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2 王立べラム訓練学校 中等部
2-16話 秋豊祭
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光月暦一〇〇五年十月
アンゲルヴェルク王国の王都フエストディールでは、秋の収穫祭“秋豊祭”が行われていた。この祭りは三日間に渡って開催される。
平民が暮らす東エリアの商業区では、いたるところでヴァイオリンや琴に似た楽器の古箏などの音色が鳴り響いては空間をカラフルに彩っている。一部の区画では出店許可証を持たない行商や、他の町から来た商人、料理人でも露店を出せる場所があり、出店がずらりと建ち並んでいた。
その三十メートルほどの幅のある広い通りの中央に連なる数多くある出店の前を歩けば、魅惑的な料理の香りが思考を惑わせる。とある店では、茹でてホクホクになったジャガイモをベーコンと一緒にカリカリになるまで炒め、そこに辛子マヨネーズを糸のように細く波線状にかけた料理が販売されていた。温かくも香ばしい香りが鼻腔を刺激する。
さらに別の店からは、スパイシー・チキンカレーの香りが足を誘う。それは六種のスパイスを使って骨付き鶏肉のぶつ切りを投入する。寝かせては煮込みを三日ほど繰り返したルーの漂う刺激的な香りが胃を収縮させては、通りすぎる人たちの口の中を唾液であふれさせていた。
他にもトマトの甘酸っぱい香りを漂わせるジャガイモとチキンのトマト煮や、他の料理の香ばしさにも劣らない豚バラ肉と塩ネギの混ぜご飯、しょうがと鶏のダシが優しく香り立つ透明なスープがキラキラと光る鶏ダシしょうがうどんなど、多彩で多種多様の料理が行き交う足を惑わせていた。
通りには店だけではなく、各店の隣に置かれているテーブルセットですぐに食べられるようになっていた。すでに料理を食べる幸せそうな顔をしたお客たちで賑わっている。
料理人は地方から腕を披露するためと新しいお客を獲得するために店の看板を掲げる者が多い。漂う熱気をさらに加熱させるように、自分の店へと誘う口上が響き渡っていた。
通りには料理の店だけではなく、射的屋や点数が付けられた水風船をダーツで狙い割る投てき屋にクジ屋がある。なかでも人気なのは小魚を釣り上げるゲームで、魚は身体の下半分に濃い赤色、上半分に濃い青色のラインが入って光って見える。全長が五センチメートルほどしかない観賞魚の彩魚を小さい釣竿とそこから伸びる頼りない糸と針を使って釣り上げれば獲得となる。このゲームは大人にも子供にも人気のある催し物だった。
これらのミニゲームの店には、たくさんの子供たちが悔しそうな表情や笑顔をあふれさせて群がっていた。今日のために手伝いをがんばっては一年間に渡って貯めた小遣いを使って思う存分に祭りを楽しんでいた。
他にはアクセサリーや錬金工房の若き職人が名を得るために出店している。ここで名を売れれば大きな工房からの引き抜きや、上流階級からの依頼が入ることもあるために、職人たちは必死に己の技術を披露していた。
さらに通りの先にある大きな広場には、大道芸人たちの複数のグループが己の技術を競い合わせるように自慢の技を披露していた。何か一つの技を繰り出すごとに、見物人の歓声と拍手がわき起こる。
さらにその広場の中央には、本を見開いたようなまっさらの五線譜をイメージした石のオブジェクトが存在している。それは縦に八メートル、横に五メートル、高さは一番高いところで三メートルもある。このオブジェクトの厚みは二メートルもあった。
決まった時間が来れば、五線譜の上に王立交響楽団の奏者が現れる。まるで自身が音符にでもなったかのように楽器と椅子を並べて音を奏でていた。その先には特設された舞台があって、王立劇団の劇団員たちがオーケストラを背後に演劇を振る舞っていた。
このオーケストラと演劇は一日に三回だけ無料で上演される。舞台には場面に合わせてライトが照らされて、火の粉のような花火がシャワーのように降り注ぐ。この演出も舞台を彩り観客の感情を盛り上げていた。
夜ともなれば、王都の西と東を分断する川から上空に向かって五千発の花火が打ち上げられる。大きな花火が明るく色鮮やかに空を染め上げていた。
ルーセントとその肩に乗るきゅうちゃん、フェリシア、パックスと非武装の三人と一匹は、出店が並ぶ通りへと来ていた。時間は夕闇が迫る頃だった。
秋豊祭の三日間は訓練学校も休みとなって自由行動が許されている。
三人は彩魚釣りの店の前にいた。
パックスが細く短い釣竿を手に震えている。
