月影の砂

鷹岩 良帝

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3 王立べラム訓練学校 高等部1

3-22話 零宝山の攻防3

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 多くの兵士たちに囲まれて武器を構えるルーセントと褐色の肌の男。
 一騎打ちの相手は、百七十センチメートルの身長に分厚い筋肉をまとう部隊長を担当する将軍、ルードであった。
 身体中にある傷が歴戦の勇士を思わせる。
 ルードは悪びれた様子もなく、モーリスに対して一言だけ謝る。

「悪いなモーリス、流れを止めちまって。こいつ見てたら我慢できなくなってな」
「対して悪いとも思ってないだろ? 将軍に許可を取れよ」

 ルードはモーリスの言葉に前将軍へと視線を移す。
 二人のやり取りを見ていたディフィニクスは面白そうだ、と許可を出した。
 モーリスは真剣な表情の少年に向かって注意を促す。

「気を付けろよ、ルーセント。あいつは軍の中でもトップクラスの腕前だ。今までのやつとは桁が違うぞ」

 ルーセントとルードを残して他のメンバーは敵味方に別れて離れていった。
 向かい合う二人がそれぞれの得物を正眼に構えて向き合う。ルーセントが数歩だけ間合いを詰めれば、ルードも同じ分だけ下がっていく。
 二人の歩みが止まったところで、ルードは身体の正面に薙刀なぎなたを立てると両手、両足を入れ替え体勢を変えた。
 刃を上に反転させて身構える。
 一瞬の静寂が訪れた後に動いたのはルーセントだった。
 大きく一歩だけ飛び込むと、その動きに合わせてルードが薙刀を斬り上げて身体を狙った。
 ルーセントは予測していた攻撃に冷静に対処をする。

 二人の武器がぶつかり合って乾いた音が響いた。

 しかし、ルードの攻撃はこれだけでは止まらなかった。銀髪の訓練生に止められた薙刀は、部隊長が刃を返して絡めるように木刀を抑えつけた。
 ルーセントも反撃を警戒してか、ルードをまねて刃を返すと薙刀を抑えた。そしてすぐにうしろへと下がる。
 生まれでた間合いにルードが再び持ち手を入れ替ると、そこから右足を大きく踏み出してルーセントの左足側から右スネを狙った。
 ルーセントは左足を下げて迎え撃つと、ルードはすぐに首を狙い斬り上げる。
 しかし、再び防がれる部隊長の攻撃、ルードの顔が楽しさにゆがむ。
 なおも続く部隊長の攻撃は、苦しむ金の瞳の少年を攻め続けた。ルードが再び右スネを狙う。

 終始劣勢が続いて苦渋がにじむルーセントは、足を一歩下げながら薙刀を払いのけると、弾け飛ぶように一気に間合いを詰めた。その木刀の刀身は褐色の部隊長の腹部を狙っていた。
 一瞬で距離を詰めるルーセントに驚きあせるルードは、薙刀を引き寄せ柄の部分で何とか受け止める。
 鍔ぜり合うような格好になる二人。
 ルードは楽しそうに笑みを浮かべ、ルーセントを褒める。

「やるじゃねぇか、さすがに今のはあせったぞ!」
「こっちだって、全然間合いに入れなくて困りますよ」

 一瞬にやけたルードは、ルーセントが喋り終えると同時に力を込めてルーセントを押し飛ばした。
 大きく後ずさるルーセントに、ルードは長柄の特性を生かして木刀の範囲外からルーセントの左の脇腹を狙った。
 しかし、これはルーセントによって難なく身体の前で受け止められてしまう。だが、これはルードも予想していた。今度は動きを最小限にした薙刀が、ルーセントの右脇腹を狙う。しかし、これもルーセントによって難なく受け止められてしまった。
 今度はルーセントが反撃に出る。
 ルードの腕を狙い斬り付けるルーセントに、部隊長は右足を一歩下げると同時に上体も仰け反らせる。
 そして、薙刀を反転させて石突でルーセントの右手に打ち込んだ。木刀から右手を離すルーセントは、突きを警戒して左へと飛びのいた。

 その動きにルードの顔がにやける。

 ルーセントは見事に戦闘経験豊富な部隊長に誘い込まれてしまった。ルードが待ってましたとばかりに胴体をめがけて薙刀を水平に薙いだ。
 流れるような一撃にあせるルーセントは、木刀の刃の部分に右手を添えて何とかしのぐものの、その勢いは殺せずに飛ばされてしまった。
 体勢を崩されたところへ、老練な部隊長がさらに追い打ちをかける。
 突き出されたルードの薙刀の刃が、ルーセントに迫る。
 しかしルーセントも、力の入らない体勢から渾身の力でなんとか薙刀を払い飛ばすと、大きくうしろに飛んで距離を取った。
 お互いが呼吸を整えるなか、長く息をはき出すルードが探し当てた掘り出し物を見つけたようにルーセントにほほ笑みかけた。

