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5 それぞれの時間
5-4話 フェリシア&ティア1
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「お嬢様、もうすぐでディオゲルヴォーディですよ」
コロント河沿いを進む馬車を操るベーテスがぼやけて見える伯爵の城を視界にとらえると、御者台から中にいるフェリシアに声をかける。馬車のなかには、フェリシアとティアが手荷物とともに揺られていた。
「ふふ、久しぶりね。お母様やお兄様は元気かしら」
「ここを離れて七年近くですから、旦那様や奥様、グレイル様たちもお嬢様のお戻りを待ちかねていましたよ」
ベーテスの口から伯爵であるアマデウス、夫人のアシュリー、そして伯爵位を受け継ぐ息子のグレイルの名が告げられた。末っ子であるフェリシアに会えるのを誰もが楽しみにしている。それはフェリシアも同じであった。フェリシアが家族の顔を思い出して笑みを浮かべる。
「楽しみね。さすがにみんな変わってるかしら?」
「お嬢様の成長が一番、驚かれると思われますよ」
「そうかしら?」
ベーテスの言葉に、フェリシアが自身の身体を見下ろして確かめる。自分ではその違いがわからず首をかしげた。
「私がフェリシアと会ったのは高等部からですが、それでも変わったと思いますよ。最初に見たときは、まだちょっとだけ頼りない感じてしたけど、今ではお姉さんって感じです」
「ふふ、そうかしら。ティアに言われるとちょっと恥ずかしいわね」
仲のいいティアからの言葉にフェリシアが照れて顔をほんのりと赤く染めていると「ティア様は旦那様の国へ訪れるのは初めてでございましたね」とベーテスがティアに話しかけてきた。
「写真では見たことがありますよ。小さい頃からずっと行きたいと思っていました。王都の次に楽しみな場所です」
「きっと、期待に答えられると思いますよ。旦那様の国は犯罪の発生率も少なく、経済も安定していて過ごしやすい場所です。数日でも過ごせば、きっと気に入るかと」
速度を速めた馬車は、しばらくして伯爵領の首都であるディオゲルヴォーディに到着する。伯爵の城の入り口に着くと屈強な兵士たちと使用人、それと伯爵が出迎えた。
馬車から降りるフェリシアとティア、伯爵が娘の顔を見て顔をほころばす。
「久しぶりだな、フェリシア。しばらく見ないうちに、ずいぶんと大人っぽくなったな」
「ふふ、ただいまお父様。無事に訓練学校を卒業して参りました」
「ああ、陛下から聞いている。神聖科の首席であったらしいな、さすがは私の娘だ。早くアシュリーにも顔を見せてやりなさい」
伯爵は慈愛に満ちた表情を、今度はフェリシアの隣にいるティアへと向けた。
「ティアも、ここを自分の家だと思ってゆっくりとしていくといい。あぁ、それと教皇から書状を預かっているから、あとで私の部屋に来るといい」
「わかりました。ありがとうございます」
使用人が二人の荷物を運び、フェリシアとティアは伯爵に促されて城門をくぐる。
メストヴォード伯爵領ソーラーアルジア郡、首都ディオゲルヴォーディ。ここはフェリシアの父、アマデウス・エアハートの居城がある場所で五十万人が暮らす大きな都市となっている。
伯爵領は国王の直轄地の南側六郡を所領しており、首都は王都より郡を一つ挟んだ南南東の位置にある。そして、アンゲルヴェルク王国の東を流れる大河コロント河とつながる大きな湖パーベル湖の南に隣接する形で存在していた。
城の敷地内へと歩みを進める二人、門を抜けた二人を出迎えたのは、正方形に広がるきれいに刈り取られた芝生の庭園に、それを囲むのは猫のかぎしっぽのような形をした三階建ての横に長いL字型の本城であった。