「くっそぉぉぉ! おい、おやじ! 糸細すぎるだろ。すぐ切れるじゃねぇか!」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うんじゃねぇよ。さっきから釣ってないのは兄ちゃんだけなんだぞ。隣を見てみろよ、あんな小さい子だって釣れてんだろうが」
四角に近い顔のゴツい体格をした店の男が、親指を隣にいる七歳くらいの子供に向けた。
パックスが誘われるように顔を向けると、子供が持つ釣竿から伸びる糸が左右に不規則に揺れては、その糸の先にいる彩魚がピチピチと元気に身体を左右に揺らしていた。
パックスはうらやましそうに、そして悔しそうに下唇を噛んで釣竿を男に返す。
「もう一回だ!」と三百リーフを手渡していた。
受けとる男は「まいど!」と、嬉々とした表情を浮かべる。そんな二人のやり取りを見ていたルーセントとフェリシアがあきれた様子で息をはく。
「パックス、もう六回目だよ。諦めたら?」
ルーセントが両手を腰に当ててのぞき込むように上半身を傾けると、水槽に糸を垂らすパックスを見る。
続いてフェリシアがしゃがみ込んで水槽とパックスを交互に見ていた。
「そうよ。それに釣ったところで寮で飼うならすぐ死んじゃうわよ」
「いやいや、男には逃げちゃならない戦いってもんがあるんだよ」パックスが授業でも見せない集中力を発揮して餌のついた針を水中へと沈める。
数匹の彩魚がパックスの餌へと近づき突っつき始めた。
「良いこと言ってるんだけど、相手が小魚じゃなぁ」ルーセントがフェリシアに視線を送ると、二人とも苦笑いを浮かべた。
ルーセントが言い終わったと同時に、パックスの針に彩魚が食い付く。パックスが急いで合わせると、少しの抵抗の後に張り詰めた糸が鈍い音を立てて切れてしまった。
「ちくしょぉぉぉ! またかよ!」うなだれるパックス。
「兄ちゃん釣りの才能、皆無だな。普通は三回もやれば一匹くらいは釣れるもんなんだぞ。上げる力が強すぎるんだよ。もう一回やるか?」
店の男の言葉に、パックスが首を横に振ると釣竿を返した。先程の勢いが嘘のようにしぼんで力なく立ち上がった。
「本当に釣れるのかよ。魚を獲られたくないからって、釣れないようにしてるんじゃないのか?」
「ったく、さっきから人聞きの悪いやつだな。この彩魚はな、半値になるがあとで業者が買い戻してくれるんだよ。だから、こっちはそんなせこいマネをする必要がねぇんだよ。少なくなったら足してくだけだ。増えることはあっても損はしねぇ」
男の言葉に、パックスは恨めしい視線を送りながら店から立ち去る。
あとに続くフェリシアがうしろから声をかけた。
「それにしても意外ね。パックスがあんなに彩魚が好きだなんて、ぜんぜん知らなかった」
「本当だね。そんなに欲しければペットショップで買えばいいのに、向こうに魚を売ってる店あったよ」ルーセントが店のある方向を指差す。
「分かってねぇな。こういう日に自力で取るからいいんじゃないか。それに、あれの醍醐味は大人に成長させたときにあるんだぞ」
ルーセントはパックスの言葉に、大人になった彩魚をイメージしてみるが、これといって何が楽しいのかさっぱり思いつかなかった。
難解な表情で「ひょっとして、大人になった彩魚は特別にうまいとか?」と答えるが、パックスに「お前はきゅうちゃんかよ」と否定されてしまう。
ルーセントの肩に乗るきゅうちゃんが、バカにするなよ、と言いたげに「きゅう! きゅう! きゅう!」と反発するように力強く鳴いた。
パックスが、きゅうちゃんの頭を押さえて静かにさせると「いいか」と言い聞かせるようにルーセントに話し出す。
「彩魚ってやつはな、子供の時には体質が弱くて死にやすいんだ。その上、カラフルで目立つから他の外敵にも優先して食べられちまう。野生の彩魚なんてレア中のレアなんだぞ。普通に育てたって一カ月も持てばいい方だ。だから、大人になるまで無事に育てられれば、数万から数十万リーフで買い取ってもらえるんだよ」
「なんだ、結局はお金なのね。そんなに欲しいなら、家の池にいっぱいいるから、一匹くらいならお父様に頼んでもらってきてあげようか?」
「いやいやいや、そんな死刑台みたいなやつはいらねぇよ! 売り飛ばしたらこっちの首まで飛ぶじゃねぇか!」
パックスが伯爵の威光に戦々恐々としていると、祭りを楽しむ群衆から「ひったくりだ! そいつを捕まえろ!」と大声が響いた。
悲鳴にも似た声が所々で上がると、ルーセントたちの前に群衆を割って灰色のフードをかぶってマスクをした男が飛び出してきた。
