1 / 134
1 動き出す光と伏す竜
1-1話 絶望の始まり
しおりを挟む
千年前、月の女神を裏切った絶望が魔物を従え月から落ちた。
地上に降りた絶望は、千の魔法を使って人類を蹂躙する。
悲嘆した月の女神は、すべての力を使い果たして人類に希望の光を与えた。
最初の英雄は絶望の大陸メルトにて、その魂を五個のクリスタルに封印する。
最後の英雄は、再び現れた絶望をメルト大陸にて滅ぼした。
~歴史家 スターレイ・ドール~
はじまりは、とある国の少年が見た不思議な夢だった。
惑星サンドミリオンには“絶望の大陸メルト”を除いて四つに別れる大きな大陸がある。件の少年はその内の一つ、中央に位置する広大な大陸“ポセタ大陸”の東を統治する“レフィアータ帝国”という国にいた。
褐色の肌をもつ五歳になる第一皇子“クドラ・レフィアータ”がその少年だった。
数日前に世界中で起きた大地震の影響で、各国が復興に追われているさなか、昼寝をしていたクドラは不思議な夢を見ていた。
――クドラはどこまでも続く一本道の上に立っていた。
そこは深い霧に覆われていて、ただひたすらに岩と砂の大地があるだけだった。
『我を見つけよ。我は汝、汝は我なり』
大地全体に響くような低い声が、突然クドラの頭の中に響き渡る。
おどろいたクドラは誰かいるのか、と辺りを見回すものの誰も近くにはいなかった。
いつまでも同じ言葉が頭に流れる。
クドラは頭をポカポカとたたきながら寒々しい荒野を歩いていく。その指向性を持った声に誘われるがままに。
長い時間にも感じるほどに進み続けたクドラの視界の先には、大小さまざまなクレータがいくつも存在する空間が現れた。
小さな少年が恐る恐るその穴をのぞき込む。吸い込まれそうな湾曲を見て、ここからすべり落ちたら楽しそうだ、と子供らしい感想を抱きつつも何気なく顔を上げると、穴だらけの大地の中央に蒼いクリスタルに閉じ込められている巨大な黒い竜を一匹見つける。
好奇心に満ちあふれた少年は、クリスタルを氷と勘違いしていて、寒くはないのだろうか、と興味深そうにじっと真ん中の竜の顔を見つめる。
この竜には三本の首があり、城とみまがうばかりの大きさがあった。
巨体を見上げるクドラと竜の目が合ったとき、その目が赤く光った。
今まで聞こえていた声が、大音量で再び脳内に響く。
『我が名はルーイン、すべてを破壊し統べる者。我は汝、汝は我、我が力をもってすべての光を滅せよ』
声が止むと、再び周囲は無音の静けさに包まれる。
クドラは何だったのか、と光を失くした竜の目をじっと見つめ続けていた。
そのとき、クドラの左手首がまるで火にあぶられているかのように熱くなった。
おどろくクドラがとっさに左手に視線を落とすと、その瞳には手首から立ち昇る蒸気が映っていた。
蒸気は次第に黒と紫色に変色していく。それと同時に浮かび上がった白い光の輪が砕け散た。光の輪は、なおも赤黒く光りながら、あふれ出す黒と紫色の霧が手首を包み込んでいく。
クドラは理解を超えた恐怖に耐えきれずに思わず右手で手首を押さえた。
その瞬間、うしろから無数の咆哮が響き渡った。
声は身体を、大地を揺さぶるほどに空気を震わせる。
おどろきうしろを振り向いたクドラの前には、いつからいたのか、広い空間を埋め尽くすほどに無数の魔物がひれ伏していた――。
地上に降りた絶望は、千の魔法を使って人類を蹂躙する。
悲嘆した月の女神は、すべての力を使い果たして人類に希望の光を与えた。
最初の英雄は絶望の大陸メルトにて、その魂を五個のクリスタルに封印する。
最後の英雄は、再び現れた絶望をメルト大陸にて滅ぼした。
~歴史家 スターレイ・ドール~
はじまりは、とある国の少年が見た不思議な夢だった。
惑星サンドミリオンには“絶望の大陸メルト”を除いて四つに別れる大きな大陸がある。件の少年はその内の一つ、中央に位置する広大な大陸“ポセタ大陸”の東を統治する“レフィアータ帝国”という国にいた。
褐色の肌をもつ五歳になる第一皇子“クドラ・レフィアータ”がその少年だった。
数日前に世界中で起きた大地震の影響で、各国が復興に追われているさなか、昼寝をしていたクドラは不思議な夢を見ていた。
――クドラはどこまでも続く一本道の上に立っていた。
そこは深い霧に覆われていて、ただひたすらに岩と砂の大地があるだけだった。
『我を見つけよ。我は汝、汝は我なり』
大地全体に響くような低い声が、突然クドラの頭の中に響き渡る。
おどろいたクドラは誰かいるのか、と辺りを見回すものの誰も近くにはいなかった。
いつまでも同じ言葉が頭に流れる。
クドラは頭をポカポカとたたきながら寒々しい荒野を歩いていく。その指向性を持った声に誘われるがままに。
長い時間にも感じるほどに進み続けたクドラの視界の先には、大小さまざまなクレータがいくつも存在する空間が現れた。
小さな少年が恐る恐るその穴をのぞき込む。吸い込まれそうな湾曲を見て、ここからすべり落ちたら楽しそうだ、と子供らしい感想を抱きつつも何気なく顔を上げると、穴だらけの大地の中央に蒼いクリスタルに閉じ込められている巨大な黒い竜を一匹見つける。
好奇心に満ちあふれた少年は、クリスタルを氷と勘違いしていて、寒くはないのだろうか、と興味深そうにじっと真ん中の竜の顔を見つめる。
この竜には三本の首があり、城とみまがうばかりの大きさがあった。
巨体を見上げるクドラと竜の目が合ったとき、その目が赤く光った。
今まで聞こえていた声が、大音量で再び脳内に響く。
『我が名はルーイン、すべてを破壊し統べる者。我は汝、汝は我、我が力をもってすべての光を滅せよ』
声が止むと、再び周囲は無音の静けさに包まれる。
クドラは何だったのか、と光を失くした竜の目をじっと見つめ続けていた。
そのとき、クドラの左手首がまるで火にあぶられているかのように熱くなった。
おどろくクドラがとっさに左手に視線を落とすと、その瞳には手首から立ち昇る蒸気が映っていた。
蒸気は次第に黒と紫色に変色していく。それと同時に浮かび上がった白い光の輪が砕け散た。光の輪は、なおも赤黒く光りながら、あふれ出す黒と紫色の霧が手首を包み込んでいく。
クドラは理解を超えた恐怖に耐えきれずに思わず右手で手首を押さえた。
その瞬間、うしろから無数の咆哮が響き渡った。
声は身体を、大地を揺さぶるほどに空気を震わせる。
おどろきうしろを振り向いたクドラの前には、いつからいたのか、広い空間を埋め尽くすほどに無数の魔物がひれ伏していた――。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には
月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。
令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。
愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ――――
婚約は解消となった。
物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。
視点は、成金の商人視点。
設定はふわっと。

【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる