月影の砂

鷹岩 良帝

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5 それぞれの時間

5-1話 つかの間の休息

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 無事に六年間の訓練学校生活を終えて、ルーセントたちはメストヴォード伯爵が用意したマンションへと、それぞれの荷物を乗せた馬車で向かっていた。
 目的地につくと、一同が丸みを帯びた赤い瓦屋根に、黒の強い灰色のレンガで建てられた四階建てのマンションを見上げる。

「思ったより、立派なやつだな。伯爵はこれを全部買い取ったのかよ。すごいな」
「まったくだね。僕も将来はこうありたいものだよ」

 最初にパックスが感心していると、ヴィラがそれに乗っかってきた。

「やっぱり、住むところは大きいところが一番ですね」

 ティアがさらに追従してきた。

 伯爵の買い取ったマンションには、一階と四階に護衛と使用人が住み込みで警備と部屋の管理をしている。ルーセント、ヴィラ、パックスの三人は二階へ、フェリシアとティアは三階に部屋をとった。

「やあ、ルーセント。そっちはもう終わりそう?」

 ヴィラが大きめの木箱を抱えて、部屋から出てきたルーセントに声をかけた。

「ん~、あとちょっとで終わるかな? そっちはまだあるの?」
「うん。錬金用の機材とか材料が多くてね。手が空いたら手伝ってもらえないかな」
「もちろんいいよ。残りの荷物を運び終えたらそっちにいくよ」
「ありがとう、助かるよ」

 ルーセントは、自分の荷物をすべて運び込むと、片付けもそこそこに、ヴィラのもとへと向かった。

「ヴィラ? 手伝いに来たよ」
「ああ、ありがとう。いまは機材の組み立てで手が離せないから、下の馬車に行って残りの荷物を運んできてくれないかい?」
「わかったよ、持ってきたやつはこっちの空いたところに置いておけばいいかな?」
「うん、そこでいいよ。ありがとう」

 ルーセントが一度ヴィラの部屋から出ていくと、荷物を持って現れる。それを何回か繰り返して、すべての荷物を運び終えた。

「終わったよ」ルーセントは、うっすらと汗ばむ額を袖でぬぐう。
「ありがとう。本当に助かったよ。機材も材料も多くてさ」

 ヴィラは、部屋の一角に大がかりな錬金装置を組み立て終えると、柔らかい笑顔をルーセントへと向けた。
 空き箱となった木箱をテーブルがわりにすると、カップにお茶をいれてルーセントをねぎらう。

「ところで、このあとはどうするんだい?」
「そうだな」ルーセントは少し悩みながらカップに手を伸ばす。そして「一カ月くらいはここで狩りでもして、当面の活動費をまかなったら、実家に戻りたいかな」
「そうか、僕は王都に実家があるからいつでも戻れるけど、みんなは他から出てきてるんだったね」
「うん。無事に卒業したことを父上にも報告したいから」
「それがいいかもね。どれくらい戻るつもりだい?」
「ん~、どうだろう? そこはみんなと相談かな」
「じゃあ、あとでみんなを集めて決めてしまおうか」

 このあとも、ルーセントはヴィラの機材の設置や材料の保存を手伝っていく。すべてが終わったのは、闇が空を染めようとしていた頃だった。
 ルーセントは、全員の部屋の片付けが落ち着いた頃に集合をかけると、今後の予定を話し合った。
 五人の中では、ルーセントのヒールガーデンが一番遠く、なおかつ次に目指すティアの国のルートにもなっていたために、みんなが集まる場所はヒールガーデンと決まった。

 数日後には、みんなの引っ越しの片付けがすべて終わって、そこから三週間ほどは狩りや依頼をこなしつつも、次への資金をためこんだ。
 こうしてルーセントたちは帰郷の日を向かえる。
 それぞれが自分の家へと帰っていく。ルーセントも馬車に乗り込むと、ヒールガーデンをめざして王都に別れを告げた。

 ふたたび会うのは一カ月後、無事に故郷へと帰ってきたルーセントは、バーチェルに出迎えられて懐かしい家へと戻る。この日は知り合いが集まり、盛大なパーティーが夜遅くまで続いた。
 つかの間の休息に、ルーセントときゅうちゃんは、ふたたびみんなが集まるそのときまで、のんびりと過ごすのであった。
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