月影の砂

鷹岩 良帝

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4 王立べラム訓練学校 高等部2

4-32話 卒業試験17

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 天井の高い広々とした部屋では、潜入組と守備兵の戦いが、ティアと守備隊長の二人を除いて続いていた。
 取り残されている二人がにらみ合う。

「来いよ小娘」男が左手を向けて挑発した。

 ティアが両手にある短刀を逆手で持ち直すと、挑発を受けて飛び出す。右手で持つティアの短刀と、左に斬り上げる相手の刀がぶつかる。しかしティアは、すぐにひらりと回転すると、左手で持つ短刀で男の背中を刺そうと狙った。
 守備隊長は条件反射のように瞬時に反応すると、時計回りに回転してティアの腕に自分の右腕を当てて止めた。

 そして、すぐに左手で持つ刀でティアの身体を刺そうとしたが、ティアは左足を下げながら右手の短刀で受け止めて反らした。
 お互いに流れるように続く格闘技のような斬り合い。今度はティアが瞬時に反撃に移った。
 相手の首を殴り付けるように左手の短刀で首を狙うが、この攻撃は相手の右腕にある籠手に当たって受け流されてしまう。

 二人の間で火花が散った。

 まるで互角の戦いに、にらみ合う両者の視線がぶつかる。その覇気と覇気がぶつかって周囲を圧倒していく。

 小さき少女の攻撃を防いだ守備隊長は、先に突き刺そうとして防がれた刀を左に斬り返してティアの腹部を狙う。だが、この攻撃もティアがなんとか両手を使って防いだ。しかし、その軽い身体では勢いまでは止めることができずに、見事に弾き飛ばされてしまう。ティアが数メートルの距離を吹き飛ばされるが、うまいこと受け身を取って転がり起きた。
 これから反撃だ、とティアが前傾姿勢になったとき、目の前に現れた守備兵がティアの身体を分断しようと、剣を横に薙いだ。

 しかし、少女は迫る刃に冷静だった。

 ティアが刃を飛び越えようと跳ね上がり、そのまま前方に転回する。敵の剣は少女の顔のすぐ下を通過していく。それを見ながら、ティアは空中で身体をひねると、左手に持つ短刀を投げた。
 放たれた武器が守備兵の首へと吸い込まれるように刺さる。敵は苦しそうに首を押さえてもがき倒れると、もう一人の守備兵がティアを襲った。
 しかし、少女は突き出された剣を右手の短刀で受けると、くるりと回転して背中へと突き刺した。そして、そのまま武器から手を離すと相手の首へと両手を回してへし折った。

 少女がふたたび守備隊長と一対一になる。

 長く息を吐き出すティアが、上がったテンションを落ち着ける。そして丸腰のまま駆け出すと、二人は同時に図ったかのように魔法を繰り出した。
 守備隊長の男は、十センチほどのナイフのような氷を複数だして射出する。ティアは、自分の身長の倍もある大きさの巻きあがる旋風を放った。

 お互いの魔法が高速で動いてぶつかると、広い室内に爆発が起こる。すべてを吹き飛ばそうと爆風が部屋のなかを駆け回るも、ティアがそれで止まることはなかった。

 男も風に耐えると床を蹴って飛び出す。そして爆煙に向かって刀を突き出した。

 煙を巻き込んで現れたティアが何もない空間を右手でつかむと、そこには短刀が握られていた。逆手で持つ少女の武器が男の刀を横から払うように受ける。そして、そのまま踏み込むと相手の武器を持つその手を左手で押さえた。
 ティアは、空いた右手の短刀に風をまとわせると、そのまま流れるように守備隊長の心臓を突き刺した。

「どこから、武器を出しやがった……」男が苦しそうによろめく。
「ふっふっふ、企業秘密です」ティアは男の手をつかんだまま笑顔で返す。

 守備隊長が仰向けに倒れると、消え行く命を前に何かを思い出しているのか、天井をぼんやりと眺めていた。

 そのうちに、男の視線がティアへと向く。

「たいしたもんだ」男が穏やかな顔で言う。
「あの世で自慢してもいいですよ。いつか大英雄になりますから」少女が自信をもって答えた。
「そうか、それは楽しみだ……」

 守備隊長はそのまま目を閉じると、その生涯を終えた。

「ティア、この上が中央制御室よ。早くその男から認証キーを取って行くわよ」

 すでに戦闘を終わらせていたレイラたちが、ティアを待っていた。

「すぐ行きますよ」

 ティアは守備隊長の身体を探って認証キーを獲得する。
 すぐに上の階へ行くと、そこからは早かった。
 制御室には非戦闘員しかいないために、ティアたちが踏み込んだ時点で全員が降伏していた。すぐに東門に城門を開けるキーコードが送信される。無事に任務が終った、とホッとした様子でそれぞれが制御室を出たが、何気なく使ったティアの気配探知の魔法が無数の敵性反応を少女に伝える。

「あ、これはまずいですね」ティアの顔が嫌気を差してゆがむ。
「どうかしたの?」レイラが少女を見て首をかしげた。
「どうやら、こっちにもおかわりが来たみたいです。塔の外と、内側にびっしりと」

 それは城門へと向かうサイレスが途中で送り込んできた兵士たちであった。
 塔はすでに包囲をされている。そのうちの百人近くが、何隊かに別れて塔内へと侵入してきていた。

「それは残念ね、仕事のあとの一杯はおあずけかしら。みんな、もうひと踏ん張りよ。きっちりと掃除をして前将軍を迎えましょう」

 やっとの思いで塔を占拠して任務をやりとげた、と思っていた訓練生たちは、すっかり緊張の糸が切れていた。しかし、ティアの言葉で現実に引き戻されると、うんざりした様子で一気に士気が下がってしまうが、レイラが何気なく吐いた言葉でなんとか持ち直した。
 自分たちは前将軍に選ばれた特別な人物だと。その誇りがふたたび闘志に火を付けると、握りしめる武器に力がこもる。こうして疲れきった身体の訓練生たちは、新たに現れた敵へと向かっていくのであった。
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