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3 王立べラム訓練学校 高等部1
3-28話 一攫千金!魔物競技1
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「じゃあ、次の行き先はヒールガーデンで決まりだね。出発は準備もあるから来週でいいよね」
ルーセントの声にみんながうなずく。
ここはルーセントが過ごす寮の一階にある食堂。
実習メンバー五人が昼食を食べながら次の行き先を決めていたところだった。
パックスは思案顔でルーセントに旅程について聞く。
「ところで、ヒールガーデンってここからどれくらい日数がかかるんだ?」
「ああ、そうだね。大体、馬車で一週間くらいかな。点々と宿場町があるからそんなに大変じゃないよ」
「お! だったら、多少のんびり行くのも悪くないな。急ぐ旅路でもないだろ?」
ルーセントからしっかりした施設が点在していると聞いて表情を和らげるパックスにみんなが賛同する。
フェリシアも会話に参加して楽しそうに身を乗り出して街道の情報を話す。
「それにここ六年くらいで、王都から西側のコロント河に沿って街道の補修作業が行われたから、今までより快適に進めるわよ」
「おお! それじゃあ、あのガタガタしたのも、雨が降ったときのぬかるみもないんだね」
「ああ、あれはつらいよな。すぐ酔っちゃう」
馬車が苦手なルーセントがうれしそうに答えると、パックスも覚えがあるのか同調してうなずいた。
パックスは昼食を終えた時を見計らってニヤニヤした顔を全員に向けた。
「なあ、みんなこのあと暇だろ? 陛下から褒賞金ももらったことだし、旅費を稼ぐためにここは魔物競技にでも行かないか?」
「おお! はい、はい! 私も行きたいです、魔物競技。パックスもたまには良いこと言いますね」
「おい、こら。“たまに”は余計だ!」
目を輝かせるティアに指をさして苦情を言うパックス。
その提案を一番に喜ぶティアは「早く行きましょう」とパックスの腕をつかみ急かす。
「もう、ティアははしゃぎ過ぎよ。でも良いわね、私も久しぶりかも」
フェリシアはそんなティアをなだめながらも、小さい頃に父親に何度か連れていってもらった楽しい記憶を思い出していた。
「うん、興味深いね。あれは運の要素が強いと思われがちだけど、データを制したものが勝利を手にできる。僕もたまには錬金以外で頭を使わないといけないな、と思っていたところだよ」
ヴィラは今からやる気を溢れさせて、あれやこれやとつぶやき始めた。
ルーセントは戸惑った表情で、申し訳なさそうにパックスに聞き返す。
「魔物競技ってどういうところなの?」
「おいおい、マジか。相当メジャーなやつだぞ」
「ははは、ヒールガーデンにはカジノはあるけど、魔物競技はないからね。それに、父上も興味ないみたいだったから全然知らないよ」
ルーセントは、戸惑った表情はそのままに苦笑いを浮かべた。
パックスは「仕方ないな」と世間知らずな相棒に説明を始める。
「いいか、魔物競技ってのは文字どおり魔物たちを競い会わせる競技だ」
「どうやって魔物をつれてくるの?」ルーセントが素朴な疑問を瞬時に返す。
「それはだな、魔物が生息しているところには極稀に卵が落ちているときがあるんだよ。それを召喚術士のところに持っていって召喚獣として登録すれば自由に呼び出しが可能になる」
「へぇ、卵なんて今まで見たことないけど、魔物って卵を産むの?」
「まぁ、産むやつもいるんじゃないか?」
パックスは魔物の身体構造までは詳しくなく、適当に答えるとヴィラが会話に参加してきた。
「魔物が卵を産むのは、ひとつに体内に溜まりすぎた魔力を排出するための行動とされていて、別に卵から魔物が生まれてくるわけではないんだよ。オス、メス関係なしに卵は排出されるからね」
「そうなんだ、ベシジャウドの森にずっといたことあっても見たことなかったし、パックスの言う通り、ずいぶんと貴重なんだね」
「まあね、卵の売買は冒険者の大事な稼ぎのひとつでもあるんだよ。召喚術士が冒険者と専属契約を結んで、卵専門のハンターもいるくらいだから。優秀なハンターは富と名誉が約束されるから一攫千金を目指す冒険者は後を絶たないよ」
「富って、卵ってそんなに高いの?」
「お父様が前に卵を買ったときは二千万リーフって言ってたわよ」
