちょっと……いや、かなり気が重いな、ちゃんと会うの。
結婚は無理やりすることもないし、サハラーン国には一度は行くが、嫌だったら神子の庭に戻ってくればいい。
その後、死ぬほどヒマになったら、諸国漫遊してもいいしな。
「ふー、Ωの次は神子か……」
俺、帯刀瑠偉。
今までの人生で、個人として見てもらったことがあっただろうか。
家族の中でもαの中のΩとして特別扱いだった。両親も兄たちも俺がΩとして傷つかないように心身ともに守ろうと気遣ってくれた。Ωとして、な。
友達もそうだ。Ω同士なら将来の相手、αの品定め。αの奴らは性欲の相手。運命の番を夢見る奴らもいたが……現実はΩの男には厳しい。
そして、連れてこられたこの世界では、ルイ・タテワキではなく、神子。神子としての俺。
どこまでいっても、肩書に縛られる人生。
諦めていたけど……やっぱ、ちょっとしんどい。
違う世界に来ても、俺はただの俺であることができない。
「ふぅーっ」
目を瞑る。
両親、兄たち、友達、向こうの世界の人々。
帰りたい、戻りたいと思わない俺を許してくれ。
ここで神子として生きる覚悟もないけど、今はΩの帯刀瑠偉からは目を背けていたいんだ。
しばらく、捨てた世界に思いを馳せてから、のろのろと寝台に上がり灯りを消して寝た。
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