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百合の匂いに誘われて
大神官の爺ちゃん
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湯浴みも済んで、別の侍女さんが用意してくれた軽食を摘まみながら、支度を整えていく。
俺、こんなズルズルしたの着なきゃダメなの? ……無言の肯定ってキツイね。反論しづらいもん。
はいはい、着ますよ。
そのジャラジャラした飾りも付けるのね。
はいはい、もう好きにして。
適度に飾り付けられた俺は、前・左右・後ろを神兵に守られ、ツバキさんの先導で大神官の部屋へ。
大神官ってどんな人だったかな? 金髪イケメンさんの印象が強かったから、あんまり他の人のこと覚えてないなー。
「ここです。どうぞ」
ツバキさんは扉を軽く叩くと気軽にガチャリと開けてしまう。
神兵たちは扉の左右に立ちそのまま護衛継続。
俺は神兵隊長のナリヒサさんと侍女長のツバキさんをお供に部屋の中へ。
うん、イメージどおりだね、大神官様。白いお髭が長い爺さんだと思ってたよ。わははは。
「これは神子様。わざわざご足労いただき、ありがとうございます。ささっ、お座りください」
俺は示されたソファに座る。
後ろにナリヒサさんが立ち、ツバキさんはお茶の支度へと部屋の奥へ消えていく。
「どうも。改めまして。ルイ・タテワキです」
「ようこそ神子の庭へ……と言いたいところですが、まさか異世界からの召喚とは。誠に申し訳なく……。お詫びのしようもございません」
「……いいえ。思う所はありますが、とりあえずは前向きに考えていきたいと思ってます。そのために、俺にいろいろと教えてください」
今さら、謝られても元には戻れない。
お爺ちゃんのせいでもないしね。
どうしようもなくなったら、そのときに思いっきり嘆くとするよ。
「……。ありがとうございます。そして、サハラーン国の者が非礼を働いたとのこと……。そのう……」
「ああ、大神官様からの謝罪は結構です。神兵隊長のナリヒサさんたちに助けてもらったし、侍女長のツバキさんたちにはよくしてもらいましたから」
ニッコリ笑顔で伝えます。
いざとなったら、ここで終生お世話になるからな、心象大事!
「そう言っていただき、安心しました」
爺ちゃん、大きく息を吐きました。少し顔色も良くなったかな?
ニコライ君から教えてもらったことやツバキさんから聞いた話の擦り合わせをしたあと、紅茶? ハーブティーかな? を飲んで、喉を潤わせてから大事なことの確認をする。
「それで、神子と聖痕者は必ず婚姻しなきゃいけないんですか?」
「いいえ。必ずしも異性同士とは限りませんし、そうであっても婚姻する約束はありません。過去、同姓同士で深い友情を築いた者たちや、異性同士で婚姻しなかった者たちもおります」
「強制ではない?」
「ええ。神子様が望まれるならそうなるでしょうが……。全ては神子様のご希望が優先されます」
ふぅーっ。まずひとつ。無理矢理結婚はなくなった。よかったよかった。
じゃあ。こっちは?
「俺みたいに異世界からの召喚って、あったんですか?」
「文献を調べていて神子様への接見が遅くなってしまったのですが……。過去、異世界からの召喚は何回かございます」
「……その人たち、元の世界に帰れました?」
「数人は聖痕者と結ばれ、この世界にて生を終えられました。ひとりはこの世界に馴染めず、神子の庭にて終生を。ただ、ひとりだけ召喚から数十年後行方が分からなくなった神子様がおられます。その方がこの世界のどこかで亡くならたのか……元の世界に戻られたのかはわかりません」
「そうですか……。いや、帰れないなら帰れないで諦めもつくかと思っただけなので、気になさらないでください」
そう、あっちの世界に帰れば、Ωとしての運命に流されるか、抗うか……決めなければいけない。
それもそれで、苦痛のことなのだ。
それからも、神子としての役目や俺の能力などの話をさせてもらった。
ほぼニコライ君に聞いた通りだったけど、毎日神様にお祈りしなきゃいけないとか、食べちゃいけない物があるとかの約束ごとの有無も確認しとかないとね!
とにかく……何もない! 俺がしなければいけないことも! してはいけないことも! 何も、なかった!
……ただ、生きてればいいってこと? 困り顔でそう尋ねる俺に、爺ちゃんは髭を撫でながらフォホホホと笑った。
「健やかに過ごされることのみですな。文献では神子様の強い感情で天災が招かれることもあるようです。神子様が居られるだけで世界は穏やかで優しくなります。特にルイ様が過ごされる国には豊穣が約束されています。ルイ様はただ、自由にのびのびとしてください」
「はあ……。あ、聖痕者のいる国に一度は行こうとは思ってますが、気に入らなければ……そのぅ」
ここに戻ってきて、ここに住んでもいいですか? と続ける前に、爺ちゃんはハッキリ言った。
「戻られませ。神子の庭はいつでも大歓迎ですぞ。他の国々へ旅に出られてもいいですし、気に入った国があれば、そこに住んでもいいですぞ。その国に豊穣の恵みが与えられますからな、どこでもルイ様は大歓迎ですぞ!」
ええーっ、聖痕者の存在って意味ないじゃーん、と脱力した俺だった。
じゃあ、聖痕者って神子にとってなんなの?