ガタイのいい男の右手には、女性物のハンドバッグが握られていた。
「おれらの前に出てくるなんて、まったく運のないやつだな。先にいくぞルーセント」
日頃の訓練のおかげか、一般人に負けるわけがない、とパックスが自信満々にひったくり犯に向かって駆け出した。
窃盗犯は近くに置かれていたテーブルに一瞬だけ視線を移すと、そこに置いてあった割り箸の束をつかんで近づくパックスの顔に投げつけた。
「くそっ!」
悪態をついて左腕をかざして顔を守るパックス、見事に隙をさらしてしまい、視界を奪った男が助走をつけてその腹部に蹴りを入れた。
勢いに負けてうしろに飛ばされるパックスの身体をルーセントが受け止める。
「平気?」
「あぁ、どうってことない」
パックスが蹴られた腹部に手を当てると、怒りを露にしながら男に近づく。
ルーセントもまた、互いに距離を少し開けて男の前に立ちはだかった。
パックスが一歩前に出る。
「訓練生二人を相手にして勝てると思ってんのか? おとなしく捕まるなら痛い思いをしなくて済むぞ」
男が鼻で笑うと、手元に視線を落とすと、邪魔だ、と言わんばかりにバッグを放り投げて戦闘態勢に入った。
「いい根性してんじゃねぇか。いくぞルーセント!」
先にパックスが動いて右手で殴りかかる。
男が左手でこれを受け止めると、続いてルーセントの右腕が顔に、パックスの左手が腹部を狙った。
しかし、男は二人の攻撃を苦もなく捌いていく。
蹴りも混じる何度目ともわからない二人の攻撃を、後退りしながら防いでいくと男が反撃に出た。
パックスが左手で殴りかかったとき、その腕を男が上から巻き込むように自身の左手で払うと、空いた左のわき腹に右の拳をたたき込んだ。
よろけるパックスに、男が追撃に蹴りを加える。
それと同時に、ルーセントが後頭部を狙って蹴りを出すが、男は地面に手を付きしゃがみ込んで交わす。そのままルーセントの軸足を狙って足払いをかけた。
男の足は、不発に終わった蹴りで隙をさらしていたルーセントの軸足を捉えた。
真横に倒されるルーセントだったが、片手を地面につけて体勢を変えると距離をとった。
蹴り飛ばされたパックスにフェリシアがすぐに駆け寄る。
「パックス! 大丈夫?」
「くっそ、あいつ強いぞ。一般人じゃねぇ、何かの訓練を受けてやがる」
パックスは殴られて蹴られた場所に手を当てて痛みに顔を歪めていた。
数本の肋骨を折られてフェリシアの手当てを受けている。
ルーセントが構え直すと、一度だけ視線をうしろに戻して親友の様子を窺った。その苦しそうな表情にルーセントの目に鋭さが増す。
「何者だ? ただの窃盗犯じゃないな」
「間違ってはいないぞ。おまえの命をひったくりに来たんだからな」男が腰から刃長が十センチメートルほどのナイフを引き抜いた。
見物をしていた周りの群衆から短い悲鳴が上がる。その場から逃げ出すものも現れた。
混乱を始めた現場には緊張感が増していく。
男が右手に持つナイフを左右に揺らしながら間合いをはかる。
ルーセントは視界すべてに意識を置きつつナイフを目で追いかけた。
男がルーセントを刺そうと、そして斬ろうと何度もナイフを突きだす。その度に、ルーセントはうしろに下がりつつも身体を半身に交わしていった。
何度目かの応酬が続いたとき、敵が首を狙ってナイフを突き出した。それと同時にルーセントも動く。相手の手首付近に自身の右手を当てて回し込みながら受け流すと、そのまま左手で男の手首を捕まえて関節を決める。そして、そのまま右手でナイフを奪い取ると、さらに右腕を相手の肘の方まで差し込んで自身の方に引きながら下に力をかけて膝を地面に付かせた。すぐに左手を相手の首に回してナイフを添える。
ルーセントの流れるような体術に、周囲からは歓声が上がる。
しかし、ルーセントの顔に余裕はなかった。
「誰の指示だ?」
「さあ? 忘れた」
首に添えたナイフを強く押し当てるルーセントが「ティベリウスと関係があるのか?」と、もう一人の復讐に燃える少年の名前を上げた。
「誰だそりゃ。その歳で他のやつからも狙われてるのか? もっとまっとうに生きろよ」
「お前が言うな!」ルーセントは、押し当てるナイフにさらに力をこめる。
「グッ……、ごもっとも」
二人の会話に区切りがついたとき、ルーセントは後方から津波のように押し寄せる不快な空気の壁のような殺気を感じて振り向く。
その瞬間、群衆をかき分けて現れた男がルーセントに向かってナイフ二本を投げつけてきた。
とっさに反応するルーセントは、手に持つナイフで弾くと、さっき捕らえた男に視線を戻す。が、すでに逃げた後だった。
