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3 王立べラム訓練学校 高等部1
3-9話 借刀殺人4
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将軍たちが県尉府から戻ると、部屋のなかは出ていったときよりも、アルコールの匂いが強く充満していた。そして、テーブルに伏せて眠っている将軍の弟ウォルビスの姿があった。
将軍が転がっている酒瓶を拾い上げると、呆れたように息を一つ吐き、ウォルビスの身体を揺すり、起こそうとした。
「おい、ウォルビス。起きろ! おい! ……ダメだな、完全に酔いつぶれていやがる」
いびきをかいたまま反応しないウォルビスに将軍が起こす事を断念すると、背中に背負いベッドまで運ぶ。
「ったく、こんなに飲みやがって。アホが」
弟をベッドに寝かせた将軍は、テーブルの上を軽く片付け椅子に座ると、ティアに指示を出す。
「ああ、ティア。レイラを呼んできてくれないか」
「了解です!」
命令を受けたティアは元気よく飛び出していき、数分後にレイラを連れて部屋へと戻ってきた。
レイラは将軍の正面に立ち、呼び出された用件を聞く。
「将軍、どんなご用でしょうか」
「ああ、実はな……」
将軍は今まで起きたことをレイラに話すと、レイラも怒りを顔に表し将軍の言葉を待った。
「それでだ、お前らにはやって欲しいことがある」
「分かりました、すぐに片付けて参ります」
「やっちまいましょう!」
レイラの言葉に即答で反応するティア、踵を返し部屋を出ていこうとする二人を将軍は慌てて引き留める。
「待て待て待て、お前らなんでそんなに物騒なんだよ。他に選択肢はないのか?」
「心外ですね、極めて妥当な選択肢かと思われますが?」
「そうか。だがな、それを実行したらお前らは無事に国家反逆罪でしざ……」
「話を聞きましょう」
「私も良くないと思ってました。大丈夫です!」
「……本当かよ」
将軍の言葉に急に素直になり、テーブルの椅子に奇麗な姿勢で座る二人は、疲れた表情を見せる将軍の指示を待つ。
「いいか、露店街での出来事と県尉府でのあいつの態度。必ずあの二人はつながっているはずだ。レイラは県令を、ティアは県尉を監視し、不正はすべて魔導カメラで記録しろ、いいな」
「かしこまりました。息子の方は私の部隊にお任せください」
「ああ、頼んだぞ」
二人に指示を伝え終えると、将軍が椅子の背もたれに寄りかかった。
部屋を出ていく二人を視線で追いかけながら、なんの指示も受けてはいないルーセントが将軍を見る。
「あの将軍、自分たちは何してたらいいですか?」
「そうだな、お前たちの出番はもっとあとだから、今は何もないな。自由に過ごせ」
「え! なにもないんですか?」
あぜんとした表情を浮かべるルーセントに、将軍は「何かあるのか?」と逆に質問を返した。
その時、部屋に扉をノックする音が響き、聞き慣れた声が室内に流れてきた。
「ディアスさん、いらっしゃいますか? ロイです」
「ああ、今開ける少し待て」
将軍が椅子から立ち上がり扉を開けると、そこには穏やかな表情のロイが立っていた。ロイは一度、将軍に頭を下げると、部屋を眺めて安心したような表情を浮かべた。
「良かった、皆さんお揃いのようですね」
「すまないな、置き去りにしてしまって」ディフィニクスが謝りつつも、ロイを部屋へと促す。
「構いませんよ、状況が状況でしたから」
ロイがルーセントたちの前に来ると、銀髪の少年は気まずそうな顔を浮かべてロイにわびる。
未熟ゆえの訓練生に対し、ロイは優しい笑顔で「大丈夫ですよ」と返した。
少しの間、静かな時間が室内を支配する。
しかし、ヴィラが空気を破りロイにいくつか尋ねる。
