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4 王立べラム訓練学校 高等部2
4-16話 卒業試験1
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光月暦 一〇〇九年 一月七日
宣戦布告と同時に行われたサラージ王国とメーデル王国との戦争。その一進一退の攻防は、二年以上も続いていた。それでもサラージ王国は、一時的にメーデル王国の六割を占領する時もあった。
だが、アンゲルヴェルク王国が本格的に派兵を決定すると、すぐに押し戻されてしまい、占有率は四割にまで下がってしまう。今は膠着状態が長く続いている。小競り合いに発展することはあっても、大きな戦は起きてはいなかった――。
無事に高等部三年へと進級したルーセントは、三ヶ月後に迫る卒業を残すのみであった。
授業のほとんどは終了した。今は一日中トレーニングやバトルフィールドシミュレーターに費やされている。
訓練を終えたルーセント、パックス、ティアの三人は寮に向かっていた。
パックスは疲れきった身体を、腕を揉みながら気だるく歩く。
「あ~、きっついな、毎日毎日。筋肉痛が治らねぇよ」
「そう? きついだけなら何とかなるんじゃない?」
「どんな生き方したら、そんな考えになるんだよ」
なげくパックスに、ルーセントは気にする様子もなくさらっと答えた。
「教官の目を盗んで手を抜いてるから悪いんですよ」そこにティアが割り込んだ。
「なんだよ、バレてんのかよ……。ああ、それで最近は教官がずっとこっち見てるのか、くそ!」
自分では上手くやっていると思っていたパックスだったが、教練の経験が豊富な教官には、すべてが筒抜けとなっていたことを知らされる。自分で撒いた種ではあったが、パックスは無念、とガックリとうなずいた。
そこに、うしろから三人を呼ぶ声が響いた。
「おーい、みんな。待ってくれ」
どこか聞き覚えのある声に三人が振り向いた。
「ん? お、ヴィラだ。久しぶり」ルーセントがにこやかに片手をあげた。
「よぉ、今終わりか?」パックスは両手を腰にアゴをしゃくる。
「まあね、たまには早く切り上げないと身が持たないよ」眼鏡の少年が笑みを浮かべて、二人を交互に見て答えた。
ヴィラは、ルーセントたちとは違って錬金科に配属されている。そこでの成績は、常に一位であった。
もちろん錬金科でも、いろいろな試験がある。
しかし、それでもルーセントたちが属する戦闘教練科と一緒になることは稀であった。
それに加えて、高等部の三年には卒業試験がある。これに合格しないと、卒業ができない。そのせいで、ヴィラがルーセントたちと会うことはほとんどなかった。
「卒業試験ですか? 錬金科は忙しそうですね」ティアは、せわしなく通りすぎていく他の錬金科の生徒を見ていた。
ヴィラもティアの視線へと会わせる。
「ああ、作るものが多くて困るよ。最後の一個は自分で考えないといけないし、まだまだ楽はさせてもらえないよ。で、君たちは何をするんだい?」
「私たちはまだ決まっていませんよ。錬金科みたいに時間がかかるのはないですから」
答えるティアは、高等部の三年になってから七センチメートルも背が伸びた。少し高くなった視線に、ほほ笑むと、ヴィラはそのままパックスへと視線を移した。
「ってことは、日頃の生活態度と成績に比重が置かれているのかな? で、パックスは合格できそうかい?」
「いや、何でおれだけに聞くんだよ。こいつらだって危ないかもしれないだろ?」
そういわれてヴィラが残る二人を見る。ただし、それは一秒にも満たない時間だった。
「ん~、想像つかないけど?」
「……そうだな、おれも想像つかねぇ」
ヴィラの言葉に納得するしかないパックス、四人はそのまま寮へと向かっていった。
戦闘教練科の寮の中、その中央を貫く五基の魔導エレベーターへ歩いていくと、ご飯時でにぎわう食堂からルーセントを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、ルーセント。こっちこっち」
「ああ、フェリシア。もう来てたんだね」
「うん、ちょっと早く終わったからね。ちゃんと場所も取っといてあげたわよ」
