月影の砂

鷹岩 良帝

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5-7話 フェリシア&ティア4

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三人が馬に乗って首都から数キロ離れた森までやって来た。冷たさが増した風がフェリシアたちを包み込んで吹き抜けていく。空にはうすい雲が支配をし始めていた。

「あのお姉さんが言っていた場所はここら辺ですね」

ティアが額に右手を当てて、森の中をのぞき込むように眺める。

「ん~、そのはずだけど、いないわね。もう出てこないんじゃないかしら?」

小さな友人の姿を見るフェリシアが、それをまねるように木々の間を見て目を細めた。

「おそらくは、もっと奥にあるのではないでしょうか? 薬草は日当たりのよい場所ではなく、薄暗くてじめじめしたような場所に生えているものですから」

フェリシアとティアの前に歩みでるユウカが剣を引き抜くと周囲を警戒した。

「やっぱり、行くのね。やめてもいいのよ」そう言ってイヤそうな顔をしているフェリシアは、ティアに背中を押されて森の中へと入っていった。


 風が木の葉を揺らす音に包まれて、三人は周囲を見回しながら木漏れ日が漏れる獣道を奥へと進む。そのとき、目の前に足首ほどの深さのある小川が現れた。
清涼な清々しい空気に上流を見れば、すぐ近くに三メートルほどの落差のある滝がある。そこは小さな水だまりのようになっていて川を作っていた。ユウカがその滝に向かって歩き出すと、時おりしゃがんでは草木に触れていく。

「おそらくは、この小川の近くでしょう。良質な薬草が豊富に生えています」

日が落ち始めて森の中を薄暗くしていく。フェリシアはいつもよりキョロキョロと周囲を見回す。ときおり響く大きな音に身体をビクッと震わせていた。

その時、三人は強い風とともに虹色に輝く霧に包まれる。幸いにも霧はすぐに霧散していったが、どこか違和感を全員が感じていた。

「うーん、なにか気持ち悪いですね。ここにいるようで、いないような、ふわふわした感じです」

ティアはすぐに気配探知の魔法を発動させるが、何も反応がなかった。

「そうね。なんか変な場所に入り込んじゃったみたい」

フェリシアが剣の柄に手を添えて、表情を厳しいものへと変えた。

「お二人とも、私から離れないでください。ここは明らかに、私たちがいた場所とは違います」

ユウカは片手に剣を持ったまま二人のガードへと戻った。

「どういうこと? どう見ても同じ場所よ」

フェリシアは疑問に首をかしげて若き騎士へと視線を向ける。
その視線の先の本人は、小さな滝の横を指さす。

「あそこをご覧ください。あの木、霧に包まれる前はもっと背の高い木でした。それが今は半分近く低くなっています」
「どうなってるんでしょうか? 過去に移動した、と言うことですか?」
「わかりません。ですが、ティア様の言った“ここにいるようでいない場所”というのは間違っていないかもしれませんね」

ユウカとティアの会話にますます理解の追いつかないフェリシアが、恐怖にユウカの腕をつかんだ。
ティアが周囲を見て首をかしげる。

「さっきから、魔法で気配を探っているんですが、変なんですよね」
「変というと?」ユウカがティアを見る。
「気配がないんですよ。なんにも。この森に生きたものはいません」
「そんなこと、あり得るのですか?」
「経験がないですね。魔物であろうとなかろうと、必ず何かしらの気配はありますから」
「ティアの魔法が壊れちゃったんじゃないの?」フェリシアがおそるおそる友人をのぞき込む。それを聞いて、ユウカがクスっと笑った。

「フェリシア様、魔法は壊れるものではありませんよ」
「し、知ってるわよ。ちょっと言ってみただけよ」
恥ずかしさで顔を赤くする伯爵家の令嬢に、ティアが「あっ!」と声を上げて指をさす。
「今度はなによ」

フェリシアが不安そうに後ろを振り向く。そこには一人の少女が立っていた。

「おねえちゃん、助けて」

悲しげな小さな少女の一言に、三人の顔に緊張が走った。
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