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2 王立べラム訓練学校 中等部
2-3話 朝の鍛練と学校探索
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早朝五時、眠そうな顔のルーセントが動きやすい服装に着替えを済ませていた。そして、ガンツ作の黒刀『闇烏』を腰に差すと、そのまま外へ出ていった。
「ヒールガーデンからここに来るまで、ほとんど何もできなかったからな。身体が鈍っちゃうよ」
ルーセントが準備運動を終えると、きゅうちゃんを肩に乗せて走り出した。
「とりあえず、高等部の寮があるところまで行って戻ってこようかな。距離はどれくらいあると思う?」
「きゅう?」
ルーセントの問いかけに、きゅうちゃんが首をかしげて反応する。そんな様子を見て、ルーセントが一瞬だけほほ笑むと一気に加速していった。
グラウンドの南側、東西に伸びる直線に出たとき、その先は霞むようだった。
ルーセントは体調を確認しながら、時おりダッシュを混ぜて速度を上げていく。およそ七キロメートルの道のりを往復して戻ってきたときには、久しぶりの運動のせいか、大きく肩で息をするほどには疲れていた。
「ふぅぅ、もう少し、余裕があると思ったんだけど、やっぱりサボるのはよくないな」
ルーセントは腰に手を当てて、熱をもって汗ばむ身体を落ち着けるために歩きながら息を整える。そのあとに軽くストレッチをすると刀を鞘から引き抜いた。
長く息をはき出して集中力を高めていくと、型を一つずつ確かめるように刀を振り始める。
そこに、うしろからルーセントに声をかけてくる人物がいた。
「ふふ、やっぱりルーセントも朝から鍛練してるのね?」
聞きなれたその声に、ルーセントがうしろを振り向く。そこには白い制服を着たフェリシアが立っていた。
「おはよう。フェリシアも剣を習ってたの?」
「うん。最後にルーセントと別れてからね。あの日からずっとお父様に剣術を教えてもらってたの。もう日課みたいなものかな。魔物だって狩りにいってたんだからね」
フェリシアが満面の笑みで、自信満々に胸を張って答えた。
ルーセントは、フェリシアが自分と似たような生活を送っていたことに驚きつつもほほ笑む。
「おお! じゃあ一緒だね。まぁ、僕はほとんどベシジャウドの森で生活してたようなものだけどね」
「え! 森で?」
フェリシアはルーセントの言葉に驚き固まる。
ルーセントは驚く表情のフェリシアに苦笑いを浮かべた。
「……本当にベシジャウドの森で生活してたの? あそこって、魔物がいっぱいいるんだよね」
「うん、いっぱいいたね。寝てるときも油断できなくて大変だったよ。おかげで守護者のレベルも二十六まであがったからね」
「えっ! そんなに? やっぱりまだまだ遠いな……」
フェリシアはふがいない自分を変えるため、ルーセントに追い付きたい一心で、剣術の練習を必死に続けてきた。ところが、追い付くどころか引き離されていたことに悔しさとショックで顔を伏せてしまった。
ルーセントは、突然ふさぎ込んだフェリシアに戸惑うと慌てて取り繕う。
「ほ、ほら、僕は守護者の特殊技能で成長が早いから、そのせいだよ」
「うん……」
フェリシアがさらに元気をなくしてうつむくと、ルーセントは困惑したまま思い付いたことを口走る。
「じゃ、じゃあさ、今度から一緒に練習しようよ。父上も言ってたでしょ、レベルより大事なのは技術だって」
ルーセントの言葉に、フェリシアは今まで落ち込んでいたのがまるでうそのように、目を輝かせる。
「いいの!」
「も、もちろんだよ。魔物ばっかりで対人経験は少ないからね。それに、どうも僕は剣には弱いみたいだから、ちょうどよかったよ。一緒に強くなろうよ」
「絶対だよ! じゃあ私、ちょっと走ってくるね」
フェリシアがすっかり元気を取り戻すと、楽しそうな笑顔を浮かべて走り去っていった。
残されたルーセントはあ然として、きゅうちゃんに話し掛ける。
「きゅうちゃん、女の子って急に落ち込んだり、元気になったりしてよく分かんないね」
「きゅう、きゅう」
うなずくきゅうちゃんに、ルーセントは苦笑いを浮かべていた――。
「お、いたいた。探したよ」
食堂でルーセントが朝御飯を食べていると、エレベーターから降りてきたパックスが声をかけてきた。
ルーセントはフェリシアとの練習を終えて、そのまま食堂でご飯を食べていた。
「おはよう。どうかしたの?」
「いや、別に大した用じゃないよ。一緒に朝御飯を食べようと思って部屋に行ったら、いないみたいだったからさ。早起きなんだな」