「ありがとう。でも、訓練で泥だらけだから、シャワーを浴びてから来るよ。ヴィラと一緒にもう少し待ってて」
ルーセントはフェリシアに両腕を軽く広げる。その姿は訓練によって泥にまみれていた。それは服だけではなく、顔や腕にも砂や泥がついているところもある。一階で待機する清掃員は、戻ってくる生徒が途切れたのを見計らって、一生懸命に床に落ちた土を片付けてモップ掛けをしていた。
ヴィラがフェリシアの左隣へと座る。フェリシアとヴィラの目が合うと「やあ」といって眼鏡の少年がほほ笑んだ。
フェリシアが再びルーセントを見る。
「分かった。じゃあ、先に飲み物を頼んじゃうね」
うなずくルーセントが立ち去っていくと、フェリシアの顔はメニューを眺めていたヴィラに向けられた。
「それにしても久しぶりね。そっちの卒業試験はどう?」
「錬金科は物を作るのが仕事とはいえ、さすがに量が多くて困っちゃうよ。まだまだいっぱいあるからね」と、ヴィラが肩をすくめて見せる。そして「そっちはどう?」と聞き返した。
「私の方も楽ではないわね。いろいろな治療院を回ったり、時には治療師として従軍したりするからね。今日だってみんなと会うのは久しぶりよ」
「そうなんだ。やっぱり、卒業試験はどこの科も大変そうだね」
ヴィラとフェリシアは、久しぶりに会えたことに気をよくして雑談に花を咲かせる。しばらくしてきゅうちゃんを肩に乗せたルーセントがやって来た。
「おまたせ」
「きゅう!」
「ふふ、久しぶりね、きゅうちゃん」
「きゅう、きゅう」
フェリシアを視界に捉えたきゅうちゃんは、手足を広げるとルーセントの肩から飛び立った。フェリシアの肩をめがけて滑空する。無事にフェリシアの肩に着地すると、フェリシアの顔を小さな舌で舐めた。
くすぐったそうなフェリシアは、きゅうちゃんを両手で包み込んで抱えるとテーブルの上に乗せた。
「元気だったきゅうちゃん。今日はシリンイチゴを、いっぱいごちそうしてあげるからね」
「きゅう!」
フェリシアの言葉にうれしそうなウリガルモモンガ。お返しに、とフェリシアに頬擦りするきゅうちゃんに、フェリシアの顔は緩んでいた。
注文を終えて料理がそろったところで、ルーセントがフェリシアにメーデル王国とサラージ王国の戦況について聞いた。
「そうだ、フェリシアは治療師としてメーデル王国の方に従軍するときもあるんでしょ? 向こうはどんな状況になってるの?」
「そうね、私たちは最前線に行くことはないから言うほど詳しくはないんだけど、それでも今は落ち着いてるかな。大きな戦闘が起きたとは聞いてないわね」
「すぐに終わるかと思ったけど、予想以上に長引くね。メーデル西域はほとんどがサラージ王国に占領されてるんだよね」
「うん。囲うように縦長に領土を取られてて、無理に攻めても包囲されるからってことで大きく出れないんだって。それに、海岸沿いには向こうの戦艦隊が待ち構えていて思うようにいかないみたい」
フェリシアの口から語られる戦況に、全員が深刻そうな顔をする。その中でも、ヴィラは戦艦隊という言葉に興味を示した。
「戦艦って実際には見たことないけど、何種類あるんだい?」
「そうだね。軽戦艦、中戦艦、重戦艦の三種類と揚陸艦、輸送艦の計五種類があるね。戦艦は重戦艦になるにしたがって大きく、魔導砲の数も多くなるけど、その分だけ速度は遅くなるんだよ」
ルーセントが手を使ってそれぞれの大きさを分かりやすく説明していく。ヴィラはひとつひとつ納得してうなずく。
「へぇ、じゃあ重戦艦ってやつは、どれだけの大きさがあるんだい?」
「この国の重戦艦だと、全長が二百二十メートルで、主砲に四十口径六十センチ二連装魔導砲塔が二基、あとは六十口径二十センチ三連装魔導砲塔が四基、四十口径十二センチ三連装速射魔導砲塔が六基だったかな」
「二百メートル以上とはすごいな。ところで、口径とセンチは何が違うの?」
「ああそれはね、口径は砲身の長さを表していて、四十口径なら口径の四十倍の長さがあるってこと。センチは砲身の直径の長さ、つまりは口径だね。主砲を例にとれば、二十四メートルの砲身長がある、直径六十センチの魔導砲が二個くっついてるって感じかな」
ルーセントの説明を聞き終えたヴィラは、予想以上の大きさに圧倒されていた。