「そうだ、ロイさん。馬車の中にグラウライム、甘美蜂のハチミツ、リューズシナモンがありましたよね。少し分けていただけませんか?」
「ええ、構いませんが、何を作られるのですか?」
「ダイエットジュースを試してみようかと思いまして、ルーセント君たちにも協力して欲しいんだけどどうかな?」
ダイエット食品は数あれど、聞いたことのない材料にロイが興味を持ち、フェリシアが目を輝かせる。
「もちろんいいわよ!」フェリシアが誰よりも先に答えた。
続いてロイが思案顔を浮かべつつ、ヴィラへと視線を向ける。
「はて、その材料で作られたものは聞いたことがありませんが、どうなるのですか?」
「寝る前と朝起きたときに飲むと、痩せやすくなるという飲み物です。理論上では、グラウライムの成分が脂肪を燃焼させやすく、リューズシナモンの成分がその細胞を小さくするというものです。ハチミツはそれらを生かすための栄養補給ですね」ヴィラが手ぶりを使って答えていく。
「ほぉ、それはまた手軽で魅力的な飲み物ですね。作っている所を見てもよろしいですかな?」
「もちろんです。あ、それからもう一つ、ロイさんに感想をうかがいたい作品があるのですが、それも見てもらってもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。何か……は、今は聞かないでおきましょう。その方が楽しめそうです」
ヴィラの頼みにロイは好奇心を刺激され、プレゼントの箱をもらった子どものように楽しげな笑みを浮かべていた。
夜が明けて、準備を済ませたレイラとティアは、それぞれの持ち場へと移動を開始する。
この日のティアの服装は、膝近くまである黒茶色の革のブーツに、黒のカーゴパンツを履き、暗緑色の防刃、防魔の魔力糸で編まれた長袖シャツの上に、黒茶色の厚手の革のベストを着込み、その上から同色の革のコートを着込んでいた。
コートの長さは膝下まであり、同色の太い革のベルトでコートの上から腰を締めている。
ベルトには、手のひらサイズの大きさのポーチが左右に二つづつ取り付けられ、腰の背面には刃長二十センチメートル近くもある短刀が、二本交差するように取り付けられていた。
肩には大きな革のフードが取り付けられ、かぶれば口元しかうかがい知ることができなかった。
手には指の空いた革の手袋を、前腕部には厚手の革でできた手甲が取り付けられ、両手を合わせて十二本の棒手裏剣がコートの下から顔を覗かせていた。
ティアが県尉府の近くまで来ると、気配と認識を阻害する魔法の名を口にする。
「認識阻害、気配遮断」
これで、よほどのことがない限りは誰にも気づかれることはない。そして、県尉府を囲う壁に向かってゆっくり歩くと、風魔法を発動させて五メートルある壁の上に音も立てることなく着地した。
「さて、あいつの部屋はどこでしょうか?」
ささやくような小さな声でつぶやくと、ティアは壁から敷地内に降り立つ。見回りの武官に注意しながらも建物をよじ登り、屋根へと上がる。
建物は細長い三階建てのものが正方形につながっている。その中心部には庭園が存在する。
そして、二階、三階には十字と対角線を引くようにガラスで覆われた空中回廊が伸び、多くの人が行き交っていた。
ティアは屋根の上で身をかがめ、内部への侵入経路、人のいない場所を探す。しかし、期待する答えは得られそうになかった。
「人が多すぎて、ここからは入れませんね。他にないでしょうか?」
眉をひそめるティア。周囲を見回すと、一部の屋根が盛り上がっている場所を見つける。
「なるほど、屋根裏に作った物置小屋ですか。では、ここから入るとしましょう」
窓の内側には魔導制御の鍵と警報装置がつけられていたが、ティアがポーチから半円状の細長い装置を取り出すと、外側から鍵のある場所に取り付ける。装置に魔力を流すと、内側の鍵と警報が誤作動を起こし解錠に成功した。
