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3 王立べラム訓練学校 高等部1
3-27話 論功行賞
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零宝山の攻防から二カ月がたち、ルーセントは自室で目覚ましよりも早く目を覚ました。
陽が登る前の視界に広がる薄紫色の青空が、ガラス張りの天井に広がっている。雲が一つもない晴天に身体を伸ばしてベッドから起き上がった。
ルーセントは軽くストレッチをしながら気持ち良さそうに寝ているきゅうちゃんを起こす。
「おはよう、きゅうちゃん。ごはんを食べに行くよ」
「きゅ?」
ルーセントの声に、突き出た窓の木枠に置かれた小さいベッドからきゅうちゃんがちょこんと顔を出す。
少し眠そうに数回のまばたきと小さなあくびをするとルーセントの肩へと飛び乗った。
「きゅっ!」
「じゃあ、行こうか。今日もシリンイチゴのジャムとヨーグルトでいいの?」
「きゅう!」
きゅうちゃんは『もちろん』とでも言うように力強い鳴き声を上げた。
ルーセントは部屋を出ようと刀を手に取る。
太刀と脇差しを専用のベルトに取り付けると制服を着込んだ。
ルーセントが部屋を出てエレベーターに乗ろうとしたとき、うしろから声がして呼び止められた。
「よお、ルーセント。今からご飯か?」
聞き慣れた声にルーセントが振り向くと、そこには右手を軽く上げて近付いてくるパックスがいた。
「おはよう。パックスも今から?」
「もちろん、一緒に行こうぜ。きゅうすけは今日もジャムとヨーグルトか?」
「きゅう、きゅう」
「毎日同じのばかりでよく飽きないな」
きゅうちゃんはパックスの言葉に『当然!』と言うようにうなずき鳴いた。
食堂は朝食時とあってかにぎやかにざわつき始めていた。
パックスが空いた席を見付けると、ルーセントもあとに続いて椅子に座るとメニューを眺めだした。
それぞれのメニューが決まると注文表にチェックを付けて呼び出しボタンを押す。ボタンを押してすぐに、ブラウンのベレー帽とワイシャツと黒のズボン、ブラウンのソムリエエプロンを身に付けたフロアスタッフが水を持ってやって来た。
「お待たせしましたぁ。注文表をお預かりします」
「お願いします」
ルーセントが注文表を渡すと、テーブルに置かれたコップをつかんで一口飲み干す。
そのままコップを傾けるときゅうちゃんに近づけた。
二人が颯爽と歩くフロアスタッフを見送ると、パックスが水を飲みながらルーセントに話しかける。
「それにしても楽になったよな。半年前までは自分たちで料理を取りに行ってたんだからな」
「そうだね。受け取りの混雑を解消するためだっけ?」
「そうそう、おまけにあのお姉さんが結構かわいいんだよな。ますますご飯の時間が楽しみになっちまうぜ」
雑談を繰り返す二人のもとへ注文した料理が運ばれてきた。
それを合図に二人が話を切り上げると、香ばしい匂いを漂わせるご飯に集中した。
ルーセントが頼んだのは、BELバーガーと豆と鶏肉のトマトソース煮。
パックスは海老炒飯と肉マン、きゅうちゃんはシリンイチゴのジャムとヨーグルトを頼んでいた。
そして、夢中で朝御飯を食べている二人と一匹の元に、気配を絶った影が忍び寄る。
「よっしゃ! 今日ももらいましたよ」
「あ!」
「おい! 返せよ。気配の魔法使うなんてずるいぞ」
二人の朝食を見事に奪い取ったのは、ショートボブの茶色の髪を揺らすティアだった。
ティアはすぐにバーガーと肉マンをかじって二人に見せつける。
「残念! これはもう私の物です」
「まったく、食い意地の張った女だな」
「心外ですね。突然の奇襲に対応できるように訓練してあげてるんですよ。感謝してほしいですね」