「どれをひとつとっても、思った以上にでかいんだね。そんなもんに攻撃されたら堪ったものじゃないね」
「まあ、相手は鉄の塊の巨大船だからね。これくらいはないと効果がないんじゃないかな。それでも、西域の制海権を取られたのは痛いね。千年前にあった飛行挺があれば問題ないんだろうけど」
「飛行挺か……、あれを作るなら早くすべての精霊と契約しないといけないな」
ヴィラはあらためて精霊との契約に使命にも似た覚悟を覚えた。
そんなヴィラの表情を見て、ルーセントがなにかを思い付き笑みを浮かべる。
「今のヴィラの言葉で思い付いたんだけど、ここを卒業したあとは、みんなどうするの?」
「私はルーセントと冒険者をやろうと思ってるけど?」
「はいはい! 私も同じです。一攫千金です、お金がっぽがぽです」
ルーセントの問いかけに、フェリシアと欲望丸出しのティアがともに行動すると表明する。
ヴィラは精霊との契約を目指すと答えて全員がパックスに視線を移した。すべての視線を集めるパックスが考え込むとすぐに顔を上げた。
「そうだな……、目的はあるにはあるけど、急いでないから、おれもルーセントについていくぞ」
「だったら、みんなでヴィラの精霊契約を手伝わない? 目的はあった方がいいでしょ?」
「おお、それいいな。おれは賛成だ」パックスが片手をあげる。
他の二人もうなずいた。
「みんなが手伝ってくれるなら、こんなに心強いことはないけど、本当にいいのかい?」ヴィラが申し訳なさそうに確認をとる。
「もちろんだよ。千年前の技術が手に入れば、みんなの生活が良くなるだろうし、オレたちにだって必要だからね。利益はあっても損はないよ」
こうして卒業後の目的も決まって、久しぶりにみんなと再会できた一同は夕飯を楽しんだ。
一週間後、戦闘教練科の卒業試験の内容が発表された。それは現在も戦争中のメーデル王国への派兵であった。
試験内容を聞いた生徒達に緊張が走る。ルーセント、パックス、ティアの三人以外の生徒には、初めての実戦になとなり不安を抱えた生活を余儀なくされていく。卒業試験は月が変わってすぐに行われることになった。
進軍先は、メーデル王国南西部にある『ロイゼン子爵領トパケタ』ここは、ディフィニクス前将軍が軍営を築き守っていた。
宣戦布告と同時に行われたサラージ王国とメーデル王国との戦争。その一進一退の攻防は、二年以上も続いていた。それでもサラージ王国は、一時的にメーデル王国の六割を占領する時もあった。
だが、アンゲルヴェルク王国が本格的に派兵を決定すると、すぐに押し戻されてしまい、占有率は四割にまで下がってしまう。今は膠着状態が長く続いている。小競り合いに発展することはあっても、大きな戦は起きてはいなかった――。
無事に高等部三年へと進級したルーセントは、三ヶ月後に迫る卒業を残すのみであった。
授業のほとんどは終了した。今は一日中トレーニングやバトルフィールドシミュレーターに費やされている。
訓練を終えたルーセント、パックス、ティアの三人は寮に向かっていた。
パックスは疲れきった身体を、腕を揉みながら気だるく歩く。
「あ~、きっついな、毎日毎日。筋肉痛が治らねぇよ」
「そう? きついだけなら何とかなるんじゃない?」
「どんな生き方したら、そんな考えになるんだよ」
なげくパックスに、ルーセントは気にする様子もなくさらっと答えた。
「教官の目を盗んで手を抜いてるから悪いんですよ」そこにティアが割り込んだ。
「なんだよ、バレてんのかよ……。ああ、それで最近は教官がずっとこっち見てるのか、くそ!」
自分では上手くやっていると思っていたパックスだったが、教練の経験が豊富な教官には、すべてが筒抜けとなっていたことを知らされる。自分で撒いた種ではあったが、パックスは無念、とガックリとうなずいた。
そこに、うしろから三人を呼ぶ声が響いた。
「おーい、みんな。待ってくれ」
どこか聞き覚えのある声に三人が振り向いた。
「ん? お、ヴィラだ。久しぶり」ルーセントがにこやかに片手をあげた。
「よぉ、今終わりか?」パックスは両手を腰にアゴをしゃくる。
「まあね、たまには早く切り上げないと身が持たないよ」眼鏡の少年が笑みを浮かべて、二人を交互に見て答えた。