再びナイフを投げてきた男に視線を戻すも、その男もいなくなっていた。何の収穫も得られなかったことに「くそっ! 何で自分ばっかり」と、力強く拳を握って悪態をついた。
落ち着いた現場にフェリシアとパックスが駆け寄る。
「無事か、ルーセント」
「ケガはない?」
二人の気遣いに笑顔で返すルーセント。
フェリシアの肩からきゅうちゃんがルーセントの肩へと戻ると心配そうに鳴いた。
「ありがとう、大丈夫だよ」
ルーセントがきゅうちゃんの身体をなでると、きゅうちゃんが身体をすり寄せていた。
その後、バッグを取られた女性が現れて三人に礼を言う。
「こういう日は物騒なやつが多いからな、気を付けろよ」とパックスが注意を促すと、周囲からは拍手が贈られた。
「さすがは訓練生だな。逃げられたのは残念だけど、最後のやつはすごかったな」
「一瞬でナイフを取って捕まえちまったもんな。どうやったんだ、あれ?」
周りから聞こえる賛辞に、ルーセントたちは少し照れながら露店巡りを再開する。
新たに現れた謎の勢力に、ルーセントは警戒を緩めることができなかったが、時間がたつにつれて次第に警戒心も薄れ、年に一度の祭りを楽しみ始めた。いろいろな料理を堪能しつつもきゅうちゃんがクジ屋で高級釣具セットを引き当てたりと、つかの間の休息を満喫していた。
王都フエストディールが夜を迎えて花火が打ち上がる。街中が活気を増すなか、路地裏のとある家にティベリウスが人目を避けるように入っていった。
遠くで花火の低い炸裂音が鳴り響く。薄暗い部屋には、一人の男が座っていた。
「遅かったな」
「すみません、アクティール様。人が多くて移動するにも時間をとられまして」ティベリウスが頭を下げて謝る。
「ここではラーゼンと呼べといっただろ?」
ティベリウスをにらみ付ける男の正体は、ラーゼンに成り済ましていたアクティールであった。再び謝るティベリウスに、アクティールは厚みのある封筒を取りだした。
「これは?」ティベリウスが封筒から書類を出して眺める。
「それは、今度の行軍練習の計画書だ。行軍ルートと参加メンバーが書かれている」
「これが何か? 意図が分かりません」
「お前の目的はなんだ? 楽しくピクニックでもしてこいと言うとでも思ったか?」
「いえ、しかし……、行軍ともなれば数百人はいます。そんななかで暗殺なんて無理です」
「誰がそんなハードモードこなせなんて言った。今日は他にもお前に渡すものがある」
そう言って、アクティールがポケットからネックレスをひとつ取り出した。そこには赤黒い色をした石が付いていた。
ティベリウスがアクティールからネックレスを受け取り「これは?」と聞きながら光るそれを眺めていた。
「こいつは魔力血石と言うらしい。魔力を注いで命じれば魔物が現れる。俺ももらってから試したが、強さも見た目も化け物だった。こいつがあればルーセントなんて容易く葬れるはずだ」
「これを……、でも俺は自分の手で仇を討ちたいのですが」
「そう言って二年がたった。あいつは今日も元気に遊んでいるようだが?」
「そ、それは……」ティベリウスがネックレスを力強く握りしめると、悔しそうに下を向いた。
「分かったなら、今回はそれを使え。いいな」
「……分かりました」ティベリウスは悔しそうな表情のまま答えた。
アクティールが椅子から立ち上がるとすれ違い様に「頑張れよ」と少年の肩をたたいて家から出ていこうとした。その時、何かを思い出したように振り向いた。
「大事なこと忘れてた。そいつは、能力が足りないやつの言うことは聞かないらしい。だから、他の魔物を経由させて使え。そうすれば命令できるんだとよ」
「他の魔物? 経由ってどうすれば?」
「その石を食わせてみろ、それで解決する。弱い魔物を選ぶんじゃないぞ。それと、前日までには仕込んでおけよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「ああ、がっかりさせんなよ」
アクティールは、ティベリウスに背中を向けたまま軽く右手を上げると出ていった。
ティベリウスは魔力血石をいじりながら、行軍ルートを何度も確認する。他人の力を使用して仇討ちをする。
そのことに納得がいくわけもなく、いつまでも表情は暗かった。
アクティールが家を出て少し歩くと、二人の男が現れた。
「いい報告は……、聞けそうにないな」アクティールが二人の表情を見て悟る。
「申し訳ありません。予想以上に強くて」
「まあいい。今回は、いつもどこかでお前の命を狙っている、と思わせられれば成功だからな。下がれ」
「失礼いたします」