ティアは減らず口とともに戦利品を頬張ると、幸せそうな顔を見せて椅子に座った。
ティアも注文を済ませ食事にありつくと、ルーセントが二人に相談を持ちかける。
「ところで今度の実習はどうしようか? そろそろ次を決めないと」
「だよな、二カ月も休んでたからな。あ! そう言えばヴィラがルーセントの街に行きたいって言ってなかったか?」
「ああ、言ってたね。前回はこっちの都合に合わせてもらったし、次はヴィラの方に合わせてみようか」
「私は問題ないですよ」
パックスの一言ですぐに次の予定が決まる。
授業を終えたのちに全員に確認を取ることが決まってにぎやかな朝食を終えた。
ルーセントが自室に戻り授業の準備をしていると、机の上の端末にメッセージが届き音を鳴らせた。
「ん? 何だろう」
「きゅう?」
ルーセントの言葉にきゅうちゃんも反応して首をかしげる。
ルーセントは端末を操作する。
そこには、実習メンバーの五人の名前と『昼休みに校長室へ来るように』との指示が書かれていた。
呼び出される覚えは一切なく、机の椅子に座ると天板に右肘を置いてアゴと唇に手を添えた。
呼び出される理由、それをうなりながら考えていると、部屋のチャイムが鳴った。
ルーセントが扉を開くと、目の前にはパックスが立っていた。同じメッセージを見たせいか、その顔には深刻そうな感情が浮かんでいた。
「おい、メッセージ見たか?」
「今見てたところだよ。何だろうね、呼び出しをくらうようなことしてないと思うんだけど」
「やっぱり心当たりはないか。この前の戦の事だと思ったんだけど、二カ月もたってるからな」
これと言って呼び出される理由が分からない二人は、モヤモヤした気持ちのまま朝の授業に向かっていった。
昼食を済ませた五人が校長室へとやって来た。
部屋には自身の机の横に立つ校長と、王城から来たと思われる使いの者が立っていた。
「突然呼び出して済まんな。城から勅使が来てな、お前たちに用があるそうだ」
校長の言葉に使者が一歩前へと進んだ。
「ルーセント、フェリシア、ティア、パックス、ヴィラの五名に勅命を授ける」
勅使が手にする詔書を見たルーセントたちは、互いの顔を見合うとその場にひざまずいた。
「ルーセント、フェリシア、ティア、パックス、ヴィラの五名は、先の戦においての活躍により褒賞を授ける。よって、光月暦一〇〇六年 八月二十二日 王城にて論功行賞を行う故、朝議に参内せよ」
「勅命、謹んでお受けいたします」
五人が跪礼を行ったまま声をそろえて答える。ルーセントが両足で膝立ちになると、みんなを代表して詔書を受けとった。
勅使は、詔書を受け取ったルーセントを見て一言告げる。
「朝議は朝の七時に行う。決して遅れることのないように」
「かしこまりました」
勅使はルーセントの返答に満足すると、校長室を立ち去っていった。
扉の閉まる音とともにルーセントは大きく息をはく。
全員が立ち上がったところで、校長が穏やかな表情で話しかけてきた。
「いやはや、まさか我が生徒が陛下より褒賞を受けるとは思っても見ませんでしたよ。あなたたちは私の誇りです。このまま驕り高ぶらず学んでいきなさい」
「はい、ありがとうございます」
ルーセントたちが校長に頭を下げると部屋を後にした。
次の日、五人は白い訓練学校の制服を着込んで全員がそろって王城へと足を運ぶ。
ルーセントは、城門で門兵に勅命を受けてきたことを伝える。
兵がにこやかに答えると、待機していた担当官を呼んで仕事へと戻る。
担当官は襟と袖に赤いラインの入った黒いローブを着込んだ老人であった。辺りを見渡せば朝議に参加する人たちなのか、各種色の入った黒いローブをまとって同じ方向へと歩いていく。
ルーセントはいつか歩いたことのある玉座の間に向かう廊下を担当官のうしろに付いて歩いていく。
「お! そこにいるのはルーセントか?」
名前を呼ばれてルーセントがうしろを振り向く。