ヴィラは、ルーセントたちとは違って錬金科に配属されている。そこでの成績は、常に一位であった。
もちろん錬金科でも、いろいろな試験がある。
しかし、それでもルーセントたちが属する戦闘教練科と一緒になることは稀であった。
それに加えて、高等部の三年には卒業試験がある。これに合格しないと、卒業ができない。そのせいで、ヴィラがルーセントたちと会うことはほとんどなかった。
「卒業試験ですか? 錬金科は忙しそうですね」ティアは、せわしなく通りすぎていく他の錬金科の生徒を見ていた。
ヴィラもティアの視線へと会わせる。
「ああ、作るものが多くて困るよ。最後の一個は自分で考えないといけないし、まだまだ楽はさせてもらえないよ。で、君たちは何をするんだい?」
「私たちはまだ決まっていませんよ。錬金科みたいに時間がかかるのはないですから」
答えるティアは、高等部の三年になってから七センチメートルも背が伸びた。少し高くなった視線に、ほほ笑むと、ヴィラはそのままパックスへと視線を移した。
「ってことは、日頃の生活態度と成績に比重が置かれているのかな? で、パックスは合格できそうかい?」
「いや、何でおれだけに聞くんだよ。こいつらだって危ないかもしれないだろ?」
そういわれてヴィラが残る二人を見る。ただし、それは一秒にも満たない時間だった。
「ん~、想像つかないけど?」
「……そうだな、おれも想像つかねぇ」
ヴィラの言葉に納得するしかないパックス、四人はそのまま寮へと向かっていった。
戦闘教練科の寮の中、その中央を貫く五基の魔導エレベーターへ歩いていくと、ご飯時でにぎわう食堂からルーセントを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、ルーセント。こっちこっち」
「ああ、フェリシア。もう来てたんだね」
「うん、ちょっと早く終わったからね。ちゃんと場所も取っといてあげたわよ」
「ありがとう。でも、訓練で泥だらけだから、シャワーを浴びてから来るよ。ヴィラと一緒にもう少し待ってて」
ルーセントはフェリシアに両腕を軽く広げる。その姿は訓練によって泥にまみれていた。それは服だけではなく、顔や腕にも砂や泥がついているところもある。一階で待機する清掃員は、戻ってくる生徒が途切れたのを見計らって、一生懸命に床に落ちた土を片付けてモップ掛けをしていた。
ヴィラがフェリシアの左隣へと座る。フェリシアとヴィラの目が合うと「やあ」といって眼鏡の少年がほほ笑んだ。
フェリシアが再びルーセントを見る。
「分かった。じゃあ、先に飲み物を頼んじゃうね」
うなずくルーセントが立ち去っていくと、フェリシアの顔はメニューを眺めていたヴィラに向けられた。
「それにしても久しぶりね。そっちの卒業試験はどう?」
「錬金科は物を作るのが仕事とはいえ、さすがに量が多くて困っちゃうよ。まだまだいっぱいあるからね」と、ヴィラが肩をすくめて見せる。そして「そっちはどう?」と聞き返した。
「私の方も楽ではないわね。いろいろな治療院を回ったり、時には治療師として従軍したりするからね。今日だってみんなと会うのは久しぶりよ」
「そうなんだ。やっぱり、卒業試験はどこの科も大変そうだね」
ヴィラとフェリシアは、久しぶりに会えたことに気をよくして雑談に花を咲かせる。しばらくしてきゅうちゃんを肩に乗せたルーセントがやって来た。
「おまたせ」
「きゅう!」
「ふふ、久しぶりね、きゅうちゃん」
「きゅう、きゅう」
フェリシアを視界に捉えたきゅうちゃんは、手足を広げるとルーセントの肩から飛び立った。フェリシアの肩をめがけて滑空する。無事にフェリシアの肩に着地すると、フェリシアの顔を小さな舌で舐めた。
くすぐったそうなフェリシアは、きゅうちゃんを両手で包み込んで抱えるとテーブルの上に乗せた。
「元気だったきゅうちゃん。今日はシリンイチゴを、いっぱいごちそうしてあげるからね」
「きゅう!」
フェリシアの言葉にうれしそうなウリガルモモンガ。お返しに、とフェリシアに頬擦りするきゅうちゃんに、フェリシアの顔は緩んでいた。
注文を終えて料理がそろったところで、ルーセントがフェリシアにメーデル王国とサラージ王国の戦況について聞いた。