「ふっふっふ、私の国の暗部を侮っては行けませんよ。こんなのどうってことありません」
自国から持ってきた装置をポーチにしまうと、窓をゆっくり開けて中へと侵入していった。
将軍が転がっている酒瓶を拾い上げると、呆れたように息を一つ吐き、ウォルビスの身体を揺すり、起こそうとした。
「おい、ウォルビス。起きろ! おい! ……ダメだな、完全に酔いつぶれていやがる」
いびきをかいたまま反応しないウォルビスに将軍が起こす事を断念すると、背中に背負いベッドまで運ぶ。
「ったく、こんなに飲みやがって。アホが」
弟をベッドに寝かせた将軍は、テーブルの上を軽く片付け椅子に座ると、ティアに指示を出す。
「ああ、ティア。レイラを呼んできてくれないか」
「了解です!」
命令を受けたティアは元気よく飛び出していき、数分後にレイラを連れて部屋へと戻ってきた。
レイラは将軍の正面に立ち、呼び出された用件を聞く。
「将軍、どんなご用でしょうか」
「ああ、実はな……」
将軍は今まで起きたことをレイラに話すと、レイラも怒りを顔に表し将軍の言葉を待った。
「それでだ、お前らにはやって欲しいことがある」
「分かりました、すぐに片付けて参ります」
「やっちまいましょう!」
レイラの言葉に即答で反応するティア、踵を返し部屋を出ていこうとする二人を将軍は慌てて引き留める。
「待て待て待て、お前らなんでそんなに物騒なんだよ。他に選択肢はないのか?」
「心外ですね、極めて妥当な選択肢かと思われますが?」
「そうか。だがな、それを実行したらお前らは無事に国家反逆罪でしざ……」
「話を聞きましょう」
「私も良くないと思ってました。大丈夫です!」
「……本当かよ」
将軍の言葉に急に素直になり、テーブルの椅子に奇麗な姿勢で座る二人は、疲れた表情を見せる将軍の指示を待つ。
「いいか、露店街での出来事と県尉府でのあいつの態度。必ずあの二人はつながっているはずだ。レイラは県令を、ティアは県尉を監視し、不正はすべて魔導カメラで記録しろ、いいな」
「かしこまりました。息子の方は私の部隊にお任せください」
「ああ、頼んだぞ」
二人に指示を伝え終えると、将軍が椅子の背もたれに寄りかかった。
部屋を出ていく二人を視線で追いかけながら、なんの指示も受けてはいないルーセントが将軍を見る。
「あの将軍、自分たちは何してたらいいですか?」
「そうだな、お前たちの出番はもっとあとだから、今は何もないな。自由に過ごせ」
「え! なにもないんですか?」
あぜんとした表情を浮かべるルーセントに、将軍は「何かあるのか?」と逆に質問を返した。
その時、部屋に扉をノックする音が響き、聞き慣れた声が室内に流れてきた。
「ディアスさん、いらっしゃいますか? ロイです」
「ああ、今開ける少し待て」
将軍が椅子から立ち上がり扉を開けると、そこには穏やかな表情のロイが立っていた。ロイは一度、将軍に頭を下げると、部屋を眺めて安心したような表情を浮かべた。
「良かった、皆さんお揃いのようですね」
「すまないな、置き去りにしてしまって」ディフィニクスが謝りつつも、ロイを部屋へと促す。
「構いませんよ、状況が状況でしたから」
ロイがルーセントたちの前に来ると、銀髪の少年は気まずそうな顔を浮かべてロイにわびる。
未熟ゆえの訓練生に対し、ロイは優しい笑顔で「大丈夫ですよ」と返した。
少しの間、静かな時間が室内を支配する。
しかし、ヴィラが空気を破りロイにいくつか尋ねる。
「そうだ、ロイさん。馬車の中にグラウライム、甘美蜂のハチミツ、リューズシナモンがありましたよね。少し分けていただけませんか?」
「ええ、構いませんが、何を作られるのですか?」
「ダイエットジュースを試してみようかと思いまして、ルーセント君たちにも協力して欲しいんだけどどうかな?」