二人の暗殺者の背中を見送るアクティール、色づく夜空に視線を送ると「楽しませてくれるじゃねぇか」とつぶやいた。
アンゲルヴェルク王国の王都フエストディールでは、秋の収穫祭“秋豊祭”が行われていた。この祭りは三日間に渡って開催される。
平民が暮らす東エリアの商業区では、いたるところでヴァイオリンや琴に似た楽器の古箏などの音色が鳴り響いては空間をカラフルに彩っている。一部の区画では出店許可証を持たない行商や、他の町から来た商人、料理人でも露店を出せる場所があり、出店がずらりと建ち並んでいた。
その三十メートルほどの幅のある広い通りの中央に連なる数多くある出店の前を歩けば、魅惑的な料理の香りが思考を惑わせる。とある店では、茹でてホクホクになったジャガイモをベーコンと一緒にカリカリになるまで炒め、そこに辛子マヨネーズを糸のように細く波線状にかけた料理が販売されていた。温かくも香ばしい香りが鼻腔を刺激する。
さらに別の店からは、スパイシー・チキンカレーの香りが足を誘う。それは六種のスパイスを使って骨付き鶏肉のぶつ切りを投入する。寝かせては煮込みを三日ほど繰り返したルーの漂う刺激的な香りが胃を収縮させては、通りすぎる人たちの口の中を唾液であふれさせていた。
他にもトマトの甘酸っぱい香りを漂わせるジャガイモとチキンのトマト煮や、他の料理の香ばしさにも劣らない豚バラ肉と塩ネギの混ぜご飯、しょうがと鶏のダシが優しく香り立つ透明なスープがキラキラと光る鶏ダシしょうがうどんなど、多彩で多種多様の料理が行き交う足を惑わせていた。
通りには店だけではなく、各店の隣に置かれているテーブルセットですぐに食べられるようになっていた。すでに料理を食べる幸せそうな顔をしたお客たちで賑わっている。
料理人は地方から腕を披露するためと新しいお客を獲得するために店の看板を掲げる者が多い。漂う熱気をさらに加熱させるように、自分の店へと誘う口上が響き渡っていた。
通りには料理の店だけではなく、射的屋や点数が付けられた水風船をダーツで狙い割る投てき屋にクジ屋がある。なかでも人気なのは小魚を釣り上げるゲームで、魚は身体の下半分に濃い赤色、上半分に濃い青色のラインが入って光って見える。全長が五センチメートルほどしかない観賞魚の彩魚を小さい釣竿とそこから伸びる頼りない糸と針を使って釣り上げれば獲得となる。このゲームは大人にも子供にも人気のある催し物だった。
これらのミニゲームの店には、たくさんの子供たちが悔しそうな表情や笑顔をあふれさせて群がっていた。今日のために手伝いをがんばっては一年間に渡って貯めた小遣いを使って思う存分に祭りを楽しんでいた。
他にはアクセサリーや錬金工房の若き職人が名を得るために出店している。ここで名を売れれば大きな工房からの引き抜きや、上流階級からの依頼が入ることもあるために、職人たちは必死に己の技術を披露していた。
さらに通りの先にある大きな広場には、大道芸人たちの複数のグループが己の技術を競い合わせるように自慢の技を披露していた。何か一つの技を繰り出すごとに、見物人の歓声と拍手がわき起こる。
さらにその広場の中央には、本を見開いたようなまっさらの五線譜をイメージした石のオブジェクトが存在している。それは縦に八メートル、横に五メートル、高さは一番高いところで三メートルもある。このオブジェクトの厚みは二メートルもあった。
決まった時間が来れば、五線譜の上に王立交響楽団の奏者が現れる。まるで自身が音符にでもなったかのように楽器と椅子を並べて音を奏でていた。その先には特設された舞台があって、王立劇団の劇団員たちがオーケストラを背後に演劇を振る舞っていた。
このオーケストラと演劇は一日に三回だけ無料で上演される。舞台には場面に合わせてライトが照らされて、火の粉のような花火がシャワーのように降り注ぐ。この演出も舞台を彩り観客の感情を盛り上げていた。
夜ともなれば、王都の西と東を分断する川から上空に向かって五千発の花火が打ち上げられる。大きな花火が明るく色鮮やかに空を染め上げていた。
ルーセントとその肩に乗るきゅうちゃん、フェリシア、パックスと非武装の三人と一匹は、出店が並ぶ通りへと来ていた。時間は夕闇が迫る頃だった。
秋豊祭の三日間は訓練学校も休みとなって自由行動が許されている。
三人は彩魚釣りの店の前にいた。
パックスが細く短い釣竿を手に震えている。
「くっそぉぉぉ! おい、おやじ! 糸細すぎるだろ。すぐ切れるじゃねぇか!」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うんじゃねぇよ。さっきから釣ってないのは兄ちゃんだけなんだぞ。隣を見てみろよ、あんな小さい子だって釣れてんだろうが」