パックスは片手を上げて気さくに答えると椅子に座った。
「あぁ、ごめん。朝の鍛練をしてたんだよ。それでそのままここに来から」
「朝の鍛練? なんだそれ?」パックスが片眉を歪めて聞き返した。
「毎日の日課だよ。剣の練習とジョギング」
「へぇ、強いやつって本当にそんなこと毎日やってんだな。おれならそんなことするくらいなら寝てるぜ」
パックスは「よくやるよ」とつぶやくと、朝御飯を求めて店へと歩いていった。
そして、大量の料理を手に戻ってきたパックスにルーセントが驚く。おかずを食べようとして口を開けたまま、次々とテーブルに置かれていく料理を目で追いかけていた。
「朝からそんなに食べるの? 起きたばっかりでよく食べられるね」
「いやだって、タダだぜ! 食わなきゃ、もったいないだろ。それに、いざとなったらルーセントがいるじゃないか。それだけじゃ足りないだろ。ってことでよろしくな」
結局、パックス一人では食べきれるわけもなく、ルーセントも食べるはめになってしまった。
二人が朝食を済ませてルーセントの部屋にやって来た。端末を立ち上げて施設全体の地図を眺めていた。
ルーセントが適当に施設をタップすると、図が拡大されて説明文が表示される。
パックスがその文を読みながら、ルーセントを見た。
「さて、どこから探索に行く? これだけ広いと迷うよな」
「そうだね。でも、授業風景は見ておきたいな。どんなことするのか気になるし」
「真面目だな。おれはここの訓練施設ってやつが気になるんだよな」
「ああ、それ僕も気になってた。でっかいドーム型の施設だよね」
「よし、決まったな。今日はここに行こうぜ」
二人は行き先を決めると一度別れる。そして、午前十時に再び会う約束を交わした。
約束の時間になり、再びルーセントの部屋にパックスがやって来る。二人は訓練施設に向かって寮を出発した。
謎のドームにたどり着くと、目の前にそびえる巨大な施設が二人を見おろしていた。
「けっこう離れてたな。ぱっと見は近くにあるように感じるんだけどな」
日頃の運動不足のせいか、パックスは太ももをたたきながら顔に疲労をにじませていた。
そこに心地よい風が二人を包む。
「これだけデカイと近くに感じるよね」
二人が見上げる訓練施設は、直径で三キロメートルもある巨大な建造物。天井を覆うドーム型の屋根は開閉式で、一番高いところで六十メートルもあった。
いったいどんな訓練をしているのか、と好奇心を刺激された二人は、楽しそうに、それでいてどこか警戒しつつもゆっくりと奥へ進んでいった。
「ヒールガーデンからここに来るまで、ほとんど何もできなかったからな。身体が鈍っちゃうよ」
ルーセントが準備運動を終えると、きゅうちゃんを肩に乗せて走り出した。
「とりあえず、高等部の寮があるところまで行って戻ってこようかな。距離はどれくらいあると思う?」
「きゅう?」
ルーセントの問いかけに、きゅうちゃんが首をかしげて反応する。そんな様子を見て、ルーセントが一瞬だけほほ笑むと一気に加速していった。
グラウンドの南側、東西に伸びる直線に出たとき、その先は霞むようだった。
ルーセントは体調を確認しながら、時おりダッシュを混ぜて速度を上げていく。およそ七キロメートルの道のりを往復して戻ってきたときには、久しぶりの運動のせいか、大きく肩で息をするほどには疲れていた。
「ふぅぅ、もう少し、余裕があると思ったんだけど、やっぱりサボるのはよくないな」
ルーセントは腰に手を当てて、熱をもって汗ばむ身体を落ち着けるために歩きながら息を整える。そのあとに軽くストレッチをすると刀を鞘から引き抜いた。
長く息をはき出して集中力を高めていくと、型を一つずつ確かめるように刀を振り始める。
そこに、うしろからルーセントに声をかけてくる人物がいた。
「ふふ、やっぱりルーセントも朝から鍛練してるのね?」
聞きなれたその声に、ルーセントがうしろを振り向く。そこには白い制服を着たフェリシアが立っていた。
「おはよう。フェリシアも剣を習ってたの?」
「うん。最後にルーセントと別れてからね。あの日からずっとお父様に剣術を教えてもらってたの。もう日課みたいなものかな。魔物だって狩りにいってたんだからね」
フェリシアが満面の笑みで、自信満々に胸を張って答えた。
ルーセントは、フェリシアが自分と似たような生活を送っていたことに驚きつつもほほ笑む。
「おお! じゃあ一緒だね。まぁ、僕はほとんどベシジャウドの森で生活してたようなものだけどね」
「え! 森で?」
フェリシアはルーセントの言葉に驚き固まる。
ルーセントは驚く表情のフェリシアに苦笑いを浮かべた。