「そうだ、フェリシアは治療師としてメーデル王国の方に従軍するときもあるんでしょ? 向こうはどんな状況になってるの?」
「そうね、私たちは最前線に行くことはないから言うほど詳しくはないんだけど、それでも今は落ち着いてるかな。大きな戦闘が起きたとは聞いてないわね」
「すぐに終わるかと思ったけど、予想以上に長引くね。メーデル西域はほとんどがサラージ王国に占領されてるんだよね」
「うん。囲うように縦長に領土を取られてて、無理に攻めても包囲されるからってことで大きく出れないんだって。それに、海岸沿いには向こうの戦艦隊が待ち構えていて思うようにいかないみたい」
フェリシアの口から語られる戦況に、全員が深刻そうな顔をする。その中でも、ヴィラは戦艦隊という言葉に興味を示した。
「戦艦って実際には見たことないけど、何種類あるんだい?」
「そうだね。軽戦艦、中戦艦、重戦艦の三種類と揚陸艦、輸送艦の計五種類があるね。戦艦は重戦艦になるにしたがって大きく、魔導砲の数も多くなるけど、その分だけ速度は遅くなるんだよ」
ルーセントが手を使ってそれぞれの大きさを分かりやすく説明していく。ヴィラはひとつひとつ納得してうなずく。
「へぇ、じゃあ重戦艦ってやつは、どれだけの大きさがあるんだい?」
「この国の重戦艦だと、全長が二百二十メートルで、主砲に四十口径六十センチ二連装魔導砲塔が二基、あとは六十口径二十センチ三連装魔導砲塔が四基、四十口径十二センチ三連装速射魔導砲塔が六基だったかな」
「二百メートル以上とはすごいな。ところで、口径とセンチは何が違うの?」
「ああそれはね、口径は砲身の長さを表していて、四十口径なら口径の四十倍の長さがあるってこと。センチは砲身の直径の長さ、つまりは口径だね。主砲を例にとれば、二十四メートルの砲身長がある、直径六十センチの魔導砲が二個くっついてるって感じかな」
ルーセントの説明を聞き終えたヴィラは、予想以上の大きさに圧倒されていた。
「どれをひとつとっても、思った以上にでかいんだね。そんなもんに攻撃されたら堪ったものじゃないね」
「まあ、相手は鉄の塊の巨大船だからね。これくらいはないと効果がないんじゃないかな。それでも、西域の制海権を取られたのは痛いね。千年前にあった飛行挺があれば問題ないんだろうけど」
「飛行挺か……、あれを作るなら早くすべての精霊と契約しないといけないな」
ヴィラはあらためて精霊との契約に使命にも似た覚悟を覚えた。
そんなヴィラの表情を見て、ルーセントがなにかを思い付き笑みを浮かべる。
「今のヴィラの言葉で思い付いたんだけど、ここを卒業したあとは、みんなどうするの?」
「私はルーセントと冒険者をやろうと思ってるけど?」
「はいはい! 私も同じです。一攫千金です、お金がっぽがぽです」
ルーセントの問いかけに、フェリシアと欲望丸出しのティアがともに行動すると表明する。
ヴィラは精霊との契約を目指すと答えて全員がパックスに視線を移した。すべての視線を集めるパックスが考え込むとすぐに顔を上げた。
「そうだな……、目的はあるにはあるけど、急いでないから、おれもルーセントについていくぞ」
「だったら、みんなでヴィラの精霊契約を手伝わない? 目的はあった方がいいでしょ?」
「おお、それいいな。おれは賛成だ」パックスが片手をあげる。
他の二人もうなずいた。
「みんなが手伝ってくれるなら、こんなに心強いことはないけど、本当にいいのかい?」ヴィラが申し訳なさそうに確認をとる。
「もちろんだよ。千年前の技術が手に入れば、みんなの生活が良くなるだろうし、オレたちにだって必要だからね。利益はあっても損はないよ」
こうして卒業後の目的も決まって、久しぶりにみんなと再会できた一同は夕飯を楽しんだ。
一週間後、戦闘教練科の卒業試験の内容が発表された。それは現在も戦争中のメーデル王国への派兵であった。
試験内容を聞いた生徒達に緊張が走る。ルーセント、パックス、ティアの三人以外の生徒には、初めての実戦になとなり不安を抱えた生活を余儀なくされていく。卒業試験は月が変わってすぐに行われることになった。
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