月影の砂

鷹岩 良帝

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3 王立べラム訓練学校 高等部1

3-2話 実習メンバー

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 フェリシア、ティアはルーセントの後について寮の一階にある食堂までやって来ると、空いているテーブルに着いた。

「オレはパックス呼んでくるね。ちょっと待ってて」
「パックスって誰なんでしょうか?」

 ルーセントの口から出てきた名前に、ティアが首を軽くかしげルーセントに聞き返す。

「ああ、パックスはここの生徒で友達だよ。ちなみに、最上級守護者については知らないから、うまくごまかしといて」

 ティアは「分かりました」と元気に頷くと、魔導エレベーターに向かっていくルーセントの背中を見送る。
 椅子に座ったティアは、物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回し始めた。

「はぁ~、王都の中もすごいけど、ここの建物も負けてないですね~。こんなにオシャレで変わった建物なんてレギスタンにはありませんよ」
「私も初めて来たときはビックリしたわ。ここも含めて学校全体が千年前の技術を使って建てられてるみたい」

 寮内を見上げ呆気にとられているティアに、フェリシアは施設の説明を始めた。
 フェリシアの口から、千年前の技術で造られていると説明を聞いたティアは身を乗り出し、興味津々の様子でフェリシアに質問を返す。

「え! 千年前の技術ってことは、ここに精霊契約者がいるんですか? すごいです! もう精霊はいないって聞いてたのに居るんですね。やっぱり都会は何でもありますね!」

 ティアは一人で盛り上がり、目を輝かせ寮の中を見回す。
 フェリシアは、ティアが発した『精霊契約者』が何なのか理解できずに眉をひそめ聞き返す。

「あの、ティア? 精霊契約者って何? そんなの聞いたことないんだけど……」
「えっ! ……あ、あれ~、これ言っちゃいけないやつだったのかな? ど、どうしよう。やっぱり今のなし! あなたは何も聞いていな~い、忘れるのだ~」

 フェリシアの質問にティアは青ざめ、またやってしまったと言うような表情を浮かべると、フェリシアに両手をかざし、呪文のような言葉を唱え始めた。
 フェリシアが対応に困っていると、ティアの後ろからパックスを連れたルーセントが戻ってきた。

「お待たせ、パックス連れてきたよ」
「おう、待たせちまったな。今日はルーセントの奢りらしいから、いっぱい食べようぜ。それと、そこのオチビちゃんも今日からここに住むんだろ? よろしくな!」

 パックスが片手を軽く上げ、待たせたことをわびると、ティアにも軽くあいさつを済ませる。が、パックスのあいさつを聞いたティアの様子が一瞬で変わり、目から輝きを失い不気味に笑い出した。

「フッフッフ、言ってしまいましたね。私に向かって“チビ”と、いいでしょう。その挑戦状受けてたちましょう」

 ティアは殺気をみなぎらせ、ゆらりと席を立つと、ゆっくりパックスの方へ歩いていく。

「お、おい、ちょっと待て。どうした急に……、ちょっ!」

 ティアはパックスと五歩の距離まで近づくと、腰から刃長が三十センチメートルほどの短刀を二本引き抜き、目視できないほどの速さで、一本がパックスの首すれすれのところで、もう一本が心臓を刺す体勢で止められていた。
 パックスは呼吸をする余裕も与えられず、青ざめた表情で固まる。

「さあ、選んでください。最後ぐらいは選ばせて差し上げますよ。首をスパッといきますか? それとも、心臓をゆっくり切り裂かれたいですか? どっちにしても楽には死なせませんよ~」
「ちょっ、ちょっとティア駄目だよ! 落ち着いて! パックスも早く謝って!」

 狂気を振り撒くティアに、ルーセントは慌ててティアを羽交い締めにしてパックスから引き離すが、身動きがとれなくなったティアはジタバタと暴れだし、叫びだした。

「はなせ~、ちくしょ~チビっていうなぁ! 毎日牛乳飲んでるんだからな! そのうち大きくなるんだから!」

 一通り叫ぶと、今度は声を出して泣き出してしまった。
 戸惑うパックスに周囲から冷めた視線と、批判の言葉が耳に入ってくる。

「最低、あんなちっ……女の子泣かせるなんて信じらんない」
「レイシア先輩と付き合ってるからって調子乗りやがって! 刺されればよかったのに」
「付き合ってるってマジかよ、最低だなあのクソ野郎。呪われろ!」
「くっ、好き勝手言いやがって。大体、最後のは関係ねぇだろうが!」

 パックスへの批判の声は、だんだんと恨みねたみへと変わり、収拾がつかなくなってきた所でフェリシアの声が食堂に響く。

「もう! みんなそこまでよ! 今回はパックスが悪いんだから早くティアに謝って」

 伯爵令嬢の一言で周囲のざわめきが止まり、パックスは気まずそうな表情を浮かべ謝る。

「今回はおれが本当に悪かった。申し訳ない。牛乳ごちそうするからどうか今回は」

 パックスが両手を会わせ懇願するように謝るも、ティアはいまだにご立腹で収まる気配がなかった。

「牛乳なら、いっぱいあるから要らないよ!」
「じゃ、じゃあヨーグルトはどうだ? 濃縮されてる感じで効きそうだろ?」

 パックスの言葉にティアが「むっ」と興味を示し考え込んでいると、横から話しかけてくる少年が一人いた。

「ヨーグルトもいいけど、背を伸ばすにはタンパク質と亜鉛って言う栄養素が必要だから、ナッツ類や豚肉、鶏肉の方がいいよ。あとは運動と睡眠もね。寝る子は育つって言うでしょ」