なにげにつぶやいたルーセントの言葉に、今度はフェリシアが変わって答えた。
「おお! さすがは伯爵、尋常じゃないな。卵ひとつに二千万リーフかよ」
みんなが感嘆の声をあげると、パックスが驚きと呆れが混じった感想を漏らした。
「でも、そんなに高いんじゃ俺らじゃ手が出せないね」ルーセントが残念そうに言った。
「たしかにね。でも、買えなくても拾えば問題ないよ。だから、今度は卵を拾ったときのために育成について教えてあげるよ」
「おお、それは興味深いね」ルーセントがヴィラのまねをして答えた。
軽く笑いが起こる場にヴィラが少し恥ずかしそうにほほ笑んだ。
「いいかい。魔物はさっきも言ったように、召喚術士によって召喚獣に変換してもらうんだけど、ここで気を付けることがあるんだ」
「へぇ、なんなの?」
「それは、魔物を所有するには王家から資格をもらう必要があるんだ。無資格で所有すると加担した召喚術士と所有者は死罪になる」
「結構厳しいんだね。でもなんで資格が必要なの? そんなに管理が難しいの?」
“死罪”という言葉にルーセントが顔をしかめると、その理由をヴィラに求めた。
「いや、管理自体は簡単さ。召喚獣に変換されれば右腕に紋章が刻印されて、持ち主の意思によって簡単に呼び出せるからね。餌も要らないしお手軽だよ。ただ、もともとは魔物だからね、戦闘能力もあるしその昔に頻繁に犯罪に使われることがあって禁止されたんだよ。これは他国でも統一されて定められていて、どこの国にいっても資格がないと所有もできないし、死罪になるよ。当然だけど、資格があっても魔物を使って犯罪を起こせば死罪になるからね」
「なるほどね。まぁ、普通に使っていれば問題ないか」
「そういうこと。じゃあ、話を戻すよ。育成には自分で育てるか、各街や村にある専用施設で調教するかの二種類がある。競技自体はレース、ハンティング、バトルの三種類があるから、その目的に合わせて調教をする人が多いね。魔物にはステータスがあって力、速さ、体力、瞬発力が鑑定士によって数値化されていて、どれを伸ばすかはその人次第だね。例えば、スピード勝負なら速さを優先に体力と瞬発力とかね」
「へぇ、面白そうだね。レースに勝てば賞金がもらえるんでしょ?」
「そうだね。レースは基本的に同じ種族同士で競って、上位五名に魔物の階級に応じた賞金が支払われるよ」
「階級なんてあるの?」
ルーセントはすっかり魔物競技に魅了されていく。次々と浮かび上がる疑問をヴィラに問いかけていった。
「もちろん。種族ごとにS~Fにランクわけをされているよ。今年だとウルフとマウス種がSランクに設定されてる。他にもあるけど、ここは成績や人気と盛り上がり度で決まっているみたい。ただし、年の始めにランクが見直されて変わることがあるから注意が必要だね」
「へぇ、それはどうやって決められてるの?」
「それは、年に一度だけ年末に全種族で競い合うドリームマッチが行われるんだけど、そこをメインにして決められているのさ。このドリームマッチの賞金がすごくてね、世界中の魔物主はみんなここを目指すんだ。さらにはレース賞金だけじゃなくて、ドリームマッチは三日間に渡り開催されるんだけど、レース、ハンティング、バトルのすべての競技を制覇した三冠達成者には、なんと! 名誉貴族の称号と王国から十億リーフが贈呈されるんだ。これを達成した人は過去にウルフ種を使っていた一人しかいないんだ」
「十億リーフ……、それはすごいね」
「ただし、この魔物たちは交配ができない上に五年のサイクルで消滅してしまうから、ずっとは頂点に君臨できないんだよ」
「五年か、なんかちょっともったいない気もするね」
「まぁね。でも、それに見合った賞金がもらえるからメリットの方が大きいと思うよ。勝てればだけどね」
ヴィラの説明が落ち着くと、ルーセントの頭のなかでは、すでに自分が持つ魔物が走り回っていた。
「ってことは、持つならやっぱりランクが高くてドリームマッチも制覇したことがあるウルフ種がいいのかな」
「夢をつかむならウルフ種から、とは言われているね。でも初期能力の高いレア卵は、王都で一定周期で開催されるオークションで販売される事がほとんどなんだ。賞金の高い人気種族ほど高額で取引されていてね、人気のない種族でも数百万リーフ、ウルフ種ともなると、さっきフェリシアが言っていたような金額になってしまうんだ」
「さすがに、それは買えないよな。自分で見つけるしかないのか……」