「……本当にベシジャウドの森で生活してたの? あそこって、魔物がいっぱいいるんだよね」
「うん、いっぱいいたね。寝てるときも油断できなくて大変だったよ。おかげで守護者のレベルも二十六まであがったからね」
「えっ! そんなに? やっぱりまだまだ遠いな……」
フェリシアはふがいない自分を変えるため、ルーセントに追い付きたい一心で、剣術の練習を必死に続けてきた。ところが、追い付くどころか引き離されていたことに悔しさとショックで顔を伏せてしまった。
ルーセントは、突然ふさぎ込んだフェリシアに戸惑うと慌てて取り繕う。
「ほ、ほら、僕は守護者の特殊技能で成長が早いから、そのせいだよ」
「うん……」
フェリシアがさらに元気をなくしてうつむくと、ルーセントは困惑したまま思い付いたことを口走る。
「じゃ、じゃあさ、今度から一緒に練習しようよ。父上も言ってたでしょ、レベルより大事なのは技術だって」
ルーセントの言葉に、フェリシアは今まで落ち込んでいたのがまるでうそのように、目を輝かせる。
「いいの!」
「も、もちろんだよ。魔物ばっかりで対人経験は少ないからね。それに、どうも僕は剣には弱いみたいだから、ちょうどよかったよ。一緒に強くなろうよ」
「絶対だよ! じゃあ私、ちょっと走ってくるね」
フェリシアがすっかり元気を取り戻すと、楽しそうな笑顔を浮かべて走り去っていった。
残されたルーセントはあ然として、きゅうちゃんに話し掛ける。
「きゅうちゃん、女の子って急に落ち込んだり、元気になったりしてよく分かんないね」
「きゅう、きゅう」
うなずくきゅうちゃんに、ルーセントは苦笑いを浮かべていた――。
「お、いたいた。探したよ」
食堂でルーセントが朝御飯を食べていると、エレベーターから降りてきたパックスが声をかけてきた。
ルーセントはフェリシアとの練習を終えて、そのまま食堂でご飯を食べていた。
「おはよう。どうかしたの?」
「いや、別に大した用じゃないよ。一緒に朝御飯を食べようと思って部屋に行ったら、いないみたいだったからさ。早起きなんだな」
パックスは片手を上げて気さくに答えると椅子に座った。
「あぁ、ごめん。朝の鍛練をしてたんだよ。それでそのままここに来から」
「朝の鍛練? なんだそれ?」パックスが片眉を歪めて聞き返した。
「毎日の日課だよ。剣の練習とジョギング」
「へぇ、強いやつって本当にそんなこと毎日やってんだな。おれならそんなことするくらいなら寝てるぜ」
パックスは「よくやるよ」とつぶやくと、朝御飯を求めて店へと歩いていった。
そして、大量の料理を手に戻ってきたパックスにルーセントが驚く。おかずを食べようとして口を開けたまま、次々とテーブルに置かれていく料理を目で追いかけていた。
「朝からそんなに食べるの? 起きたばっかりでよく食べられるね」
「いやだって、タダだぜ! 食わなきゃ、もったいないだろ。それに、いざとなったらルーセントがいるじゃないか。それだけじゃ足りないだろ。ってことでよろしくな」
結局、パックス一人では食べきれるわけもなく、ルーセントも食べるはめになってしまった。
二人が朝食を済ませてルーセントの部屋にやって来た。端末を立ち上げて施設全体の地図を眺めていた。
ルーセントが適当に施設をタップすると、図が拡大されて説明文が表示される。
パックスがその文を読みながら、ルーセントを見た。
「さて、どこから探索に行く? これだけ広いと迷うよな」
「そうだね。でも、授業風景は見ておきたいな。どんなことするのか気になるし」
「真面目だな。おれはここの訓練施設ってやつが気になるんだよな」
「ああ、それ僕も気になってた。でっかいドーム型の施設だよね」
「よし、決まったな。今日はここに行こうぜ」
二人は行き先を決めると一度別れる。そして、午前十時に再び会う約束を交わした。
約束の時間になり、再びルーセントの部屋にパックスがやって来る。二人は訓練施設に向かって寮を出発した。
謎のドームにたどり着くと、目の前にそびえる巨大な施設が二人を見おろしていた。
「けっこう離れてたな。ぱっと見は近くにあるように感じるんだけどな」
日頃の運動不足のせいか、パックスは太ももをたたきながら顔に疲労をにじませていた。
そこに心地よい風が二人を包む。
「これだけデカイと近くに感じるよね」
二人が見上げる訓練施設は、直径で三キロメートルもある巨大な建造物。天井を覆うドーム型の屋根は開閉式で、一番高いところで六十メートルもあった。
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