キョロキョロと周囲を見渡すティアは、本城から西へ少し離れたところにある、小さな林の木々に囲まれた円形の建物に目を奪われていた。
「フェリシア、あそこにある丸っこい建物は何ですか?」
「え? あぁ、あれは発電所よ。地下に発電施設があって、ここから街の中に電気を通しているの。あそこの丸い建物から城壁の西側までの地下全部が発電施設になっているのよ」
「おお! すごいですね。城に発電所があるなんて初めて聞きましたよ」
はるか先を行く予想外の返答に、ティアは好奇心を刺激されて目を輝かせる。フェリシアはティアのおどろく顔に自慢げに笑みを浮かべた。
「お父様が持つ伯爵領は、この半島の東側にある海を越えればレフィアータ帝国の帝都があるから、昔からよく戦になることが多いの。ここは、東の領とコロント河を挟んでるから直接攻められることはないんだけど、妨害工作はちょこちょこあってね、先代のお祖父様が面倒だからここに作るって言って発電事業もしてるのよ。うしろは湖があるだけだから水を引くのも簡単だしね」
「はあ、フェリシアのおじいちゃんは豪快ですね。しかも面倒がったものが全部いい方向に転がるなんて、これが伯爵の力なんですね!」
「いや、うーん、ちょっと違うんじゃないかな?」
ティアの斜め上を行く解釈にフェリシアが苦笑いを浮かべると、ティアは興味深そうにさらに視線をキョロキョロと動かしながら敷地内を移動する。
石畳が敷かれた発電施設の外周を歩くと、西側の奥に細長い五階建ての建物が五棟とそれに付随する倉庫のような建物が三棟あった。
ティアが何の建物かと質問すると「五階建ての方が騎士団の宿舎で、大きな建物の方が装備類や兵器、あとは備品類が置いてある倉庫ね」
「おお、やっぱりここにも騎士団が居るんですね!」
「ええ、全員がお父様が持つ兵士のなかでエリートの人たちよ。何人くらいだったかしら?」
「今は千に近いくらいだな」
二人のうしろを歩く伯爵がティアに向かって伝える。その顔を宿舎に向けると「まだまだ不満は多いがな」と眉間にシワを寄せていた。
「強そうですね。戦ってみたいです」
「それはいい案だな。ぜひとも、たたきのめしてほしいものだ。一度あの高いプライドがへし折れれば、さらに強くなるかもしれないな」
「ふっふっふ、まかせてください。けちょんけちょんにしてやりますよ」
「折りすぎるのも勘弁してくれよ」
三人は門から長い距離を歩いて城である建物の目の前までやって来た。ティアの視界に入る城は、想像とは違って王都にあるような大きな屋敷の形をしていた。この不思議にティアがフェリシアに顔を向ける。
「それにしてもさっきから思っていたんですが、他のところの城と形が全然違いますね。もっとトゲトゲどーん、としてるのかと思ったら、以外と平べったくて細長いですね」
「ふふ、今のお城は先代のお祖父様が建て直したんだけど、初めの計画だとティアが想像しているような感じだったらしいわよ」
「へぇ~、それが何でこんな感じになっちゃったんですか?」
「それがね。“こんな階段ばかりの建物など建てられるか! ダイエットトレーナーにでも設計させたのか? それとも嫌がらせか!”って怒ったらしくて、こんな感じになったの」
「そういえばそうだったな。攻められたらどうするのか、と父上の案には反対したのだが“我が家はそんなに弱くはない、それに城内まで攻められたとしたら、もはやどうすることもできぬだろう。暮らしやすさが最優先だ”と一蹴されてしまってな。言い返すことができなかった」
娘の言葉にうしろを歩く伯爵が城を見上げて、昔を思い出していた。
「面白いおじいちゃんですね。まだいるんですか?」
「残念ながら、すでに他界している」
「それは残念です。会ってみたかったですね」
「ふっ、自由奔放に生きながらも決まりは守る人だ。ティアとは気が合うかもしれないな」
「ふっふっふ、伯爵様はわかってますね」