四角に近い顔のゴツい体格をした店の男が、親指を隣にいる七歳くらいの子供に向けた。
パックスが誘われるように顔を向けると、子供が持つ釣竿から伸びる糸が左右に不規則に揺れては、その糸の先にいる彩魚がピチピチと元気に身体を左右に揺らしていた。
パックスはうらやましそうに、そして悔しそうに下唇を噛んで釣竿を男に返す。
「もう一回だ!」と三百リーフを手渡していた。
受けとる男は「まいど!」と、嬉々とした表情を浮かべる。そんな二人のやり取りを見ていたルーセントとフェリシアがあきれた様子で息をはく。
「パックス、もう六回目だよ。諦めたら?」
ルーセントが両手を腰に当ててのぞき込むように上半身を傾けると、水槽に糸を垂らすパックスを見る。
続いてフェリシアがしゃがみ込んで水槽とパックスを交互に見ていた。
「そうよ。それに釣ったところで寮で飼うならすぐ死んじゃうわよ」
「いやいや、男には逃げちゃならない戦いってもんがあるんだよ」パックスが授業でも見せない集中力を発揮して餌のついた針を水中へと沈める。
数匹の彩魚がパックスの餌へと近づき突っつき始めた。
「良いこと言ってるんだけど、相手が小魚じゃなぁ」ルーセントがフェリシアに視線を送ると、二人とも苦笑いを浮かべた。
ルーセントが言い終わったと同時に、パックスの針に彩魚が食い付く。パックスが急いで合わせると、少しの抵抗の後に張り詰めた糸が鈍い音を立てて切れてしまった。
「ちくしょぉぉぉ! またかよ!」うなだれるパックス。
「兄ちゃん釣りの才能、皆無だな。普通は三回もやれば一匹くらいは釣れるもんなんだぞ。上げる力が強すぎるんだよ。もう一回やるか?」
店の男の言葉に、パックスが首を横に振ると釣竿を返した。先程の勢いが嘘のようにしぼんで力なく立ち上がった。
「本当に釣れるのかよ。魚を獲られたくないからって、釣れないようにしてるんじゃないのか?」
「ったく、さっきから人聞きの悪いやつだな。この彩魚はな、半値になるがあとで業者が買い戻してくれるんだよ。だから、こっちはそんなせこいマネをする必要がねぇんだよ。少なくなったら足してくだけだ。増えることはあっても損はしねぇ」
男の言葉に、パックスは恨めしい視線を送りながら店から立ち去る。
あとに続くフェリシアがうしろから声をかけた。
「それにしても意外ね。パックスがあんなに彩魚が好きだなんて、ぜんぜん知らなかった」
「本当だね。そんなに欲しければペットショップで買えばいいのに、向こうに魚を売ってる店あったよ」ルーセントが店のある方向を指差す。
「分かってねぇな。こういう日に自力で取るからいいんじゃないか。それに、あれの醍醐味は大人に成長させたときにあるんだぞ」
ルーセントはパックスの言葉に、大人になった彩魚をイメージしてみるが、これといって何が楽しいのかさっぱり思いつかなかった。
難解な表情で「ひょっとして、大人になった彩魚は特別にうまいとか?」と答えるが、パックスに「お前はきゅうちゃんかよ」と否定されてしまう。
ルーセントの肩に乗るきゅうちゃんが、バカにするなよ、と言いたげに「きゅう! きゅう! きゅう!」と反発するように力強く鳴いた。
パックスが、きゅうちゃんの頭を押さえて静かにさせると「いいか」と言い聞かせるようにルーセントに話し出す。
「彩魚ってやつはな、子供の時には体質が弱くて死にやすいんだ。その上、カラフルで目立つから他の外敵にも優先して食べられちまう。野生の彩魚なんてレア中のレアなんだぞ。普通に育てたって一カ月も持てばいい方だ。だから、大人になるまで無事に育てられれば、数万から数十万リーフで買い取ってもらえるんだよ」
「なんだ、結局はお金なのね。そんなに欲しいなら、家の池にいっぱいいるから、一匹くらいならお父様に頼んでもらってきてあげようか?」
「いやいやいや、そんな死刑台みたいなやつはいらねぇよ! 売り飛ばしたらこっちの首まで飛ぶじゃねぇか!」
パックスが伯爵の威光に戦々恐々としていると、祭りを楽しむ群衆から「ひったくりだ! そいつを捕まえろ!」と大声が響いた。
悲鳴にも似た声が所々で上がると、ルーセントたちの前に群衆を割って灰色のフードをかぶってマスクをした男が飛び出してきた。
ガタイのいい男の右手には、女性物のハンドバッグが握られていた。
「おれらの前に出てくるなんて、まったく運のないやつだな。先にいくぞルーセント」
日頃の訓練のおかげか、一般人に負けるわけがない、とパックスが自信満々にひったくり犯に向かって駆け出した。