俺、こんなズルズルしたの着なきゃダメなの? ……無言の肯定ってキツイね。反論しづらいもん。
はいはい、着ますよ。
そのジャラジャラした飾りも付けるのね。
はいはい、もう好きにして。
適度に飾り付けられた俺は、前・左右・後ろを神兵に守られ、ツバキさんの先導で大神官の部屋へ。
大神官ってどんな人だったかな? 金髪イケメンさんの印象が強かったから、あんまり他の人のこと覚えてないなー。
「ここです。どうぞ」
ツバキさんは扉を軽く叩くと気軽にガチャリと開けてしまう。
神兵たちは扉の左右に立ちそのまま護衛継続。
俺は神兵隊長のナリヒサさんと侍女長のツバキさんをお供に部屋の中へ。
うん、イメージどおりだね、大神官様。白いお髭が長い爺さんだと思ってたよ。わははは。
「これは神子様。わざわざご足労いただき、ありがとうございます。ささっ、お座りください」
俺は示されたソファに座る。
後ろにナリヒサさんが立ち、ツバキさんはお茶の支度へと部屋の奥へ消えていく。
「どうも。改めまして。ルイ・タテワキです」
「ようこそ神子の庭へ……と言いたいところですが、まさか異世界からの召喚とは。誠に申し訳なく……。お詫びのしようもございません」
「……いいえ。思う所はありますが、とりあえずは前向きに考えていきたいと思ってます。そのために、俺にいろいろと教えてください」
今さら、謝られても元には戻れない。
お爺ちゃんのせいでもないしね。
どうしようもなくなったら、そのときに思いっきり嘆くとするよ。
「……。ありがとうございます。そして、サハラーン国の者が非礼を働いたとのこと……。そのう……」
「ああ、大神官様からの謝罪は結構です。神兵隊長のナリヒサさんたちに助けてもらったし、侍女長のツバキさんたちにはよくしてもらいましたから」
ニッコリ笑顔で伝えます。
いざとなったら、ここで終生お世話になるからな、心象大事!
「そう言っていただき、安心しました」
爺ちゃん、大きく息を吐きました。少し顔色も良くなったかな?
ニコライ君から教えてもらったことやツバキさんから聞いた話の擦り合わせをしたあと、紅茶? ハーブティーかな? を飲んで、喉を潤わせてから大事なことの確認をする。
「それで、神子と聖痕者は必ず婚姻しなきゃいけないんですか?」
「いいえ。必ずしも異性同士とは限りませんし、そうであっても婚姻する約束はありません。過去、同姓同士で深い友情を築いた者たちや、異性同士で婚姻しなかった者たちもおります」
「強制ではない?」
「ええ。神子様が望まれるならそうなるでしょうが……。全ては神子様のご希望が優先されます」
ふぅーっ。まずひとつ。無理矢理結婚はなくなった。よかったよかった。
じゃあ。こっちは?
「俺みたいに異世界からの召喚って、あったんですか?」
「文献を調べていて神子様への接見が遅くなってしまったのですが……。過去、異世界からの召喚は何回かございます」
「……その人たち、元の世界に帰れました?」
「数人は聖痕者と結ばれ、この世界にて生を終えられました。ひとりはこの世界に馴染めず、神子の庭にて終生を。ただ、ひとりだけ召喚から数十年後行方が分からなくなった神子様がおられます。その方がこの世界のどこかで亡くならたのか……元の世界に戻られたのかはわかりません」
「そうですか……。いや、帰れないなら帰れないで諦めもつくかと思っただけなので、気になさらないでください」
そう、あっちの世界に帰れば、Ωとしての運命に流されるか、抗うか……決めなければいけない。
それもそれで、苦痛のことなのだ。
それからも、神子としての役目や俺の能力などの話をさせてもらった。
ほぼニコライ君に聞いた通りだったけど、毎日神様にお祈りしなきゃいけないとか、食べちゃいけない物があるとかの約束ごとの有無も確認しとかないとね!
とにかく……何もない! 俺がしなければいけないことも! してはいけないことも! 何も、なかった!
……ただ、生きてればいいってこと? 困り顔でそう尋ねる俺に、爺ちゃんは髭を撫でながらフォホホホと笑った。
「健やかに過ごされることのみですな。文献では神子様の強い感情で天災が招かれることもあるようです。神子様が居られるだけで世界は穏やかで優しくなります。特にルイ様が過ごされる国には豊穣が約束されています。ルイ様はただ、自由にのびのびとしてください」
「はあ……。あ、聖痕者のいる国に一度は行こうとは思ってますが、気に入らなければ……そのぅ」
ここに戻ってきて、ここに住んでもいいですか? と続ける前に、爺ちゃんはハッキリ言った。
「戻られませ。神子の庭はいつでも大歓迎ですぞ。他の国々へ旅に出られてもいいですし、気に入った国があれば、そこに住んでもいいですぞ。その国に豊穣の恵みが与えられますからな、どこでもルイ様は大歓迎ですぞ!」
ええーっ、聖痕者の存在って意味ないじゃーん、と脱力した俺だった。
じゃあ、聖痕者って神子にとってなんなの?
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