扉の前には、使用人が立っていた。二人いる使用人が大きな黒い両開きの扉を開くと屋敷の中へと入っていった。
コロント河沿いを進む馬車を操るベーテスがぼやけて見える伯爵の城を視界にとらえると、御者台から中にいるフェリシアに声をかける。馬車のなかには、フェリシアとティアが手荷物とともに揺られていた。
「ふふ、久しぶりね。お母様やお兄様は元気かしら」
「ここを離れて七年近くですから、旦那様や奥様、グレイル様たちもお嬢様のお戻りを待ちかねていましたよ」
ベーテスの口から伯爵であるアマデウス、夫人のアシュリー、そして伯爵位を受け継ぐ息子のグレイルの名が告げられた。末っ子であるフェリシアに会えるのを誰もが楽しみにしている。それはフェリシアも同じであった。フェリシアが家族の顔を思い出して笑みを浮かべる。
「楽しみね。さすがにみんな変わってるかしら?」
「お嬢様の成長が一番、驚かれると思われますよ」
「そうかしら?」
ベーテスの言葉に、フェリシアが自身の身体を見下ろして確かめる。自分ではその違いがわからず首をかしげた。
「私がフェリシアと会ったのは高等部からですが、それでも変わったと思いますよ。最初に見たときは、まだちょっとだけ頼りない感じてしたけど、今ではお姉さんって感じです」
「ふふ、そうかしら。ティアに言われるとちょっと恥ずかしいわね」
仲のいいティアからの言葉にフェリシアが照れて顔をほんのりと赤く染めていると「ティア様は旦那様の国へ訪れるのは初めてでございましたね」とベーテスがティアに話しかけてきた。
「写真では見たことがありますよ。小さい頃からずっと行きたいと思っていました。王都の次に楽しみな場所です」
「きっと、期待に答えられると思いますよ。旦那様の国は犯罪の発生率も少なく、経済も安定していて過ごしやすい場所です。数日でも過ごせば、きっと気に入るかと」
速度を速めた馬車は、しばらくして伯爵領の首都であるディオゲルヴォーディに到着する。伯爵の城の入り口に着くと屈強な兵士たちと使用人、それと伯爵が出迎えた。
馬車から降りるフェリシアとティア、伯爵が娘の顔を見て顔をほころばす。
「久しぶりだな、フェリシア。しばらく見ないうちに、ずいぶんと大人っぽくなったな」
「ふふ、ただいまお父様。無事に訓練学校を卒業して参りました」
「ああ、陛下から聞いている。神聖科の首席であったらしいな、さすがは私の娘だ。早くアシュリーにも顔を見せてやりなさい」
伯爵は慈愛に満ちた表情を、今度はフェリシアの隣にいるティアへと向けた。
「ティアも、ここを自分の家だと思ってゆっくりとしていくといい。あぁ、それと教皇から書状を預かっているから、あとで私の部屋に来るといい」
「わかりました。ありがとうございます」
使用人が二人の荷物を運び、フェリシアとティアは伯爵に促されて城門をくぐる。
メストヴォード伯爵領ソーラーアルジア郡、首都ディオゲルヴォーディ。ここはフェリシアの父、アマデウス・エアハートの居城がある場所で五十万人が暮らす大きな都市となっている。
伯爵領は国王の直轄地の南側六郡を所領しており、首都は王都より郡を一つ挟んだ南南東の位置にある。そして、アンゲルヴェルク王国の東を流れる大河コロント河とつながる大きな湖パーベル湖の南に隣接する形で存在していた。
城の敷地内へと歩みを進める二人、門を抜けた二人を出迎えたのは、正方形に広がるきれいに刈り取られた芝生の庭園に、それを囲むのは猫のかぎしっぽのような形をした三階建ての横に長いL字型の本城であった。
キョロキョロと周囲を見渡すティアは、本城から西へ少し離れたところにある、小さな林の木々に囲まれた円形の建物に目を奪われていた。
「フェリシア、あそこにある丸っこい建物は何ですか?」