「おまけに卵は鑑定してもらうまでなんの卵かは分からないからね。やっと見つけても、……ってね」
「へぇ、なかなか複雑なんですね」
今までおとなしくヴィラの説明を聞いていたティアが納得したようにうなずいた。
「何だ、知らなかったのか? あんなに行きたがってたのに」
パックスはティアが知っているものかと思っていたようで、以外にも驚いていた。
「パトロデルメス教皇国もレギスタン聖騎士教会も、魔物競技は禁止されてますから。ルーセントの所と同じでカジノはあるんですけどね」
ティアが話すその理由に、今度はパックスがうなずいた。
「なるほどな、教義ってやつか。でも、禁止されてんのにやってもいいのかよ?」
「問題ありませんよ。女神様自体が禁止してるわけではありませんから。それに、今はこの国に留学で来てるんです! これも勉強です!」
「本当かよ、どうなっても知らないぞ」
親指を立てて、ぐっと前に拳をつき出すティアに呆れたように両手を軽くあげるパックス。
説明も終わったところで、さっそく競技場へと行くことになった。
大勢の観客で賑わうレース競技場“レーガヴェント”王家の風と呼ばれる競技場に、ルーセントたちは白い制服を着て競技場に入る。
パックスの指示で「制服を着てこい」と言われていた。
なぜかと不思議に思うルーセントがパックスに「何で制服で来るの?」と聞いた。
「それはな。こいつを着てると、入場料もこの中の店の飲食代もタダになるんだよ」
「え! なんで?」
パックスの口から出てくるお得な情報に、ルーセントが驚く。
パックスはイタズラを仕掛けた少年のような笑みで制服をつまんだ。
「これを着てるってことは、上級守護者の訓練生ってことだろ。そんなやつに逆らう一般人は、まずいない。まあ、警備費ってところだな。しっかりと訓練された警備兵もいるけど、なにぶんにもこの人数じゃな」
「あぁ、なるほどね。でもそれじゃ、結構な赤字だよね」
「そんなことないさ、賭けですぐに取り戻せる」
「それは、辛辣だね」
笑いながら答えるパックスに、ひきつった表情で返すルーセント。
そんな二人をティアが背中を押して急かす。
「ほらほら、早く行きましょう。終わっちゃいますよ」
ティアに押されて小走りで会場に入っていく三人。それを追いかけてフェリシアとヴィラも駆けていく。
鉄骨とクリーム色の石材で作られたスタンドへ消えていく五人。これから旅費をかけた戦いが始まる。
ルーセントの声にみんながうなずく。
ここはルーセントが過ごす寮の一階にある食堂。
実習メンバー五人が昼食を食べながら次の行き先を決めていたところだった。
パックスは思案顔でルーセントに旅程について聞く。
「ところで、ヒールガーデンってここからどれくらい日数がかかるんだ?」
「ああ、そうだね。大体、馬車で一週間くらいかな。点々と宿場町があるからそんなに大変じゃないよ」
「お! だったら、多少のんびり行くのも悪くないな。急ぐ旅路でもないだろ?」
ルーセントからしっかりした施設が点在していると聞いて表情を和らげるパックスにみんなが賛同する。
フェリシアも会話に参加して楽しそうに身を乗り出して街道の情報を話す。
「それにここ六年くらいで、王都から西側のコロント河に沿って街道の補修作業が行われたから、今までより快適に進めるわよ」
「おお! それじゃあ、あのガタガタしたのも、雨が降ったときのぬかるみもないんだね」
「ああ、あれはつらいよな。すぐ酔っちゃう」
馬車が苦手なルーセントがうれしそうに答えると、パックスも覚えがあるのか同調してうなずいた。
パックスは昼食を終えた時を見計らってニヤニヤした顔を全員に向けた。
「なあ、みんなこのあと暇だろ? 陛下から褒賞金ももらったことだし、旅費を稼ぐためにここは魔物競技にでも行かないか?」
「おお! はい、はい! 私も行きたいです、魔物競技。パックスもたまには良いこと言いますね」
「おい、こら。“たまに”は余計だ!」
目を輝かせるティアに指をさして苦情を言うパックス。
その提案を一番に喜ぶティアは「早く行きましょう」とパックスの腕をつかみ急かす。
「もう、ティアははしゃぎ過ぎよ。でも良いわね、私も久しぶりかも」
フェリシアはそんなティアをなだめながらも、小さい頃に父親に何度か連れていってもらった楽しい記憶を思い出していた。
「うん、興味深いね。あれは運の要素が強いと思われがちだけど、データを制したものが勝利を手にできる。僕もたまには錬金以外で頭を使わないといけないな、と思っていたところだよ」