視界に入ったのはディフィニクス前将軍、その弟のウォルビス、ルーセントの所属した部隊を指揮していたモーリスに訓練で一騎打ちをした相手ルードなど、戦で部隊を指揮していた人たちだった。
最初に話しかけてきたのはディフィニクスだった。その姿は鎧にマントをまとっていて、実に威風堂々と見るものを圧倒していた。
「やはりお前らも呼ばれたか。感謝しろよ、しっかり報告しておいてやったからな」
ウォルビスがルーセントの横に並ぶと背中を軽くたたいた。
「よう、久しぶりだな。さすがに訓練生には役職はつかないだろうけど、いい感じの褒美がもらえるんじゃないか? 期待しとけ」
二人以外の武将もそれぞれの訓練生と話しながら玉座の間へと進んでいった。
玉座の間には数十名の文官、武官が階級順に前から立ち並ぶ。
左側には鎧を着込む武官が、右側には色のラインが入った黒のローブを着る文官が並んでいた。
ルーセントたちは、武官らが並ぶ壁際に誘導されて待っていた。
部屋の中では雑談が繰り広げられている。
そのざわつく部屋に一人の兵士の大きな声が響いた。
「国王陛下がお越しになられます」
瞬時に静かになる空間、玉座の横手にある大扉が開くと、国の栄華を誇るように豪奢な衣を身にまとった国王が現れて玉座に座った。
その少し離れた隣に司徒を兼任する軍師ファンゲルが立った。
群臣たちは国王が入室すると同時に跪礼をもってひざまずく。
国王が部屋を見渡す。
「皆、立つがよい」
「恐れ入ります」ひざまずく全員が立ち上がる。
国王が壁際にいるルーセントを見て緩やかにほほ笑むと、一呼吸を置いて論功行賞へと移った。
「数カ月前になるが零宝山での戦、並びにリレーシャでの県令、県尉の反逆の阻止、皆の者、大義であった。大きな功績のあった諸君らをねぎらいたい」
国王の言葉に、群臣一同が軽く頭を下げると国王が賞する者の名前を呼び上げる。
「ディフィニクス、ウォルビス、バーゼル、モーリス、ルード、ラグリオ、ドレアス、ランブル、レイラは前に出よ」
名前を呼ばれた九名は、短い返事とともに前に歩みだして行く。
前列にはディフィニクス、ウォルビス、軍師バーゼルが並ぶ。残りの六人はそのうしろでひざまずいていた。
「陛下に拝謁いたします」呼ばれた全員が声をそろえた。
「そなたらの零宝山並びにリレーシャでの功績を称え、ディフィニクスには国宝の隕石と鋼で作らせた剣を授ける。ウォルビスは武衛将軍、レイラは暗伏将軍に昇格、残りの者は昇給とする。今後も余の剣となり盾となり、民のために活躍することを望む」
「御聖恩に感謝を」
ディフィニクスを含む九名が国王に礼を述べると立ち上がり、それぞれの場所へと戻っていく。
続いて国王はルーセントの方を向いて、その名を呼び上げる。
「さらに此度は、特別にその方らにも褒賞を与える。前に来るがよい」
ルーセントの方を見て話す国王は、ゆっくりと右手を動かし自身の前へと誘う。
返事とともに緊張を浮かべて歩くルーセントらは、ディフィニクスたちをまねるように国王の前でひざまずいた。
「国王陛下に拝謁いたします」
「ディフィニクスの報告により、そなたらの活躍を耳にした。我が国の将軍職らに劣らぬ活躍、余は大変嬉しく思う。よって特別に褒賞金二百万リーフを授ける。今後も怠けることなく精進せよ」
「はい、今まで以上に鍛練を積み、成長した姿を見せれるよう努力いたします。陛下の御聖恩に感謝を」
ルーセントが顔をあげて国王に礼をのべた。
それに続いて、残りの四名も「陛下の御聖恩に感謝を」と感謝をのべた。
再び壁際まで下がると、そこからは内政についての話に入っていった。関係のないルーセントたちはそこで担当官に連れられて玉座の間を後にした。
応接室まで戻ると、担当官が手にする褒賞金の二百万リーフを受けとる。