「大したもんだな、ここまで打ち合うのも久しぶりだ。だがどうする? このままじゃ俺の優位は変わらないぞ」
「もう大丈夫ですよ。次で終わらせます」
「はん! 言うじゃねぇか。見た目と違って生意気な小僧だ。面白い、気に入った! 来いよ」

 ルーセントの挑発とも取れる言葉に、ルードは鼻で笑うと手を前に出して指を何度か折り曲げ『来い』とルーセントを誘う。
 武器を構え直す二人の目に鋭さが増していく。あふれんばかりの殺気が周囲を包み込んでいった。
 先ほどまでにぎやかにざわめいていた外野は、一瞬にして黙り込んだ。
 終わりが近づく空気を感じ取って、少なくない兵士の身体に冷や汗が伝う。
 木刀を正眼に構えるルーセントに対して、少し前に刃を立てて石突を地面に向けるルード。

 いつの間にか吹き始めた風に包まれて緊張が最高潮に高まっていく。

 相手の呼吸を計ってルーセントが弾けるように飛び出した。
 腕を狙い木刀を振り下ろすルーセント。
 ルードは一歩下がって長い柄の部分を振り上げ弾くと、刃を反転させてルーセントの頭を狙った。
 ルーセントが弾かれた勢いを利用して木刀を持つ手首を一回転させる。そのまま振り下ろされる薙刀の棟を抑えて軌道を変えた。
 ルーセントはさらに止まることなく踏み込む。相手が優位に立てる間合いをつぶして身体を狙って斬り付ける。
 ルードが再び薙刀を反転させて木刀を受けた。

 再び互いが距離を取るが、今度は休むことなくルードのラッシュが始まった。

 ルードがルーセントの腹部を狙い突きを出す。
 それが防がれると、瞬時に喉元に狙いを変えて突きを繰り出した。
 それをまたしても銀髪の少年に防がれると、ルードは右足を下げると同時に薙刀を反転させて、石突で少年が持つ木刀の持ち手を狙った。
 ルーセントが早めに木刀で受けると、ルードは再び反転させて頭を狙う。
 ルーセントは薙刀の動きに合わせ刃を上から抑え込むが、部隊長の将軍は刃を反転させて足を狙った。
 ルーセントは相手の攻撃に合わせながら足を入れ替えて防いでいく。守るのが精一杯の少年は、それでも銀髪を揺らしながら止まらない連撃に隙を見て反撃を試みる。
 しかし結局は、ルードに受け止められて反撃を受けてしまう。同じことが何度となくを繰り返されていた。

 耐えられなくなったルーセントが、再び距離を取る。

 ルードはその瞬間に右手を刃の方へ、左手を石突の方へと持ち手を入れ替えて刃を地面に向けて構えた。
 ルードはすぐに間合いを詰めると下から斬り上げる。
 ルーセントが刃を弾くと、ルードはその勢いを利用して薙刀を反転させると、石突でルーセントの右脇腹を狙った。
 追い込まれっぱなしの少年の金の瞳が、思うようにいかないもどかしさで苛立ち細まる。
 攻撃を受け止められたルードは、再び薙刀を反転させて刃の方で左の脇腹を狙った。

 その攻撃にルーセントの口元がニヤリとゆがんだ。

 ルーセントが待ち望んだ待望の攻撃に木刀で受け止めると、そのまま絡ませ巻き込むように自身の右へ流した。そのまま木刀を薙刀から離すことなく、木刀の刃をルードに向けて反転させた。
 木刀が柄を伝って滑っていく。
 それと同時にルーセントが一気に間合いを詰める。
 ルーセントが進む分だけルードも同じ歩数を下がるが、柄を抑えられてしまい何もできなかった。
 そして、そのまま振り下ろされるルーセントの木刀がルードの首で寸止めされた。
 周囲が無言のまま時間が止まる。

 ルードの「参った」の言葉と同時に、ルーセントの勝利が決まった。

 その瞬間、外野から地響きのような歓声が辺りを包み込む。おおかたの予想を裏切る勝利に称賛を送る者、恐れる者、認めようとしない者もいたが、ほとんどの兵士がルーセントをたたえた。

 一騎打ちが終わって訓練が再開される。
 しかしルードが負けた影響か、人数差があったはずの敵チームは精彩を欠いてしまい、モーリス率いる訓練生三人に倒されてしまった。
 ルードの部隊はパックスしか訓練生を倒すことができずに、倒された五十人の兵士は将軍の怒りを買ってしまう。ルードの部隊は次の日から訓練量が二倍に増えることになった。

 一カ月後、順調に訓練をこなしていったルーセントたちは、いよいよ山賊の砦に攻め込む日が近づいてきた。
 日が沈んで辺りが闇に包まれ始めた頃、将軍の号令を合図に準備を終えた北側を担当する部隊が動き始めた。
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