ダイエット食品は数あれど、聞いたことのない材料にロイが興味を持ち、フェリシアが目を輝かせる。
「もちろんいいわよ!」フェリシアが誰よりも先に答えた。
続いてロイが思案顔を浮かべつつ、ヴィラへと視線を向ける。
「はて、その材料で作られたものは聞いたことがありませんが、どうなるのですか?」
「寝る前と朝起きたときに飲むと、痩せやすくなるという飲み物です。理論上では、グラウライムの成分が脂肪を燃焼させやすく、リューズシナモンの成分がその細胞を小さくするというものです。ハチミツはそれらを生かすための栄養補給ですね」ヴィラが手ぶりを使って答えていく。
「ほぉ、それはまた手軽で魅力的な飲み物ですね。作っている所を見てもよろしいですかな?」
「もちろんです。あ、それからもう一つ、ロイさんに感想をうかがいたい作品があるのですが、それも見てもらってもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。何か……は、今は聞かないでおきましょう。その方が楽しめそうです」
ヴィラの頼みにロイは好奇心を刺激され、プレゼントの箱をもらった子どものように楽しげな笑みを浮かべていた。
夜が明けて、準備を済ませたレイラとティアは、それぞれの持ち場へと移動を開始する。
この日のティアの服装は、膝近くまである黒茶色の革のブーツに、黒のカーゴパンツを履き、暗緑色の防刃、防魔の魔力糸で編まれた長袖シャツの上に、黒茶色の厚手の革のベストを着込み、その上から同色の革のコートを着込んでいた。
コートの長さは膝下まであり、同色の太い革のベルトでコートの上から腰を締めている。
ベルトには、手のひらサイズの大きさのポーチが左右に二つづつ取り付けられ、腰の背面には刃長二十センチメートル近くもある短刀が、二本交差するように取り付けられていた。
肩には大きな革のフードが取り付けられ、かぶれば口元しかうかがい知ることができなかった。
手には指の空いた革の手袋を、前腕部には厚手の革でできた手甲が取り付けられ、両手を合わせて十二本の棒手裏剣がコートの下から顔を覗かせていた。
ティアが県尉府の近くまで来ると、気配と認識を阻害する魔法の名を口にする。
「認識阻害、気配遮断」
これで、よほどのことがない限りは誰にも気づかれることはない。そして、県尉府を囲う壁に向かってゆっくり歩くと、風魔法を発動させて五メートルある壁の上に音も立てることなく着地した。
「さて、あいつの部屋はどこでしょうか?」
ささやくような小さな声でつぶやくと、ティアは壁から敷地内に降り立つ。見回りの武官に注意しながらも建物をよじ登り、屋根へと上がる。
建物は細長い三階建てのものが正方形につながっている。その中心部には庭園が存在する。
そして、二階、三階には十字と対角線を引くようにガラスで覆われた空中回廊が伸び、多くの人が行き交っていた。
ティアは屋根の上で身をかがめ、内部への侵入経路、人のいない場所を探す。しかし、期待する答えは得られそうになかった。
「人が多すぎて、ここからは入れませんね。他にないでしょうか?」
眉をひそめるティア。周囲を見回すと、一部の屋根が盛り上がっている場所を見つける。
「なるほど、屋根裏に作った物置小屋ですか。では、ここから入るとしましょう」
窓の内側には魔導制御の鍵と警報装置がつけられていたが、ティアがポーチから半円状の細長い装置を取り出すと、外側から鍵のある場所に取り付ける。装置に魔力を流すと、内側の鍵と警報が誤作動を起こし解錠に成功した。
「ふっふっふ、私の国の暗部を侮っては行けませんよ。こんなのどうってことありません」
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