ルーセントは、それぞれ四十万リーフに分けて四人に渡した。何を買おうか、と楽しそうに話す五人はニコニコしながら学校に戻ると、残りの授業をこなしていった。
陽が登る前の視界に広がる薄紫色の青空が、ガラス張りの天井に広がっている。雲が一つもない晴天に身体を伸ばしてベッドから起き上がった。
ルーセントは軽くストレッチをしながら気持ち良さそうに寝ているきゅうちゃんを起こす。
「おはよう、きゅうちゃん。ごはんを食べに行くよ」
「きゅ?」
ルーセントの声に、突き出た窓の木枠に置かれた小さいベッドからきゅうちゃんがちょこんと顔を出す。
少し眠そうに数回のまばたきと小さなあくびをするとルーセントの肩へと飛び乗った。
「きゅっ!」
「じゃあ、行こうか。今日もシリンイチゴのジャムとヨーグルトでいいの?」
「きゅう!」
きゅうちゃんは『もちろん』とでも言うように力強い鳴き声を上げた。
ルーセントは部屋を出ようと刀を手に取る。
太刀と脇差しを専用のベルトに取り付けると制服を着込んだ。
ルーセントが部屋を出てエレベーターに乗ろうとしたとき、うしろから声がして呼び止められた。
「よお、ルーセント。今からご飯か?」
聞き慣れた声にルーセントが振り向くと、そこには右手を軽く上げて近付いてくるパックスがいた。
「おはよう。パックスも今から?」
「もちろん、一緒に行こうぜ。きゅうすけは今日もジャムとヨーグルトか?」
「きゅう、きゅう」
「毎日同じのばかりでよく飽きないな」
きゅうちゃんはパックスの言葉に『当然!』と言うようにうなずき鳴いた。
食堂は朝食時とあってかにぎやかにざわつき始めていた。
パックスが空いた席を見付けると、ルーセントもあとに続いて椅子に座るとメニューを眺めだした。
それぞれのメニューが決まると注文表にチェックを付けて呼び出しボタンを押す。ボタンを押してすぐに、ブラウンのベレー帽とワイシャツと黒のズボン、ブラウンのソムリエエプロンを身に付けたフロアスタッフが水を持ってやって来た。
「お待たせしましたぁ。注文表をお預かりします」
「お願いします」
ルーセントが注文表を渡すと、テーブルに置かれたコップをつかんで一口飲み干す。
そのままコップを傾けるときゅうちゃんに近づけた。
二人が颯爽と歩くフロアスタッフを見送ると、パックスが水を飲みながらルーセントに話しかける。
「それにしても楽になったよな。半年前までは自分たちで料理を取りに行ってたんだからな」
「そうだね。受け取りの混雑を解消するためだっけ?」
「そうそう、おまけにあのお姉さんが結構かわいいんだよな。ますますご飯の時間が楽しみになっちまうぜ」
雑談を繰り返す二人のもとへ注文した料理が運ばれてきた。
それを合図に二人が話を切り上げると、香ばしい匂いを漂わせるご飯に集中した。
ルーセントが頼んだのは、BELバーガーと豆と鶏肉のトマトソース煮。
パックスは海老炒飯と肉マン、きゅうちゃんはシリンイチゴのジャムとヨーグルトを頼んでいた。
そして、夢中で朝御飯を食べている二人と一匹の元に、気配を絶った影が忍び寄る。
「よっしゃ! 今日ももらいましたよ」
「あ!」
「おい! 返せよ。気配の魔法使うなんてずるいぞ」
二人の朝食を見事に奪い取ったのは、ショートボブの茶色の髪を揺らすティアだった。
ティアはすぐにバーガーと肉マンをかじって二人に見せつける。
「残念! これはもう私の物です」
「まったく、食い意地の張った女だな」
「心外ですね。突然の奇襲に対応できるように訓練してあげてるんですよ。感謝してほしいですね」
ティアは減らず口とともに戦利品を頬張ると、幸せそうな顔を見せて椅子に座った。
ティアも注文を済ませ食事にありつくと、ルーセントが二人に相談を持ちかける。
「ところで今度の実習はどうしようか? そろそろ次を決めないと」