ヴィラは今からやる気を溢れさせて、あれやこれやとつぶやき始めた。
ルーセントは戸惑った表情で、申し訳なさそうにパックスに聞き返す。
「魔物競技ってどういうところなの?」
「おいおい、マジか。相当メジャーなやつだぞ」
「ははは、ヒールガーデンにはカジノはあるけど、魔物競技はないからね。それに、父上も興味ないみたいだったから全然知らないよ」
ルーセントは、戸惑った表情はそのままに苦笑いを浮かべた。
パックスは「仕方ないな」と世間知らずな相棒に説明を始める。
「いいか、魔物競技ってのは文字どおり魔物たちを競い会わせる競技だ」
「どうやって魔物をつれてくるの?」ルーセントが素朴な疑問を瞬時に返す。
「それはだな、魔物が生息しているところには極稀に卵が落ちているときがあるんだよ。それを召喚術士のところに持っていって召喚獣として登録すれば自由に呼び出しが可能になる」
「へぇ、卵なんて今まで見たことないけど、魔物って卵を産むの?」
「まぁ、産むやつもいるんじゃないか?」
パックスは魔物の身体構造までは詳しくなく、適当に答えるとヴィラが会話に参加してきた。
「魔物が卵を産むのは、ひとつに体内に溜まりすぎた魔力を排出するための行動とされていて、別に卵から魔物が生まれてくるわけではないんだよ。オス、メス関係なしに卵は排出されるからね」
「そうなんだ、ベシジャウドの森にずっといたことあっても見たことなかったし、パックスの言う通り、ずいぶんと貴重なんだね」
「まあね、卵の売買は冒険者の大事な稼ぎのひとつでもあるんだよ。召喚術士が冒険者と専属契約を結んで、卵専門のハンターもいるくらいだから。優秀なハンターは富と名誉が約束されるから一攫千金を目指す冒険者は後を絶たないよ」
「富って、卵ってそんなに高いの?」
「お父様が前に卵を買ったときは二千万リーフって言ってたわよ」
なにげにつぶやいたルーセントの言葉に、今度はフェリシアが変わって答えた。
「おお! さすがは伯爵、尋常じゃないな。卵ひとつに二千万リーフかよ」
みんなが感嘆の声をあげると、パックスが驚きと呆れが混じった感想を漏らした。
「でも、そんなに高いんじゃ俺らじゃ手が出せないね」ルーセントが残念そうに言った。
「たしかにね。でも、買えなくても拾えば問題ないよ。だから、今度は卵を拾ったときのために育成について教えてあげるよ」
「おお、それは興味深いね」ルーセントがヴィラのまねをして答えた。
軽く笑いが起こる場にヴィラが少し恥ずかしそうにほほ笑んだ。
「いいかい。魔物はさっきも言ったように、召喚術士によって召喚獣に変換してもらうんだけど、ここで気を付けることがあるんだ」
「へぇ、なんなの?」
「それは、魔物を所有するには王家から資格をもらう必要があるんだ。無資格で所有すると加担した召喚術士と所有者は死罪になる」
「結構厳しいんだね。でもなんで資格が必要なの? そんなに管理が難しいの?」
“死罪”という言葉にルーセントが顔をしかめると、その理由をヴィラに求めた。
「いや、管理自体は簡単さ。召喚獣に変換されれば右腕に紋章が刻印されて、持ち主の意思によって簡単に呼び出せるからね。餌も要らないしお手軽だよ。ただ、もともとは魔物だからね、戦闘能力もあるしその昔に頻繁に犯罪に使われることがあって禁止されたんだよ。これは他国でも統一されて定められていて、どこの国にいっても資格がないと所有もできないし、死罪になるよ。当然だけど、資格があっても魔物を使って犯罪を起こせば死罪になるからね」
「なるほどね。まぁ、普通に使っていれば問題ないか」
「そういうこと。じゃあ、話を戻すよ。育成には自分で育てるか、各街や村にある専用施設で調教するかの二種類がある。競技自体はレース、ハンティング、バトルの三種類があるから、その目的に合わせて調教をする人が多いね。魔物にはステータスがあって力、速さ、体力、瞬発力が鑑定士によって数値化されていて、どれを伸ばすかはその人次第だね。例えば、スピード勝負なら速さを優先に体力と瞬発力とかね」
「へぇ、面白そうだね。レースに勝てば賞金がもらえるんでしょ?」
「そうだね。レースは基本的に同じ種族同士で競って、上位五名に魔物の階級に応じた賞金が支払われるよ」
「階級なんてあるの?」
ルーセントはすっかり魔物競技に魅了されていく。次々と浮かび上がる疑問をヴィラに問いかけていった。