窃盗犯は近くに置かれていたテーブルに一瞬だけ視線を移すと、そこに置いてあった割り箸の束をつかんで近づくパックスの顔に投げつけた。
「くそっ!」
悪態をついて左腕をかざして顔を守るパックス、見事に隙をさらしてしまい、視界を奪った男が助走をつけてその腹部に蹴りを入れた。
勢いに負けてうしろに飛ばされるパックスの身体をルーセントが受け止める。
「平気?」
「あぁ、どうってことない」
パックスが蹴られた腹部に手を当てると、怒りを露にしながら男に近づく。
ルーセントもまた、互いに距離を少し開けて男の前に立ちはだかった。
パックスが一歩前に出る。
「訓練生二人を相手にして勝てると思ってんのか? おとなしく捕まるなら痛い思いをしなくて済むぞ」
男が鼻で笑うと、手元に視線を落とすと、邪魔だ、と言わんばかりにバッグを放り投げて戦闘態勢に入った。
「いい根性してんじゃねぇか。いくぞルーセント!」
先にパックスが動いて右手で殴りかかる。
男が左手でこれを受け止めると、続いてルーセントの右腕が顔に、パックスの左手が腹部を狙った。
しかし、男は二人の攻撃を苦もなく捌いていく。
蹴りも混じる何度目ともわからない二人の攻撃を、後退りしながら防いでいくと男が反撃に出た。
パックスが左手で殴りかかったとき、その腕を男が上から巻き込むように自身の左手で払うと、空いた左のわき腹に右の拳をたたき込んだ。
よろけるパックスに、男が追撃に蹴りを加える。
それと同時に、ルーセントが後頭部を狙って蹴りを出すが、男は地面に手を付きしゃがみ込んで交わす。そのままルーセントの軸足を狙って足払いをかけた。
男の足は、不発に終わった蹴りで隙をさらしていたルーセントの軸足を捉えた。
真横に倒されるルーセントだったが、片手を地面につけて体勢を変えると距離をとった。
蹴り飛ばされたパックスにフェリシアがすぐに駆け寄る。
「パックス! 大丈夫?」
「くっそ、あいつ強いぞ。一般人じゃねぇ、何かの訓練を受けてやがる」
パックスは殴られて蹴られた場所に手を当てて痛みに顔を歪めていた。
数本の肋骨を折られてフェリシアの手当てを受けている。
ルーセントが構え直すと、一度だけ視線をうしろに戻して親友の様子を窺った。その苦しそうな表情にルーセントの目に鋭さが増す。
「何者だ? ただの窃盗犯じゃないな」
「間違ってはいないぞ。おまえの命をひったくりに来たんだからな」男が腰から刃長が十センチメートルほどのナイフを引き抜いた。
見物をしていた周りの群衆から短い悲鳴が上がる。その場から逃げ出すものも現れた。
混乱を始めた現場には緊張感が増していく。
男が右手に持つナイフを左右に揺らしながら間合いをはかる。
ルーセントは視界すべてに意識を置きつつナイフを目で追いかけた。
男がルーセントを刺そうと、そして斬ろうと何度もナイフを突きだす。その度に、ルーセントはうしろに下がりつつも身体を半身に交わしていった。
何度目かの応酬が続いたとき、敵が首を狙ってナイフを突き出した。それと同時にルーセントも動く。相手の手首付近に自身の右手を当てて回し込みながら受け流すと、そのまま左手で男の手首を捕まえて関節を決める。そして、そのまま右手でナイフを奪い取ると、さらに右腕を相手の肘の方まで差し込んで自身の方に引きながら下に力をかけて膝を地面に付かせた。すぐに左手を相手の首に回してナイフを添える。
ルーセントの流れるような体術に、周囲からは歓声が上がる。
しかし、ルーセントの顔に余裕はなかった。
「誰の指示だ?」
「さあ? 忘れた」
首に添えたナイフを強く押し当てるルーセントが「ティベリウスと関係があるのか?」と、もう一人の復讐に燃える少年の名前を上げた。
「誰だそりゃ。その歳で他のやつからも狙われてるのか? もっとまっとうに生きろよ」
「お前が言うな!」ルーセントは、押し当てるナイフにさらに力をこめる。
「グッ……、ごもっとも」
二人の会話に区切りがついたとき、ルーセントは後方から津波のように押し寄せる不快な空気の壁のような殺気を感じて振り向く。
その瞬間、群衆をかき分けて現れた男がルーセントに向かってナイフ二本を投げつけてきた。
とっさに反応するルーセントは、手に持つナイフで弾くと、さっき捕らえた男に視線を戻す。が、すでに逃げた後だった。
再びナイフを投げてきた男に視線を戻すも、その男もいなくなっていた。何の収穫も得られなかったことに「くそっ! 何で自分ばっかり」と、力強く拳を握って悪態をついた。
落ち着いた現場にフェリシアとパックスが駆け寄る。