「だよな、二カ月も休んでたからな。あ! そう言えばヴィラがルーセントの街に行きたいって言ってなかったか?」
「ああ、言ってたね。前回はこっちの都合に合わせてもらったし、次はヴィラの方に合わせてみようか」
「私は問題ないですよ」
パックスの一言ですぐに次の予定が決まる。
授業を終えたのちに全員に確認を取ることが決まってにぎやかな朝食を終えた。
ルーセントが自室に戻り授業の準備をしていると、机の上の端末にメッセージが届き音を鳴らせた。
「ん? 何だろう」
「きゅう?」
ルーセントの言葉にきゅうちゃんも反応して首をかしげる。
ルーセントは端末を操作する。
そこには、実習メンバーの五人の名前と『昼休みに校長室へ来るように』との指示が書かれていた。
呼び出される覚えは一切なく、机の椅子に座ると天板に右肘を置いてアゴと唇に手を添えた。
呼び出される理由、それをうなりながら考えていると、部屋のチャイムが鳴った。
ルーセントが扉を開くと、目の前にはパックスが立っていた。同じメッセージを見たせいか、その顔には深刻そうな感情が浮かんでいた。
「おい、メッセージ見たか?」
「今見てたところだよ。何だろうね、呼び出しをくらうようなことしてないと思うんだけど」
「やっぱり心当たりはないか。この前の戦の事だと思ったんだけど、二カ月もたってるからな」
これと言って呼び出される理由が分からない二人は、モヤモヤした気持ちのまま朝の授業に向かっていった。
昼食を済ませた五人が校長室へとやって来た。
部屋には自身の机の横に立つ校長と、王城から来たと思われる使いの者が立っていた。
「突然呼び出して済まんな。城から勅使が来てな、お前たちに用があるそうだ」
校長の言葉に使者が一歩前へと進んだ。
「ルーセント、フェリシア、ティア、パックス、ヴィラの五名に勅命を授ける」
勅使が手にする詔書を見たルーセントたちは、互いの顔を見合うとその場にひざまずいた。
「ルーセント、フェリシア、ティア、パックス、ヴィラの五名は、先の戦においての活躍により褒賞を授ける。よって、光月暦一〇〇六年 八月二十二日 王城にて論功行賞を行う故、朝議に参内せよ」
「勅命、謹んでお受けいたします」
五人が跪礼を行ったまま声をそろえて答える。ルーセントが両足で膝立ちになると、みんなを代表して詔書を受けとった。
勅使は、詔書を受け取ったルーセントを見て一言告げる。
「朝議は朝の七時に行う。決して遅れることのないように」
「かしこまりました」
勅使はルーセントの返答に満足すると、校長室を立ち去っていった。
扉の閉まる音とともにルーセントは大きく息をはく。
全員が立ち上がったところで、校長が穏やかな表情で話しかけてきた。
「いやはや、まさか我が生徒が陛下より褒賞を受けるとは思っても見ませんでしたよ。あなたたちは私の誇りです。このまま驕り高ぶらず学んでいきなさい」
「はい、ありがとうございます」
ルーセントたちが校長に頭を下げると部屋を後にした。
次の日、五人は白い訓練学校の制服を着込んで全員がそろって王城へと足を運ぶ。
ルーセントは、城門で門兵に勅命を受けてきたことを伝える。
兵がにこやかに答えると、待機していた担当官を呼んで仕事へと戻る。
担当官は襟と袖に赤いラインの入った黒いローブを着込んだ老人であった。辺りを見渡せば朝議に参加する人たちなのか、各種色の入った黒いローブをまとって同じ方向へと歩いていく。
ルーセントはいつか歩いたことのある玉座の間に向かう廊下を担当官のうしろに付いて歩いていく。
「お! そこにいるのはルーセントか?」
名前を呼ばれてルーセントがうしろを振り向く。
視界に入ったのはディフィニクス前将軍、その弟のウォルビス、ルーセントの所属した部隊を指揮していたモーリスに訓練で一騎打ちをした相手ルードなど、戦で部隊を指揮していた人たちだった。