 話しかけてきた少年は、真ん中で分けた黒髪に、ひょろっと背の高い体格を持ち、平凡な顔立ちの顔には眼鏡が掛けられていた。
 ティアは少年の言葉に目を輝かせると、パックスに指をさし和解の条件を提示する。

「聞きましたか! 許してほしいと言うなら、豚肉か鶏肉の料理を一カ月で手を打ちましょう」
「一カ月! いくらなんでも長す……」

 パックスの否定の言葉に、ティアは再び短刀に手を添えると慌てたパックスは、すぐに訂正をして了承する。

「わ、分かった。それでいい、一カ月で大丈夫。これでいいんだろう」
「ふっふっふ、これでさらにシティーガールに近付いてしまいますね」

 突如機嫌を良くしたティアが謎な単語を発すると、パックスが片眉を上げて首をかしげた。

「なんだ? そのシティーガールって?」
「知らないのですか、シティーガールと言うのは、都会の街をお洒落な洋服を着て、颯爽さっそうと歩く背が高くてスタイルのいい女性のことを言うんですよ!」
「お、おう。そうか、なれるといいな」

 意気揚々と席に座り、テーブルの上に置いてあるメニューを眺めるティア、パックスはその光景を見て安堵あんどすると、会話に割り込んできた少年に目を向けた。

「いや~、助かったよ。ところで、お前は誰だ? 戦闘教練科のやつじゃないよな」
「あぁ、僕はヴィラ・クライ、高等部一年の錬金科だよ。今日はルーセント君に頼みがあってきたんだ」

 パックスの質問に、ヴィラと名乗った少年がルーセントに用があるとルーセントの前に立つ。

「初めまして、僕はヴィラ。さっきも言ったけど、今日はお願いがあってきたんだ。実習のメンバーに空きがあるなら入れて欲しい」
「メンバーに? どうしてオレに?」

 ルーセントは会ったこともない少年に指名され、何で自分なのかと反射的に聞き返した。
 少年が眼鏡の中心部分をつかみ押し上げる。

「錬金科の生徒は戦闘訓練をほとんどしないから、戦闘が苦手なんだ。だけど、実習には材料を採取して作るのが条件になっているから、それなら強い人と組んだ方が安心でしょ。どうかな? ポーション類なら作れるから節約できると思うけど」

 ルーセントは「なるほどね」とつぶやくと、フェリシアたちの方に体を向け、意見を聞き始めた。

「オレはいいと思うけどどうかな?」
「そうだな、毎日のご飯代もあるし、ポーション類も結構掛かるからな。いいんじゃないか?」
「そうね、材料も討伐依頼を受ければ結構たまるし、有効に使えるんならいいんじゃないかしら?」
「おお~、鶏肉とボノドーラナッツ炒めなんて、こんな所に魔法の食べ物が! パックス、これがいい!」

 若干一名、方向性が違う少女がいるが、これと言って否定的な意見が出なかったため、ルーセントはヴィラの頼みを受けることにした。

「ってことで、これからよろしく。ヴィラ」
「こちらこそ、みんなよろしく。あ、ちなみにスタイルを良くしたいなら、ゴールドパパイヤを食べるといいよ。胸を大きくしてくれるかもしれないよ。ただ、身体の浄化作用が強いから、三日に一回食べるのが理想的だね」

 ルーセントとヴィラが握手を交わすと、知的な少年が先ほどのティアの言葉を思い出したようにアドバイスを送る。
 フェリシアとティアがお互いに見つめ会うと、メニューに釘付けとなる。そして、とても真剣なまなざしで、食い入るようにメニューを眺めていた。
 そんな様子に男子勢が苦笑いを浮かべていると、ルーセントの肩に乗っていたきゅうちゃんが、腕を伝いヴィラの肩まで移動する。
 左右の肩を行ったり来たりを繰り返すきゅうちゃんは、ヴィラの頭の上に乗ると、手足を広げ張り付いた。

「あ、こら、きゅうちゃんダメだよ」
「ははは、大丈夫だよ。気に入ってもらえたみたいで、うれしいよ」
「悪いね。これからみんなでご飯食べるんだけど、一緒にどうかな? 今日はオレの奢りだから好きなの食べていいよ」
「なんか申し訳ないね、いいのかい?」

 少し気まずそうに話すヴィラに、ルーセントは笑顔を向ける。

「これから一緒に実習を受ける仲間なんだし、構わないよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて、ごちそうになろうかな」

 全員が椅子に座ると、メニューを眺め、それぞれが食べたい料理を取りに行く。
 料理が揃いティアとヴィラの歓迎会が始まった。
 それぞれが料理を食べ始め、ティアが鶏肉とボノドーラナッツ炒めを一心不乱に食べていると、きゅうちゃんが彼女の近くまで歩き一声鳴く。

「きゅう!」
「ん? どうしたんですか、きゅうちゃん」

 ティアは食べる手を休め、きゅうちゃんに話しかけた。
 きゅうちゃんは、じっとティアの持つ皿を見つめている。
 ルーセントが様子を少し眺めると、理解したようにティアに話しかける。

「きっと、ボノドーラナッツが食べたいんだよ。シリンイチゴの次に好物だから」
「なるほど、きゅうちゃんも大きくなりたいのですね。いいでしょう、じゃあ一緒に大きくなりましょう」

 独自解釈をするティアは、テーブル中央に置かれた小皿を手に取ると、ナッツを何個か乗せてきゅうちゃんの前に置いた。

「きゅう!きゅう!」
「かわいいですね」

 うれしそうに鳴き出したきゅうちゃんは、ティアの左手に身体を擦り付けると小皿まで戻り、小さな両手でナッツをつかみかじり始めた。
 その場には和やかな雰囲気が流れ、それぞれが会話を交わし二時間の時間が過ぎていった。
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