「無事か、ルーセント」
「ケガはない?」
二人の気遣いに笑顔で返すルーセント。
フェリシアの肩からきゅうちゃんがルーセントの肩へと戻ると心配そうに鳴いた。
「ありがとう、大丈夫だよ」
ルーセントがきゅうちゃんの身体をなでると、きゅうちゃんが身体をすり寄せていた。
その後、バッグを取られた女性が現れて三人に礼を言う。
「こういう日は物騒なやつが多いからな、気を付けろよ」とパックスが注意を促すと、周囲からは拍手が贈られた。
「さすがは訓練生だな。逃げられたのは残念だけど、最後のやつはすごかったな」
「一瞬でナイフを取って捕まえちまったもんな。どうやったんだ、あれ?」
周りから聞こえる賛辞に、ルーセントたちは少し照れながら露店巡りを再開する。
新たに現れた謎の勢力に、ルーセントは警戒を緩めることができなかったが、時間がたつにつれて次第に警戒心も薄れ、年に一度の祭りを楽しみ始めた。いろいろな料理を堪能しつつもきゅうちゃんがクジ屋で高級釣具セットを引き当てたりと、つかの間の休息を満喫していた。
王都フエストディールが夜を迎えて花火が打ち上がる。街中が活気を増すなか、路地裏のとある家にティベリウスが人目を避けるように入っていった。
遠くで花火の低い炸裂音が鳴り響く。薄暗い部屋には、一人の男が座っていた。
「遅かったな」
「すみません、アクティール様。人が多くて移動するにも時間をとられまして」ティベリウスが頭を下げて謝る。
「ここではラーゼンと呼べといっただろ?」
ティベリウスをにらみ付ける男の正体は、ラーゼンに成り済ましていたアクティールであった。再び謝るティベリウスに、アクティールは厚みのある封筒を取りだした。
「これは?」ティベリウスが封筒から書類を出して眺める。
「それは、今度の行軍練習の計画書だ。行軍ルートと参加メンバーが書かれている」
「これが何か? 意図が分かりません」
「お前の目的はなんだ? 楽しくピクニックでもしてこいと言うとでも思ったか?」
「いえ、しかし……、行軍ともなれば数百人はいます。そんななかで暗殺なんて無理です」
「誰がそんなハードモードこなせなんて言った。今日は他にもお前に渡すものがある」
そう言って、アクティールがポケットからネックレスをひとつ取り出した。そこには赤黒い色をした石が付いていた。
ティベリウスがアクティールからネックレスを受け取り「これは?」と聞きながら光るそれを眺めていた。
「こいつは魔力血石と言うらしい。魔力を注いで命じれば魔物が現れる。俺ももらってから試したが、強さも見た目も化け物だった。こいつがあればルーセントなんて容易く葬れるはずだ」
「これを……、でも俺は自分の手で仇を討ちたいのですが」
「そう言って二年がたった。あいつは今日も元気に遊んでいるようだが?」
「そ、それは……」ティベリウスがネックレスを力強く握りしめると、悔しそうに下を向いた。
「分かったなら、今回はそれを使え。いいな」
「……分かりました」ティベリウスは悔しそうな表情のまま答えた。
アクティールが椅子から立ち上がるとすれ違い様に「頑張れよ」と少年の肩をたたいて家から出ていこうとした。その時、何かを思い出したように振り向いた。
「大事なこと忘れてた。そいつは、能力が足りないやつの言うことは聞かないらしい。だから、他の魔物を経由させて使え。そうすれば命令できるんだとよ」
「他の魔物? 経由ってどうすれば?」
「その石を食わせてみろ、それで解決する。弱い魔物を選ぶんじゃないぞ。それと、前日までには仕込んでおけよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「ああ、がっかりさせんなよ」
アクティールは、ティベリウスに背中を向けたまま軽く右手を上げると出ていった。
ティベリウスは魔力血石をいじりながら、行軍ルートを何度も確認する。他人の力を使用して仇討ちをする。
そのことに納得がいくわけもなく、いつまでも表情は暗かった。
アクティールが家を出て少し歩くと、二人の男が現れた。
「いい報告は……、聞けそうにないな」アクティールが二人の表情を見て悟る。
「申し訳ありません。予想以上に強くて」
「まあいい。今回は、いつもどこかでお前の命を狙っている、と思わせられれば成功だからな。下がれ」
「失礼いたします」
二人の暗殺者の背中を見送るアクティール、色づく夜空に視線を送ると「楽しませてくれるじゃねぇか」とつぶやいた。
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