最初に話しかけてきたのはディフィニクスだった。その姿は鎧にマントをまとっていて、実に威風堂々と見るものを圧倒していた。
「やはりお前らも呼ばれたか。感謝しろよ、しっかり報告しておいてやったからな」
ウォルビスがルーセントの横に並ぶと背中を軽くたたいた。
「よう、久しぶりだな。さすがに訓練生には役職はつかないだろうけど、いい感じの褒美がもらえるんじゃないか? 期待しとけ」
二人以外の武将もそれぞれの訓練生と話しながら玉座の間へと進んでいった。
玉座の間には数十名の文官、武官が階級順に前から立ち並ぶ。
左側には鎧を着込む武官が、右側には色のラインが入った黒のローブを着る文官が並んでいた。
ルーセントたちは、武官らが並ぶ壁際に誘導されて待っていた。
部屋の中では雑談が繰り広げられている。
そのざわつく部屋に一人の兵士の大きな声が響いた。
「国王陛下がお越しになられます」
瞬時に静かになる空間、玉座の横手にある大扉が開くと、国の栄華を誇るように豪奢な衣を身にまとった国王が現れて玉座に座った。
その少し離れた隣に司徒を兼任する軍師ファンゲルが立った。
群臣たちは国王が入室すると同時に跪礼をもってひざまずく。
国王が部屋を見渡す。
「皆、立つがよい」
「恐れ入ります」ひざまずく全員が立ち上がる。
国王が壁際にいるルーセントを見て緩やかにほほ笑むと、一呼吸を置いて論功行賞へと移った。
「数カ月前になるが零宝山での戦、並びにリレーシャでの県令、県尉の反逆の阻止、皆の者、大義であった。大きな功績のあった諸君らをねぎらいたい」
国王の言葉に、群臣一同が軽く頭を下げると国王が賞する者の名前を呼び上げる。
「ディフィニクス、ウォルビス、バーゼル、モーリス、ルード、ラグリオ、ドレアス、ランブル、レイラは前に出よ」
名前を呼ばれた九名は、短い返事とともに前に歩みだして行く。
前列にはディフィニクス、ウォルビス、軍師バーゼルが並ぶ。残りの六人はそのうしろでひざまずいていた。
「陛下に拝謁いたします」呼ばれた全員が声をそろえた。
「そなたらの零宝山並びにリレーシャでの功績を称え、ディフィニクスには国宝の隕石と鋼で作らせた剣を授ける。ウォルビスは武衛将軍、レイラは暗伏将軍に昇格、残りの者は昇給とする。今後も余の剣となり盾となり、民のために活躍することを望む」
「御聖恩に感謝を」
ディフィニクスを含む九名が国王に礼を述べると立ち上がり、それぞれの場所へと戻っていく。
続いて国王はルーセントの方を向いて、その名を呼び上げる。
「さらに此度は、特別にその方らにも褒賞を与える。前に来るがよい」
ルーセントの方を見て話す国王は、ゆっくりと右手を動かし自身の前へと誘う。
返事とともに緊張を浮かべて歩くルーセントらは、ディフィニクスたちをまねるように国王の前でひざまずいた。
「国王陛下に拝謁いたします」
「ディフィニクスの報告により、そなたらの活躍を耳にした。我が国の将軍職らに劣らぬ活躍、余は大変嬉しく思う。よって特別に褒賞金二百万リーフを授ける。今後も怠けることなく精進せよ」
「はい、今まで以上に鍛練を積み、成長した姿を見せれるよう努力いたします。陛下の御聖恩に感謝を」
ルーセントが顔をあげて国王に礼をのべた。
それに続いて、残りの四名も「陛下の御聖恩に感謝を」と感謝をのべた。
再び壁際まで下がると、そこからは内政についての話に入っていった。関係のないルーセントたちはそこで担当官に連れられて玉座の間を後にした。
応接室まで戻ると、担当官が手にする褒賞金の二百万リーフを受けとる。
ルーセントは、それぞれ四十万リーフに分けて四人に渡した。何を買おうか、と楽しそうに話す五人はニコニコしながら学校に戻ると、残りの授業をこなしていった。
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