「え? あぁ、あれは発電所よ。地下に発電施設があって、ここから街の中に電気を通しているの。あそこの丸い建物から城壁の西側までの地下全部が発電施設になっているのよ」
「おお! すごいですね。城に発電所があるなんて初めて聞きましたよ」
はるか先を行く予想外の返答に、ティアは好奇心を刺激されて目を輝かせる。フェリシアはティアのおどろく顔に自慢げに笑みを浮かべた。
「お父様が持つ伯爵領は、この半島の東側にある海を越えればレフィアータ帝国の帝都があるから、昔からよく戦になることが多いの。ここは、東の領とコロント河を挟んでるから直接攻められることはないんだけど、妨害工作はちょこちょこあってね、先代のお祖父様が面倒だからここに作るって言って発電事業もしてるのよ。うしろは湖があるだけだから水を引くのも簡単だしね」
「はあ、フェリシアのおじいちゃんは豪快ですね。しかも面倒がったものが全部いい方向に転がるなんて、これが伯爵の力なんですね!」
「いや、うーん、ちょっと違うんじゃないかな?」
ティアの斜め上を行く解釈にフェリシアが苦笑いを浮かべると、ティアは興味深そうにさらに視線をキョロキョロと動かしながら敷地内を移動する。
石畳が敷かれた発電施設の外周を歩くと、西側の奥に細長い五階建ての建物が五棟とそれに付随する倉庫のような建物が三棟あった。
ティアが何の建物かと質問すると「五階建ての方が騎士団の宿舎で、大きな建物の方が装備類や兵器、あとは備品類が置いてある倉庫ね」
「おお、やっぱりここにも騎士団が居るんですね!」
「ええ、全員がお父様が持つ兵士のなかでエリートの人たちよ。何人くらいだったかしら?」
「今は千に近いくらいだな」
二人のうしろを歩く伯爵がティアに向かって伝える。その顔を宿舎に向けると「まだまだ不満は多いがな」と眉間にシワを寄せていた。
「強そうですね。戦ってみたいです」
「それはいい案だな。ぜひとも、たたきのめしてほしいものだ。一度あの高いプライドがへし折れれば、さらに強くなるかもしれないな」
「ふっふっふ、まかせてください。けちょんけちょんにしてやりますよ」
「折りすぎるのも勘弁してくれよ」
三人は門から長い距離を歩いて城である建物の目の前までやって来た。ティアの視界に入る城は、想像とは違って王都にあるような大きな屋敷の形をしていた。この不思議にティアがフェリシアに顔を向ける。
「それにしてもさっきから思っていたんですが、他のところの城と形が全然違いますね。もっとトゲトゲどーん、としてるのかと思ったら、以外と平べったくて細長いですね」
「ふふ、今のお城は先代のお祖父様が建て直したんだけど、初めの計画だとティアが想像しているような感じだったらしいわよ」
「へぇ~、それが何でこんな感じになっちゃったんですか?」
「それがね。“こんな階段ばかりの建物など建てられるか! ダイエットトレーナーにでも設計させたのか? それとも嫌がらせか!”って怒ったらしくて、こんな感じになったの」
「そういえばそうだったな。攻められたらどうするのか、と父上の案には反対したのだが“我が家はそんなに弱くはない、それに城内まで攻められたとしたら、もはやどうすることもできぬだろう。暮らしやすさが最優先だ”と一蹴されてしまってな。言い返すことができなかった」
娘の言葉にうしろを歩く伯爵が城を見上げて、昔を思い出していた。
「面白いおじいちゃんですね。まだいるんですか?」
「残念ながら、すでに他界している」
「それは残念です。会ってみたかったですね」
「ふっ、自由奔放に生きながらも決まりは守る人だ。ティアとは気が合うかもしれないな」
「ふっふっふ、伯爵様はわかってますね」
扉の前には、使用人が立っていた。二人いる使用人が大きな黒い両開きの扉を開くと屋敷の中へと入っていった。
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