「もちろん。種族ごとにS~Fにランクわけをされているよ。今年だとウルフとマウス種がSランクに設定されてる。他にもあるけど、ここは成績や人気と盛り上がり度で決まっているみたい。ただし、年の始めにランクが見直されて変わることがあるから注意が必要だね」
「へぇ、それはどうやって決められてるの?」
「それは、年に一度だけ年末に全種族で競い合うドリームマッチが行われるんだけど、そこをメインにして決められているのさ。このドリームマッチの賞金がすごくてね、世界中の魔物主はみんなここを目指すんだ。さらにはレース賞金だけじゃなくて、ドリームマッチは三日間に渡り開催されるんだけど、レース、ハンティング、バトルのすべての競技を制覇した三冠達成者には、なんと! 名誉貴族の称号と王国から十億リーフが贈呈されるんだ。これを達成した人は過去にウルフ種を使っていた一人しかいないんだ」
「十億リーフ……、それはすごいね」
「ただし、この魔物たちは交配ができない上に五年のサイクルで消滅してしまうから、ずっとは頂点に君臨できないんだよ」
「五年か、なんかちょっともったいない気もするね」
「まぁね。でも、それに見合った賞金がもらえるからメリットの方が大きいと思うよ。勝てればだけどね」
ヴィラの説明が落ち着くと、ルーセントの頭のなかでは、すでに自分が持つ魔物が走り回っていた。
「ってことは、持つならやっぱりランクが高くてドリームマッチも制覇したことがあるウルフ種がいいのかな」
「夢をつかむならウルフ種から、とは言われているね。でも初期能力の高いレア卵は、王都で一定周期で開催されるオークションで販売される事がほとんどなんだ。賞金の高い人気種族ほど高額で取引されていてね、人気のない種族でも数百万リーフ、ウルフ種ともなると、さっきフェリシアが言っていたような金額になってしまうんだ」
「さすがに、それは買えないよな。自分で見つけるしかないのか……」
「おまけに卵は鑑定してもらうまでなんの卵かは分からないからね。やっと見つけても、……ってね」
「へぇ、なかなか複雑なんですね」
今までおとなしくヴィラの説明を聞いていたティアが納得したようにうなずいた。
「何だ、知らなかったのか? あんなに行きたがってたのに」
パックスはティアが知っているものかと思っていたようで、以外にも驚いていた。
「パトロデルメス教皇国もレギスタン聖騎士教会も、魔物競技は禁止されてますから。ルーセントの所と同じでカジノはあるんですけどね」
ティアが話すその理由に、今度はパックスがうなずいた。
「なるほどな、教義ってやつか。でも、禁止されてんのにやってもいいのかよ?」
「問題ありませんよ。女神様自体が禁止してるわけではありませんから。それに、今はこの国に留学で来てるんです! これも勉強です!」
「本当かよ、どうなっても知らないぞ」
親指を立てて、ぐっと前に拳をつき出すティアに呆れたように両手を軽くあげるパックス。
説明も終わったところで、さっそく競技場へと行くことになった。
大勢の観客で賑わうレース競技場“レーガヴェント”王家の風と呼ばれる競技場に、ルーセントたちは白い制服を着て競技場に入る。
パックスの指示で「制服を着てこい」と言われていた。
なぜかと不思議に思うルーセントがパックスに「何で制服で来るの?」と聞いた。
「それはな。こいつを着てると、入場料もこの中の店の飲食代もタダになるんだよ」
「え! なんで?」
パックスの口から出てくるお得な情報に、ルーセントが驚く。
パックスはイタズラを仕掛けた少年のような笑みで制服をつまんだ。
「これを着てるってことは、上級守護者の訓練生ってことだろ。そんなやつに逆らう一般人は、まずいない。まあ、警備費ってところだな。しっかりと訓練された警備兵もいるけど、なにぶんにもこの人数じゃな」
「あぁ、なるほどね。でもそれじゃ、結構な赤字だよね」
「そんなことないさ、賭けですぐに取り戻せる」
「それは、辛辣だね」
笑いながら答えるパックスに、ひきつった表情で返すルーセント。
そんな二人をティアが背中を押して急かす。
「ほらほら、早く行きましょう。終わっちゃいますよ」
ティアに押されて小走りで会場に入っていく三人。それを追いかけてフェリシアとヴィラも駆けていく。
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